非リアの俺と学園アイドルが付き合った結果

井戸千尋

俺の忘れていたことと私の盾。

八十六話






【新転勇人】





「おじゃましました」
「はーい。またいつでも来ていいからね」
「ありがとうございます。」
俺は、送ってくれる円香と一緒に新天家を後にした。







「夏に比べたら日も短くなりましたね〜」
帰り道家までついてくると、きかなかった円香と他愛もない話をしながら歩く。
「あ!そういえばそろそろ体育祭ですよ!」
「もうそんな時期かー」
うちの高校は、体育祭といってもそこまで派手なものでは無い。
だから練習もないし、派手な応援もない。
楽といえば楽なのだが。
「今年はなんの競技に出ますか?」
「んー去年と同じでいいかなーって感じだけど、去年のが思い出せなんだよね」
「借り物、コスプレ、ですね!」
いやぁ、思い出せないしそもそも俺のことなんて――
「えっ?」
いやいやいや、
「えっ?」
「真結から教えてもらったんです、勇人くんの事はなんでも知っておきたいから。」
「そ、そっか……ありがとう?」
新聞部すげぇなぁ。
よく覚えてたな。
「今年もその二つでいいかなぁ。楽だし」
「そうですね、私も同じやつにしたいと思います」
体育祭は来月上旬。
俺たちがその日に向けて胸を馳せ話し込んでいる時だった。
結花から「帰ったら話がある」とLimeが来たのは。

なによ告白?
にぃには円香がいるからだめよ?

「勇人くんどうかしました?」
「いや……なんでもない」
俺は携帯をポケットにしまい、円香の手を取って家路を急いだ。






【新天円香】





もうそろそろ勇人くんの家です。
離れてる時間がさみしいのでついてきましたが、さすがにここまででしょう。
優しく握られた手で感じる勇人くんの温もりが堪りません!
「勇人くん、今日の夜はゲームをしましょう!先輩も誘って!」
「お!いいね!エンドコンテンツでも行っちゃおっか」
勇人くんの目がゲーマーのそれに変わりました。
燃えてます。勇人くんのやる気は満々です!
裁縫師円香も頑張らないと!

勇人くんの家が見えてきた時、それと同時に勇人くんの家の前に誰か女性がいるのが目に入りました。
「勇人くん、あの方は?」
「ん?誰だろね?」
私の質問に、初めはそう返していた勇人くんでしたが、家に近づいていくごとに、握られていた手に力が込められ、少し震えてきていました。
「ど、どうかしましたか?」
「いや…………」
勇人くんはそれだけ呟くと黙りこくって俯いてしまいました。
私は手を強く握り返し、勇人くんへ「大丈夫ですよ」「隣に私がいます!」と伝えます。
言葉にするのはまだ恥ずかしいので言えませんが……。


「やっぱり……」
家が目と鼻の先の距離になった時、勇人くんはそう呟き、それを待っていたかのように謎の女性も口を開きます。
「久しぶり、覚えてる?」
「お、覚えてるに決まってる……」
声も震えを帯び、その声すらうまく出ていない勇人くん。

私は察しました。
この方が昔勇人くんに酷いことをした方だということに。

それなら私がとる手段は一つしかありません。

「勇人くんに何か用ですか?」

勇人くんへ負担をかけないように、私が盾になります。
「とって食う訳じゃないんだからそんな警戒しないで。…………今日は謝りにきたの」
そう言って、見たところお金が入っているであろう茶封筒を差し出してきました。
「これは?」
「あの時換金してた分。あの時は本当にごめん」
え?
お金渡して謝罪したつもりなんですかこの人は?
「あなた何様のつもりで――」
「円香、大丈夫。大丈夫だよ。」
私がこの人へ喝を入れようとしたとき、勇人くんが私の肩へ手を置いてそう言ってくれました。
我を忘れて勇人くんの前で怒鳴ってしまうところでした。
危なかったです。
でも大丈夫って…………本当に大丈夫でしょうか。
私の横に立つ彼の顔をのぞき込みます。

やっぱり引きつった表情。
大丈夫ですかね。

「で、なんで急に……?」

ゆっくりと口を開いたのは勇人くんでした。






【新転勇人】






「あたしこんなことばっかやってたから、それがクラスメイトにバレて嫌がらせ受けてんの、自業自得だから仕方ないけど」
「うん」
「で、そこでやっと気づいたの。もしかしたら新転や他の男にも今のあたしと同じような思いをさせてたかもって。だから」
「だから今更謝りに来たと。」
「うん。」
正直、怒り心頭も超えてきている。
円香との楽しい時を邪魔された挙句、お金を渡すだけで謝罪した気になっている彼女へ。

だが、今は「嫌がらせ」という言葉を使ったがきっとそれは「いじめ」だろう。
じゃなきゃ花咲がこうも変わるわけがない。


「と、とりあえず帰って?お金はいいから。もう過ぎたことだし。円香もここまでありがと、帰り気をつけてね」
「は、はい。」
俺は固まる花咲を横目に玄関のドアへ手をかける。



――――いじめって嫌な響きだ。

それだけで今まで散々な思いをさせられてた因縁ともよべる相手へ同情してしまうのだから。





□□□



どうやらあとがきがないようなのでこの四角三つ。これをあとがきのサインにしようと思います。
まだまだ上げるぜ。

名前だしていいかわからないからあえて挙げないけど、
さっきコメントで教えてくれた方ありがとう。
連載当初からあなたのコメントにはモチベをあげてもらっています。
も、もちろんほかのコメもな!!


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