ヘタレ魔法学生の俺に、四人も美少女が寄ってくるなんてあり得ない!

神楽旭

学園祭とメイド服

十月二十二日。
俺は日曜日なのに学校に来なければならないという罰ゲームじみた状況に身を置いていた。
「今日学園祭だもんなあ……」
魔導学園関東高校学園祭_____通称『東魔祭』のため、俺達は日曜日にも関わらず制服着用の上、七時とかいうバカみたいに早い時間から集まっていた。
「なあ暁、城桜の人達来るかな?」
「一定数は来るかもよ。……女子校の生徒とお近づきになりたいんだな」
「当たりめえだろ!俺も灰色の悲リアライフからおさらばしてえんだよ!」
城桜……美人が多いって有名だけど、果たしてこの残念なイケメンエセ紳士になびく人がどれだけいるんだろう……。


時は流れ午前十時。
三時間も最終準備強制労働に従事させられたあげく、模擬店以外の人達まで挨拶練習をやらされた。……模擬店組以外は待機で良いじゃないか。
(面倒な)挨拶練習を終えた俺達は、教室店舗に戻って準備を始めた。コーヒーメーカーの電源を入れたり、男子はスーツ(借り物)に着替えたりする。……女子は……。
「ほんとにこれ着るの……?」
 却下されたハズのメイド喫茶用のメイド服を着ていた。どうなってんだこれ……。
「俺と近藤で拝み倒したんだ。集客率が上がるかもしんねえからって」
「その内の八割は秋葉原在住のオタク諸氏だろうね」
秋葉原って結構あるらしいんだよな。メイド喫茶が。……っていうか近藤。お前もかよ。
「見て!暁!メイド服、似合ってるかな?」
おっと。危なくぶつかりそうになったぞ。
……中々似合ってるなあ。
「うん。何か、すげえ良いと思うよ」
「ええー?それだけ?」
「語彙力が無いんだよな。俺って」
今年の誕生日は語彙力を買おうじゃないか。
……辞書だな。うん。広辞苑でも買おう。
「そろそろ開店だな。井藤。お前は厨房だっけ?」
「おお。昔っから料理だけは得意でよ。今回もそれでな」
俺は井藤の耳に口を寄せ、
「(料理の出来る男はモテるらしいんだが、どうだね井藤君)」
「っしゃ!気合い入れてくぞ!」
意気揚々と厨房に入っていった井藤。お前は顔はイケメンだから、あとは有能さをアピールすれば何とかなる……かもしれない。


午前十時十五分。『東魔祭』開催。
で、一年三組の喫茶店はと言うと、
「お待たせいたしました。カフェラテと、アップルパイになります。ごゆっくりどうぞ」
俺がテーブルにカフェラテとアップルパイを置き、厨房に去ろうとすると、
「ウェイターさん!こっちも注文して良い?」
「あっ、こっちも!」
「じゃあ私も!」
……何これ。俺に分身を強要する罰ゲームですか?
一つのテーブルに四人。それが三つ。十二人も相手しなきゃいけないのか俺は!しかも井藤こっち見てる!バカやめろそれアイスピック!当たると痛いやつだから!
「……ご、ご注文をどうぞ」
背後から向けられる視線にヒヤヒヤしながら、注文を取る。
「私スコーンが良いかな。コーヒーもお願い」
「私はパンケーキと紅茶頼むよ」
中々良いセンスしてるな。紅茶とスコーンがセットだったらビンゴだった。紳士淑女の午餐セットって名前で売り出そう。
「かしこまりました。少々お待ちください」
厨房に入り、注文を告げる。
「お前美人に囲まれやがってお前この野郎!」
「おう。あぶね……」
足を払って倒し、メモ用紙を突き出す。
「総料理長殿。以下の注文を受けましたので、調理をお願いします。……美人の腹ん中に入るんだから、心込めて作れよ」
俺が冗談めかして言うと、
「オーケー任せな。俺が最高の料理を作ってやる。お前はそれを、優雅な足取りで客のとこまで運びゃあ良い」
「……何この料理マンガもどき」
ぐふっ。委員長、中々キツい事を言う……。
「……普通に作ろうぜ?な?」
「あ、ああ……」
若干引きながらも返事をする井藤。この間にもパンケーキの生地を練り上げ、オーブンにぶちこんでいる。コイツの同時処理能力どうなってんの……。
俺が驚きつつ顔を上げると、こちら___厳密には井藤に視線を向ける女子が一人。
青いブレザーに黒リボン。城桜学園の制服だ。
……もしかして井藤が気になるのか?
俺は厨房を出て、試しに話しかけてみる。
「誰か顔見知りがいるの?」
「……へ?」
あ、やべ。ビックリさせちゃったヤツだわこれ。
「あ、ごめん。ビックリさせちゃったかな」
「い、いえ。大丈夫です。あの……」
その子は口をもごもご動かすと、
「……あの男の人、かっこいいなって……」
……うん。その人井藤。俺の親友で残念イケメン。
「……連れて来ようか?」
「ええ!?い、良いんですか?」
「おお。良いよ。ちょっと待ってて」


「……んで、どしたの?」
「ああ、えっと、その、ちょっと話があって……」
「初対面の俺に?……何だ何だ?」
井藤……。初対面なんだから威圧するのは無しだってば。
「あなたのお店が終わったらで良いんだけど……私と一緒に回って欲しいな……」
井藤、しばし考え込む。(多分フリだろうし、内心狂ったみたいに喜んでんだろうなあ)
「良いよ。俺シフト外れたら暇だし」
「ほんと?ありがとう!」
「良いってことよ。それに、女子の頼みだしな」
イケメンかコイツ。言動だけ残念だけど。
「暁、お前シフト入ってくれるか?」
「やだよ。俺も回りたいし」
「……委員長に頼むしかねえか……」
「だな……」
ちなみにこの後委員長に拝み倒してみたところ、すんなりオーケーしてくれた。何かしてやったりな顔してたけど気にしない。

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