公爵令嬢は結婚したくない!
否定されし存在(10)
「もう、起きられたのですね?」
「君がつけた兵士が居たが、私を外に出そうとしない理由がようやく分かったよ。ユウティーシア嬢、君は――」
眉間に皺を寄せたままカベル海将が私を見てくる。
これは、完全に私を容疑者認定している表情。
「――君は、私の息子が総督府を破壊した惨状を見せたく無かったから、宿から私が外に出ないように兵士に見晴らせていたんだな?」
「――へ?」
「――ん? 違うのか?」
どうやら、カベル海将は勘違いをしているみたい。
「違わないです! そう、建物がいきなり爆発したのです!」
「いきなり?」
「はい! 聞いたところ、古い建物ということでしたので、もしかしたら炭鉱が爆発して崩落するみたいに、総督府の建物も爆発したかも知れません! 私、そんな資料を祖国で見たことあります!」
カベル海将は、私の適当で必死な出任せに顎に手を当てながら「なるほど――」と、頷いていた。
――さすがは、文明レベルが低い異世界、騙すのは簡単です。
「それで、どうして炭鉱と同じで爆発するんだ?」
「――!」
騙すのは簡単じゃなかった!
まさか突っ込みを入れてくるとは――。
「……」
「どうしたんだ?」
「――い、いえ! あ、あれです! 地下にお風呂がありますよね? お風呂にして使うときに、魔法などを使うとガスが溜まったり、そういうことが、きっとあったりなかったりするわけで――」
「ふむ……、どうして君は、そんなに総督府の建物内についてそんなに詳しいのかな?」
「はうあ!?」
「まさか――」
「な、なんでしょうか?」
私は、ゴクリと唾を飲み込む。
やばいです。
普段の冷静な私ならやらないミスを何度もやってしまいました。
「まさかお風呂を使おうとしたら間違えて建物を破壊してしまったとか、そういうことはないよな? ハハハハハッ」
「そんな馬鹿なことするわけじゃないですか! アハハハッ」
カベル海将が笑っていたので私も釣られて笑う。
ただ、彼――カベル海将の目は笑っていない。
「本当に、君は関与していないんだな?」
「ううっ……」
私は地面の上に正座する。
「お、おい!」
人通りのある大通りで正座した私に、カベル海将は慌てる。
それと同時に、多くの人が視線を向けてくる。中には「あんな可愛い子を正座させているなんて!」という声も聞こえてくる。
ニヤリ……、これはチャンスかも知れない。私は、小さくカベル海将だけに聞こえる声量で「ごめんなさい、私が破壊しました」と、頭を地面にこすり付けるように告白した。
もちろん、腰まで黒髪を伸ばしているので地面に髪の毛が触れて汚れる。
でも、今はそれよりも言質を取ることのほうが重要。
そして、声量を上げて周りに聞こえるように「許してください! 奴隷にするのだけは!」と叫ぶと、周りから「まさか、カベル海将が、あんな女の子を?」とか「嘘!」とか「やっぱりカベル海将も美少女相手だと!」という声が聞こえてくる。
ふふ――。
どうやら、民衆を味方につけることは出来たみたい。
グランカスさんとの戦いで分かったけど、私は、容姿とかはかなり良い方だし、黙っていれば深窓の令嬢って感じだから殊勝な態度を見せれば、民衆はすぐに私の味方についてくれる。
「ふふふっ――。ご主人様! 許してください!」
「わ、わかった! 許す、許すから!」
慌ててカベル海将が、私に手を差し伸べてくる。これ以上、私が土下座をしていたら体裁が悪いと理解しているのだろう。
――ただ、ここで手を取るわけにはいかない。
私は、小声で「それでは、総督府が破壊したことも? 許していただけますか? それと、お願いを一つ聞いていただけますか?」と語りかけた。
「……お前――」
――ふふっ。
周りの民衆は全て、私の味方で、周囲からは「あのカベル様が、黒髪の美少女を奴隷にしようとしているぞ! やはり王族だよな」と、いう危険な声まで聞こえてくる。
「……わ、わかった。分かったから立ってくれ」
「本当ですか?」
「ああ――」
「本当の本当ですか?」
「本当の本当だ」
「それは良かったです」
私は土下座から立ち上がると、周りの人々に「皆様のおかげで難を逃れることが出来ました。お力添えありがとうございます」と頭を下げる。
それだけで歓声が聞こえてくるけど、女性からは小言のような物が聞こえてくるけど、そんなのは知ったことではない。
同姓に、どう思われようが別に問題ない。
――あれ? 何だか思考が少しおかしいような……。
私は首を傾げる。
深く考えようとしたところで、「それでお願いというのはなんだ?」という話が聞こえてきた。
「ここでは、あれですので場所を移動されませんか?」
私は、カベル海将に近づくと彼の腕を取ってキッカさんの酒場へと歩きだした。
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