【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

星空魔法




「おのれ! 全軍、この男を八つ裂きにしろ!」
「――さて」

 アルデバランの命令で鎧を着た狼が俺に向かってくる。
 俺は狼の動きを目で追いながら【探索(サーチ)】の魔法を発動させた。
 サーチの魔法は周辺に魔力で編み上げた魔法の電波を放射状に飛ばして対象や地形を調べる魔法。

 俺は、一匹目の狼の額に蹴りを入れて吹き飛ばしながらユリーシャにだけ絞って彼女の体の状態を確認していく。
 そして気が付いたのは、体の仕組みなどは人間だと言う事だ。

「厄介だな」

 思わず声が漏れ出てしまう。
 それを聞き咎めたアルデバランは「いくら貴様でも波状攻撃には耐えられまい!」と口走ってきた。
 
「【流星】」
「何だ? その魔法は!?」

 ルーグレンスが、俺が口走った言葉に反応する。
 ――が、もう遅い。

 成層圏に無数の鉱物を精製。
 それらを音速の速さで地表に叩きつける超広範囲無差別物理系攻撃魔法。

 最初に蹴り飛ばした狼の頭を上空から落ちてきた数センチの鉱石が貫く。
 さらに、鉱石は地表に到達し巨大な爆発を引き起こした。
 魔物はバラバラになり周囲に散らばると同時に消滅する。

「ルーグレンス様! 上空を!」
「……あ、あれは……、隕石? 感知できる数でも数千は……」
「感想はいいが余所見をしていていいのか? 直撃したら死ぬぞ?」
「ふん! 知っておるぞ! 魔法というのは術者を傷つけないように作られている! この魔法も無差別に思わせておいて貴様の周辺が一番安全だということがな!」

 アルデバランは、俺に向かって人差し指を向けて語ってくる。
 それと同時に音速を超えた速さで鉱石は俺に向かってきたので肉体強化の魔法を発動させたまま直撃する直前、右手で弾き飛ばす。
 弾き飛ばされた鉱石は音速の速度を保ったまま数匹の狼を葬り俺が作った土の壁にめり込んで停まる。

「――へ?」

 その様子を見ていたユリーシャの体を操っているルーグレンスは茫然とした表情のまま飛んでいった隕石もどきを見ている。

「な、なんだと!? 術者も攻撃範囲に含めているというのか? きさま! 魔法師としての常識すら習っていないのか!」
「常識と言われてもなー、そもそも俺の魔法は独学だからな」
「「……」」
「だから言ったろ? 集中していないと死ぬぞって」
「こ、この非常識野郎が!」
「やれやれ。俺は親切で有名なユウマさんだって言うのに、そう言われるなんて心外だぞ?」

 肩を竦めながら言葉を返すがその間にも数千の隕石が落下し続ける。


 
「おい、生きているか?」
「……」

 俺は土の中に埋もれていたユリーシャの体を引き上げる。
 ユリーシャだけは直撃して死んだら流石に洒落では済まないこともあって、きちんと見ていたが、どうやら生きているようだ。

「しかし、気絶をしていてもルーグレンスが起きていないとは限らないんだよな」

 探索の魔法では、精神の繋がりなどが見えない。
 正直、分離方法が浮かばないというのが俺の感想だが……。
 そのへんはエリンフィートの方が専門だろう。

「き、きさま……、本当に魔王……なのか……」

 頭の中で考察していると土の中から這い出てきたアルデバランが語り掛けてきた。

「だから、そうだと言っただろう?」
「なるほどな……、我々も考えなければならないようだ……」
「考える?」
「魔王が敵対するのなら、我々にも――」

 探索の魔法を発動していたからこそ分かる空間の揺らぎ。
 どうやらアルデバランは逃げるようだが瞬時に発動させた【風刃】の魔法――、その風の刃がアルデバランの体を細切れにする。

「――なっ!?」
「逃がす訳がないだろ? お前らを逃がすと面倒ごとにしかならないからな」
「おの……れ……」

 アルデバランも光の粒子となって消滅した。
  
「――さて、どうするか……」

 俺はサークル内を見渡しながら、あとでエリンフィートが怒りそうだなと考えるが、起きてしまったことは仕方ない。
 ユリーシャを脇に抱えたままサークルを解除する。
 そしてエリンフィートが待つ場所へ戻ろうとしたところで――。 

「ユ……、ユウマ?」

 壁の外側には見知った顔――、アライ村を出た後、ユゼウ王国で最初に世話になったエルスの姿があった。

 


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コメント

  • ノベルバユーザー255476

    はじめましてです

    1
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