公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

幕間 公爵家夫妻の思い(1)




 シェリーは仮眠室を出ると扉に耳を当てていた。

「どうやら寝たようだね」
「シェリーさん」
「ブレンダ、どうかしたのかい?」
「いえ、セフィーリアさんが珍しい子をシェリーさんが連れて来たと言っていたので」

 ブレンダは赤髪の癖のある髪の毛を伸ばした女性であった。
 黒い地肌は、海洋国家ルグニカでは珍しくセイレーン連邦に所属している人間の特徴であり物珍しさから商人達からの需要は高い。
 その反面、彼女は冷めた目で周囲を伺う帰来があった。

「まあね」
「また意味ありげな子ですか?」
「意味ありげか……」

 ブレンダの言葉に、シェリーは一人呟きながらも近くに椅子に座りながら白い陶器に度数の高いお酒を注ぐと口を付けながら口を開く。

「そうだね。一言で言うなら危うい子ってところだね」
「危ういですか?」

 シェリーの表現は抽象的であったが、逆にその曖昧とした表現がブレンダの興味を引く。

「そう。まぁ、そのうち情報が伝わると思うから言っておくけどね」

 そう前置きをしたシェリーはお酒が入っている器をテーブルの上に置く。

「今、仮眠室で寝ているのはユウティーシアだよ」
「ユウティーシア? それって……。いま宿泊しているシュトロハイム公爵家のご令嬢では? 一度、総督府スメラギを治めている貴族の息女と戦っている場面を見ましたけど……、危うい感じは……」
「そうだね。まぁ、人間は色々あるってことだろうね」
「色々ですか……」
「そう。色々だね。アンタが、初めてミトンの町に来て私と町で出会った時と同じ表情をしていたよ」
「同じですか? こんな辺境の地にまで迎えに来てくれる両親が居るのに公爵家令嬢は何が不満なのでしょうか?」
「さてね――。ただ、身分が高い家柄に生まれたとは言っても必ずしもそれが幸せには繋がる事はないってことだろうね」
「……そうですか」

 シェリーの言葉に、ブレンダは溜息交じりに答える。
 そんな彼女の様子を見ていたシェリーは立ち上がると娼館の通路に繋がる扉を開けて。

「とにかく全員に伝えておきな。仮眠室でユウティーシアが寝ているということは伏せておくようにってね」
「わかりました」

 頭を下げたブレンダにシェリーは満足そうにうなずくと娼館の前でシュトロハイム公爵家夫妻と話が終わるのを待っていたエイルに「ユウティーシアが、娼館で泊まる事をレイルに伝えるように」と、伝えたあとにシュトロハイム公爵家夫妻が泊まっている部屋の扉をノックした。

 ――コンコン

「娼館ギルドの長シェリーです。少しお話がありまして伺いました」
「――入ってくれ」

 シェリーが扉を開けて中に入る。
 室内は、身分のある人間が泊まることを想定して作られていた。

「お初にお目にかかります。娼館ギルドの長をしておりますシェリーと言います。この度は、リースノット王国の大貴族の方に泊まって頂き――」
「前向上はいい。何か用事があって来たのだろう?」

 ――シュトロハイム公爵家当主。バルザック・フォン・シュトロハイムの言葉に、シェリーは頭を下げながら口を開く。

「実は……、商工会議の立役者であるユウティーシア殿が来られました」
「娘が!?」

 話の途中で割って入ってきたのは、エレンシア・フォン・シュトロハイム公爵夫人であり、ユウティーシアの母親であった。
 彼女は、娘ユウティーシアとの話し合いをどうすればいいのかバルザックと話しているところであり……、話の途中で来たのがシェリーで。

「はい。ただ……、ユウティーシア殿は、夫妻が寝ていると聞いて戻られました」
「そう……なのね……」

 顔を伏せたエレンシアの表情をシェリーは入念に観察するが、本当にユウティーシアを思っているようにしか彼女には感じとれなかった。




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