【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

記憶の竪琴(7)




「…………ここは……」

 目を開けたエリンフィートが周囲を見回したあと「ユ、ユウマ……」と、俺の名前を呼んでくる。
 ふむ、どうやら特に問題は無さそうだな。

「ユリカ、俺はリネラスと話をしてくるからエリンフィートを見ていてもらえるか?」
「この方を? 一体、何があったのですか?」
「まぁ、色々とだが……」
「うぷっ――」

 ユリカと話している間にエリンフィートが俺の服の裾を掴むと口から甘酸っぱいアレな物をレロレロと吐き出した。

「おい! やめろバカ!」
「無理、おえええええええ」

 

 ――数分後。

「すっきりしたわ」
「お前、一応は女なんだから、もう少し慎みと言うものを持てよ」

 ダンジョンから出た俺は、エリンフィートの吐しゃ物で汚れた服を魔法で作った大量のお湯で洗い流しながら苦言を呈してやったがエリンフィートと言えば、ダンジョン入り口の縁の石組みに腰を下ろしたまま「ユウマさんには、遠慮をする必要はないのです」と、言い切ってきた。

「やれやれ、これだから土地神ってのが自分のした事を棚に上げて開き直るんだから手に負えないな」
「アンタがそれ言っちゃうの? ねえ? ブーメランって知っている?」
「そのくらい知っている。馬鹿にしてんの? お前」
「べつにー」

 一度、こいつを殴ってやりたい……。
 
「それで、アンタはどうするのよ? リネラスと喧嘩しているのでしょう?」
「ど、どうして……、それを……」
「セイレスやセレンがリネラスと話しているわよ」
「お前な……、精霊眼で覗きや盗聴は懲りたんじゃないのかよ」
「えーと……」
「ただでさえ少ないエルフ達からの信望がゼロになるぞ? 主に俺が言いふらすが……」
「アンタ最低ね」
「お前に言われたくない」
「――さて……と……、これであとは――」

 洗い終わったところで【乾燥】の魔法を発動させて洋服を乾かしていく。
 とりあえずこれで何とかなっただろう。

「それじゃエリンフィートが関わるとロクな事がないから行くぞ」
「さっさと行きなさいよというか、ユゼウ王国軍は放置しているけど大丈夫なの?」
「まあ、妹のスライムが何とかしていると思うからな……。もし何かあれば言ってくるだろうし……」
「なら、いいけど……」



 現在、エリンフィートと別れた俺は酒場のテーブルで肘を付きながら今後の方針を模索していた。
 セレン、セイレス、リネラスの3人がリネラスの部屋に居るのは【探索】の魔法で確認済み。
 ただ、何を話しているかまでは分からない。
 身体強化魔法を使えば盗み聞きくらいは出来るかも知れないが、それはあまり宜しくないからな……。
 
「しかし、どうしたものか……」

 今一、俺には女心というのが分からないんだよな。
 ここは、誰かに相談してリネラスと上手く仲を取り持つ方法を教えてもらうのがベストなんだが……

「どうかしたのですか?」
「いや、ちょっとリネラスに頼みごとがあって……」
「頼み事があって?」
「――って!? リンスタットさん! いつからそこに!?」
「しかし、どうしたものか? と言ったところからです」
「最初から……」
「それより、娘と仲良くなりたいと言う事ですか?」
「仲良くというか、イノンとユリーシャの精神世界の攻略にリネラスも絡んでいるようで、助けが必要――」
「そうなのですか……」
「リンスタットさん?」
「いえ。娘がハーフエルフだからという理由で、夫に連れられてエルフガーデンに出た後のことを思ってしまうと……」

 どうやら彼女には彼女なりの思いがあるようで。
 
「まあ――」
「ユウマさん?」
「それがあったからリネラスにも会えたわけですし」

 ――って、俺は何を言っているんだ……。
 
「無理に元気づけようとしなくてもいいのですよ?」
「いや、そういうわけじゃ……」

 何となくだが、リネラスの母親には頭が上がらないんだよな。
 雰囲気的に、何となくだが……。

「ふふっ。ユウマさんって女性関係には結構不器用と言われませんか?」
「ま、まぁ……。よく殴られていたりしましたし……」
「ユウマさんが!?」
「幼馴染の……」
「へー、そうなのね。何だか意外だわ。エリンフィート様や娘と話している時とユウマさんは、その幼馴染の子と話しているときは違うのかしら」
「いや、そうでも……。嫌、ちがうな……。リネラスと同じノリでリリナと話をしたら半殺しにされるかもしれない……」
「ユウマさんがするんじゃなくて?」
「まぁ、ははは……」

 苦笑いしかでない。

「そう、娘もすごい競争相手がいるのね」
「競争相手?」
「ううん。こっちの話よ」
「そうですか」
「それより娘と仲良くする方法よね! 私が良い方法を教えてあげるわよ! いまから教えることを娘に言ってあげればコロリと落ちること間違いなしよ!」

 何を落とすのだろうか? と言う疑問が頭の片隅に浮かぶが……。
 俺の考えを他所に、リンスタットさんは紙に文字を書くと手渡してきた。
 
「それをそのまま読み上げるだけでいいから!」

 リンスタットさんは、それだけ言うと上機嫌に椅子から立ち上がると去っていってしまった。
 
「とりあえず手紙の中を確認するとするか」

 リンスタットさんはリネラスの母親だからな。
 リネラスを説得させるいい案があるのかも知れないし。

「ふむ。二人きりの時に話をすると……。出来れば景色がいいところがいいと……」

 この辺で景色がいいところなんてあったか?
 色々あってエルフガーデンは壊滅状態になっているからな……。




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