ああ、赤ずきんちゃん。
第5話「赤ずきんちゃんにリベンジ」
赤ずきん「あー驚いた、まさかあの人が白雪姫のお兄さんだったとは。でも確かに、髪の色がそっくりだったわね」
赤ずきんは今、お城で自分に用意された部屋にいました。今夜起きた衝撃の事実に打ち震えながら、彼女はベッドに入ります。
赤ずきん「さて、今日は疲れた! という訳で私は寝るっ! おやすみなさーい」
少年と別れ、お城に用意された自分の部屋へ戻るや否や、赤ずきんはベッドに入ると同時に眠りにつきます。
この間、わずか1.04秒。
クークーと寝息を立て、慣れないベッドで心地良く眠る赤ずきんは、肝が座っているというより無警戒さを感じさせます。
……そして、そんな彼女がいる部屋に、コソコソと侵入する人物がいました。
お后「ふふふ、よく眠っているようじゃないかい」
手鏡『楽勝ですねお后様。それじゃあ、気づかれる前に早いところ仕事を終わらせちゃいましょう』
赤ずきんの部屋に入ってきた人物。それは、以前におとぎの森にやってきて、リンゴ園の『黄金のリンゴ』を盗もうとしにきた、お后様と魔法の手鏡でした。
2人は、赤ずきんと白雪姫によって黄金のリンゴを盗むことに失敗してからというものの、2人に対して仕返しを企んでいたのです。
手鏡『いやしかし、まさか向こうから自分たちの根城に来るとは想像もしていませんでしたね! おかげで、ワタシとお后様で行った112回のミーティングの、大半が無駄になりましたが』
お后と魔法の手鏡は、如何に赤ずきんたちを懲らしめ、酷い目に合わせようかと計画を立てていたのですが、赤ずきんが森を出てお城にやって来てくれたので、練りに練ったそれらの計画が要らなくなったのです。
お后「まあ、いいじゃないか。ここで赤ずきんを仕留めてしまえば同じことさ」
そう言って、お后は懐から棒状の筒のようなものを取り出します。
それは、先端が鋭利な針で出来ている注射針でした。注射針の筒の中には、サラサラの紫色の液体が詰まっていて、見るからに人に害がありそうな色をしています。
お后「ふふふ、この注射針から放たれる猛毒は神経を狂わせ、地獄の苦しみを味わって死んでいく!」
手鏡『まさに外道っ! 人を人とも思わない悪鬼の企み! 流石はお后様グハォッ!!』
魔法の手鏡はお后の手刀を喰らいました。
お后「誰が外道で悪鬼だ! 私は、この世で一番美しいお后様だよ!?」
手鏡『あーはいはいそうですね。取り敢えずもう、赤ずきんちゃんをぶっ殺しちゃいましょうかね」
お后「そうだね、そうしよう」
お后は注射針を構え、赤ずきんの腕に突き刺そうとします。
お后「…………ちょっと待て。衣服が邪魔で、このままだと注射できないね」
手鏡『頭巾被ったまま眠ってるし、四六時中身につけてるんでしょうかね、彼女。注射が出来ないのなら、袖をまくれば良いのでは?』
お后「…………あれ? 何故だか袖が上手くまくれないね。頑丈で固い」
手鏡『マジですか? 何で作られてるんですか、その服』
仕方なく、お后は赤ずきんの頭巾と上着を脱がせます。何故かボタンを1つ1つ外すのに手間取りながらも、何とか赤ずきんを下着姿にすることが出来ました。
お后「ふぅ〜、これで注射が出来るさね。……さて、赤ずきん覚悟ぉ!!」
お后は待ちに待ったとばかりに注射針を構えます。赤ずきんの肌に針を突き立て、
ボキィィッ!!
注射針が根元から折れました。
お后&手鏡『何ぃぃぃ!!?!」
お后と魔法の手鏡は、思わず驚き、声を上げます。目の前に眠っている少女がいるのにも関わらず。
赤ずきん「う、う〜〜〜ん」
赤ずきんがうなされて、お后は慌てて口を閉じます。
赤ずきんは、しばらく不機嫌そうに唸っていましたが、次第に落ち着いた寝息を立て出しました。
手鏡『危ない危ない。危うく起きてしまうところでしたね。お后さmオボロォッ!!」
魔法の手鏡はお后のパンチを受けました。
お后「このバカチンがっ!! お前のせいで計画が台無しになるところだったじゃないか!!」
手鏡『お后様も叫んでたじゃないですか!! あーそうですか、ワタシが悪いんですね! いーですよもうそれで!』
お后「物分りの良い奴は嫌いじゃないよ。……しかし、どうするかね。予備の注射針は有るには有るが」
手鏡『目ん玉に突き刺しちゃいます?』
お后「それだ!」
手鏡『ええええええ〜!? 自分で言っといてなんですが、それは幾ら何でもドン引きですよ〜!!』
お后「今更何を言ってるんだい。私は、猟師に白雪姫の暗殺を命じて、その心臓を塩茹でにして食べたお后様だよ。自分で言っちゃなんだが、悪辣非道な女なのさ!」
手鏡『未遂で終わりましたけどね。あの心臓も熊の心臓でしたし』
お后「でも確か、熊の心臓って身体に良かったと聞いたような」
手鏡『いやいや、健康とかそういう目的で食べたんじゃないでしょう、多分』
お后「まあ、それはさておき。早速、赤ずきんの目玉に……」
手鏡『いやいやいやいや!! 流石にそれはやめときましょうよ! 色々マズイですって!』
お后「むぅ、そうかい?」
魔法の手鏡の忠告を受け、お后はしぶしぶ注射針を懐に戻します。
そして、次に彼女が取り出したのはナイフでした。
お后「ならば、次はこいつで赤ずきんを仕留めよう。えいや! えいや!」
しかし、赤ずきんはビクともしません。
お后「…………駄目だね!!」
お后はナイフをポイっと投げ捨てます。
手鏡『どういう身体してるんですかこの娘』
お后「やっぱり毒殺だよ毒殺!! ……よく考えたら、注射をしなくても毒は使えるんだ」
お后は、今度は毒入りの瓶を取り出し、その中身を赤ずきんの口に流し込みました。
お后「これでぜーったい赤ずきんは死ぬ!」
手鏡『そうですね。……一応、本当に死ぬまでここで待機してましょうか』
お后「そうだね」
10分後。
赤ずきん「スゥ……スゥ……」
手鏡『…………メチャクチャ良い寝息立ててますね』
お后「あれ〜? 毒が弱かったのかなぁ〜??」
2人で考えた計画が、尽く失敗に終わり、お后はどうしたものかと持ってきた道具をテーブルに並べます。どれもこの日のために用意した、暗殺道具です。
お后「うーん後はもう、このドライアイスを口に放り込んで、二酸化炭素中毒でぶっ殺すくらいしか方法が無いね」
手鏡『童話であるまじき殺害方法ですね』
お后「一応、口に放り込んでおこう。ついでにテーブルに毒リンゴを添えて……」
お后は、用意していた毒リンゴをナイフで丁寧に剥きます。
あっという間にウサギの形のリンゴが8つ。お后は、それらのリンゴをお皿の上に並べました。
手鏡『……まあ、やれるだけの事はやりましたね。これで駄目なら、もう爆弾を使うしかありません』
お后「流石に、爆弾は騒ぎになるから使えないね」
手鏡『……帰りますか? なんか時間を無駄にした気もしますが』
お后「そうだね。なぁに、赤ずきんは少なくとも明日の夜までお城にいる。時間は限られているが、まだ次の機会はあるさ」
現在できることをやり終えた。
用はなくなったとばかりに、2人は部屋を出ようとします。
手鏡『あれ、赤ずきんちゃんの衣服乱れたままですけど、良いんですか?』
お后「腹いせにそのままにしておく。ついでにこの頭巾も頂いてしまうね」
お后は、赤ずきんの頭巾を手にして、ほくそ笑みます。
魔法の手鏡は、「またしょうもないイタズラを……」と思いつつも、それを言えばまたぞろ痛い目に合うのは分かりきっていたので、そのまま黙っていました。
そうしてお后と魔法の手鏡は、"布石"という名の"暗殺失敗"を終えて、その場を去っていくのでした。
*****
次の日の朝。
お后はカーテンを開け、眩しい朝日を浴びて、今日の英気を養います。
お后「さて、今夜は例のシンデレラとかいう阿呆が催した『天下一舞踏会』が開催される日だ。美と知性の欠片も無い脳筋共が集まる凡々の大会。私には全くもって興味の無い大会だが、何故か国王と王子は、この大会に大変注目しているようだからね。不本意だが私も国王と大会の観客席に座らなければならない。色々スピーチとか式とかもあるし凄く面倒だが、仕方ないから頑張るかね」
手鏡『…………お后様。朝っぱらから大きな独り言を呟かないでください。気が狂ったかと思われますよギャアアアアッッ!!』
魔法の手鏡はお后に朝日を浴びさせられました。
手鏡『グギャアアアア!! 死ぬううううううううう!!!! 太陽に浄化されるううううううううううううう〜っっ!!!!』
お后「……最近で一番良いダメージを喰らったね。どれだけ朝日が苦手なんだい」
手鏡『ワタシは低血圧なんですよギャアアアアアアアアッッ!!!!』
……小道具が低血圧になるのか。
お后は、呆れた顔で魔法の手鏡をポイっとベッドの上に投げ捨てます。
お后「さてと。昨夜は、赤ずきんに色々試したけど、実際の効果があったのかを検証したい。手鏡、赤ずきんの部屋を映すんだ」
手鏡『ゼェ……ゼェ………。ハ、ハイハイ、赤ずきんの部屋ですね。どうせ死んでないと思いますけど』
お后に命じられ、魔法の手鏡は赤ずきんの部屋を映します。
そこで最初に映されたのは、赤ずきんでした。あれから一度も目覚めていないのか、彼女は昨夜と全く変わらない状態でベッドで眠っています。衣服は乱れ、いつもの頭巾は被っていない格好。
次に映されたのは、テーブルの状態。そこには、昨夜用意したリンゴが"7つ"。均等に並んでいたはずのリンゴが、一部分だけ無くなっていました。
そして、絨毯には1人の男性が倒れています。
お后&手鏡『…………………………………ッ!?』
絶句。
今の2人の様子を一言で表すのなら、その言葉がまさにピッタリだったでしょう。
赤ずきんの部屋。その絨毯の上に倒れているのは、黒髪の男性でした。豪華な装飾が施された衣装。その格好に見劣りしない美貌を秘めたその男性は、目を見開いて舌をダランとさせている、美男子にそぐわない表情をしていました。
お后は、その男性に見覚えがありました。知っていて当然というばかりに。
そう、その男性の名は『王子』。このおとぎの国を治める、国王の後継者であり、お后の義理の息子にあたる人物です。
映像はさらに次の画面を映します。映されたのは、王子が倒れている側の上部分です。
王子の指先。そこには、血塗れの手で作られた字でこのように書かれていました。
『犯人はリンゴ』
手鏡『なんか凄いことになってるんですけどおおおおおおおおおおおおおおお!!?!』
お后「王子いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!?!」
暗躍する2人の悲鳴が重なり、おとぎの城を震わすほどの絶叫が響き渡りました。
次回、第6話「狩人とおとぎの町」。ご期待ください。
赤ずきんは今、お城で自分に用意された部屋にいました。今夜起きた衝撃の事実に打ち震えながら、彼女はベッドに入ります。
赤ずきん「さて、今日は疲れた! という訳で私は寝るっ! おやすみなさーい」
少年と別れ、お城に用意された自分の部屋へ戻るや否や、赤ずきんはベッドに入ると同時に眠りにつきます。
この間、わずか1.04秒。
クークーと寝息を立て、慣れないベッドで心地良く眠る赤ずきんは、肝が座っているというより無警戒さを感じさせます。
……そして、そんな彼女がいる部屋に、コソコソと侵入する人物がいました。
お后「ふふふ、よく眠っているようじゃないかい」
手鏡『楽勝ですねお后様。それじゃあ、気づかれる前に早いところ仕事を終わらせちゃいましょう』
赤ずきんの部屋に入ってきた人物。それは、以前におとぎの森にやってきて、リンゴ園の『黄金のリンゴ』を盗もうとしにきた、お后様と魔法の手鏡でした。
2人は、赤ずきんと白雪姫によって黄金のリンゴを盗むことに失敗してからというものの、2人に対して仕返しを企んでいたのです。
手鏡『いやしかし、まさか向こうから自分たちの根城に来るとは想像もしていませんでしたね! おかげで、ワタシとお后様で行った112回のミーティングの、大半が無駄になりましたが』
お后と魔法の手鏡は、如何に赤ずきんたちを懲らしめ、酷い目に合わせようかと計画を立てていたのですが、赤ずきんが森を出てお城にやって来てくれたので、練りに練ったそれらの計画が要らなくなったのです。
お后「まあ、いいじゃないか。ここで赤ずきんを仕留めてしまえば同じことさ」
そう言って、お后は懐から棒状の筒のようなものを取り出します。
それは、先端が鋭利な針で出来ている注射針でした。注射針の筒の中には、サラサラの紫色の液体が詰まっていて、見るからに人に害がありそうな色をしています。
お后「ふふふ、この注射針から放たれる猛毒は神経を狂わせ、地獄の苦しみを味わって死んでいく!」
手鏡『まさに外道っ! 人を人とも思わない悪鬼の企み! 流石はお后様グハォッ!!』
魔法の手鏡はお后の手刀を喰らいました。
お后「誰が外道で悪鬼だ! 私は、この世で一番美しいお后様だよ!?」
手鏡『あーはいはいそうですね。取り敢えずもう、赤ずきんちゃんをぶっ殺しちゃいましょうかね」
お后「そうだね、そうしよう」
お后は注射針を構え、赤ずきんの腕に突き刺そうとします。
お后「…………ちょっと待て。衣服が邪魔で、このままだと注射できないね」
手鏡『頭巾被ったまま眠ってるし、四六時中身につけてるんでしょうかね、彼女。注射が出来ないのなら、袖をまくれば良いのでは?』
お后「…………あれ? 何故だか袖が上手くまくれないね。頑丈で固い」
手鏡『マジですか? 何で作られてるんですか、その服』
仕方なく、お后は赤ずきんの頭巾と上着を脱がせます。何故かボタンを1つ1つ外すのに手間取りながらも、何とか赤ずきんを下着姿にすることが出来ました。
お后「ふぅ〜、これで注射が出来るさね。……さて、赤ずきん覚悟ぉ!!」
お后は待ちに待ったとばかりに注射針を構えます。赤ずきんの肌に針を突き立て、
ボキィィッ!!
注射針が根元から折れました。
お后&手鏡『何ぃぃぃ!!?!」
お后と魔法の手鏡は、思わず驚き、声を上げます。目の前に眠っている少女がいるのにも関わらず。
赤ずきん「う、う〜〜〜ん」
赤ずきんがうなされて、お后は慌てて口を閉じます。
赤ずきんは、しばらく不機嫌そうに唸っていましたが、次第に落ち着いた寝息を立て出しました。
手鏡『危ない危ない。危うく起きてしまうところでしたね。お后さmオボロォッ!!」
魔法の手鏡はお后のパンチを受けました。
お后「このバカチンがっ!! お前のせいで計画が台無しになるところだったじゃないか!!」
手鏡『お后様も叫んでたじゃないですか!! あーそうですか、ワタシが悪いんですね! いーですよもうそれで!』
お后「物分りの良い奴は嫌いじゃないよ。……しかし、どうするかね。予備の注射針は有るには有るが」
手鏡『目ん玉に突き刺しちゃいます?』
お后「それだ!」
手鏡『ええええええ〜!? 自分で言っといてなんですが、それは幾ら何でもドン引きですよ〜!!』
お后「今更何を言ってるんだい。私は、猟師に白雪姫の暗殺を命じて、その心臓を塩茹でにして食べたお后様だよ。自分で言っちゃなんだが、悪辣非道な女なのさ!」
手鏡『未遂で終わりましたけどね。あの心臓も熊の心臓でしたし』
お后「でも確か、熊の心臓って身体に良かったと聞いたような」
手鏡『いやいや、健康とかそういう目的で食べたんじゃないでしょう、多分』
お后「まあ、それはさておき。早速、赤ずきんの目玉に……」
手鏡『いやいやいやいや!! 流石にそれはやめときましょうよ! 色々マズイですって!』
お后「むぅ、そうかい?」
魔法の手鏡の忠告を受け、お后はしぶしぶ注射針を懐に戻します。
そして、次に彼女が取り出したのはナイフでした。
お后「ならば、次はこいつで赤ずきんを仕留めよう。えいや! えいや!」
しかし、赤ずきんはビクともしません。
お后「…………駄目だね!!」
お后はナイフをポイっと投げ捨てます。
手鏡『どういう身体してるんですかこの娘』
お后「やっぱり毒殺だよ毒殺!! ……よく考えたら、注射をしなくても毒は使えるんだ」
お后は、今度は毒入りの瓶を取り出し、その中身を赤ずきんの口に流し込みました。
お后「これでぜーったい赤ずきんは死ぬ!」
手鏡『そうですね。……一応、本当に死ぬまでここで待機してましょうか』
お后「そうだね」
10分後。
赤ずきん「スゥ……スゥ……」
手鏡『…………メチャクチャ良い寝息立ててますね』
お后「あれ〜? 毒が弱かったのかなぁ〜??」
2人で考えた計画が、尽く失敗に終わり、お后はどうしたものかと持ってきた道具をテーブルに並べます。どれもこの日のために用意した、暗殺道具です。
お后「うーん後はもう、このドライアイスを口に放り込んで、二酸化炭素中毒でぶっ殺すくらいしか方法が無いね」
手鏡『童話であるまじき殺害方法ですね』
お后「一応、口に放り込んでおこう。ついでにテーブルに毒リンゴを添えて……」
お后は、用意していた毒リンゴをナイフで丁寧に剥きます。
あっという間にウサギの形のリンゴが8つ。お后は、それらのリンゴをお皿の上に並べました。
手鏡『……まあ、やれるだけの事はやりましたね。これで駄目なら、もう爆弾を使うしかありません』
お后「流石に、爆弾は騒ぎになるから使えないね」
手鏡『……帰りますか? なんか時間を無駄にした気もしますが』
お后「そうだね。なぁに、赤ずきんは少なくとも明日の夜までお城にいる。時間は限られているが、まだ次の機会はあるさ」
現在できることをやり終えた。
用はなくなったとばかりに、2人は部屋を出ようとします。
手鏡『あれ、赤ずきんちゃんの衣服乱れたままですけど、良いんですか?』
お后「腹いせにそのままにしておく。ついでにこの頭巾も頂いてしまうね」
お后は、赤ずきんの頭巾を手にして、ほくそ笑みます。
魔法の手鏡は、「またしょうもないイタズラを……」と思いつつも、それを言えばまたぞろ痛い目に合うのは分かりきっていたので、そのまま黙っていました。
そうしてお后と魔法の手鏡は、"布石"という名の"暗殺失敗"を終えて、その場を去っていくのでした。
*****
次の日の朝。
お后はカーテンを開け、眩しい朝日を浴びて、今日の英気を養います。
お后「さて、今夜は例のシンデレラとかいう阿呆が催した『天下一舞踏会』が開催される日だ。美と知性の欠片も無い脳筋共が集まる凡々の大会。私には全くもって興味の無い大会だが、何故か国王と王子は、この大会に大変注目しているようだからね。不本意だが私も国王と大会の観客席に座らなければならない。色々スピーチとか式とかもあるし凄く面倒だが、仕方ないから頑張るかね」
手鏡『…………お后様。朝っぱらから大きな独り言を呟かないでください。気が狂ったかと思われますよギャアアアアッッ!!』
魔法の手鏡はお后に朝日を浴びさせられました。
手鏡『グギャアアアア!! 死ぬううううううううう!!!! 太陽に浄化されるううううううううううううう〜っっ!!!!』
お后「……最近で一番良いダメージを喰らったね。どれだけ朝日が苦手なんだい」
手鏡『ワタシは低血圧なんですよギャアアアアアアアアッッ!!!!』
……小道具が低血圧になるのか。
お后は、呆れた顔で魔法の手鏡をポイっとベッドの上に投げ捨てます。
お后「さてと。昨夜は、赤ずきんに色々試したけど、実際の効果があったのかを検証したい。手鏡、赤ずきんの部屋を映すんだ」
手鏡『ゼェ……ゼェ………。ハ、ハイハイ、赤ずきんの部屋ですね。どうせ死んでないと思いますけど』
お后に命じられ、魔法の手鏡は赤ずきんの部屋を映します。
そこで最初に映されたのは、赤ずきんでした。あれから一度も目覚めていないのか、彼女は昨夜と全く変わらない状態でベッドで眠っています。衣服は乱れ、いつもの頭巾は被っていない格好。
次に映されたのは、テーブルの状態。そこには、昨夜用意したリンゴが"7つ"。均等に並んでいたはずのリンゴが、一部分だけ無くなっていました。
そして、絨毯には1人の男性が倒れています。
お后&手鏡『…………………………………ッ!?』
絶句。
今の2人の様子を一言で表すのなら、その言葉がまさにピッタリだったでしょう。
赤ずきんの部屋。その絨毯の上に倒れているのは、黒髪の男性でした。豪華な装飾が施された衣装。その格好に見劣りしない美貌を秘めたその男性は、目を見開いて舌をダランとさせている、美男子にそぐわない表情をしていました。
お后は、その男性に見覚えがありました。知っていて当然というばかりに。
そう、その男性の名は『王子』。このおとぎの国を治める、国王の後継者であり、お后の義理の息子にあたる人物です。
映像はさらに次の画面を映します。映されたのは、王子が倒れている側の上部分です。
王子の指先。そこには、血塗れの手で作られた字でこのように書かれていました。
『犯人はリンゴ』
手鏡『なんか凄いことになってるんですけどおおおおおおおおおおおおおおお!!?!』
お后「王子いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!?!」
暗躍する2人の悲鳴が重なり、おとぎの城を震わすほどの絶叫が響き渡りました。
次回、第6話「狩人とおとぎの町」。ご期待ください。
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