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第四十章 炎の魔人討伐作戦

村雲城城下町

 「これはひどい」

トウヤと来た時の城下町は綺麗に整えられ江戸の町!って感じだった
今では煤まみれの瓦礫があちらこちらに散在している

「これって炎の魔人さんがやったのかなぁ?」
 「あんらぁん・・・綺麗な街並みがだいなしぃん!」
 「やべ!帰りたくなってきた!」
[炭火焼き・・・]

パキパキ音を鳴らして歩いていると瓦礫に混じり骨が見える
骨の上を歩くのに抵抗を感じジローを召喚して背中に乗る
 ついでにルピーもジローの背中に引き上げる
決して放っておいたら骨や人肉を食べだしそうとかではなく女の子にこんな場所を歩かせたくないからだ
 ・・・食べないよね?

 城のあった場所は円状の更地になっておりその中心には炎の鎖で全身を巻き付けられた焦げた骨と肉の塊が立っている

<炎の魔人 フレイムエンペラー>

 確かここに来るまでに何十というPTが挑んだ筈だが
周りを見渡しても人っ子一人いない

「どうやら皆んなやられたみたいだな」
 「仕方ないわねぇんあの子は規格外だものぉん」

おいGM、そんな規格外な物を敵として出すなよ!
 恨めしい目でアリスを見ると頬に手を当てて赤くなっている

「アズちゃん?私にはダーリンがいるのよぉん?」

 無言で圧縮精霊をぶつけるがアリスはピクリともしない

「とにかく戦闘準備!」

ルピーとグレイが前衛、アリスと俺が中衛、姉が後衛だ
順調に陣形が組まれ・・・グレイが最後尾にいる?

「わー!おっきー!ひろひろ!この人おっきいよ!」

 姉は炎の魔人の目の前にいる

[お腹がすきました]

ルピーは俺の傍で飯の催促をしてくる
 アリスが俺の横で困った顔をしている

「あらぁん・・・すごいPTねぇん・・・」

ごめんなさい!そこは否定できません!

 「※※※!」

 魔人が咆哮をあげて姉に拳を振るう
姉に向かってロープを投げ姉の服の食物繊維を活性化、ロープと服をくっつけて後ろに引っ張る

先程まで姉がいた場所にクレーターが出来上がる

「なんて威力だよ・・・アリスさん!ロープの真ん中を強く回転させれますか?」
 「らくしょうよぉん!」

アリスが準備をしたのを確認して今度はロープをグレイに投げる

「うお!アズ!このやろう!何しやが・・・アズさん?何する気ですか?ちょっと!?」

アリスがロープの中心を巨大なぬいぐるみの手で回転させる
結果姉がいた場所とグレイがいた場所が真逆になる

「のわぁぁぁぁぁあぁ!」

グレイが絶叫をあげながら魔人にぼこぼこにされているがHP事態はさほど減っていない
 さすが高レベルのタンク職だ
遠距離から姉が回復してるのもありこれなら安心して戦える

「ルピー!とりあえずこれ食べて!このクエストが終わったらご馳走だから!」

ルピーが目を輝かせてサンドワームのおにぎりを食べて小太刀を両手に空中から炎の魔人を切り刻む
 やる気を出させ過ぎたのかダメージ量が大きくターゲットがブレ始めた

 しかし炎の魔人のターゲットがルピーに移った瞬間ルピーがメモを大量に炎の魔人にばら撒く
苛立った炎の魔人が咆哮でメモを吹き飛ばすとそこにルピーの姿はない
俺達からの位置だとわかるが空中にジャンプしてそのまま隙を伺っているのだ

 あの子・・・強すぎませんかなぇ・・・

「私達もいくわよぉん!人形戦争!(ドールズウォー)」

アリスの掛け声と共に大量のぬいぐるみ兵が現れ炎の魔人を飲み込む
 ・・・あれ!?もしかして俺いらなくね?

 炎の魔人はすでにHPの半分を切っている
 このままでは役立たずのレッテルは間違いなく俺だろう
炎の魔人が炎を纏った鎖を四方に射出
フィールド全体が炎上しだす
俺はジローにのったまま炎の鎮火に努める
杖で炎の魔人の周りの火精霊を分散させ炎の勢いを削ぎながら戦況を確認
いくら硬いといってもグレイのHPが5割を切っている

回復しきれていないグレイにポーションを取り出すべくアイテムストレージを開き・・・
間違えて不知火の大爪を取り出してしまった
今はしまう時間すら惜しい、大爪を地面に捨ててポーションを取り出すとグレイに振りかける
顔面にポーションを被ったグレイが抗議の声を上げる

「ぶへぇぇぇ!アズ!この!覚えてろよ!?」

 全く助けてやったというのに・・・
 しかしこれで戦闘は余裕だな
役立たずのレッテルも貼られないだろう
 ジローから降りて周りを見渡す、炎の魔人は完全にこっちのペースにのまれている
倒すのに一分かからないんじゃないかな?

 「ジロー、あとは軽いサポートだけで大丈夫そうだよくやった!」

ジローの頭を撫でようとした瞬間

 「グオオオオオオ!」

ジローが今まで聞いたことの無い叫びをあげて炎の魔人に突進する
 ポカンとなりながらジローの手元を見るとそこには不知火の大爪が装備されている
捨てたのを装備する作戦と間違えたな!?

 「戻れジロー!あとは大丈夫だ!」

しかしジローは俺の言葉を聞かずそのまま炎の魔人に本物の熊のように戦い始めた
急に起きた出来事に硬直していると
PTメンバーが周りに集まってきていた

「ジローちゃんなんだかこわいよぉ・・・」

 姉の台詞に今回ばかりは同意だ
 ダメージを受ける事を恐れず修羅のように炎の魔人をいたぶっている
喉元をジローに食いちぎられ炎の魔人は倒れ、同時にジローも倒れた
実際は短かったかもしれないが長い時間傍観していた気分だ

倒れたジローと不知火の大爪を回収しながらジローの先程の戦いを思い出す
 いう事も聞かず、己がダメージを受けても意に返さない
 やはり危険なアイテムだ
不知火の大爪をまじまじ観察していると背後で爆音がなり響く

「危ない!ひろ!」
 「なんだ!?」

 赤い瞳を輝かせ、雄叫びと共に魔人がこちらに襲いかかる
魔人の拳を手に持っていた物でいなして後方に飛び退く

「こいつ・・・どこま・・・で?」

 急激な目眩、頭の中に唐突に声が鳴り響く

『※※※・・・・※※※・・』
 「こいつ・・・頭の中に直接?」
 「まずいわぁん!」

アリスのぬいぐるみが四方から炎の魔人を切り刻み今度こそHPを全損してシステムログが流れる

<炎の魔人の討伐に成功しました>

しかし喜ぶ間もなく体中に激痛が走る

「ぐああああ!」
 「ひろ!大丈夫!?」

 唐突な俺の叫びに駆け寄ってきた姉が心配そうにこちらを見る
 とても不安そうな顔をしている
 このくらい平気だってのに
安心させるために口を開く

「※※※」
 「え?」

え?
 俺の心の声と姉の声がシンクロする
自分に火精霊が集まり体が燃えるように熱くなる
 まずいまずいまずい!
 自然調和で集まってくる火精霊を分散させる
火精霊の分散をしなければ俺も炎の魔人と同じような姿になっていたかもしれない

 だが火精霊を分散させ続けるのは精神力を使うらしい
体の自制が効かず勝手に動き出す

「我が炎に耐えるとは、この体はなかなか使えそうだ」

 俺じゃない俺の声が響く
 いつの間にか近づいていたアリスが姉を担ぐ

「サトミちゃん!逃げるわよぉん!」
 「でも!ひろが!」

 呆然としていたルピーとグレイもアリスに続きボスエリアから脱出する

「さぁ・・・宴の再開だ!」

あれ?これってヤバくないか?


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不気味な髑髏兵の大群彷徨う上空に不自然に炎が揺らめく
赤い瞳に赤い髪アズもとい

<炎の精霊使い>

 『あの・・・そろそろ体返してくれませんか?』
 「ならん、この体は我が野望の為使わせてもらう」
 『野望って?』
 「ああ!一つ昔話をしよう」
 『いや、そういうの良いんで、はやく体を返せよ』
 「・・・」

 炎の魔人は静かに眼下を見下ろす
眼下には不知火シリーズに憑依された和の国の兵士達
 皮膚は爛れ、所々骨がむき出しになり異臭を漂わせている

 アリス達と別れた後炎の魔人は不知火シリーズを和の国に流出させて和の国の住人を洗脳、支配下に置いていった
 そして現在大量の髑髏兵を引き連れグラフ地方に進軍している

『こんな恐ろしい事をするなんて・・・』

 現在NPCは無限増殖しないのだ
支配されたNPCはもはや助かる見込みもないだろう

『どうしてこんな酷い事を!』
 「我は昔」
 『昔話はどうでも良いんだよ!』
 「・・・」

 再び黙り込む炎の魔人
なんて無口なやつなんだ!
 炎の魔人に憤慨しながらグラフにいる仲間の為に知恵を振りしぼる

 ・・・何もできないな
現在体の支配権は炎の魔人にある、自分の意思では指一本動かせない
最初乗っ取られたときは火精霊の調整が大変だったが
炎の魔人が完全に覚醒したと同時にその必要もなくなった
俺は仲間の無事を祈りつつ静かにログアウトするのであった

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