こんなふざけた裁判に弁護士なんていらない!

Len Hat

第一章 第2話 【癒しと創造の地 ローネリアン】

ローネリアン到着まであと一時間の頃

車掌は彼を起こしに彼の部屋の前で「お客様、お時間なので、起こしに参りました。」とノックしたが、反応がなかった。再び「お客様、起きておりましたら、お返事ください。」と強くノックしたが、彼からの返事がなかった。不審に思った車掌は「お客様、ご無事ですか?今入りますよ」とポケットからマスターキーを取りだし、彼の部屋に入った。
車掌の声に目を覚ました彼は車掌がとった行動に「うわっ」と驚き、ベッドから床に落ちた。こうして彼にとって波乱の1日が始まった。

彼がベッドから落ちた時から少し経ち、彼は食堂車で少し早めの夜食をとっていた。食堂車で食べる夜食は夕食のような豪華な食事と違い、パンとスープだけの質素なものだった。ボトルを持った給仕が彼に「ワインは飲まれますか?」とワインを勧めたが、「未成年なので、結構です。」と断った。給仕は「承知いたしました。」と残し、調理場に戻った。給仕とすれ違いに車掌が彼の前に立ち、「ご相席してもよろしいですか?」と丁寧に言うと、「えぇ、早速ローネリアンについて聞かせて下さい。」と車掌を見つめて答えた。車掌が彼の席から対等の位置に椅子を運び、その席に座った。そして、彼と車掌とのやり取りが始まった。

「ローネリアンはどんなところなんですか?」

「ローネリアンは主に鉄鋼業が盛んなところで、又の名を癒しと創造の地と言われています。」

「鉄鋼業が盛んなのに癒しと創造の地って呼ばれているんですか?」

「ローネリアンがそう呼ばれているのはその近くに温泉が沢山湧いていて、多くの起業家や発明家がそこを拠点に活動しているからです。」

「沢山温泉があるなら、観光も盛んじゃないですか?」

「確かにローネリアンには温泉がありますが、観光できるところがないんです。ですので観光目当てで来るお客様はあまりいらっしゃいません。」

「観光ができないだって!」

「えぇ、元々ローネリアン郊外には鉱山しかなく、観光名所というところはありませんし、あまり沢山人が来ると産業に影響が出るので、あまり観光に力を入れていないかもしれません。」

「では、起業家や発明家が多いのはなぜですか?」

「それは近くに鉱山があるからですね。原料を遠くから仕入れるよりも安価に済みますし、近くに温泉もあるので、仕事場としてはこれ以上ないぐらいに適している場所だと思われます。」

「なるほど」 

「あとローネリアンについたら、守って欲しいことがあります。」

「それはなんですか?」

「少なからずローネリアンにはいくつか犯罪組織があります。その組織たちに接触しないでください。」

「なんで俺がそんな組織に接触するんですか!?」

「万が一のためです。」

「もしそんな組織と接触したら、どうなるんですか?」

「その組織から目をつけられて、あなたについて調べられるでしょうね。そこで、あなたが別世界の人物だと知られたら、」

「知られたら?」

「組織に利用されるか消されるかの二択ですね。少なくともあまり良い結果にはならないと思われます。」

「うわぁ~」

「なので、決して接触しないでくださいね。」

「...はい、わかりました。他に守ることはありますか?」

「そうですね。...ローネリアンは比較的治安がよい方なので、他に守るべきことはありませんね。」

「少し間があったんですけど、何か問題でも?」

「いえ、大したことはありません。ただ」

「ただ」

「あまり問題を起こさないでくださいね。」

「問題児扱いするのはやめてください!!」

「…。まぁ、ローネリアンについてはこんなところですかね。」 

「...はい」

「ではそろそろ到着するので、準備してください。」と車掌は席を立ち、その場を去った。彼は出された料理を完食し、ぶつぶつと不満を口にしながら、彼の個室に戻った。

それから少しして彼が荷造りを済ませ、持っていた携帯で電話しようとしたが、圏外で繋がらなかった。ため息を吐きながら、ベッドに腰をおろすと、車窓から蒼白い光が目に入ってきた。その光を辿って窓を覗くと列車の進む先に車止めが蒼白く輝いていた。その光を見つめるとドアからトントンとノックする音と「お客様、荷造りは終わりましたか?」という車掌の声が聞こえた。彼はドアを開き、車掌の質問に「元々ないようなものなので、早めに済ませました。」と答えた。「では到着するまで客室でお待ちください。」といい、その場を去ろうとすると彼は「ちょっといいですか?」と車掌を引き留め、「あの蒼白く輝いている車止めで異世界に行くんですか?」と質問した。車掌は「えぇ、そうですよ。では失礼します。」と微笑みながら去っていった。

車掌が立ち去ると彼は部屋に備えられていた椅子を車止めが見える窓の近くに置いた。その後その椅子に座り、車窓を眺めた。車窓からの景色は蒼白い光に包まれる車止め以外は真っ暗で何も見えなかった。次第に列車が進むと光がより輝きが増していた。列車が車止めの前まで進むとポーと汽笛を鳴らした。その汽笛と同時に目の前が真っ白な光に包まれた。思わず目を閉じたら、その光が霧のように消えた。もう一度目を開けると、先ほどの真っ暗な景色に戻っていた。

しばらくその景色を眺めていると、列車がポーと汽笛を鳴らしながら、停車した。どうやら目的地に着いたようだ。

彼が身支度を済ませると同時にドアからノックする音が聞こえた。彼がドアを開けると車掌が「お客様、ローネリアンに到着しましたので、お迎えにきました。」と伝えた。彼は荷造りした荷物を持って部屋を出た。車掌の案内で出口に向かい、列車から降りたときに、車掌が彼に「ところで、お客様はローネリアンのお金は持っているのですか?」と聞いた。彼は「いえ、持っていませんけど…」と動揺したが、車掌は「返済は結構です。とりあえず3ガレン持ってください。これで1ヶ月ぐらい宿で暮らせます。」と彼に数枚の紙幣を渡した。彼は「ありがとうございます。」と言い、「そう言えば、自己紹介がまだですね。俺の名前は鎌岸椿です。車掌の名前聞いてもいいですか?」と質問した。その質問に対して車掌は「申し訳ないですが、私の名前は職務の規則で明かすことはできないのです。お客様」と答えた。彼は「そうですか。あとお客様じゃなくて椿でいいですよ。それじゃお世話になりました。」と別れを告げた。車掌も「椿様、良い旅を」と小さく手を降った。列車の扉が閉じた後、ポーと汽笛を鳴らしながら、列車が発車した。列車は先の線路も見えない暗闇へと煙を吐きながら、消えていった。

列車を見送った後、彼は辺りを見回した。そこには石畳のホームをおぼろげに照らしている灯り、木製のベンチ、奥に上まで続く階段があった。彼は階段を登り上を目指した。上には埃を被った窓口に朽ちた木製の柵で道がふさがれ、その先には白い光が差し込んでいたという現代の改札口とはかけ離れたものだった。彼はその柵を飛び越え、光を辿って進んだ。その光の先には、煉瓦造りの建物と街路樹が並び、人々が活気に溢れていた。どうやら町に出たようだ.彼は行き来する人々を掻き分け,図書館を目指したが,この地の土地勘がないため,すぐに迷ってしまった.困り果てた彼は辺りを見回し,図書館があるか探したが,そこにあったのはよく似た形をした建物が並んでいるだけだった.その中で特に目立ったのは多くの人々が賑わっている酒場であった.彼はふと「確かゲームの中の酒場の設定は情報が集めるところだったから,もしかしたら何か情報が手に入るだろう」と思った.彼はその考えを信じ,酒場に向かった.しかし,この酒場で起きたことで彼の人生の歯車が大きく狂わせるのだが,この時の彼はそんな事を知る由もなかった.

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