【書籍化作品】無名の最強魔法師
記憶の竪琴(20)
「いつまでに行けばいい?」
断ってもいいが、余計なことをして巻き戻りするのは困るからな。
「今すぐにでも!」
「それは無理だ。知人に一度、確認をしてみる」
「……わかりました。それでは――、コークスさんに……」
「ああ、話を通しておいてくれ」
まぁ、この世界は色々と普通の世界とは構造が違うからな。
系統立てて書類の管理などはしていないだろう。
イノクと別れたあと、フィンデイカ村の噴水広場に戻ると、乾いた噴水の縁にリネラスが座っているのが見える。
「ユウマ! 遅いっ! 前よりも、ずっと時間かかってるけど――、どうかしたの?」
「ちょっと冒険者ギルドで色々と合ってな」
俺は肩を竦めながらリネラスの問いかけに答え――、今まであったことを説明していく。
「そう……」
俺の話を聞いたリネラスは、顎に手を当てながら頷く。
何やら思案しているようにも見えるが――。
「何か問題でもあったのか?」
「うん。私も小さい頃だったから詳しい事は覚えていないけど、イノンとユリーシャって双子なのは、ユウマも知っているわよね?」
「ああ、知っているが……、それがどうかしたのか?」
「うん。ユゼウ王国ではね、双子が生まれた場合は間引きすることがあるの」
「間引き?」
「……そう。理由は保有している魔力の器が不十分だからということ。双子で生まれた場合は、外界から得て魔力として体内に保有できる魔力量が少なく生まれてくるの。それは一人の魔力許容量が10とした場合に8とか9になるの。つまり二人共、魔力許容量が足りなくて生まれてくるんだけど……、間引きすることで、その魔力許容量を常人と同じようにすることで生きることが出来るの」
「つまり間引きをしない場合は死ぬってことか?」
リネラスが神妙な表情で頷く。
「だが――、解せないな」
「どうしたの?」
「ユリーシャの事だ。アイツは、少なくとも上級魔法師クラスの魔力量は持っていた。それは一般人――、つまり常人の魔力量を超えていたんだが……」
「それは、きっと――」
「ん? 何かあるのか?」
「うん。イノンが熱で死にかけている時に、ユリーシャはイノンの魔力と器を受け取ったの。そう――、お父さんから聞いている」
「ふむ……、つまり何らかの儀式をしたということか……」
「うん。でも、何をしたのかまでは私も分からないけど……、メモリーズ・ファミリーをイノクさんが冒険者から購入したという事だけは帳簿に残っていたわ」
「メモリーズ・ファミリー? あの死の都ローランで出てきたやつか?」
「うん。でも、何に使ったかまでは用途は分からなかったの」
「ふむ……。どちらにしても、イノンとユリーシャに会った方が話は早いということか……」
「そうなるけど……。ユウマは、イノンとユリーシャに対して、どうするつもりなの?」
「どうするとは?」
「彼女たちを――、私達を騙していたイノンを許すかどうかってことなんだけど……」
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