BioGraphyOnline

ツリー

第三十七章 村雲城

村雲城城門前の大通りに潜む怪しげな風貌の二人
 黒い盗賊服を身にまとい、黒色の仮面着けたアズは
村雲城の城門を見ながら相方に話しかける

「城門には見張りが四人もいるんですか」
 「しかも交代制で常に四人なんですよ」

 幸薄そうな笑顔を浮かべるトウヤが捕捉する
 トウヤは茶色い忍者服に紫色と赤色の短刀を腰にぶら下げている

「あと、今更ですが僕に対して敬語はいらないですよ」
 「そう?じゃあトウヤも敬語じゃなくていいよ?」
 「僕の場合この喋り方に慣れてしまっていて・・・」

 丁寧語に慣れた人はその喋り方が定着するものだが・・・
 ジト目でトウヤを見ると幸薄そうな笑みを返してくる
溜息をつき話を戻す

「それでどうやって潜入するんだ?」
 「今までは僕の不可視のスキルで天守閣まで行けましたが今回はアズさんがいますからね」

なるほど・・・トウヤの不可視のスキルは常人なら見つける事は不可能である
潜入し放題の暗殺し放題・・・
やっぱり俺いらないんじゃないかなぁ・・・
 これでボスが即死、状態異常耐性を持っていなかったら絶対手伝わない部類である

「とりあえず城門は駄目だな・・・俺の隠密じゃあまずバレるし自然調和だと動けないからな」

 試しに自然調和でトウヤに運んでもらおうとしたが
 まずトウヤが俺を見つけれなくなった
 もしこの二つのスキルがシナジーを持っていたら最強の暗殺チームが出来たのに・・・
少し残念そうにしていると何を勘違いしたのかトウヤが別ルートの提案をしてくる

「一応見張りが少ない場所を見つけているんですが・・・」

そうして案内されたのは村雲城裏の水路
 周りに人影はなく、水路の上の小道にたまに見張りが歩いている程度だ

「確かに見張りは少ないけど・・・ざっとビル5階ぶんくらい跳躍力がいるな・・・」

 見張りが少ない理由は単純に通常の手段での侵入が難しいからだろう
苦虫を潰した顔をしているとトウヤが困った笑みを浮かべる

「あはは・・・やっぱり難しいですかね?」
 「いや、俺は浮遊スキルに近いの持ってるからいけるかも」

 意識を集中させて精霊を操る
体が宙に浮かび目的の場所に飛翔しようとする

「!アズさん!ストップ!ストップ!」

 宙に浮いた俺の足を掴んだトウヤが隠れるように合図をすると水路の上から兵士がこちらの様子を伺っている

「なんだなんだ!?今何か光ったような・・・?」

 慌てて着地するが地面に足が着いた瞬間水音が鳴り響く

「!!」

 兵士がガシャンと鎧を鳴らして急いで階段に向かっていく
 まずい・・・見つかった・・・?

 兵士は水路に降りると俺達がいる場所に提灯を向けながら言葉を発する

「・・・いるのはわかっている!出てこい!」

もしかして姿は見られていない?
 慎重にこちらの様子を伺いながら前進する兵士を見る

 ならば!
アルを召喚して適当に兵士の方に走らせる

「うわ!?なんだSARUか・・・驚かせやがって」

アルにあっちいけと槍を振る兵士
 注意が逸れた兵士の首元にトウヤが紫と赤の短剣を切り付け無力化する

「危なかった・・・でもなんでばれたんだ?」
 「それは単純にアズさんが光ってたからですよ・・・」

トウヤの飽きれた口調
ああ!飛翔する時に発光しちゃったのか!
 納得顔の俺にトウヤが頭を押さえている

「まぁまぁ!他にも方法はあるから!」

そう言いつつアイテムストレージから準備しておいた縄を取り出す
出て来た縄を触りながらトウヤが疑問を浮かべる

「一見すると普通の縄ですが・・・?」
 「それはこうやって・・・と!」

 縄を出来るだけ城壁高くまで投げて木精霊を活性化、城壁に根を張らせる

「これで登れるでしょ?」
 「なるほど・・・確かにこれなら目立たないですね・・・」

 千切れないか確認したところで今度こそ城の中に潜入する

「ここの通路は生き物が通ったら矢が飛び出てきて・・・」
 「ここには落とし穴があります・・・・」
 「この鎧は実はモンスターで・・・・・」
 「この道を突っ切ったら上の階に行けるんですが・・・」

 道中トウヤの案内のおかげで兵士に見つかる事無く罠にかかることもなく安全な旅をしているアズ
 アイテム採集がてら壺をあさっている所をトウヤに白い目で見られているが気にしない

「流石に見張りがいないわけじゃないからな・・・また薬草か・・・しけてるな」

壺の中から取り出した薬草をアイテムストレージに入れて愚痴る
現在第7階層、4階層から突入し
安全確認の必要が無いとわかった俺は、5階層から勇者行為に励んでいる
 ここまでの入手アイテムは

薬草×5、未鑑定の丸薬×3、布の服×4、鋼鉄の刀×1だ

「アズさん?もうすぐボスなんで準備お願いし・・・」
 「トウヤ?ここ宝物庫って書いてなかった?」
 「扉には鍵がかかってますよ?こういったダンジョンでは・・・」

トウヤの話を途中に土精霊で鍵を作り錠前を外す

「アズさん・・・手慣れてますね・・・」
 「褒められると照れるな」
 「褒めてないですよ」

そう言いつつトウヤも今回ばかりは少し興味があるようだ
不可視のスキルを使って真っ先に入っていく
 俺の視線に気づいたのか咳払いをしながらトウヤが言い訳をする

「コホン!・・・宝物庫は領主になっても入れないんです!」
 「つまりここはプレイヤーの私有地ではなくダンジョンのレア部屋扱いって事か?」
 「そういうことです!決してやましいき・・・」

トウヤの話も途中に宝物庫を物色し始める
宝物庫には金銀財宝が・・・あるわけではなく物置部屋みたいな内装をしている
壁には大きな掛け軸が飾ってあり
 テディベアが大きな爪で威嚇し、兵士の軍団が向かい合う絵が描かれている

「和風ダンジョンにテディベアの絵って・・・世界観ぶっ壊れてるなぁ・・・」

 掛け軸を眺めながらアイテムを拾う
 ダンジョンにいる時の癖で一つ一つ道具の説明欄を確認する
 ほとんどのものがインテリアだが中には武器や防具も発見できた(ちなみに家具もお持ち帰りできる)
 不知火の剣、不知火の鞍、不知火の大爪・・・etc

「不知火地方なだけあって不知火シリーズが豊富ですね」

 不知火の短剣に手を伸ばしながらトウヤが呟く

「トウヤさんトウヤさん・・・不知火アイテム全部呪われてるみたいなんで気をつけて?」
 「!・・・そうやって実は自分が欲しいとかないですよね?」

トウヤがあわてて手を引っ込めながらも疑いの眼差しを向けてくる
 いじわるを言ってるわけではなく不知火シリーズの説明欄には決まってこの文章が付け足される

<・・・・・この装備には亡霊が憑りついており、亡霊が所有者と認めないものが使用した場合亡霊に取りつかれる>

アイテムの使用がトリガーのようだが安全の為お互い一つづつ手に入れる事にしておいた
俺は大爪、トウヤは短剣

 「なんにしてもここには不知火シリーズしかなかったな・・・」

 充実感と共に、城を出る為に階段を降りようとする

「アズさん!?当初の目的忘れてませんか!?」
 「・・・・ああ!領土戦の途中だった!」

あまりにも安全な旅だったもので完全にダンジョン気分になっていた

「・・・この先には領主と取り巻き二人、あとはクランのメンバーがいたらその人達とも戦うことになるので気をつけてくださいね?」
 「やっと俺の出番だね!レッツゴー!」

トウヤの疑惑の目に耐え切れず一気に階段を駆け上ろうとした所で足元に炎を鎖が浮き出る

「なんだこれ!?」

 咄嗟に風を体にぶつけて床にダイブするが追撃の鎖で地面に縫い付けられる
 トウヤから罠に関しての説明はなかったはずだ!
そう思いトウヤを見ると炎の鎖に拘束されてうめいている

「俺ぁ耳がよくてなぁ?お前ら領土戦に来たってぇ?」

ウサミミをした出っ歯が特徴の小さい男が笑いながら階段を降りてくる
 どこかで見た気がするな

「ヒョッヒョ!これぁ良い!」

ウサミミ男が残忍な顔を浮かべてトウヤの腹に0距離から炎をぶつける
 トウヤのHPが大きく削れ後ろに吹きとびそうになる所を炎の鎖がその場に縛り付けている
再び炎をトウヤにぶつけるウサミミ男

 「この前はよくもやってくれたなぁ!」

 回避も受け身も取れないトウヤに更に炎をぶつける
HPが残り僅かになった所で地面に落ちていた短剣を手に取りウサミミ男が口角を吊り上げる

「あの時とは立場が逆だなぁ?死ね・・よ・・・?」

ウサミミ男が大口を開けて停止する

「あああぁぁぁぁっぁああああ!!」

 瞬間おたけびをあげながら床をのたうち回り動かなくなるウサミミ男
 炎の鎖の拘束が解け急ぎトウヤのHPを薬草で回復する

「っ!アズさん・・・ありがとうございます・・・」
 「大丈夫かトウヤ!?」
 「僕は大丈夫です・・・それより・・・」

 床で停止していたウサミミ男の体が炎の鎖で巻き付けられ、炎上しながら上の階に上がっていく

「一体何が起きたんだ!?」

 俺の戸惑いの声の後、上の階より悲鳴が聞こえてくる
今までにない真剣な表情で上に続く階段を見つめながらトウヤが呟く

「アズさん・・・慎重に行きましょう・・・」



----村雲城天守閣--------

「アツイ・・・ノドガ・・・ヤケル・・・」

どこから出ているのか
最早肉は焼け爛れ、黒く煤けた骨だけになった元人間
 全身に炎の鎖を巻き付け
自身を抱くような体勢でこの城の領主を見下ろしながら呟く

<村雲城領主が討伐されました!討伐者※※※※※>

 壊れたようなシステムログを聞きながらトウヤと二人、炎上する天守閣まで登ってきた俺達は、目の前の化け物を見て呻く

「一体何が起きてるんだ・・・?」
 「多分あれが不知火の亡霊なんだと思います・・・」

そういいつつ炎の化け物の胸元を指さすトウヤ
 そこには宝物庫でトウヤが手にしていた不知火の短剣が刺さっている

「あれは・・・憑りつかれるってレベル超えてるでしょう!」

 俺の叫びに炎の化け物がこちらを振り向く

「アツイ・・・ダレカ・・・タスケ・・・」

 化け物が両手を開くと大量の炎の砲弾が空中に現れる

「ちょっと!?あれはどうにもならないんじゃないか!?」
 「ええ!あれはまずいですよ!」

 凄まじい轟音と共に視界が暗転
 頭から何かがずれ落ちた感覚と共に背中に軽い衝撃が走る

「・・・?」

ゆっくり目を開けるとそこには見慣れた天井

 「あれ・・・?俺の部屋・・・?」

 すべり落ちたのであろうベッドに腰かける

「すっごい汗・・・風呂入ろう・・・」

 焦げたヘッドギアを脇に置く

「風呂に入ったら・・・寝よう・・・」

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品