従妹に懐かれすぎてる件

きり抹茶

三月二十二日「従兄とファミレス会議」

「まもなく終点、蒲田、蒲田です。お忘れ物の無いよう……」

 一斉に列車から降りる乗客に飲まれながら駅の改札を出る。
 俺は大きな欠伸をこしらえた後、メールで予告されていたファミレスへと足を運んだ。



「おっす星月! 私はここだぞ!」

 先客として既に席に着いているという先輩の情報のもと、店内を見回していたところ声を掛けられる。
 そう、この意気揚々とした声の持ち主こそ俺が所属するサークル『漫画研究部』の部長、長原ながはら志乃しの先輩だ。

「あれ? まだネキ部長しか来ていないんですか?」
「いや、来宮がいるぞ。あんたの後ろに」

 言われて振り返る。
 すると背後に立っていた男と至近距離で目が合った。

「うわぁ!? ちょ、驚かせんなよ」
「これは失礼、星月先輩。拙者は少しばかり御手洗いに赴いてまして」

 淡々と喋り、自身の黒縁眼鏡をキリッと手で押し上げたこの男……来宮きのみや研吾郎けんごろう。俺より一つ年下で同じ漫研部員。だが性格はとことん真面目で基本的に無表情な奴である。

「さぁお前ら席に着いて好きな物を何でも注文するんだぞ! ……因みに会計は男気じゃんけん方式で決める」
「え、ネキ部長の奢りじゃないんですか?」
「姉御と見栄を張っていても器はおちょこレベルなんですね」
「ちょ、お前ら煽るな! 私は女なんだぞ!」

 何の説得力も無い言い訳で対抗するウチの漫研部長、長原。

「男性差別はんたーい!」
「女尊男卑の時代を象徴するその言葉、確かに頂戴しました」
「うぅ……調子に乗りやがって……」

 悶える部長。よし、もう一息だ。

「奢るんですか? 奢らないんですか?」
「我が漫画研究部の偉大なる姉御なんですから、これくらいお茶の子さいさいですよね?」
「……あぁもう分かったよ! 今日は奢ってやるよ、好きなだけ頼めこの野郎」

 よし、勝った!
 心の中でガッツポーズをする。

 実のところ、こうして部長に奢らせるくだりは毎回行っており、現在は三十五勝十二敗三分だ。打率は割と高い。
 あ、因みに引き分けというのは割り勘になった時である。

「俺は……ハンバーグステーキ三百グラム、ライス大盛りで!」
「ところで姉御、細井先輩はやはり今日も来ないのでしょうか? あ、拙者は生ハムロースピザで」
「あんたら少しは遠慮というのをだな……。デブからは連絡は無いぞ。まあどうせネトゲ三昧で今頃ぐっすり寝てるんだろうけど」

 呆れた顔で笑い飛ばす部長。

「細井には俺からキツく言っておきますよ。あとネキ部長。今度奴に会ったら久々にあのネタで煽りませんか?」
「あれか? 細井ほそいくせにデブじゃねーかって叫ぶヤツ」

 幽霊部員と化した俺達漫研メンバーの一人、細井。
 今日も今日とて姿を見せないので言いたい放題できるのだ。

「ふっふっふ。先輩方も中々鬼畜ですね」
「「お前が言うな!」」

 本日のファミレス会議の参加者は三名。欠席者一名。
 いつも通り盛り上がる談笑はまだ続く。

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