非リアの俺と学園アイドルが付き合った結果

井戸千尋

私の楽園と俺の子ども

百十五話





【新転勇人】




「好きな人を引けなくてごめんなさい」
さっきからずっとこれだ。
戻ってきてから結花のほっぺをむにむにしながら言ってくるのだ。
それもそのはず、遠巻きだが男子生徒が俺らのことを見ているからだ。
多分、好きな人を引けなくて(そのうえこんなに注目を集めて)ごめんなさい
中にはわざとらしく「チッ、またあいつ絡みかよ煮てやろうか」などと言ってくる怖い人もいるが気にしない。
なぜなら大半の目線はちちくりあってる円香と結花に向いているから。
「さわるなぁ!」
とバタバタと抵抗する結花へ、
「かわいいですね」
と、悪魔の……訂正、天使のようなほほえみを浮かべてほっぺや頭をさわっている。
でも、結花も本気で嫌がってるわけじゃないし。
いくらいじられてるとはいえ年上にタメ口聞くような子じゃない。お兄ちゃん知ってる。





【新天円香】





あぁ、かわいいです。
きっと姉妹になった暁には結花さんと毎日じゃれあって……。
ふふっ、早く新転家に嫁ぎたいです。
「あ、兄貴!助けてよ!」
ふ〜ん、そうやって勇人くんに助けを求めるんですかぁ。
「兄貴」って。
「結花さん?そんな呼び方じゃあ助けてくれないと思いますよ?」
「ま、円香さん!!」
かぁっと赤くなる結花さん。
私が気づいてないとでも思ってるんでしょうか?
結花さん、本当は「にぃ」って呼びたいんですよね!
甘えたいんですよね!
でも一度兄貴って呼び出しちゃった手前、可愛らしい「にぃ」なんて呼べなくなっちゃったんですよね。
本当にかわいいですね。
「別に助けてあげるのは構わないけど呼び方?ちょっとわからないな」
へっ?
勇人くん、気づいてないのですか!?
結花さんが勇人くんを本当は「にぃ」と呼びたいことに気づいてないんですか!?
「とりあえず……これで終わりね円香。」
結花さんから私の手をどかし、結花さんを解放してしまう。
私の楽園が……。
勇人くんのそばに行ってしまった結花さんに手を伸ばしますが、べーっと舌を出して可愛らしくあっかんべーをしてきました。
かわいいから許してしまいます。




【新転勇人】




「というかお母さんどこいった?」
そろそろお昼なんだけど大丈夫かな。
「そういえばいつからかいらっしゃらない……」
「お母さんのことだからアイデアが浮かんだとかでまたトイレにでもこもってるんでしょ」
結花の言う通りかもしれない。
あの人いないと思ったら基本トイレか海外にいるから。
「そういえばそろそろお昼休憩ですね」
「そうなんだよね〜」
この場には、俺、円香、結花、その他さっきまで楽園を眺めていた男子生徒、しかいないからぜひとも先輩たちと山郷さんと合流したいところだ。
「は、勇人くん!」
俺がきょろきょろと辺りを見回している時、円香の、緊張の入り交じったような声が響いた。
「お、お昼作ってきたので……食べてもらえませんか?」
はい幸せ。
オムライスの中に野菜がゴロゴロ入ってたとしても幸せ。
「ありがとう、もちろん食べるよ!」
「やったっ!」
座っているが、ぴょんぴょんと跳ねるようにして喜びを表現する。
一方その頃結花は――

「ばか……ばか……」
と言いながら俺の腎臓を殴っています。
血尿ルート確定だよぅ!
なんで殴るのさ!
「ゆ、結花?まずいなぁそこ殴られちゃうと血尿とか――」
「知らない」
ちょっ、あっまって、痛いなぁすごい痛いなぁ。
「円香さんにお昼作ってきたって言われた時すごい顔してた。なんかイラッとした」
口調もすっかり闇堕ち感満載じゃないですか。
「でももういいよ」
「え?」
いや、もっとやってほしかったから出た疑問じゃなくてね?
ただ単になんでかなーって思っただけよ?
でもホントになんで?闇感からしたらもうちょい我慢の時間帯が続くと思ってたのに。
「結花さん……?」
「あ」
なるほどね。
「そんなことして……」
言ってやれ円香!!
血尿出たりしたらどうするんですか!って!
腎臓悪くなったらどうするんですか!って!

「勇人くんと、あ、あああ赤ちゃんつくれなくなったらどうするんですか!!」
「よし、俺の彼女はもうダメだ。結花、お母さんを探しに行こう」
「そうだね」
「ちょっと!?なんで勇人くんまで!?」
「それがわからないうちは赤ちゃんはお預けでーす」
結花の手を取りお母さんを探しにその場を離れる。
「ちょっと!私も行きますー!まってくださいよ〜」
「円香さん早く、兄貴赤ちゃんつくれなくなっちゃう」
含み笑い混じりで冗談めかしてそんなことを言う結花。
あ、ちょっと。
殴るのよして。
「幸せな未来のためにっ!!」

子どもがいないと幸せじゃないってのは違くない?
いや腎臓殴られてもつくれると思うけどさ。



そして、そんなことをこんな大衆の面前でやっているからには周りの目、もとい殺意を向けられるのは当たり前だ。
勘弁して欲しいと思うのと同時に、なんだか誇らしい気持ちが湧いてきてるのだが、まぁ殺されない程度にしておこう。








さん!さん!さん!たいよーがさんさん!!

知っている人はきっと同世代です。

コメント

  • Karavisu

    何? きいやま商店のアツさんさん

    1
  • 猫ネギ

    アソパソマソだな

    3
  • うみたけ

    oh......同世代っ!

    1
コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品