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第三十六章 男達の鎮魂歌

「目を開けろ!デルタⅠ!目を開けてくれ!」

そんな悲壮な叫びと共に周りを見回す男
 大量の死体うごめく中

あるものは大量の拳を撃ち込まれ筋肉が痣だらけに

 あるものは精霊を逆流され体内から汁という汁を出して

 あるものは虚ろな目でひたすら呟き

 あるものは毒や出血で苦しみ悶えている

絶望しかない・・・そんな男の前に銀髪の女が立つ

「自害せよランサー」

その言葉と共に男の持っていた槍を自分に突き刺す


遡る事数時間前

 「10番テーブル!ドラゴンフライとホッピースープ!」

 木漏れ日荘にはアズの声が響いている
準備はしていた、朝から昼にかけてぬかりなかったはずだ
 だが予想以上だ!今木漏れ日荘の店内だけでは捌ききれず外でキャンプを張ってまで食べにくる客の大洪水だ

「ドルガさん達も今日は忙しくて来れないし・・・!皆!この分なら給料は底上げする!頑張ってくれ!」

アルバイトの子達の戦意を保ちつつ新しいオーダーを受けては食事を運ぶ、そんな作業が温泉解放まで続き
終るごろには、俺達は疲労困憊といった状態でホールで倒れ伏していた

「今襲われたらブルーラットにもやられる気がする」

 誰かが呟いた台詞に思わずその場の全員が頷く
 いかんいかん!管理人としてこの流れを断ち切らなくては!

 「みなさん今日はありがとうございます!謝礼は3倍出しますので温泉の方を楽しんできてください!」
 「そうゆーことだよ!ささ!みんな一緒に温泉にレッツゴー!」

 意気消沈していた女冒険者達が今度は満面の笑顔で姉に連れられて温泉に向かう
 その後ろ姿を見送り椅子にもたれかかる

「本音言うと俺も今日はもう動きたくない・・・」
 「そうもいっとられんで?」

 不意に横から声を掛けられビクッと体を震わす

「!・・・なんだフーキか・・・メッセージの返信も無しに急にどうしたんだよ・・・」

そこには我が友フーキ、あとなぜかトウヤとランズロットもいる

「色々あってな・・・それより今すぐ温泉を封鎖するんや!時間が無い!」
 「な・・・なんだよ!?何かあるの!?」

フーキの鬼気迫る勢いに封鎖しようとしたところで悲鳴が聞こえてくる

「遅かったか!」
 「今度はなんだ!?」

 俺達四人は温泉に向かって走り出す

 そこで見たのは・・・

「貴様は死ね、貴様も死ね、貴様も死ね」

濡れた 銀髪を輝かせ、バスタオル一枚で周りの男冒険者を惨殺しているフィンさんだった

 フィンさんの言葉には絶対厳守になる技があるから惨殺というより相手が勝手に自害してる風にしか見えないが
男達が悲鳴をあげながらフィンさんをなんとかしようと叫んでいる

「あの女をおさえろ!あいつさえなんとかなれば!」
 「この先には俺達の楽園が!」
 「「「負けられない戦いがここにある」」」

その叫びに呼応して上半身裸の覆面がフィンさんに高速で接近、ウサミミのローブが魔法を唱えて炎の鎖で足元を固めるが
 フィンさんの目の前まで来た覆面は突如横に吹き飛び近くの木に背中からぶつかる

「あー、あの時はよくもやってくれたね?キンニクンさん?」
 「はーはっはっはぁ!まさかこんな所でリーベンジが出来るとはねぇ!君対策のこの技を食らうがいい!」
 「視覚外だったらコピーされないと思ったんやろけど」

キンニクンが地面に叩きつけられる

「それ以上に戦闘力の差がでかいんやで?」

フーキが黒い笑みを浮かべてキンニクンを見下ろしている

「まってろぉ!今支援を!」

ウサミミ男がそう言って魔法を唱えて炎の鎖を発射するがフーキに届く前に
突如真後ろから現れたトウヤによって手足を切りつけられ動けなくなる
首元も切り付けられて声も出せずに、あらゆる状態異常をかけられもがき苦しんでいる

 そんな仲間の状況を見て指令を出しているであろうフードの男が叫ぶ・・・あれグレイじゃないか?

 「これだから役立たずは!」

そんなブーメランに近い台詞を放つ彼の後ろにはランズロットさんが立っている

「まさか君があの場にいたとはね・・・これも運命!騎士の力!存分にみせてあげよう!」

グレイを持ち上げて暗がりに連れ込むランズロットの目は血走っている

「な・・・何をするきだ!?な・・・!?なんだその長くて馬鹿でかいものは!?」
 「私は槍使いだからね・・・君は体力に自信があるのは知っている」
 「や・・・やめろ・・・くるな!くるなぁぁぁぁぁ!」

 暗がりからグレイの悲痛な断末魔が聞こえてくる

「フィ・・・フィンさん!?どうしたんですか!?」
 「我が半身が血縁アズか・・・なに・・・こ奴らが余の湯あみを傍観しようとした故な・・・」

つまり覗き犯か
 それを聞いた俺は冷たい眼差しで近くにいた冒険者に歩み寄ると精霊を血流が反転するように暴走させる
 パンッという音と共に破裂する男、顔には破裂した男の血がヴェットリついたが気にせず次の目標に歩み寄る

「さっきは失敗したけど・・・今度は上手くやるよ」

 全身から体液を流し倒れる男冒険者
 周りがドン引きするなか笑顔を絶やさず次の冒険者を見つける

「今日は何度失敗しても良いぐらい対人スキルが練習できそうだ!」

 逃げようとする男冒険者
フィンさんの「止まれ」という一言で動けなくなる

涙を流しながら助けをこう男冒険者達を遠慮なく殺戮していく四人であった


「そういやフーキはなんでトウヤさんとランズロットさんと一緒にいたんだ?」

 覗き魔共を全員死に戻りさせてから疑問をぶつけるとフーキが苦笑いを浮かべて頬を掻く

「それは・・・あれやね・・・なんていうか」
 「フーキさんとランズロットさんは村雲城の地下に幽閉されていたんですよ」

 言い淀むフーキのかわりにトウヤさんが答える

「村雲城・・・トウヤさんが下見に行ってた所ですね、なんでそんなところに」
 「百聞は一見に如かずやね・・・これ見てみ」

フーキがメッセージをコピペして俺に送る

『俺が知りうる男性フレ達に送る、今夜20時グラフ東に集合、我らが楽園を手に入れる為の会合に招待する、男の尊厳を守るために顔を隠す物必須』

うわぁ・・・
俺の顔を見て苦笑するフーキ

「面白そうやったから参加したんやけどまさか覗きとはね」
 「わかってて参加してたら友達やめてたよ・・・」

ジト目でフーキとランズロットを見る

「まぁおかげで今回事件の被害が少なくなったってことやね」

 実際はフィンさんだけいれば良いんじゃないかなってレベルだった気もするが・・・

「それで地下に幽閉されてたわいらを領地の下見に来てたトウヤが助けてくれたってことやね」
 「地下に水路があって通りかかった牢屋に二人が閉じ込められてて驚きましたよ」
 「私はもう少し助けが遅くても良かったんだけどね・・・」

 眼鏡を拭きながら呟くランズロットからフーキが逃げるように俺の後ろに移動する

「?どうしたんだ?」
 「いや・・・なんでもないんよ・・・」

 「まぁいいか」と改めて三人に向き直る

「本日は助けていただきありがとうございました」

 三人は驚きながらも三者三様の返事をする

「私も良い経験が出来た、顔を上げてくれ」
 「わいとアズの仲やん?きにせんでええよ」
 「気にしないで下さい!その代わり明日の村雲城攻略頑張りましょう!」

 村雲城攻略といえば

「フーキも今回トウヤさんに世話になったんだし村雲城攻略一緒にどうだ?」

いつもなら笑顔で即答するフーキが言いづらそうに俺に謝る

「悪いけど今リアルが多忙なんよ・・・この埋め合わせはまた今度ってことで堪忍してくれへん?」
 「別に良いけど・・・リアルでも何かあったら俺に言えよ?手伝うからさ」
 「大丈夫や、わいがなんとかする」

それにしても

木漏れ日荘の周りを見てゲンナリする
現在木漏れ日荘の周りは血の海が広がっている
最早血溜まり荘である

「これどうしようか・・・」

 顎に手を当てて考え込んでいるとランズロットが手をあげて立ち上がる

「後片付けは負けた側に任せるとしよう、ここはゲームの中なのだ死んでも生き返る」

そう言って今回の覗き魔達の名前をメッセージで送ってくる
生き返るという言葉にフーキが沈痛な面持ちを浮かべるが気にせずにリストを見る
 まずグレイやキンニクンは間違いないだろう

「男性冒険者ほぼ全員じゃないか!」

 俺の叫びが血溜まり荘に木霊する

後日、今回の覗きに関わった冒険者は後片付けと多大な被害金をアズに支払う事になった

 グレイ筆頭に「後悔はしていない」等わけのわからない供述を述べ
自分達の血の海を見て吐いたりと二次災害が発生したりした
俺達五人に奮闘した者や今回の首謀者格であったグレイは見事円卓の騎士団に吸収合併され
現在ランズロット直々の個人レッスンを受けているらしい
 ランズロット曰く同じ様な事件が起きても「決して加害者にまわらないように教育する!」と煌めく笑顔を浮かべていた

「それで?なんでグレイが部屋にいるんだ?」
 「俺が自分の部屋にいたらおかしいかー?」

グレイがどこからか調達してきたソファーに寝そべりながら俺に返事をする

「おかしくはないけど今日はランズロットさんの個人レッ」
 「その名前を口にするなぁぁぁ!」

 叫びながらベッドにダイブして布団にくるまるグレイの様子からもランズロットの個人レッスンの恐ろしさが伺える

「まぁ俺は良いんだけど客が来てるよ?」
 「客?」

グレイが布団から頭だけこちらを覗かせる
 ランズロットが良い笑顔で俺の前に立っているのを見て窓から逃げ出す
二人の追いかけっこを窓から見下ろしながら今日の夜の領土戦に備えるのであった

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