【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

姉妹の思い出(11)

「しかし……これなら、当分なんとかなりそうだな……」

 俺は現状を確認しつつ、スライム一匹にまるで歯立たない兵士達を見ながら一人呟く。

 ――それにしても、どうして男だけが裸になると、こんなに見るに耐えない状況になるのか……。。
 突っ込みどころ満載すぎて何て言っていいのか分からないが、一言で例えるならば、正直、見るに耐えないというところだろう。
 それでも、国軍の侵攻を一匹のスライムが抑えているのだから、賞賛に値する。

「それにしても……」

 俺は、数時間だけ時間が稼げればいいかと思い、スライムに防衛を任せたのだが、たったい一匹で万を超える軍隊とやりあうとは……さすがは俺が作ったスライムだけの事はあるな。
 問題は、そこまで強化した覚えがないという点だ。
 せいぜい、進化と増殖と修復しかつけていなかったと思うんだが……。

 まぁ、いい方向に向いているようだし、いまは細かいことは気にしないことにするか……。

「まずは、情報収集をするか――」

 スライムが一匹で大軍相手にスライム無双をしてくれているから、思ったよりも情報収集がはかどるかもしれないな。

 俺は、流星の魔法で更地になっていた渓谷を走る。
 もちろん、俺の姿は丸見えなわけなのだが、誰も俺のことを気にしない。
 目の前のモンスターであるスライムに夢中なようで……。

 時々、「くっ!? ころせ!」とか言う野太い男の声が聞こえてきたりする。
 さらには「らめえええ」という声も――。

 まったく、俺の妹が契約したスライムは一体何をしているんだか……。
 純真な妹が影響を受けたらどうするんだか――。

 スライムについては、情報収集後に妹にきつんと躾するように言っておいたほうが良いかも知れないな。

 槍を構えている兵士達が突撃しようとしたところを見て、俺は脚を止める。
 このまま、進んでいたら間違いなく槍を持って突撃してきている兵士達と正面からぶつかり合うことになる。
 そうしたら――って、問題ないか……。

 俺は地面を思いっきり蹴りつける。
 超人的なまでに肉体に、身体強化の魔法まで上乗せした俺の脚力は大地に亀裂を入れていき、辺りが数メートル隆起する。
 それにより横一列に並んでいた槍兵の動きが遅くなる。
 そこでようやく、「き、きさま! ユゼウ王国の正規兵ではないな!?」と、一人の身なりのいい鎧を身に纏った男が俺を指差して問いかけてきた。

 男の言葉に俺はなんと答えるのがいいのか迷った。
 そして、一番ベストだと思う言葉を選ぶ。

「くくくくっ――、この俺が何者かだと? 愚か者どもめ!!」

 俺の言葉に周囲の兵士達が一斉に視線を向けてきた。
 その目には、何故か不安や残念な子を見るような感情が含まれているような気がしないでもなかったが、きっと気のせいだろう。

「我が名なユウマ! 魔王ユウマなり!」
「――ま、魔王だって!? ま、まさか――」

 俺の言葉に動揺した素振りを見せた兵士は、俺をジッと見つめてきたあと。

「ま、間違いない! ウラヌス十字軍のベンアウード大司教様の報告にあったとおり黒髪、黒目の男だ! ユゼウ王国で姿を見かけたと報告があったが――。……ま、まさか……こんなところにいたとは! 最前線の兵士は魔王が操っていると思われるスライムの足止めをしろ! 残りの兵士は全員、目の前の男を――魔王を取り押さえろ!」
「ほう? この俺に挑むとはな――。愚かな! この俺の右手の封印が解けてもいいのか?」
「み、右手の封印だと!?」

 俺の適当な言葉に動揺する指揮官を見ながら俺は内心溜息をつく。

「いや、別に封印とかないから……」
「ふざけてるのか! 貴様は!」

 ――なんだよ。
 俺が気をつかって封印なんて無いですよ? と教えてやったのに、どうしてそんなに怒るのか理解ができない。

「お前――」
「――!? ……な、なんだ!?」
「あまり怒鳴ると寿命が縮むんだぞ?」
「お前の態度が怒鳴らせているんだろうが!」

 指揮官である男が顔を真っ赤にして息を切らせながら猛抗議をしてきたが――。

「やれやれ……。なんでも人のせいばかりにしてるから、相手の実力も分からずに戦うを挑む羽目になるんだぞ?」

 俺は指揮官に注意しながら肩を竦める。
 すでに目の前の男は、哀れなほど体を震わせてたあと、腕を頭上に掲げると――。
 弓を手に持つエルフらしき男達が一斉に姿を現した。
 その数は、少なくても10人ほど。

 全員が弓を番え俺に向けて射ってくる。
 迫りくる矢は光の軌跡を空中に描く。
 全ての矢の動きを観察して気がつく。
 それらはアライ村で、俺が村を守るために作った城壁を破壊したものと同じ力を纏っている。

「どうだ! 城壁すら破壊する突風の魔法を纏った矢だ! 誰にも受け止めることはできないぞ!」
「隊長! そんなものが人に当たれば大変なことになります!」

 誰かが、指揮官の男に突っ込みを入れている様子が見えた。
 どうやら、指揮官はかなり頭に血が上っていたらしく「しまったあああああ」とか言っているが――。

「まぁ、このくらいなら――」

 俺は飛来してきた矢を全て素手で破壊し指揮官のほうへと視線を向けると、男は呆然と破壊された矢を見たあと、慌てて背後を振り返った。

 


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