非リアの俺と学園アイドルが付き合った結果

井戸千尋

私の疑いと俺の煽り能力

百十二話






【新転勇人】






「無知って怖い……」
危うく円香に勇人くんするところだったぜ。
「そろそろ戻るか。」
きっとトイレに行ったと思ってるはずだから早く帰らないと逆に心配されてしまう。
まぁ実際はグラウンドの死角になるような位置で必死にボビーオ〇ゴンの事考えてたんだけどね。
「いやぁ……それにしても見事な平坦さだったなぁ……下手すりゃ凹んでるまであったな」
あえて何かとは言わんが、ギャルゲーとかじゃあざといキャラがわざと屈んで見せつけて誘惑してくるアレだ。
逆に少しはあった方が良かったまである。
なぜなら平坦すぎてどこまでも見えてしまいそうだから。
俺はその地平線を眺め続けるほど彼氏として終わっちゃいない。
「円香には口が裂けても言えないな……」
グラウンドへ戻る俺はポツリとつぶやいた。

「……ん?あれって」
グラウンドへ戻る途中、三郷さんらしきシルエットが遠目で確認できた。
しかし。
どこかで見たようなギャル三人組が三郷さんに絡んでいた。
改めてだけどどこの学校もこんなことしてるんだな。
「おーい三郷さーん」
俺は恐怖に被せるように精一杯に塗りたくった笑顔で三郷さんへ声をかける。
この間のやつで慣れてると思ったんだけどなぁ。
いくら後輩といえど怖いもんは怖い。
「し、新転さん……!」
ギャルたちより早く反応した三郷さんは囲んでいたギャルたちを押しのけ俺の元へ飛び込んできた。
こ、これは……ッ!!
「そ、そろそろ浅見くんが走るみたいだから一緒に見に行こ?」
「ちょっと待ったー、あんた誰?」
俺がイケメンもびっくりなセリフを精一杯のイケボ(笑)と共に、三郷さんの手を取り戻ろうとしたのだが、そんな俺の努力は虚しくギャル共が引き止めてくる。
繋いだ手から彼女の震えが伝わってくる。
……今後のことを考えるとこのままスルーして円香のとこに戻る、なんてことはできないよな。

「新転勇人っていうんだけど、君たちまだこんな恥ずかしいことしてたの?」
“まだ”とは言ったがこの子たちは気づいてないだろうね。
あの時は浅見くんと先輩が対峙してたわけだし。
「は?恥ずかしい?何言ってんの、こいつからあたしらとお話したいって言ってきたから付き合ってただけなんですけど」
クスクスと鼻で笑われ、なんだか少し腹が立ってしまった。
仕方ない。
「へぇ……三郷さん言ったの?」
ぷるぷると頭を横に振り否定を表す三郷さん。
よし、それじゃあ正当防衛と行きますか。

「も、もしかして恥ずかしいって自覚なしで三郷さんの嫌がることばっかやってるのぉ?まってまって、高校生にもなって嫌がらせするって……え?今何歳でちゅかぁ?」
語尾にはすべて「w」をつける勢いで煽る。
俺はどっかのキ〇トみたいに力で黙らせることも、ルル〇シュみたいに王の力を持っている訳でもない。
俺が持っているのはゲームで鍛えた煽り能力。
寄ってたかって煽ってくるやつらばかりだからそいつらのメンタルをへし折ってやるくらいの煽り能力はランカーなら誰でも持ち合わせている。
もちろん金霧先輩も。
「あ、ごめんね、その情けなさと恥ずかしさに気づかないからこんなことしてるんだもんね。うんうんホントごめん☆その貧相な脳みそでもわかるように行ってあげると、君たちすっごーくだせぇぜ?」
途中まで相手を馬鹿にするようななめた口調なのに、最後だけ威圧するような口調にするのも基本の基本だ。
まぁ言葉にして口に出すのは初めてだから上手くやれてたかは分からないが。
「ちっ、こいつだりぃ。行こ」
どうやらうまく出来ていたようだ。
見事撃退することに成功した。
言っちゃえば、だるい、めんどくさいと思わせれば勝ちなのでこれは立派な勝利と言えるだろう。
「せ、せん、ぱい。ありがとうございました……」
俺の背中でギャルたちから隠れるようにしていた三郷さんが手をぎゅっと握り、そう言った。
ちょこっと出してる瞳は潤み、俺を真っ直ぐに見つめていた。
この目って……。

まずいなぁ。俺彼女いるのになぁ。
そっかー……まずいなぁ。

「じゃあ浅見くんのみにいこっか」
「はいっ!」
無邪気な笑顔で、楽しそうに俺の前を走っていく三郷さん。
さっき背中に隠れてる時…………。

ホント申し訳ない気持ちでいっぱいです。


今日は何かがおかしい。
そう思う僕こと新転勇人でした。






【新天円香】





「あ!先輩!」
勇人くんがおトイレに行ったすぐあと、先輩の後ろ姿を発見しました。
「ん、新天だ、どしたの?」
先輩はジャージによって強調された双峰を揺らしつつ振り返りました。
私も再来年……いや来年のうちにはあそこまでの成長を!きっと!!
「そろそろ浅見さんが走ると思うので一緒に見ませんか?」
「いいよー」
先輩はいつものような覇気のない柔らかな声で了承してくれました。
あとは勇人くんが間に合えば……。
「円香ー!」
浅見くんのレースが始まるぞ!という時、そう言って勇人くんが三郷さんに連れられてきました。
…………三郷さんに手を引っ張られながら。

あらあらまぁた面白いご冗談を。






【新転勇人】






「ごめんね、もう始まってる?」
「いいえ〜♡すぐにでも始まるところでしたよ〜」
アレどうしてだろう死ぬ気がする。
「そ、そっか……それは良かったな……」
「はーい♡私も嬉しく思いますよ♡」
目線は俺ではなく、俺の前で可愛らしくウキウキしてる三郷さんに向けられていた。
「で、三郷さんはどうしたんですかぁ?」
正直に言わないと殺されかねない。
そう思ってしまうほど目がマジだった。
「ち、違うんだ円香!三郷さんは悪くない、俺が無駄にかっこつけたりなんかしたから――」
俺の一番は円香だから!
三郷さんに告白されようと俺は円香だかの男だから!
と、言おうとしていた矢先、スターターピストルの音と共に、三郷さんの“はしゃいでる声”が聞こえた。
「あっ、先輩走ってる……!かっこいぃ……」
あれ?
「ちょっと?あの子はあたしの彼氏だからね?」
「わ、分かってます!でも……負けませんっ!」
あれれ?
「勇人くん、どうしたんですかぁ?」
「い、いや……おかしいなぁ。なんか思ってたのと違うなぁ」
「そうですか。自分で言うのもなんですけど、私、彼氏が可愛くて胸の大きい女の子と手を繋いでるのを許すような女だと思いますか?」
思います。と言っても地獄行き。
思いませんと言っても「残念です」と地獄行き。
途中下車できない特急地獄行き号が発車しようとしていた。
「ま、いいです。体育祭なのですから少しは浮かれてしまいますよね。」
あれ?
「それに……」


…………やっぱり今日は何かがおかしい。
いつもは去勢コースまっしぐらなのに……。

ま、まぁ許してもらえるならよかった。
浅見くんのレースを見るとしよう。


「おーっと!最初に出てきたのは浅見冬弥くんだぁ!格好はギャルだーァ!!」






【新天円香】






勇人くんのお母さんに見られてしまったら大変です。
うちの子に何してくれてんの!!と言われてしまったらおしまいです。
それにたまには勇人くんを信じてあげるのも彼女の務めだと思うので。
私は隣で楽しそうにレースを眺める彼を見ながらそう思いました。











最近暖房がえげつない音を立てて風を送ってきます。
いや、マジで唸るバイトで雇われたおじさんでも入ってるんじゃないかってくらい。

ちなみに一緒にゲームする友達には「たまにお前からあ゛ぁ゛って聞こえるんだけど」と言われます。
最近PCの電源が付いていたり、光っていたはずのキーボードが光ってなかったり、友達に写真撮ってみろよと言われ部屋にカメラを向けたら角っこに顔認証がいったりと。
美少女でありますように。
暖房の中には何も住んでいませんように。

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