クラウンクレイド

さたけまさたけ/茶竹抹茶竹

[零15-2・世代]

0Σ15-2

 ルートと必要な装備の確認をする為にクニシナさんの所へ向かおうと思ったが、彼女の方から私達に会いに来た。
 旧東京都内に残る区画はここダイイチ区画だけであり、他の区画は二度の襲撃により数万人規模の犠牲者と共に崩壊した。最早罪を問うなんて言葉では片が付けられない話であった。それに本命の相手は人間ですらない。
 クニシナさんは周辺の地理データを私に見せながら語る。

「リーベラ、そしてムラカサの最終的な目的が何であるかを確かめ、そしてこれ以上の被害を出さない為に。何としてもデータセンターを制圧し彼女達を確保する必要があります」
「向こうの言葉を全面的には信用は出来ません、区画の防衛に人数は回すべきです。私とレベッカだけで向かいます。魔法の性質上、少人数での行動の方が向いていますから」
「この絶望的な状況にあっても尚、あなたは進むのですね」

 ダイサン区画、そしてダイニ区画の崩壊の情報は遂にダイイチ区画内に漏洩し始め公式に公表せざるを得なくなっていた。衝撃的な事実は人々の動揺と焦燥を誘い、区画内はパニック状態にあった。暴動こそ起きていないが静かに狂気は広まりつつあるとみるべきだろう。
 それでも、この聖域は行き止まりでしかない。
 輸送機は現在存在しない、そもそも何処に行けるわけでもない。だが座して死を待つ事が出来る程人間は御しやすいものではなく。
 クニシナさんが額に手をやってくたびれた声を出す。

「人々の間ではダイイチ区画を離脱して安全な場所を目指すべきだと声が上がっています」
「それは不可能ではないですか?」
「区画を脱出して避難するとすれば、現在ハイパーオーツ政策によって耕作地になっている関東圏のどこかでしょうが……。そこまでどうやって数万人の人間を運び、そしてゾンビの襲撃を受けずに済む拠点を作るかという話です。あなたの言う通り出来る筈がありません」

 ハイパーオーツ政策によって都市部以外は農耕地に変わった。生産から収穫、都市部までの輸送全てが自動化と機械化しそれの恩恵で今もこの生活は成り立っている。此処を捨てるならば、その農耕地を目指す他無いが移動手段がない。
 更には生活をする拠点も存在しない。ゾンビは現状、人間しか襲わない点と人口が集中していた事から都市部に溢れかえっているが、人々の移動を感知した彼等が移動する可能性も大いにある。
 不安からの逃避行動としては理解できるが、此処からの離脱を叫ぶのはあまりにも根拠のない話だった。

「あなたに託すしかありません。この世界を救ってくれると期待するのは、あまりにも虫のいい話かもしれませんが。この世界はあなたの世界を壊した張本人達の世界です。許せないでしょうが」
「それは……」
「そして、私も同じ。知らなかったとはいえ、あの時あなたに酷い事をしたのは事実です。本当に何と謝罪すればいいのか」

 あの世界には二つの視線があって、それは決して交差しない筈の物で。
 仮想世界でゾンビから生き延びる為のゲームであっても、私にとっては現実でしかなくて。それは誰かの悪意と無自覚によって歪められてしまったもので。
 私の叫びは、だからこそ届かない。それを向ける先が分からない。世界はいつだって悪意と無自覚が積み重なって足元に変わっていく。
 私は言葉を探して絞り出す。

「私が特異点というだけだったんです。あの世界にいたのは結局はデータとコードで構成された人に似せたものでしかありません。だから」
「それでも」

 その先の言葉を私は制した。それを聞いてしまえば、言葉にしてしまえば私はきっと何も許せなくなってしまう。私は今何に向けて怒れば良いのか分からないのだから。
 どうやっても私は誰かと同じ線の上には立てない。

「クラウンクレイドというゲームは暴力表現規制の解除の反動を受けて作られた、と聞きました」

 ムラカサさんはそう説明した。私の問い掛けにクニシナさんは頷く。

「私も世代ではありませんが、かつて世界中で様々な表現や描写や言葉が制限された事があります。現実から創作物まで様々な物が対象でした。人がその本質と決別し新しい世代へと向かう為に」
「新しい世代?」

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品