従妹に懐かれすぎてる件

きり抹茶

★四月六日「従妹と無口娘」

 高校生活が始まって二日目。
 四限目が終わり、初めての昼休みが始まる。
 この一時間をどうやって過ごそうか、誰に話し掛けようかと周りをキョロキョロと見回す者が多く、教室内は妙な緊張感に包まれていた。
 私も自分で作ったお弁当を手にしながらソワソワしていたが、すぐに横から声が掛かった。

「彩ちゃん、一緒に食べよ?」
「うん!」

 気さくだけど少し不思議なクラスメイト、遥香ちゃんがから昼食のお誘いだ。手にはコンビニの白い袋を提げている。買い弁なのかな?

「うーん。他にも誰か誘いたいねー」
「そうだね……」

 周囲を見渡してみる。やはり既にグループを作って集まっている者や仲間を探している者が大多数を占めていた。
 だがひとりだけ窓際の机に座り、黙々と弁当を食べる女の子がいた。それはまるで群れを拒む一匹狼のよう。
 私はそんな彼女に視線を向けていた。すると遥香ちゃんも同じ方向を見ていたようで、すたすたと女の子の近くに駆け寄っていった。

「ねぇ、一緒にご飯食べない? 一人じゃ寂しいでしょ?」
「…………」

 遥香ちゃんの誘いに女の子は目を合わせたが、言葉は何一つ発しなかった。
 きっと女の子は迷惑がっているのだろう。一人が寂しい訳ではなく、一人で行動したいと考える人も多くいるのだから。

「遥香ちゃん、今日は私達だけで食べようよ」
「うーん、この子も凄く可愛いから誘いたかったんだけど……」

 ぶつぶつと不満をこぼす遥香ちゃんを横目に私は女の子にお詫びを口にする。

「ごめんね、急に話し掛けちゃって。確か……小豆餅あずきもちさんだっけ? 私は星月彩音、これからよろしくね!」

 午前中に行った自己紹介で彼女の名前はうっすらと覚えていた。黒髪のおかっぱ頭で身長は私と同じくらい。話す声は小さく、大人しい子だなという印象を持っていた。

「…………謝らないでいい。私は小豆餅舞緒まお。こちらこそ……よろしく」

 女の子は頬を赤くして恥ずかしそうに言った。

「小豆餅!? 美味しそうな苗字! しかもめっちゃ可愛いし全部食べちゃいたいくらいだよ!」
「星月さん…………この人、怖いんだけど……」
「あはは……。なんかごめんね」

 私は苦笑いしか返すことができなかった。遥香ちゃん、早速嫌われちゃったかな?

「えぇなんで!? 全然怖くないよ! ほら、ウチの所においで!」
「星月さん……この人何とかして」
「ごめんね、後で言っておくから……。あと私の事は彩音って呼んでいいよ!」
「分かった、彩音……。私も…………舞緒って呼んで……いい……」
「うん! ありがとう、舞緒ちゃん!」

 笑顔で答えると舞緒ちゃんの顔は更に赤く染め上がった。照れちゃったのだろうか。

「ちょっとちょっと小豆餅ちゃん! 何で彩ちゃんとだけ仲良くするのー? ウチとも仲良くしよーよー」
「彩音……。一緒に……ご飯、食べよう……」
「うん、もちろん!」
「じゃあウチもー」

 すると舞緒ちゃんの目の色が急に冷たくなった。

「…………彩音は……足速い?」
「えぇ!? ま、まぁ普通くらいかな?」
「なら私が手を引けばなんとかなる……はず。追っ手から逃れる……唯一の方法。こう見えて私……走るの、得意だから……」
「ちょっと待って! そんなにウチとご飯食べたくないの!?」

 舞緒ちゃんと遥香ちゃん、仲良くなるといいなぁ。

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