非リアの俺と学園アイドルが付き合った結果

井戸千尋

私の怒り心頭と俺の無想転生

百三十二話





【新転勇人】





さて、ここでひとつ、円香のモテモテ度を見てみよう。
今日は修学旅行の班決めで、二学年全員が体育館に集められているわけだが――円香の周りには男子の大半と女子の半分くらいが芋洗い状態で円香を求めてせめぎ合っていた。
ちなみに、事前に配られたプリントに班全員の名前を書いてそれを集めた班長が先生に提出するといった仕組みた。
「浅見くん、これ多分あの中でお尻とか触っても不可抗力で済まされそうだよね」
「勇人お前、たまにマジで頭おかしくなるよな」
「いやいやぁ、欲に負けて無理やり女の子をモノにしようとしてた人に言われたくないよー」
目の前の渦を見ながら俺たちは無気力全開な会話を繰り広げる。
互いにからかいあっているが、もはや何を言おうとすべて同じに感じてしまうくらい脱力してしまっている。
太ったアニメキャラとかが【デ】から始まる言葉がすべて【デブ】に聞こえてしまう現象と同じだ。多分。
「なぁ、あれ助けに行った方がいいんじゃないか?」
「逆に聞くけどあの渦に俺が入って生きて帰ってこれると思う?倒れた俺を見て円香が蹂躙を始める未来しか見えないんだけど」
「それもそうだな。じゃあ気長に待ってようぜ」
一言で表すなら【暇】。
二言で表すなら【ひま】。
どう表そうが暇でしかない。
左道さんは左道さんで、今年もすごい!とはしゃぎながら写真を撮っている。
「……で、俺たちは四人で行動するか?」
「そうだね、俺がいる限り増えないと思うし」
「お前哀しみ背負いすぎじゃないか?そろそろケンシ〇ウになるんじゃないか?」
この程度で無想転生会得できるならこの世界はケンシ〇ウで溢れてるよ。
歩く死兆星が跋扈する世界になるよ。

というか……。
「ねぇ浅見くん。さっきからあれ、告白大会になってない?」
「ん?あぁ……そうだな、もはや女まで告白してるな」
さっきまでは「新天さん俺と!」「私と!」という声で溢れていたのに、今や「俺の方が新天さんを愛してるから!付き合って!」「私も!私も新天さんと一緒にいたい!」などの普通の告白から、「新天さん!いや、円香!僕と一緒に人生という名のラブセッションを奏でよう!」と、これでもかとユーモアを醸し出している告白などが見受けられた。
てかなにしれっと円香って呼んでんだよ、セッションさせねぇぞ壊してやるからなその楽器。
「そろそろ迎えにいくべきなんじゃないか?王子様よぅ。」
わざとらしくかっこつけたような言い方で物理的に背中を押してきた浅見くん。
「確かに……」
そろそろ行かないと円香の堪忍袋の緒が切れかけないな。
渦の中心で叫んでそうだけど周りの声がうるさすぎて円香の声は一切聞こえない。
「んじゃ行ってくるわ」
「はいよ、生きて帰ってこいよー」
相変わらずの気だるげな声を背中に受け、俺は中心に囚われている円香を救出に向かった。


「――はぐぶぁっ」
渦に手をかけた瞬間、中心へと挑む男の肘が顔に入った。
正直えげつないほど痛い。
今のでだいぶ怖くなっちゃった。
足とか軽く震えてるもん。
「……ください……」
あ、やばい。
渦とかどうでもよくなるくらい怖い声が聞こえた気がする。
「どいてくださいッ!」
瞬間、円香の怒号が響いた。
それまで各々が自由に叫び続けてうるさかった体育館が静まり返った。
遠目で眺めている先生まで背筋が伸びてる人がちらほら。

静まり返った体育館に響くのは円香の足音のみ。
渦の中から、まるでモーゼの十戒のように現れた円香は俺の頬に手を当てて、
「大丈夫ですか?先程の声から察するに頬に痛みがありますよね?」
と。
「大丈夫だけど……」
なんで分かるの?
なんで聞こえたの?
と聞きたかったけど、真顔で「いやいや勇人くんの声が聞こえないわけないじゃないですか」「聞こえてましたよ?ケンシ〇ウの話とか、お尻を触る話とか」とか言われたら俺死んじゃう。
怖すぎるから聞けないよ。
「円香、と、とりあえずプリントくれる?」
「はい!プリントどころか私ごとあげちゃいます!きゃっ」
みんなの前でもそれやるのね。
「はいはい、プリントだけもらうよ。――浅見くーん」
俺は円香を軽くあしらいつつ、貰ったプリントを浅見くんへ届けに行く。
「勇人くんのいけずぅ」
背中に円香の声と、
「「勇人くんは生きれずぅ」」
怨念のこもった男たちの呪いの言葉を受ける。
わりとマジで丑の刻参りとかされそうだから円香にはもうちょっと自重してもらいたい。
まぁその度に恐怖と優越感を7:3くらいで感じれるからいいけどね!
越にひたれるからいいけどね!!
俺は浅見くんへプリントを手渡す。
「おつかれさん、王子様」
「あ、私のもあげる」
写真に飽きたのか左道さんもプリントを持ってきた。
「勇人くん勇人くん、これ見て?」
「ん?」
カメラの画面には、円香が渦の中心であわあわしている写真が。
「いくら?」
「五でいいよ」
「買った」
俺は財布からそっと五百円玉を取って、左道さんの手に乗せる。
「まいどあり!じゃあ現像して渡すね」
「ありがとう」
そして俺たちは何事も無かったかのように離れて辺りを見回す。
「勇人、お前も男だな」
「あぁ。俺は男だ」
さて…………今日帰る時写真たて買お。






【新天円香】






怒り心頭ですよまったく!!
なんで勇人くんの目の前で告白してくるんですか!しかも見せつけるようにして!
どうやらあの中に学年一イケメンと言われてる方がいたみたいですが、たとえ天変地異が起きようとも勇人くんから私の気が逸れることはありえないのに!
「ねぇ!勇人くん!」
「いや、ねぇじゃないから」
はて?
何のことでしょう?
「何のことでしょう?って顔してるけどだめよ?なんで膝の上に座ってるの?」
「賢い赤ちゃんなので」
「うん、脳みそ拾ってこよ?」
なんでいじわるするんですか!
いいじゃないですか!
しおりの読み合わせの時くらい一緒に居たって!
「私は勇人くんが好き、勇人くんは私が好き。それ以外に理由は必要ですか?」
「今更だけどはっきり自分を好きって言えるってすごいね」
「え?だって勇人くんは私のこと好きですよね?」
「そうだけども……」
「なら問題ないじゃないですか」
なんででしょう?勇人くんは納得いってないような表情を浮かべています。
なんで……?
もしかして他の女の人……?
「私のことを愛してくれてますよね?」
「あ、うん。愛してますよ?」
「なら良かったです♪」
どうやら嘘じゃないみたいです。
勇人くんは嘘をつく時や隠し事をするときに“ある仕草”をするのですが、先程はそれがありませんでした♪
良かったです。
他の女の人に目移りしてなくて。
「うん、じゃあとりあえず俺の上から降りよ?」
「お昼と放課後しか会えないのに、こんなに密着できる時間を逃したらもったいないですよぅ!」
肩越しに見える勇人くんはなにかもどかしそうな、言いたいことを言えないような苦い表情をしています。
さっきからどうしてしまったのでしょうか?
「ちょっとそこ静かにして?あなたたちわかってるわよね?」
「「はい……ごめんなさい……」」
由美ちゃん先生は私たちの謝罪を聞くと、学年主任の先生に一礼し、後ろへと下がっていきました。
「勇人くん勇人くん」
私は小声で勇人くんへ声をかけました。
勇人くんが私の口元まで耳を近づけてくれたので、二人だけにしか聞こえないように注意を払い――




【新転勇人】





「お風呂覗いちゃいけませんからね♪」
なんでそんなにウキウキしてんの?
「他の人にも迷惑かけるからやらないよ」
当たり前じゃん。
「まぁ当たり前ですよね。」
いくら恒例のイベントだとしても、それは漫画とかラノベの中だけだから!
「例えば、私たちだけならやってくれてたんですか?」
「しないよ」
なんでやってほしいみたいな言い方なの?
疑問でならないんだけど。
「してくださいよ!」
めんどくせぇなぁ!
やっぱりなのね!
やって欲しいのね!?
もれなく刑務所行きだけどいいのかな!?
結婚出来ないよ!?
あ――。

“結婚出来ない”にあてられて、思わず由美ちゃん先生に目を向けてしまった。

あの人は、由美ちゃん先生は――左薬指の根元をぐりぐりと右手でつまんでいた。

しかも俺と目を合わせながら。

事の重大さに気づいていない円香は、まるでバランスボールにでも乗っかってるかのごとく重心を右へ左へ、俺の太ももの上で動いていた。
無防備というか天然というか……。
そういうとこだぞ!!
円香へ向けていた視線をもう一度由美ちゃん先生へと向ける。

俺と再び目が合ったことに気づいた先生は、ゆっくりと口を開き――

「……ほうかご……ぶしつ……こい……?」

口の動きだけで、かなりの圧をかけてきた。
俺の読唇があっているのなら、あれはかなり怒ってる……。

腹を括るしかないか。
先生の前でイチャついてしまった罰だからな。
俺はその後、先生になんて言われるか、それが頭の大半を占めてしまったためにしおりの読み合わせに身が入らなかった。






やぁみんな!
恋、してるぅ!?

井戸はねぇ、してない!

よーっし!今かわいそうって思った人を全員順に、一生恋ができない呪いにかけちゃうぞ〜☆


ちょっと真面目な話。
新高校生や、新二年三年生の方がいると思う。
例えば好きな人がいるそこのあなた。
思いを伝えられなくなってからじゃ遅いぞ。
好きって気持ちを伝えられないで、思いを伝える場を失ってから後悔するようじゃダメだ。
一瞬、その時だけ勇気を出すだけなんだ。
そのなけなしの勇気を振り絞らなかったら、一生後悔するかもしれないから。
健闘を祈る。
その機会を失った井戸が言うんだから間違いない。
もう二度と伝えられない思いをずっと胸に秘めて生きていくようなことはしないで。
告白されるの待ってるんだあ〜とか、いう人もいるかもしれない。
でもこれだけは覚えておいてほしい。
今まで当たり前だったものが、今まで通り明日存在するとは限らない。

みんな!恋しよう!!

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コメント

  • Karavisu

    恋とは何なのだろうか…

    1
  • アキ

    恋とは何なのだろうか...

    0
  • 猫ネギ

    なんか感動しました。

    2
  • 影の住人

    呪いかけられてもかけられなくても一緒なのでご自由におかけ下さい

    1
  • ミラル ムカデ

    泣きたいときは、泣いていいんですよ?

    2
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