ああ、赤ずきんちゃん。

極大級マイソン

第8話「狩人と天才騎士」

 狩人がおとぎ騎士団に所属していた頃。彼は世間から『天才騎士』と呼ばれ、多くの栄誉を与えられてきました。公式試合では負け知らず、たった1人で100にも及ぶ敵を返り討ちにし、災害で苦しむ人々を瞬く間に助け出す。彼の騎士としての成果は国中に響き渡り、天才騎士を英雄視する者まで現れました。

 ……しかし、実際の天才騎士は、世間が思うほどに凛々しく、尊敬に値する人物ではありませんでした。

 稽古サボりは当たり前、裏街道では問題を起こし、セクハラや暴力沙汰を日夜のようにしでかす問題児。騎士団の和を乱し、同僚を『無能』と断じ解雇させるなど、騎士団での印象も最悪でした。
 それでも彼が10年以上も騎士団の一員でいられたのは、ひとえに彼が"強過ぎた"からです。先も言った通り、天才騎士を英雄視する者はおり、実績もありました。だからこそ、無闇にクビにする事も出来なかったのです。
 ところがある日、思いもよらないことが起こりました。おとぎの国の国王様が突然、天才騎士を解雇するよう、騎士団に言い渡したのです。
 騎士団の皆は驚きました。というのも、国王は天才騎士の事をいたく買っており、彼の粗暴な行為も、国王の名によって目を瞑らされていたのです。
 とはいえ、騎士団の皆は喜びました。いくら実力はあれど、天才騎士は『正義の騎士』として余りにも最悪でした。早速、騎士団は天才騎士を解雇し、そしてこれまで目を瞑ってきた彼の数々の問題行為をまとめ、天才騎士を逮捕しに出向いたのです。
 ところが、天才騎士を逮捕しに向かったその日、彼は姿を消しました。
 騎士団は彼に逮捕を勘付かれたのだと思い、天才騎士を指名手配しました。それから数年、彼の姿を見た者は居りません。
 やがて天才騎士の存在は世間から静かに忘れ去られ、その栄光は伝説となったのです。



 *****



 …………月日は流れ、おとぎの城の外庭。
 天才騎士改め、狩人となった彼は、現在懐かしの人物と相対していました。
 顔面の深い皺と鋭い眼光が特徴の、白髪の男性は『団長』。
 狩人が騎士団所属時代に、よく意見を衝突させていた、彼が騎士団で最も会いたくない人物です。

 狩人「うげー」

 狩人が呻きます。彼の表情からは嫌気と面倒臭さが漂っていました。

 狩人「団長。だんちょー!」
 団長「ああ」
 狩人「……やっぱ団長だ。あーアンタとは2度と会いたくないと思ってたのになぁ……。たっく、しょうがねえなぁ」

 そう言って、狩人は周囲を見渡します。いつの間にそこにいたのか、外庭には鎧を纏った騎士達が大勢、四方を囲んでいました。

 狩人(……見覚えのない奴が多いな。まあ、俺が引退してから随分経ってるからな。同期は引退して、後から見習いどもが入団したんだろう)

 となれば、ここにいるのは大半が実戦経験の少ない若手という事。そんな連中で自分を捕らえれるかよ、と狩人は高を括ります。

 団長「狩人よ。我々がお前の前に現れた理由は理解しているな?」
 狩人「全然。俺はー、この城に囚われた"マイスイートハニー"を助けにきただけなんだからさぁ」
 団長「そんな戯言を信じろというのか?」
 狩人「いや、ホントホント。ていうか、逆に知らないのかよ。この城に女の子が囚われているんだぜ。正義の象徴ともあろうものが、こんな非常事態を認識していないとか!」
 団長「貴様の言葉ほど、信用ならないものはない。仮にも俺は『天才騎士』と、何年も騎士団で活動を共にしてきたのだ。貴様の人となりはわかっている。……貴様は、人を貶める事になんら躊躇をしない男だとな!」

 狩人の信用はゼロでした。
 狩人の日頃の行いを間近で見てきた団長にとっては、信じられないというのも無理もない事だったでしょう。

 団長「天才騎士よ、貴様を国を貶めした数々の罪で逮捕する! 全員、剣を構えよ!!」
 騎士達『はっ!!』

 騎士団の敵意は充分でした。
 狩人に向ける剣先に、一切の迷いはありません。

 狩人「やれやれだぜ」

 狩人は面倒そうに頭を掻きます。四方を囲まれている状況でも、彼に焦りはありません。
 元々、彼は騎士団を1人で倒すつもりでいました。狩人は、その戦いが少し前倒しになっただけだと考えたのです。
 狩人は、前方にいる騎士団に手招きをし、挑発します。

 狩人「さっさと掛かって来い、雑魚野郎共。1人残らず蹴散らしてやるぜ」



 *****



 そして、狩人と騎士団が相対している際、白雪姫とオオカミとケルベロスは、別働隊の騎士達に保護されていました。
 騎士達は白雪姫の前で傅きます。

 女騎士「ご無事で何よりです姫様」
 白雪姫「は、はい。お久しぶりです、騎士団の皆様」
 聖騎士「お久しぶりです姫様。ああっ! この聖騎士、再び貴女様に出会えた事に、聖なる神に感謝を!」

 色白肌の男性がそう言うと、彼は己の信じる神に祈りを捧げ始めます。
 そんな彼を尻目に、全身鎧の大柄の男が、門の向こうを気にした素ぶりで声を掛けます。

 重騎士「オイオイオイ! 聖騎士、神様に祈ってる場合じゃねえだろう!!」
 弓騎士「そうですね。今、向こうでは団長達が例の騎士と交戦しているはずです。我々も急いで駆けつけねば!」

 全身鎧の男に賛同するのは、線の細い男性。彼も丈夫な鎧を纏い、背中には弓を背負っていました。

 女騎士「落ち着け2人とも! まずは姫様を安全な場所へ連れて行くのが最優先だ。悪党は団長達に任せて、我々は職務を全うするぞ!」

 焦る2人を、女性の騎士が一喝します。

 オオカミ「……えーっと、白雪姫。この人達は一体……」
 白雪姫「この方々は、おとぎの国を護る正義の騎士団、『おとぎ騎士団』の皆様です」

 白雪姫ら3人の元へ集まった騎士達。
 聖なる神様を信じ、その神様から授かった力で人々に癒しを与える『聖騎士』。
 山のように大きな身体で、どんな敵も力づくでねじ伏せる『重騎士』。
 百発百中の腕前で、弓の扱いに絶対の自信を持つ『弓騎士』。
 そして、おとぎ騎士団唯一の女性であり、騎士団で随一の実力を秘める剣の達人『女騎士』。
 この4人は、狩人がおとぎ騎士団を去ってから入団した現騎士団のエリート、その名も『四騎士』。
 そしてその4人の他にも、身形を整えた一眼で優秀だとわかる騎士が数人。彼らもまた、騎士団の厳しい訓練を受けた屈強な猛者達でした。

 白雪姫「またお会いできて嬉しいです、女騎士さん」
 女騎士「私もです姫様。さあ、ここは危険です。姫様は、早く安全なところへ!」
 白雪姫「え、あ、はい」

 白雪姫は、女騎士の言われるがままに騎士達に連れられて、その場を移動させられます。
 そして、残されたのはオオカミとケルベロス。

 女騎士「さて、お前達は町の不法侵入で捕らえさせてもらう。抵抗はするな」
 オオカミ「あ、やっぱりぼく達は捕まるのね」
 ケルベロス「ぶぅ、ぶー!」

 ここで抵抗するのも分が悪いと思い、2人は特に抵抗を示さずお縄につきました。
 2人を捕えた四騎士は、門の方へ向き直ります。

 …………この門の向こうに、伝説の男がいる。

 4人は静かに緊張し、そして意を決して前へ踏み出します。

 女騎士「さて、ここからが本番だ。行くぞみんな!」

 おうっ! と、3人は掛け声を上げ、四騎士は戦場へと駆け出しました。
 次回、第9話「狩人と四騎士」。ご期待ください。

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