こんなふざけた裁判に弁護士なんていらない!

Len Hat

第一章 第7話 【弁護士の仮説】

椿の指摘に話すしか方法がないと感じたアデーレは口を開いた。
アデーレ「確かにこの紙切れについてはよく知っています」
弁護士「なぜ、あなたがそれを知っているのですか」
アデーレ「このような紙切れは自社の調査で知りました」
弁護士「調査とは」
アデーレ「もちろん、銃の密輸についてですわ」
弁護士「ルアノさんはどのように知りましたか」
アデーレ「彼は自社の社員ですわ」
弁護士「そうなんですか」
ルアノ「えぇ、私はヴァルト社の社員です。主に銃の密輸について調べてました」と頷きながら言った。
弁護士「銃の密輸ですか」
アデーレ「実は、近いうちにあの場所で密輸された銃の取引があるという情報がありました。」
ルアノ「そこで私は日雇い労働者として酒場に潜入していました」
弁護士「先ほどこのような紙切れを知っていると言うことですが、この紙切れは見たことはありますか」
アデーレ「いえ、見たことありませんわ」
ルアノも首を横に振った。
弁護士「では、この紙切れに書かれていることはわかりますか」
弁護士はアデーレとルアノに紙切れを見せた。
アデーレ「これは」
ルアノ「密輸組織の暗号と同じようですね」
弁護士「解読できますか」
ルアノ「はい、このくらいなら可能です」
そう言うとルアノは解読を始めた。
アデーレは彼の近くで様子を見ていた。
法廷は解読が終わるまで見守った。
解読を終えたルアノは「ここに書かれているのは何かの取引についてのようです」
弁護士「この場で読み上げてもいいですか」
ルアノが頷いた後「「奴らにに気づかれた。取引は中止だ。ここから逃げろ」と書かれています」
裁判長「なんとこれは」
弁護士「何か取引をしようとしたみたいですね」
ルアノ「そのようですね」
アデーレ「確かにそのように書かれていますわ」と紙切れを見ながら言った
椿「なんで被害者はこんなものを持っていたんだろう」と弁護士に呟いた
弁護士「これが被害者の私物なら、取引相手に殺害されたと言うことでなんとかなりそうだけど」
椿「肝心な部分がはっきりしませんね」
弁護士「今はできる限り情報を集めましょう」
椿「わかりました」
二人の内緒話が終わると同時にようやく状況を理解した検事が発言した。
検事「どうやら、この証拠品は特に事件と関係ありませんな」と断言した。
弁護士「どうしてですか?」
検事「では質問しますが、この紙切れに書かれていることと本件にどのような関係があるのですか?」
弁護士は言葉を詰まられた
検事「まず、それを証明しない限りにこれ以上審理を続行する意味がありません」
椿「この紙切れは被害者の財布に入っていました」
検事「それがどうしたんですか?」
椿「被害者がこの取引のために来たとしたら、この紙切れは本件と重要な関係です」
検事「ではそれを示す証拠品はありますか?」
椿「それは...」
検事「存在しないなら、これ以上審理を続ける必要はありませんな」
椿は俯いた。審理が終われば、判決になる。彼はこの状態だと多分有罪になるだろうと思ったからだ。
そんなに弁護士の彼女は「大丈夫。まだ、手段があるよ」と励ました。
検事「どうやら弁護側も異議はないようですな」と言い終わった後
弁護士「いえ、残念ながら異議があります」と反論した。
検事は黙って弁護士を見つめた。
弁護士「先ほど、被害者とこの紙切れの関係について証明はできませんが、検察側は被告人と被害者の関係について何も証明していませんよね」
検事「被告人と被害者の関係はこの手帳で証明したはずですが」
弁護士「残念ながら、それでは証明になりません」
検事「なぜそのようなことが言えるのですか?」
弁護士「この手帳には被告人の名前がありません。さらに、敗れたページに被害者の名前があるとは限りません」
検事「それなら被告人がこの手帳のそのページを破ったことを示すのでは」
弁護士「では犯人はなぜこの手帳を被害者に持たせたのでしょう」
検事「はぁ」と呆れ顔で言った。
弁護士「犯人はわざわざそのページだけを破り取りました。なぜそんなことをしたのでしょうか?」
検事「それは自分と被害者の関係を無くすためでしょう」
弁護士「それが目的なら、この手帳を持っていけば確実でしょう」
検事「この手帳を持ち出す暇がなかったからなのでは?」
弁護士「それなら、そのページの部分を破く時間もありません」
検事「では弁護側はこれをどう説明するんですか?」
弁護士「それは検察側が証明すべきことです」
検事「くっ」
弁護士「さらにもう一つ解決していない矛盾があります」
裁判長「それはなんですか?」
弁護士「この事件文書です」
検事「それのどこがおかしいのですか?」
弁護士「お忘れですか,この文章にある矛盾があったことに」
検事は目を見開いて、何か思い出したようだ。
弁護士「それは被告人の発射残渣と拳銃の指紋です。この事件文書には被告人の左側に発射残渣があるのに対し、凶器である拳銃には被告人の右手の指紋が残されています。これは明らかに矛盾しています」
検事「ぐぅ」
弁護士「この状況でなぜ被告人が有罪だと思っているのですか?」
検事「では聞きますが、被告人ではないなら、誰が被害者を殺害したのですか?」
弁護士「それは審理を続けていれば、わかります」と根拠のない自信で言った。
裁判長「確かに弁護側の言う通り現時点で判決はできません」
検事は顔をしかめた
裁判長「検察側に質問ですが、この他にも被告人を疑う根拠はありますか?」
検事「もちろんです。閣下」と証拠品を見せた。
裁判長「それはなんですか?」
検事「事件現場の見取り図です」と証拠品を提出した。

この見取り図にはあの酒場のことが書かれていた。手前にカウンターとその席があり、その奥にはステージになっていた。そのステージから見えるところにテーブル席が四つ設置していた。そのテーブル席には四つの椅子が設置されている。被害者が殺害された場所にはバツがつけられて、被告人である自分にはチェックがつけられていた。

検事「これでおわかり頂けましたか?」
弁護士「何がですか?」
検事がため息をついた後「この見取り図から事件が起きた時に被害者の一番近くにいたのは被告人しかいないんですよ」
弁護士「銃による犯行なら遠くから発砲することは可能ではないですか」
検事「残念ながら、その可能性はありません」
弁護士「なぜですか」
検事「この遺体解剖記録書には「遺体の撃たれた穴の周りに焦げ跡がある」と書かれています」
椿と弁護士が遺体解剖記録書を見ると確かにそのようなことに書かれていた。
検事「このような焦げ跡ができるのは至近距離で撃った証拠なのです。よって、この犯行が行えるのは被告人しかありえないですよ。それとも、弁護側は何か被告人が犯行ができない根拠があるんですか?」
それを見た弁護士は何か打開策がないか考えている。
椿も考えてみたが、見当もつかなかった。
椿「あの酒場にいなければ、こんな目にあうことがなかったのに」と弱音を吐いた。
彼の言葉を聞いて彼女は何か思いついたようだ。
弁護士「それだ!」と声を荒らげた。
椿「えっ?」
弁護士「もし、事件現場があの酒場じゃなかったら、どう?」
椿「弁護士さんが言っていることがよくわからないのですが」
弁護士「つまり、今検察側はあの酒場こそ被害者がされた場所だと思っている。その前提を崩せば、検察側の主張に反論することができる」
椿「でも、それを示す証拠が」
弁護士「もう一回調べ直しましょう。他に何かあるかもしれません。」
椿「わかりました」と同意した。
二人は証拠品を再び調べ始めた。法廷はその様子を見ていた。
椿は拳銃や遺体解剖記録書を調べたが、特におかしいところはなかった。
弁護士の方へ目線を移すと彼女は事件文書を見つめている。
椿が弁護士に声をかけようとすると
弁護士「少し遺体解剖記録書を見せて」と言い、それを手に取った。
弁護士は事件文書と遺体解剖記録書を見比べていた後、「やっぱり、思った通りだわ」とこぼした
椿「何がですか」
弁護士「ここを見て」
弁護士は彼に事件文書と遺体解剖記録書のある部分を指差した。

遺体解剖記録書
被害者の死因は発砲された弾が心臓に貫いた弾痕による失血。
死亡推定時刻14:00〜15:00
被害者の胸の焦げ跡から至近距離で発砲されたと推測する。
発砲された弾は貫通さず、体内から発見された。

事件文書
被害者の服には大量の血痕があるのに対し、被害者が発見されたテーブルとイスには血痕がなく、床には少量の血痕が発見された。
被害者のテーブルにはワインが入ったグラスが置かれていた。

これらを見た椿は「これって」
弁護士「私の仮説は間違ってはいないようね」
椿「仮説?」
弁護士「よし、ここから巻き返すよ」と息込んだ

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