公爵令嬢は結婚したくない!
記憶と思いと(19)
私の言葉にコルクさんとレオナさんがそれぞれ頷いてくる。
それと同時に「ユウティーシア様」と、エルフさんが笑顔のまま私を見てくると唇を動かす。
「はい?」
「お二人が、私の言語を理解出来ないのは魔力を介さない言葉だからです。彼ら、メディデータは、基本的に世界に存在する精神波を利用して生命を維持しているために、その言語には魔力が宿っています。つまり、魔力を持っている者ならば誰でも言葉を通じ合わせることが可能ということです。――ですが、私の場合は人口製造された物のため、精神波つまり魔力を利用することが出来ません。その為に、神代時代に使われていた言語を彼らは理解することが出来ないのです」
「――えっと……。それって、つまり生物としての規格が合わないから情報の共有が難しいということですか?」
「その通りです」
なるほど……。
何となく言っている意味は理解出来たけど……。
「一つ聞いてもいいかしら?」
「何でしょうか?」
「メディデータと言うのは何なの?」
「medical device Trance の略になります。分かりやすく言うのでしたら、医療端末装置とでも言うのですが、彼らの場合には惑星規模の浄化端末装置となっています」
「惑星規模? 何を浄化しているの?」
「精神波、つまり魔力の浄化になります」
「魔力の浄化? どういうことなの?」
まったく話が見えない。
それに惑星規模の魔力浄化端末装置って……。
まるで魔力が人に害があるような言い方に思えて――。
「詳しい話は、主様からということですので着いてきてください」
「わかったわ」
私が了承したのに納得すると彼女は出てきた通路を戻っていく。
「ユウティーシア様。一体、どういう話をしていたのですか?」
「レオナさん。まずは、彼女の後を追いましょう。どうやら私と話をしたい人が居るみたいだから」
「人ですか? それは神代文明人ですか?」
「分からないわ」
私は頭を左右に振りながら答える。
正直、エルフさんが言っている言葉の半分くらいは理解が出来ない内容ではあったけれど……。
一つだけ彼女と話をしていて思ったことがあった。
それは、どうして私だけがエルフさんの話を理解することが出来たのかということで――。
――だって、少なくとも私の両親は、この世界の人間だったわけで……。
それなのに、私が彼女の言葉を理解できるのはどうしてなのか。
「ユウティーシア、これは罠じゃないのか?」
「罠ではないと思います」
「どうして、そう言い切れるんだ?」
「どうしてと言われましても……」
だって、エルフさんが私に嘘をつく理由が見当たらないから。
そもそも、私のフルネームを初対面の人が知っている時点で――、あっ!?
……そういえば。
どうして、彼女は初対面の私のことを、私がここに来ることを待っていたと言ったのか……。
まるで、私がここに来ることを知っていたかのような素振りだった。
「それに、俺には君が話していた言葉も分からなかった。レオナも、そうだったはずだ」
「ええ。お二人の話がまったく理解できませんでした」
「――え? それって私の話している言葉が分からなかったということですか?」
「はい」
レオナさんはコルクさんの方を見て神妙な表情で頷いたあと、困った表情で私を見てくる。
その様子から本当の事だと言うのが分かってしまう。
つまり、二人にとっては私とエルフさんが話していた言葉の意味が理解出来ないから、余計に不信感を持ってしまっているのかもしれない。
それなら二人が、どうしたらいいのか判断に迷っている意味も説明がつくし、私に対する反応も過剰である理由が分かる。
「分かりました。それでは二人は、ここで待っていてください。私が一人で行ってきますので」
私は二人を置いてエルフさんの後を追う。
すると数秒の間隔を置いて後ろから二人が着いてくるのが気配から分かった。
しばらく通路を歩くと、少し広めのフロアにエルフさんが待っていて「こちらが下層に繋がるエレベーターになります。お乗りください」と話しかけてくる。
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