公爵令嬢は結婚したくない!
雨音の日に(6)
案内された食堂は、とても広く中央に大きなテーブルがデン! と置かれていて置かれている椅子は2つだけ。
それも両端に置かれているために、テーブルを挟むと相手までの距離が10メートル以上ある。
テーブルの上には、多種多様な食物を栽培している国というだけあって色とりどりの野菜が盛られたサラダに、数種類のスープ、ローストビーフや鳥の丸焼きなどが置かれている。
「何人分の料理なのかしら?」
私は、食堂の扉を通り抜けたまま、テーブルに並んでいる料理を見ていると、「ユウティーシア様の好みが分からないために急遽、用意させて頂きました」と、リーンさんが頭を下げながら答えてきたけど……。
「そ、そうなの?」
「はい。それでは、こちらへ」
リーンさんが引いてくれた椅子に腰を下ろす。
それにしても、いくら私の好みが分からないとは言っても、目の前の料理は量からしたら何人前なの? と、思わず突っ込みを入れてしまうくらい数も量も多い。
内乱状態とは聞いていたけど、そこまで被害は無かったのかしら? と思いつつも食堂内を見渡していく。
壁には、アルドーラ公国のタスペリーが掛けられている。
さらにはいくつかの調度品が並べられているけど、決して下卑た感じは受けない。
「――すまない、待たせたか?」
室内を見渡していると、スペンサー王子が食堂に入ってくる。
彼が入ってくるとリーンさんは、彼にさりげなく近寄っていく。
「スペンサー様」
「リーン、後任の者に任せろと言ったはずだが?」
「――い、いえ! 私にお任せください」
「だが、苦手なのだろう?」
「そ、そんなこと! わ、私は……、貴方様の事を想って――」
「仕事に徹することが出来ないなら、それはプロとして失格ということだ。お前が、俺の事をどう思うが別に構わないが、私情を仕事に挟むのは看過できない」
「――ッ!?」
「いいから下がれ」
「……わ、私は!」
「何度も言わすな」
「――うっ」
二人の掛け合いから、何となく察してしまう。
リーンさんは――、彼女はスペンサー王子に間違いなく好意を寄せている。
それに対して、スペンサー王子の対応は些か問題があるのでは?
彼女、スペンサー王子の身を案じて何かを進言していたのだろう。
それを彼が却下して色々と問題になっていると。
そして――。
リーンさんは生粋のお嬢様ではない私のことを心良くは思っていない。
その事に対してスペンサー王子は、接客のプロなのだからきちんと仕事をしろと言っているのだろう。
それに、スペンサー王子の事を思ってと言っていたことからも分かるように、リースノット王国の公爵家の娘である私を警戒している。
「あの……」
スペンサー王子と、リーンさんの視線が私に向けられる。
「リーンさんには、私のお世話係をそのまま手伝ってもらえればと思います。駄目でしょうか?」
「いいのか?」
「はい! リーンさんも、これからよろしくお願い致しますね」
彼女に友好的な挨拶として握手のため手を差し出すと同時に、パン! と、言う音と共に伸ばした手をリーンさんに叩かれた。
「私は、貴女のような人に! 貴女の――」
その瞬間、彼女と目が合った。
その瞳には憎しみが宿っているように見えて――。
すぐにリーンさんは食堂から駆け足で出ていってしまった。
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