公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

偽りの婚約者?

「いえ、困ります!」

 私は、エモルトにはっきりと断りを入れる。
 だって、他の女性との婚約を一方的に破棄してプロポーズしてくるような人とか誠実とは思えないし、私としては村中の同性を敵に回すのは極力避けたいし、もっと言えば私はアレクの家に居候させてもらっている身であって、エモルト一人を敵に回すのと村人の女性を敵に回すのはどっちがいいのかと言えば、エモルト一人を敵に回した方が遥かに楽。
 だって、婚約を受けないくらいなら、プライドを傷つけるかも知れないけど……そこまで問題にならないと思うけど。
 さすがに女性陣を敵に回すのはリスクが高すぎるし、エモルトは端正な顔立ちをしていて女性受けはすると思うけど、私好みじゃないから。
 だからハイリスクを取ってまでプロポーズを受けるメリットがない。

「ど、どうしてだ? 私がアレクに劣ると言うのか? 私は村長の息子で今後、村の代表になるんだぞ? 私と結婚すれば……」
「私はアレクと婚約していますので、ごめんなさい! 無理です!」

 私の言葉に、アレクを含んだ村の皆から「ええええー」と言う声が聞こえてくる。
 ちょっと私の話に合わせて貰いたいものですけど、困った物ですね。

「ティア! 俺は……」
「はい、私の事が好きなんですよね? 以前、プロポーズしてくれましたよね?」
「え、えっと……」

 アレクが私の言葉に迷ってしまっている。
 まぁ、突然の事に戸惑いを覚えてしまうのは仕方無いこと。
 私は10キログラムはあるお魚さんを、元の場所に戻すと小走りでアレクの傍によりアレクの右手を手に取ると左手を絡ませる。

「ということで! エモルトさんのプロポーズは受けられません。ごめんなさい」
「まっ……!?」

 私はアレクの右手を抓る事で言葉を封じる。
 そしてアレクを見上げながら左まぶたを何度か瞬かせた。
 そこでようやく察してくれたのか――。

「悪いな、エモルト。ティアは俺と結婚するんだ、だから他を当たるんだな!」
「――な……なんだと!?」

 エモルトが、アレクの言葉を聞いて唖然としている。
 そして未婚の女性陣は、一体何が? という視線を私に送られてきている。
 だいたい、私はエモルトと話したことなんて殆どないし、アレクの家で家事をして内職をして海岸線を見ていただけ。
 それを、エイリカの村にきてから繰り返していたから、男性達とは殆ど関わり合いはないし、アレクが私に手を焼く事もあり未婚の女性達とも関わりは殆どない。

「何をしている?」

 エイリカ村広場でエモルトがどうしたらいいか迷っていると、村長であるフレーリさんが、広場に現れて大きめの声で私達全員に話しかけてきた。
 私は、すかさず村長さんに――。

「フレーリ村長様! エモルトさんが私に婚約を迫って来られたのです。婚約者であるユルメさんがいるのに……」

 そこで私は、自分の顔を両手で隠す。
 すると……。

「お前は、何を勝手に考えておるんじゃ! この大馬鹿ものが! 婚約をお前の一存で破棄出来る訳がないだろうが! 相手の家にもワシの顔にも泥を塗るつもりか!」
「いや……俺は、ティアが好きなんだよ」
「ほう?」

 フレーリ―村長が私を見てくる。
 私は、アレクの右腕に自分の体を密着させながら。

「いいえ、私の婚約者はアレクですので! そのお話は受けられません!」

 受けたら私が村八分になってしまう。
 そんな話は受けられないし、アレクなら後で説明すれば納得してくれるはず。

「ふむ……ティアさんはそのように言っているが、エモルト……お前はまったく! 将来は村を背負って立つのだから、自分の気持ちだけを押し付けるような真似はよせとあれほど……」

 フレーリ―村長は、手に持っていた杖でエモルトを何度も叩いた後に、ユルメさんに近づいていく。

「すまない。エモルトにはきちんと言い聞かせておく。どうか、このバカ息子をよろしく頼む」

 村長がユルメさんに頭を下げて謝罪をしている。
 そして、村長に叩かれたエモルトはと言うと私の方を見て眉元を顰めていた。

「いいえ、私のほうこそ……フレーリ―村長様、よろしくお願いします」

 どうやらユルメさんは、フレーリ―村長さんからの謝罪を受け入れたよう。
 そして何を思ったのかユルメさんは私の方へ近づいてきてから頭を下げてきた。

「ごめんなさいね、エモルトがティアさんの話ばかりしていたから……そういう関係だと誤解してしまって……」

 なるほど……。
 未婚の女性が私の事を敵意ある眼差しで見てきたのは、婚約者がいる男性を私が籠絡したと思われていたからなのか。
 まったく良い迷惑ですね。

「いえいえ、誤解が解ければそれでいいんです。私はエモルトさんとは殆ど話した事はありませんから、そういう感情はありませんし」

 私がそう告げると。

「はい! ティアさんはアレクさんと一緒に住んでいますし、婚約しているのですものね? 大丈夫ですよ。それでいつ頃、結婚されるのですか?」
「そうだな! 祭りのある日でもいいかもな」

 私の代わりに答えたのはアレクであった。
 いえいえ、結婚なんて婚約なんて考えていないからね!そこまで、話を……風呂敷を広げなくてもいいから! アレクは、ユルメさんの言葉に少し過剰に話を持っていきすぎ!

「えっと、そのへんは二人で決めないといけないかなって――」
「そうよね! でもおめでとう!」

 ユルメさんは私とアレクが婚約しているって事で、祝福してくれているけど、エモルトのプロポーズを無かった事にするために、婚約を偽った私は心苦しい。
 それに――。

「そうだな! 二人で決めないとな!」

 アレクは私の顔をやさしい眼差しで見降ろしてくる。
 あれ? もしかしてアレクも勘違いしてるのかな?




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