公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

商工会議を設立しましょう!(2)レイルside

 ユウティーシアに宿屋から追い出されたレイルを含んだ兵士達は、宿屋から離れると立ち止まった後に、総督府スメラギから派兵された騎士団だけが使う事を許された建物の中に入っていく。
 そこには木製のテーブルが置かれており近辺の地形が描かれた地図に、手紙が何通が置かれている。

 10数脚ある木製の椅子に兵士達が座っていくと各々が溜息をついた後、一人の兵士がレイルの方を見て口を開く。

「レイル隊長、あの……ユウティーシア公爵令嬢なんですが……」

 そろそろ、ユウティーシア公爵令嬢について聞かれると思っていた私は溜息をつきながら目の前の兵士を見る。
 質問をしてきた兵士はトーマスと言い、まだ18歳の若者だ。
 海洋国家ルグニカは、総督府が殆どの収益を奪っていくために経済状態は良くない。
 そのために殆ど仕事がないのだ。
 その中でも比較的に安易に仕事に就けるのが死亡率が極めて高い兵士という職業。
 世界4大国の一つである帝政国と紛争中と言う事もあり、兵士はいくらいても足りない。
 そんな兵士にトーマスが就いたのは3か月前。

 門の防衛をしていた為、ユウティーシアとは直接的に戦闘はしていない。
 その事から、トーマスはユウティーシアの外見を見た瞬間に惚れており、ユウティーシアと戦った兵士達から、どれだけユウティーシアが非常識なのかを聞いても納得できずにいた。
 だからこそ、トーマスとしては自身の好みの女性がひどい物言いをするのに違和感を抱いていた。

「なんだ? トーマス」

 兵士になってから10年を経過しているレイルの言葉を聞いたトーマスは一瞬だけ自分が思った事を言っていいのか躊躇してしまう。
 ただ、思った事は聞かずにおれず――。

「いえ……どうして、ユウティーシア公爵令嬢は悪ぶるっているのかなと思いまして……わざわざ命令という言葉を使わずとも一度、力を示しているのですから問題ないのでは? と思うのですが……」

 トーマスの言葉にレイルは瞼を一度閉じてから溜息を洩らす。

「決まっている。おそらく彼女は、我々が彼女に協力する事によって、総督府の追及の手が我々に及ばないように考えているのだろう」
「はぁ? そんな事をしても意味ないと思うのですが――」

 トーマスの言葉にレイルは頷く。
 海洋国家ルグニカにおいて総督府直属の騎士でない限り、もともと海賊が建てた国という事もあり負けた時の厳罰は厳しく設定されている。
 大抵は奴隷になり帝政国との紛争で消耗される。

 そして、それはユウティーシア公爵令嬢と戦って負けた時点で、それはほぼ確定している。

「そうだな……まぁ、本人がそれで納得してるならそれでいいんじゃないのか?」
「はぁ……」
「あの娘は、きっと我々が負けた時点で我々の立場が決まったと知ったら気に病むからな。それにしても――お前らも、ずいぶんと演技が上手くなったな」

 レイルの言葉に全員が苦笑する。
 全員の苦笑した表情を見てレイルも納得する。
 あの娘――ユウティーシア公爵令嬢は、激昂すれば人が変わったように戦うようになるが普段は、とても穏やかに誰にでも接している。
 本当に力で町を支配するなら、暴虐不尽に振舞っていることだろう。
 それなのに、彼女は平民と同じような物を食して生活をしている。

 そんな生活をしていたら、力を示した意味が無いと言うのに彼女の生来の性格がそうさせるのか本当にチグハグもいいところだ。
 総督府の第7王女エメラス・ド・ルグニカと比べると良く分かる。
 今日の彼女の経済や市場と言った話は半分も理解できなかったが、彼女は治安などを良く考えている。

 つまり搾取するだけの海洋国家ルグニカの貴族とは違って、彼女は民の目線で町の経営を見ており自分の事よりも他人を優先にしている。

「とりあえずは、しばらくユウティーシア公爵令嬢の演技に合わせるとしよう。それと妖精がいる場所は、古から繁栄が齎されると言われているからな。手を出さないように町の人間にも言っておく事を忘れるな。それと、総督府の息のかかってない商人を集めるとしよう。それでは、まずはゴードン商会のルルカに――」


 ――3時間後。

「さて……」と、こんなところか。私は一人呟きながらテーブルの上に置かれている手紙を見る。

「それにしても……リースノット王家か」

 私は先日、転移魔法で姿を現した男の手紙を手に取る。
 手紙には、グルガード・ド・リースノットという名前が記載されており、ユウティーシア・フォン・シュトロハイム公爵令嬢を全面的にバックアップして欲しいと言う旨が書かれている。
 将来的には、ミトンの町をリースノット王国領に編入する可能性もあり、その際にはリースノット王国の騎士として徴用する事も書かれている。

「しかし……話に聞いていた転移魔法。その唯一の使い手である大国の王が心くばる公爵令嬢か……しかし、貴族のわりには平民の生活に順応しすぎてる気がするんだよな。それに世界の守護者と言われている妖精にあそこまで好かれるとは……彼女は、一体――」


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