公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

迷宮区への足がかり(7)

 今、私はキッカさんが呼んだ建築商人の方と話をしていた。
 もちろん、修理費を値切るではなくて、適正価格を調べるためである。

「ずいぶんと壊したものだな! ドラゴンでも突っ込んできたのか?」

 豪勢に笑いながら、私に語りかけてくるのは建築を担当しているドワーフのブルノさん。

「ドラゴンなんているのですか?」
「いや、見たことないな……エルノの近くにダンジョンがあるだろう? あのダンジョンの最深部にはドラゴンがいるらしいぞ?」
「そうですか……、私はてっきり、ドラゴンがそこら中に生息していると思いました」
「そんなわけないだろう? 御馬鹿だな――」
「あはははー……」
「ユウティーシアさん! やめてください!」

 私は、笑いながら拳を握り締めてドワーフのブルノさんに近づこうとしたら、後ろからメリッサさんに羽交い絞めにされた。

「離して! あいつ自分から話題振ってきて! 私を馬鹿に! とりあえず一発! 一発で良いから!」
「そんなことよりも、建物を直してもらうほうが先決なのではないですか?」
「……ううっ……」

 私とメリッサさんの会話を聞いていたドワーフの親父(推定40歳後半)が私のことをニヤニヤと馬鹿にした素振りで見てきている。
 離して! こいつ殺せない! という言葉を地で言えるくらいのむかつき度だけど、今は、とりあえず命をとらずにおいてやる。

「それで、いくらくらい掛かりそうですか?」
「そうだな……、材料などの調達を含めると一週間くらいと言ったところか? 修理費は金貨70枚くらいだな」

……修理費は問題ない。問題は……酒場の営業が一週間もストップしてしまうことにある。一週間もストップしたら、その間の営業損失を補填しないといけない。
 実に面倒この上ないのだ。

「はぁー……。キッカさん、お店の壁が直るまで一週間くらいかかるらしいんですけど――」
「何を言っておるのだ? 材料が届くのに一週間、修理が終わるまで3日。合計10日かかるわい!」
「――なん……だと……?」

 思わず、素で答えてしまった。
 ミントの町で病が進行している以上、無駄に時間を浪費する余裕など私にはないから!

「10日ね……。一日の稼ぎが金貨11枚くらいだから……。10日で金貨100枚くらいかしら?」
 キッカさんの言葉を聞いて、私は箱の中に入っている硬貨を数えていく。
 合計180枚あれば! 問題ないはずだけど……。

「――た、足りない……」

 300人近くの兵士の財布からお金をもらったというのに、全然足りない。
 むしろ全額合わせて金貨50枚にも満たない。

「アクアリード、いますごくお得なクエストがあるのだが!」
「何のことでしょうか?」
「いや、ほら――。エルノの町近郊のダンジョンだが、周囲に魔物の出現が増えているんだ。
いるんだよな」

 アクアリードさんに、冒険者ギルドマスターのグランカスさんは話かけてはいるけど、何度も私のほうをチラッ! チラッ! と見てきている。

「いやー。報酬がな! 金貨180枚なんだが、誰かやってくれないかな?」

私のほうへ流し目を送りながら、グランカスさんがアクアリードさんに語りかけている。
 どう見ても、ダンジョン探索の仕事を私にやらせたいらしい。

 だけど――。
 私には、そんなことをしている余裕なんて……。

「そういえばマスター。カベル海将は、どこにいるんだ?」

 メリッサさんが、グランカスさんに話かける。
 すると――。

「ああ、カーネルの奴にエルノ近郊のダンジョンにつれて行かれた以降、姿を見た者はいないらしい」
「――!?」

 それって! かなり重要な案件だよね?
 こんな酒場で説明していい内容とは思えないんだけど――。



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