公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

出張手当はつきますか?(12)

「思っていたのと違う光景ですね」

 私は、前方に見える衛星都市エルノの様子を見ながら口にした。
 海洋国家ルグニカは、元は海賊が7人の海賊が建国した国家である。
 海洋国家ルグニカの領土は均等に6つに分けられており王位簒奪レースに参加した優勝以外の6人が持ちまわりで、それぞれの分割した領土を統治する。
 そして、その領土を管理するのが、総督府が存在する町となり、全ての総督府の上に立つのが海上都市ルグニカに住まう優勝者である国王。

 ただ、それはほぼ持ち回りとなっていて、王は順番に変わる交代制となっているのが、海洋国家ルグニカの王位簒奪レースの実情。

 そのため、出来レースとも言われておりお祭り扱いされている。
 私は、衛星都市エルノを見ながら眉を潜めた。

 ずいぶんと多くの兵士が城門を守っているのが見えるからだ。
 少なくとも私が代表者を勤めているミトンの町の10倍は、兵士がいる。

「はい。ずいぶんと物々しいですね」

 私の言葉に答えてきたのはビキニアーマーに着替えた冒険者であるメリッサさん。

「私達が護衛のためにエルノを出たときよりも町から出る煙の数も少ないです」
「なるほど……」

 私は、二人の会話を聞きながら、総督府が存在する衛星都市エルノで何が起きているのか考えていく。
 一つ考えられるのは兵士が多いということ。
 入り口に人が多い場合、大抵は検閲が強化されてる場合が多い。
 無理矢理押し入るかも知れない相手への対処の可能性も捨てがたいし、内部から逃げ出す住人の対応も考えられる。
 極めつけは、昼時だというのに煙の数が少ないことだ。
 この世界には電気で調理するような機械は存在していないし、リースノット王国で販売されているような白色魔宝石の粉末を使った調理器具なども高額で、まだ庶民の手には届かないと思うし、何より海洋国家ルグニカには、そんなに販売していないはず。

 全てを考察し、色々な問題点を考えればおのずの答えは出てくる。
 それは……。

「たぶん、戒厳令が敷かれている可能性がありますね」
「アクアでも分かったか?」
「失礼ですね! 一目見ればわかりますよ!」

 それは――。

「さて、どうすれば……」
「夜まで待つのがいいですね。町の様子がどうなっているか分かりませんし――」

 それは……。

「やっと町だぜー、マジ、もう無理。もう馬車で引っ張られるのはいやだー! いっそ殺してくれー ぐふっ!」

 私は山賊の縄を持ち地面に軽く叩きつける。

「お、おかしらー!!」

 地面の上でリバウンドした山賊の頭を見ながらヒールし、メリッサさんとアクアリードさんのほうへと向き直る。
 決して、私の予測や今後、起こそうとしていたプランを先に言われたから苛立って山賊に八つ当たりしたわけではない。

「ユウティーシア様、どうかしたのですか?」
「どうもしていません。それより、アクアリードさん!」
「は、はい!? なんでしょうか?」
「私は思うのです。民に対してあのような兵士を使って威嚇行動をするような輩はどうなのかなと!」
「えっと、戒厳令が敷かれている可能性があると言うだけで、そうなったと決まったわけでは……」

 私は、アクアリードさんの言葉を否定的するかのように頭を振る。

「たとえ、万分の1の確立であろうと! もしかしら、弾圧を受けてる可能もゼロではないのです! そのような状況で! 夜を待っていくなんて怪しさ満点です! ここは――」

 私は帆馬車の手綱を操り、帆馬車を走らせる。
 もちろん、衛星都市エルノに向かって――。
 慌てて、メリッサさんもアクアリードさんも帆馬車に乗ってくる。

「いてえええええー」
「おかしららああああああ、俺もいてえええええ」

 後ろから次々と声が上がってくるけど、きっと衛星都市エルノまでは耐えられるはず。
 もしかしたら、ううん。もしかしなくても山賊を見せればフリーパスで通してもらえるかも知れない。
 私の計画は完璧なのです。



 上手く手綱を操作していると衛星都市エルノの城門が見えてきた。
 もちろん兵士達の顔も見えてくる範囲。

「そこの馬車止まれ!」

 私は、颯爽と馬車を停める。
 すると、いくつかの塊が馬車に当たってきた気がするけど、気のせいにしておく。

「お前達は何者だ!? 身分を示してもらおうか? それと後ろに縄で縛られている男共はなんだ?」

 私は説明のためにフリルのついた緑色のワンピースのスカート裾を押さえながら、帆馬車の従者席から降りる。

「私の名前はティア。しがない商いをする越後屋の令嬢です」

 私の言葉に、門を守っていた兵士だけではなくアクアリードさんやメリッサさんまでもが「は?」という声を上げていた。
 どうやら。私の言葉は時代を先取りしすぎたみたいです。
 おかげで、40人近い兵士が集まってくると、私を中心に円を作って槍を構えてきた。



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