【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

エルフガーデンへ侵入!

 【海の港町カレイドスコープ】を出発し【花の都ローラン】を経由した俺達は馬車に揺られながら西方に向けて移動している。
 途中、ワイバーンが襲ってきたり魔物の襲撃があったりと特に何もない平和な日常を過ごしながら、1週間ほど移動をしていると目の前に巨大な山々が見えてきた。

「ユウマ、あれがカルバドス山脈ね」

 従者補助席に座ってるリネラスが話しかけてくる。
 エルフガーデンに近づくにつれ、リネラスが従者の補助席に座る割合が増えているが、俺としては馬の手綱を扱ってほしいと思っている。
 旅の8割くらい俺は馬を操作してるから。

 リネラスが指差す方向には、標高数千メートルを数える山々が連なっている。
 エルフガーデンの入り口の町は、人間が住まう町らしいが俺達の場合は、ユゼウ王国から目を付けられてる事もありエルフの村に向かう事になっている。
 そしてエルフの森と言うのは、山々に囲まれたエルフガーデン内に存在しており、エルフガーデンに入るためには比較的標高が低いカルバドス山脈の間のエルヴンガストと呼ばれる山谷の森を越えて行く必要がある。 

「さてと……そろそろ用意しないと駄目ね!」

 リネラスは一人呟くと、帆馬車の中に入っていく。

「イノン! ユリカ! 起きてー! そろそろ行軍するから荷物を纏めましょう!」
「セイレスはセレンの面倒見てね!」

 リネラスの声が聞こえてくる。
 俺は帆馬車を走らせていると、少しずつ森へと続く道が狭くなってくる。

「ユウマ! ストップ! イノン、宿屋出して! 馬車を仕舞いましょう!」

 矢継ぎ早に命令を出すリネラスの姿を見て、ひさしぶりにリネラスがギルドマスターぽいなと感心していると、リネラスが近づいてきて。

「ユウマ、あまり攻撃魔法は使わないようにね!」
「使うと何かあるのか?」

 俺の言葉にリネラスは頷いてくる。

「反撃してくるから!」
「反撃?」
「うん、森全体が反撃してくるから強い魔法は使わないようにね」

 ほう……それはなかなか……。

「しかし冒険者ギルドの職員の知識なのか? ここに来た事があるのか?」

 俺の言葉にリネラスは顔をふいっと向ける。
 どうやら話したくない事柄のようだな。

 それにカレイドスコープを出立しエルフガーデンに向かうと言ってからは、リネラスは妙にソワソワしている。
 何故か、心ここに非ずと言った印象をずっと受けているし……。

 俺は思案していると肩を軽く叩かれた。
 振り返ると、そこにはセイレスが黒板を持って立っていた。
 黒板には「男の夢があります!」と、書かれている、意味がわからん。

「セイレスは、エルフガーデンに行った事があるのか?」

 俺に問いかけに表情を染めるとセイレスは頷いてきた。
 セイレスにリネラスの気になっていた事を聞くが、彼女は「さあ?」とだけ誤魔化して、俺から離れていった。
 どうやら何か隠しておきたい事があるようだが……。



 ――そして20分後。

 馬車や馬を【移動式冒険者ギルド宿屋】の異空間に入れた後。 

「ここからは徒歩だからね。セレンは辛くなったらユウマに運んでもらって。イノンとユリカ、セイレスは根性でついてきて。ユウマは……」

「俺は?」

「……なるべく森を破壊しないでね」

 ふむ。リネラスが何を言ってるのか分からないな。
 俺が今まで無暗にモノを破壊したことがあったか?

 用意が出来た俺達はリネラスの指示に従い、エルフガーデンへと続く唯一の道を歩き出した。
 カルバドス山脈へ足を踏み入れしばらく歩いていると、何かが急速に近づいてくるのを知覚する。

 【探索】の魔法を発動させ距離と方角を確認すると前方から飛んでくる物質がグレーの光点で表示されているのが分かる。
 つまり飛来してくる物質は、魔物か生物関係となるわけだ。

 さっそく魔物の攻撃らしいな!



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