非リアの俺と学園アイドルが付き合った結果

井戸千尋

少女の夢と俺の疑問

五十四話










「……んぁ…」
少女が目を覚ましたのは一面が白く輝く夢世界。
ゆっくりと起き上がったあと、その世界の中心で少女は一人、夢現のままさまよう。
「ここって?……勇人くんは?」
どこまでも広がる真っ白な世界。
普通だったら方向感覚を失うところだが、少女は違った。
彷徨い歩いていたはずの足は、とある場所へと向かっていた。
「こっちから勇人くんの匂いがします。私の勇人くんレーダーが反応しています!」
鬼〇郎並の感知能力によって――。

しばらく歩いた彼女はそんな感知能力によってなにかに気づく。
「むむっ!近いです。この辺に勇人くんが―」
それと時を同じくして彼女を大きな影が包んだ。
「あれ、さっきまで朝だったはずなのに……」
彼女の頭は弱かった。
成績優秀とはどこへやら。

「勇人……くん…?」

降りてきた者を見てつい口から漏れ出す。
「勇人?…悪いが俺はそんな人知らないな。」
「いや…でも……ッ!」
彼女は取り乱し、少年はキョトンとした顔で彼女を眺める。
「勇人くんと同じ顔だし……」
「………?ま、まぁいいや、君の名前は?」
「ま、円香です。」
「そうか。俺はハ・ヤト」
「(勇人くんじゃないですか!)」
彼女は口を噤み突っ込むのを我慢し、その言葉を飲み込む。
少年はそんなこと気にせず再び口を開く。
「その格好から推測するに……君は裁縫師かい?」
「格好って……えっ―」
少女の格好。
それは――。

布の切れ端を縫い合わせて作ったかのようなワンピースと、季節感の合わない手編みの赤いマフラー、そして腰に携えた大きなまち針だった。

今更ながら自分の格好に気づいた少女は驚愕の表情を浮かべ、彼の姿を凝視する。
「勇人くんと同じ装備……って――」
だが、少年は些か自分勝手だった。
彼女を、いわゆるお姫様抱っこをし乗ってきた龍へと乗り込む。
「な、なななな何やってるんですか!」
「いや、こいつのことうっとりした目で見てたから。」
「ちがっ―私が見てたのは勇人くんのことですよ!」
何を言っているんだ彼女は。
「夢だからってそんなこと……………いや……夢なら普段できないことが……」
冒頭と同じ言葉を彼女へ投げかけたい。

成績優秀とはどこへやら。
もはや猫かぶってるまである。

そんな彼女は少年の首に手を回し、頬へキスをした。







【新転勇人】






「えへへ……♡勇人くぅん…」
俺の彼女は夢の中で何やってるんだ。
さっきまで終始いろんな人に絡んでは俺との出会いとか俺が円香にした事とかを自慢げに話してたのに。
正直出会いの話はやめて欲しいんだよね。
だって俺気づいてなかったもん。
円香の言い方だと、あたかも俺が下心満載で円香を助けた。みたいになってるから。
「勇人くんもやってくらさいよお…えへ♡」

いや、本当に何してるの俺の彼女……。

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