ああ、赤ずきんちゃん。
第2話「赤ずきんちゃんのために」
さて、赤ずきんがおとぎの城に連れ去られたそんな時。新築のレンガの家に1人の少女がいました。
少女の名は、白雪姫。
白雪姫は、窓の外をぼぉっと眺めていました。森の夜空は、街の夜空より星々がよく見えて、その1つ1つが宝石のように輝いています。
もうすぐ日付をまたぐというのに、白雪姫はベッドに入っていません。友達の赤ずきんの帰りを、白雪姫は窓の外を見ながらじぃ〜っと待っているのです。
白雪姫「……赤ずきんさん、遅いです」
向こうで何かあったのだろうか?
やっぱりあの時、自分も一緒について行くべきだっただろうか?
そんな事をぽそぽそと考え込みながら、白雪姫はほぉっと胸の奥にため込んだ想いと一緒に、深い溜息を吐き出します。
その様子はまるで、恋の病にとり憑かれた乙女でした。重い想いを寄せている少女は、苦しくて、夜も眠れません。
何だか無性に堪らなくなった白雪姫は、咄嗟に窓辺から離れると、赤ずきんのベッドへ倒れこみました。よく洗濯された真っ白なシーツから、大好きな人の匂いがして、白雪姫の鼻をくすぐります。
白雪姫「赤ずきんさん。赤ずきんさん……」
白雪姫は頬を赤く染めて、赤ずきんのベッドに潜り、ただただ1人の少女の名前を呟きます。
そこにどんな意味があるのか。それは、白雪姫自身にも判然としない事でした。ただ、「その人の事を考えたい」、「その人の事だけを想っていたい」、という、本能的な気持ちが、白雪姫をそうさせているのです。
白雪姫が、赤ずきんのベッドに潜り込んで数分後。彼女は、赤ずきんの枕に、自分の顔を埋め出しました。
白雪姫「…………」
……しばらくの沈黙。白雪姫はピクリとも動かず、膠着します。
そして、白雪姫は何を思ったのか、スゥ〜っと空気を吸い込んで、赤ずきんの枕の匂いを嗅ぎ始めました。
白雪姫「ふにゃぁ〜〜〜〜〜〜〜〜っ」
と、白雪姫は、本当に幸せそうな笑みを浮かべて、赤ずきんの枕を抱きしめます。
その興奮も冷め切れぬまま、少女は枕を抱いた状態で、ベッドの上をゴロゴロと転がり、衝動の赴くままに気持ちを発散しました。
それは、普段の白雪姫なら決してしないような表情でした。
グレーテル「…………何をしている?」
白雪姫「ふにゃはぁっっ!!?!」
突然声を掛けられ、白雪姫はベッドの上から飛び跳ねました。
窓を見ると、いつの間にかそこに居たのか、外から白雪姫の方を見つめている、グレーテルの姿があったのです。
白雪姫「グ、グレーテル……さん?」
グレーテル「……赤ずきんの家で一人きり。どうしているかと気になって来てみれば、自分のベッドにも入らず他人のベッドの匂いを嗅いでたのか?」
白雪姫「ち、違うんですグレーテルさん!!」
一体何が違うのかわからないが、白雪姫は咄嗟に否定します。
何か言い訳ができないものかと、目を白黒させる白雪姫を眺めながら、グレーテルはハァッと溜息をついて首を振りました。
グレーテル「まあ、いいや。それよりも大変な事が起きた。夜遅いが、緊急事態だから外に出てくれないか?」
白雪姫「……? 何か、あったのですか?」
グレーテル「ああ。話は外に出てからにしよう。向こうの広間で待ってるから、支度が済んだら来てくれ」
そう言い残して、グレーテルはその場を去ります。
白雪姫は、イマイチ状況が飲み込めないながらも、ひょっとしたら、未だ戻ってこない赤ずきんの身に危険が迫っているかもしれない、という考えから広間へ向かうことにしました。寝巻きから服を着替えて、鍵を閉めて外へ出ます。
白雪姫が、広間の方へやってくると、そこにはオオカミ、ヘンゼル、グレーテル、狩人、そしてケルベロスの5人が集まっていました。
オオカミ「白雪姫、こんばんは。夜分遅くに済まないね」
白雪姫「オオカミさんに、それに皆さん。……一体、何があったんですか?」
ヘンゼル「それを今から話すんだ。正直、俺も大体のことしか聞いてないからよくわかんないし」
そうして、6人が集まると、それぞれはこれまであった出来事を皆に伝え、情報を総合していきます。
赤ずきんの家を爆破した犯人がわかったこと。その犯人と思しき相手がわかったので探しに向かったこと。そして、ケルベロスが謎の変身を遂げたことや、そのケルベロスを狩人が一撃で倒したこと。最後に、犯人であるジュウガミを捕らえようとした赤ずきんが、謎の人物に拐われてしまったことまで、情報を全員に伝え合いました。
白雪姫「そんな……赤ずきんさんが!?」
ヘンゼル「俺も、にわかには信じられないんだよなぁ。赤ずきんがあっさり拐われたのもそうだし、あの師匠が軽くあしらわれたっていうのも信じられない」
狩人「だが本当だ。あいつは俺の剣を全て防いで、赤ずきんを連れ去って行ったんだ。その時、俺の剣も盗られちまった」
狩人の腰に掛けられている鞘には、そこに収められるはずの剣がありませんでした。狩人が誘拐犯に剣を投げつけた際に、その件を奪われたまま、その人物はどこかへ去ってしまったのです。
狩人「という訳で、今の俺に剣はない。これから敵地に乗り込む上で不安はあるが、無い物ねだりしても仕方がないからな」
ヘンゼル「俺の剣を貸しましょうか? 俺が持つより、師匠が使った方が良いっすよ」
狩人「いらねえよ、お前が持っとけ。どうせそこらの剣じゃ、すぐに使い潰しちまう」
白雪姫「あの、赤ずきんさんは無事なんでしょうか?」
狩人「奴は、赤ずきんを返して欲しかったら明日の夜におとぎの城に来い、と言ってきた。交渉に使うってことは、少なくとも命はあるってことだ」
白雪姫「おとぎの城……」
狩人「そう。白雪姫の実家だ」
ヘンゼル「え!? おとぎの城って、白雪姫の実家なの!! お姫様かよ!」
グレーテル「今更気付いたのか……」
赤ずきんが拐われた。犯人の目的も、相手が何者かもわからない。
しかし、やるべきことは決まっています。それは、『赤ずきんを助け出す』こと。
狩人「あの野郎は、明日の夜に来いって言ってきたが、そんなもん律儀に守る必要はねえ! 今すぐ城へ乗り込んで、赤ずきんちゃんを取り返してやる!!」
ケルベロス「ぶぅ、ぶー!」
オオカミ「もちろん、ぼくも協力するよ。友達の危険を、見過ごすわけがないさ!」
グレーテル「あいつが捕まったのには、私たちにも少なからず原因があるからな。不本意だが、協力しよう」
ヘンゼル「別件もあるしな!」
白雪姫「わ、私もっ! 微力ながらお手伝いします!」
6人の目的は一致したようです。
オオカミ「しかし、赤ずきんちゃんのことに関して、ご両親達には伝えないのかい?」
狩人「あの爺さんに知られると事だ、大騒ぎになるぞ」
オオカミ「ああ、それは確かに……」
ヘンゼル「ていうか、まだ本当に誘拐されたとも限らないし、全貌がはっきりするまで、爺さん婆さんには、伝えなくても良いんじゃないか?」
オオカミ「なるほど。……そうだね、まずはそのおとぎの城へ向かおうか。今から出発すれば、夜明けまでには町に着くけど……」
グレーテル「いや、眠いよ」
狩人「じゃあお前らは森で待ってろ。俺は、今から森を出て、赤ずきんちゃんの元へ行く」
白雪姫「私も行きますっ! 赤ずきんさん危ないかもしれないのに、呑気に寝ていられません!」
オオカミ「ぼくは元々夜行性だし、夜中の活動は苦にならないよ」
ケルベロス「ぶぅ、ぶー!」
そういう訳で、双子はしばらく睡眠した後、町へ向かう旨を言い、家に帰って行きました。
狩人「よし、行くぞお前らっ! 目指すはおとぎの城だあ!!」
みんな『おぉーーーっ!!』
狩人「さあ、白雪姫。俺の背中に乗れっ! 足になってやる!!」
白雪姫「結構です」
みんなの想いは一つとなる。目指すは赤ずきんの救出です!
次回、第3話「赤ずきんちゃんのお城探検」。ご期待ください。
少女の名は、白雪姫。
白雪姫は、窓の外をぼぉっと眺めていました。森の夜空は、街の夜空より星々がよく見えて、その1つ1つが宝石のように輝いています。
もうすぐ日付をまたぐというのに、白雪姫はベッドに入っていません。友達の赤ずきんの帰りを、白雪姫は窓の外を見ながらじぃ〜っと待っているのです。
白雪姫「……赤ずきんさん、遅いです」
向こうで何かあったのだろうか?
やっぱりあの時、自分も一緒について行くべきだっただろうか?
そんな事をぽそぽそと考え込みながら、白雪姫はほぉっと胸の奥にため込んだ想いと一緒に、深い溜息を吐き出します。
その様子はまるで、恋の病にとり憑かれた乙女でした。重い想いを寄せている少女は、苦しくて、夜も眠れません。
何だか無性に堪らなくなった白雪姫は、咄嗟に窓辺から離れると、赤ずきんのベッドへ倒れこみました。よく洗濯された真っ白なシーツから、大好きな人の匂いがして、白雪姫の鼻をくすぐります。
白雪姫「赤ずきんさん。赤ずきんさん……」
白雪姫は頬を赤く染めて、赤ずきんのベッドに潜り、ただただ1人の少女の名前を呟きます。
そこにどんな意味があるのか。それは、白雪姫自身にも判然としない事でした。ただ、「その人の事を考えたい」、「その人の事だけを想っていたい」、という、本能的な気持ちが、白雪姫をそうさせているのです。
白雪姫が、赤ずきんのベッドに潜り込んで数分後。彼女は、赤ずきんの枕に、自分の顔を埋め出しました。
白雪姫「…………」
……しばらくの沈黙。白雪姫はピクリとも動かず、膠着します。
そして、白雪姫は何を思ったのか、スゥ〜っと空気を吸い込んで、赤ずきんの枕の匂いを嗅ぎ始めました。
白雪姫「ふにゃぁ〜〜〜〜〜〜〜〜っ」
と、白雪姫は、本当に幸せそうな笑みを浮かべて、赤ずきんの枕を抱きしめます。
その興奮も冷め切れぬまま、少女は枕を抱いた状態で、ベッドの上をゴロゴロと転がり、衝動の赴くままに気持ちを発散しました。
それは、普段の白雪姫なら決してしないような表情でした。
グレーテル「…………何をしている?」
白雪姫「ふにゃはぁっっ!!?!」
突然声を掛けられ、白雪姫はベッドの上から飛び跳ねました。
窓を見ると、いつの間にかそこに居たのか、外から白雪姫の方を見つめている、グレーテルの姿があったのです。
白雪姫「グ、グレーテル……さん?」
グレーテル「……赤ずきんの家で一人きり。どうしているかと気になって来てみれば、自分のベッドにも入らず他人のベッドの匂いを嗅いでたのか?」
白雪姫「ち、違うんですグレーテルさん!!」
一体何が違うのかわからないが、白雪姫は咄嗟に否定します。
何か言い訳ができないものかと、目を白黒させる白雪姫を眺めながら、グレーテルはハァッと溜息をついて首を振りました。
グレーテル「まあ、いいや。それよりも大変な事が起きた。夜遅いが、緊急事態だから外に出てくれないか?」
白雪姫「……? 何か、あったのですか?」
グレーテル「ああ。話は外に出てからにしよう。向こうの広間で待ってるから、支度が済んだら来てくれ」
そう言い残して、グレーテルはその場を去ります。
白雪姫は、イマイチ状況が飲み込めないながらも、ひょっとしたら、未だ戻ってこない赤ずきんの身に危険が迫っているかもしれない、という考えから広間へ向かうことにしました。寝巻きから服を着替えて、鍵を閉めて外へ出ます。
白雪姫が、広間の方へやってくると、そこにはオオカミ、ヘンゼル、グレーテル、狩人、そしてケルベロスの5人が集まっていました。
オオカミ「白雪姫、こんばんは。夜分遅くに済まないね」
白雪姫「オオカミさんに、それに皆さん。……一体、何があったんですか?」
ヘンゼル「それを今から話すんだ。正直、俺も大体のことしか聞いてないからよくわかんないし」
そうして、6人が集まると、それぞれはこれまであった出来事を皆に伝え、情報を総合していきます。
赤ずきんの家を爆破した犯人がわかったこと。その犯人と思しき相手がわかったので探しに向かったこと。そして、ケルベロスが謎の変身を遂げたことや、そのケルベロスを狩人が一撃で倒したこと。最後に、犯人であるジュウガミを捕らえようとした赤ずきんが、謎の人物に拐われてしまったことまで、情報を全員に伝え合いました。
白雪姫「そんな……赤ずきんさんが!?」
ヘンゼル「俺も、にわかには信じられないんだよなぁ。赤ずきんがあっさり拐われたのもそうだし、あの師匠が軽くあしらわれたっていうのも信じられない」
狩人「だが本当だ。あいつは俺の剣を全て防いで、赤ずきんを連れ去って行ったんだ。その時、俺の剣も盗られちまった」
狩人の腰に掛けられている鞘には、そこに収められるはずの剣がありませんでした。狩人が誘拐犯に剣を投げつけた際に、その件を奪われたまま、その人物はどこかへ去ってしまったのです。
狩人「という訳で、今の俺に剣はない。これから敵地に乗り込む上で不安はあるが、無い物ねだりしても仕方がないからな」
ヘンゼル「俺の剣を貸しましょうか? 俺が持つより、師匠が使った方が良いっすよ」
狩人「いらねえよ、お前が持っとけ。どうせそこらの剣じゃ、すぐに使い潰しちまう」
白雪姫「あの、赤ずきんさんは無事なんでしょうか?」
狩人「奴は、赤ずきんを返して欲しかったら明日の夜におとぎの城に来い、と言ってきた。交渉に使うってことは、少なくとも命はあるってことだ」
白雪姫「おとぎの城……」
狩人「そう。白雪姫の実家だ」
ヘンゼル「え!? おとぎの城って、白雪姫の実家なの!! お姫様かよ!」
グレーテル「今更気付いたのか……」
赤ずきんが拐われた。犯人の目的も、相手が何者かもわからない。
しかし、やるべきことは決まっています。それは、『赤ずきんを助け出す』こと。
狩人「あの野郎は、明日の夜に来いって言ってきたが、そんなもん律儀に守る必要はねえ! 今すぐ城へ乗り込んで、赤ずきんちゃんを取り返してやる!!」
ケルベロス「ぶぅ、ぶー!」
オオカミ「もちろん、ぼくも協力するよ。友達の危険を、見過ごすわけがないさ!」
グレーテル「あいつが捕まったのには、私たちにも少なからず原因があるからな。不本意だが、協力しよう」
ヘンゼル「別件もあるしな!」
白雪姫「わ、私もっ! 微力ながらお手伝いします!」
6人の目的は一致したようです。
オオカミ「しかし、赤ずきんちゃんのことに関して、ご両親達には伝えないのかい?」
狩人「あの爺さんに知られると事だ、大騒ぎになるぞ」
オオカミ「ああ、それは確かに……」
ヘンゼル「ていうか、まだ本当に誘拐されたとも限らないし、全貌がはっきりするまで、爺さん婆さんには、伝えなくても良いんじゃないか?」
オオカミ「なるほど。……そうだね、まずはそのおとぎの城へ向かおうか。今から出発すれば、夜明けまでには町に着くけど……」
グレーテル「いや、眠いよ」
狩人「じゃあお前らは森で待ってろ。俺は、今から森を出て、赤ずきんちゃんの元へ行く」
白雪姫「私も行きますっ! 赤ずきんさん危ないかもしれないのに、呑気に寝ていられません!」
オオカミ「ぼくは元々夜行性だし、夜中の活動は苦にならないよ」
ケルベロス「ぶぅ、ぶー!」
そういう訳で、双子はしばらく睡眠した後、町へ向かう旨を言い、家に帰って行きました。
狩人「よし、行くぞお前らっ! 目指すはおとぎの城だあ!!」
みんな『おぉーーーっ!!』
狩人「さあ、白雪姫。俺の背中に乗れっ! 足になってやる!!」
白雪姫「結構です」
みんなの想いは一つとなる。目指すは赤ずきんの救出です!
次回、第3話「赤ずきんちゃんのお城探検」。ご期待ください。
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