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第二ラウンド



 「さぁ、第二ラウンドの開始だよ!」


 私は氷の中で変身し、この姿の状態で使えるスキルでこの氷の中から抜け出すことが出来そうな【《炎の鎧フレイムアーマー》】を選択した。
 【《炎の鎧フレイムアーマー》】によって氷が解け始めたことで身動きのとれるようになった私は、脆くなった氷の牢獄から飛び出した。
 そして、広げていた翼を閉じて地面に降り立つと、私を睨むアイリスさんに向かってそう言い放った。

 
  『な、なんと氷像が光輝き崩れたかと思えば、その中から白いドラゴンが出現しました!こ、これは氷の中にいたマチ選手なのか!?』


 観客席からは「あのドラゴンどこかで…」とか「おい、あれって掲示板で……」などの声が聞こえてくる。


 「その姿は何?」

 「私のスキル」

 「…あれを抜け出せるとは思わなかった」


 私が氷の中から抜け出すとは思っていなかったのか、抜け出してすぐは私のことを睨んでいたが会話をする頃には元に戻り、代わりに口元が少しだけ上がっていた。
 これまで一切表情に変化がなかったアイリスさんの顔に初めて変化が生まれた。


 「いくよ!【《蛍火ほたるび》】!」

 「……不発?」


 警戒した様子を見せていたアイリスさんだったが、ただフワフワと空中に漂っている火の玉を見て何も起きないじゃないと警戒を解いた。


 「【《熱風》】」


 一瞬の隙を見せたアイリスさんに向かって私は【《熱風》】を発動させた。


 「何!?きゃあああ!」


 【《熱風》】はアイリスさんに氷の壁によって防がれたが、私が事前に放っていた【《蛍火》】に引火し、次々に爆発して対処の遅れたアイリスさんを飲み込んでいった。


 『爆発によってアイリス選手の姿が見えなくなってしまったが、彼女はどうなってしまったのか~!』

 『あの数の爆発に飲み込まれたら無事じゃ済まなそうだけど、どうかしら?』


 「!」


 突然、爆煙を突き破って複数の氷槍がこちらに向かって飛んできたが翼を広げて空中へと逃れた。
 爆煙が晴れると、大量の爆発に巻き込まれたにも関わらず、そこまでダメージを負った様子のないアイリスさんがいた。
 周りに氷の破片がいくつも散らばっているので、爆発の際に咄嗟に自身を氷で包み込んで身を守ったのかもしれない。
 それでもあの数の爆発の中で無傷とはいかなかったみたいだけど。


 「…油断した」

 「アイリスさん、楽しそうですね」


 言葉では悔しそうにしていても先ほどとは違い、その口元にははっきりと笑みが浮かべられていた。
 私の言葉を聞いたアイリスさんは一瞬だけハッとした表情になるものの、すぐにまた口元に笑みが戻った。


 「ここからは全力でいくよ」


 (まさか、今までは全然本気じゃなかったの!?)


 先ほどまでの雰囲気とは違い、アイリスさんの周囲の温度が急速に冷え込んでいく。

 私は悪寒を覚え、翼を広げて全力で空中へと飛び出した。


 「【《氷で閉ざされる時代アイスエイジ》】!」


 私の考えを肯定するかのように、私が空中へと逃げるのと同時にアイリスさんのスキルが発動した。

 アイリスさんから凄まじいほどの冷気が解放され、闘技場全体へと伝わっていく。
 空中へと逃れた私のもとにもその冷気は届き、片方の翼が少し凍ってしまった。


 『なんと!闘技場全体が氷漬けとなってしまったぁ!もの凄い冷気がここまで伝わってきてるぞ!あ、マイク凍ってるわ』

 『マチ選手は空中へと逃れたようだけど片方の翼が凍り付いてるわね。私のマイクをあげるわよ』

 『ありがとうございます』


 私は凍った翼を【《炎の鎧フレイムアーマー》】で溶かしながら、闘技場を見下ろす。
 アイリスさんは近づくだけで氷漬けとなりそうな闘技場の中央に立ち、空中にいる私を見つめている。
 アイリスさん自身には効かないのか、白い息を吐くだけだ。

 私は【《炎の鎧フレイムアーマー》】を継続させたまま、氷で覆われた地面へと降り立った。
 スキルを解除した途端、一瞬で氷漬けになりそうなくらい寒い。

 
 ◇


 (面白い)

 彼女は私の攻撃の危険性を察知し、攻撃の届かない空中へと避難した。
 2度に渡り、私の渾身の攻撃を回避したのは彼女だけだ。
 今までに戦ってきたプレイヤーは私本気になる前に目の前で氷漬けになる。
 私の天敵となる火の使い手とも戦ったこともあるが、火をも凍てつかせる冷気の前には適わなかった。

 最初に彼女が氷漬けとなったのを前にして(彼女も他のプレイヤーと同じか…。)と一瞬思ったが、彼女は新たな力を見せて氷から脱出して見せた。
 彼女と戦っていると自分の気持ちが昂っていく。

 そして、彼女が(アイリスさん、楽しそうですね)と、少し笑いながらそう口にした瞬間に自分がこの戦いを楽しみ、口元に笑みが浮かんでいることに気づいた。


 (彼女との戦いは楽しい)


 今まで氷のように微動だにしなかった感情が、彼女との戦いで溶かされていくように感じる。
 でも、そろそろこの楽しい戦闘は終わりを迎えそうだ。私のMPが次の一撃で空になる。


 「次の一撃で決めるよ」


 灼熱の炎を纏いながら降りてくる彼女に向かって私はそう言った。


 ◇


 「次の一撃で決めるよ」


 地面へと降り立った私に対して、アイリスさんはそう口にした。
 正直私もこの長い戦いの中で、もうMPがほとんどない。
 変身により能力値の底上げがされているが、元々私のMPは低いので大技をバンバン使うことはできない。
 アイリスさんもMPがほとんど残っていないのか、次の一撃で全てを決めるつもりのようだ。


 (私も次の一撃に全ての力を込める!)


 私は残ったMPを全て使って、次の一撃にかけることにした。


 「【《氷に覆われた世界アイス・ワールド》】!」

 「【《神吐息白炎熱線ゴッドブレスフレイムレイ》】!」


 私が口から白く輝くブレスを吐き出すのと同時にアイリスさんの攻撃が放たれ、お互いの全力による攻撃が衝突し、闘技場を飲み込むほどの巨大な水蒸気爆発を引き起こした。
 爆発の衝撃が届く前に私は咄嗟に翼を前で交差して防御の姿勢を取った。


 私はドラゴンの身体のおかげでなんとか衝撃に耐えきったが、アイリスさんは小柄な体のせいもあり衝撃に耐えきれずに吹き飛ばされて気を失っていた。
 気を失っているアイリスさんの表情は笑っていた。


 『あ、あの大爆発の中立っていたのはマチ選手だぁぁぁ!よって、この決勝トーナメントブロック決勝戦を勝ち残り、栄えある優勝へと昇り詰めたのはマチ選手だぁぁぁ!』


 終了のゴングと共に会場がワッと色めき立つ。


 私はスキルを解除してふぅ~と息を吐くと、一気にこれまでの疲れやスキルによる反動が一気に襲ってきて、耐え切れなくなった私はその場に倒れた後すぐに意識が暗転した。


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