公爵令嬢は結婚したくない!
お家騒動(2)
「ユウティーシア様、それでは白亜邸を警備している者をすぐにお呼び致します」
「ええ、宜しくお願いできるかしら?」
私は、レイリトン子爵から受け取った手紙をテーブルの上に置くと、エリンさんが応接室から出ていったのを確認したあと溜息をつく。
「よかった。私が裁量が必要なものではなくて」
決定が必要な物だったら、困っていたところだった。
そもそも、レイリトン子爵や、アルドーラ公国内で反乱を起こした貴族たちが現在、スペンサー王子側に着いているのは己惚れるわけではないのだけれど、私と婚約状態なのが大きい。
婚約と言うのは見せかけだけど……。
でも、それだけリースノット王国が私の背後に居るというのはスペンサー王子側にいる貴族にとっては重要なのだろう。
「心が痛むわね」
騙しているのは正直、気が引けてしまうけれど――、いまはアルドーラ公国のスペンサー王子に面倒を見てもらっている所謂ニート状態なわけで、あまり恩は作りたくはないからきちんと対応はしておきたい。
そうしないと、いざという時にアルドーラ公国を去る時に心残りができそう。
「ユウティーシア様、お待たせしました」
エリンさんが連れてきたのは20代後半の騎士の方。
たしか、スペンサー王子と共にアルドーラ公国に来たときに、一緒に着いてこられた殿方だったはず。
「失礼します、ライドと申します。エリンから、ユウティーシア様がお呼びということでしたので――」
「そう。ライドさん。申し訳ないのだけれども、アルドーラ公国の王都に滞在されていらっしゃるスペンサー王子に、こちらの手紙を届けてもらえないかしら?」
「かしこまりました。2通でよろしいので?」
「――? そうね」
「出来れば、スペンサー様にお渡しするユウティーシア様からのお手紙も頂きたいのですが……、婚約者であらされるユウティーシア様から、何の手紙も届かないことはスペンサー様も気が気ではないと思うのです。出過ぎた意見でございますれば……」
そういえば、スペンサー王子が王都に行かれてからというもの、毎日のようにスペンサー王子から手紙が届けられていたっけ?
まったく読んでないけど……。
だって最初に読んだときは――、普通の、どんな業務をしていたかの内容だったのに、途中から王都を案内したいとか会いたいとか書いてあって、えっと? 私達、婚約者の振りをしているだけなのよね? と思わず、突っ込みを心の中で入れてしまったし。
だから、それ以降は手紙をまったく見ていない。
「そ、そうね。少しだけ待っていてね」
何て答えを返していいのか……。
こんなことなら、ある程度は手紙の内容に目を通しておくべきだったのかも知れない。
――仕方ない。
スペンサー王子へ。私も貴方に会えなくて寂しいです。早く、お会いしたいと思っております。
と、サラサラと手紙に書く。
内容的には、こんな感じに書いておけば変な風に疑われないでしょう。
あとは、書いた手紙を封書に入れる。
そして蜜蝋を垂らしたあと、スペンサー王子に頂いた鈴蘭の指輪で蝋封しておく。
「この手紙も持っていてくださいますか?」
「この命に変えましても!」
騎士の方は頭を下げると、そのまま部屋から出ていった。
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