【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

秘密は蜜の味(後編)

 さて……この寝ているイノンをどうするか……。

「とりあえずイノンの部屋まで連れていくとす……る……か? おはよう……リネラス、セレン、ユリカ……ど、どうして、そんなに怒った目で俺を見ているのかな?」
「セイレスさんが、ユウマさんが女性の寝込みを襲ってるって教えてくれたんです!」
「お姉ちゃんは、お兄ちゃんが相手してくれないって怒ってたの!」
「ユウマ、あんた……まさか……」

 3人ともどうやらかなりの誤解をしているようだ。
 きちんと誤解を解かないと、これはマズイな。

「3人とも良く聞いてくれ! 俺が寝込みの女性を襲うような人間に見えるか?」
「「「……」」」

 3人とも俺を半眼で睨んできている。
 おかしいな、俺ってそんなに信頼が無い人間か?

「まぁまぁ落ちつけよ。俺の普段の素行を考えて総合的に考えてくれ! 俺がそんな事をするような人間だと思うか! 普段の俺を見てる皆なら俺がそんな事をするような人間とは思わないだろ?」
「普段のお兄ちゃんを見てるから、ありそうかなって……」
「ユウマさんなら自分の保身のためならやるかもと……」
「ユウマならやりかねないでしょ! 普段が普段なんだから! だいたいアンタ、普段から問題ばかり起してるから疑われるのよ!」
「あ……は、はい」

 ぐうの音もでないな!



 ――夕方。 

「俺のご飯は……」

 食堂で食事の用意をしているイノンに話しかける。

「えっと……今日は、ユウマさんの晩御飯は無しと言う事に」
「な……ナンダト?」

 俺は食堂でご飯を食べているリネラス、ユリカ、セレンの方へ視線を向ける。
 誰も俺に目線を合わせようとしない。
 ひどいな! 誤解だと分かっているはずなのに!

 すると洋服を引っ張られた。
 振り向くと、そこにはセイレスが頬笑みながら立っていて、布で包まれた物を差し出してきた。
 俺が受け取ると、セイレスは黒板を見せてくる。そこには、「ユウマさん、私はユウマさんを信じていますから、私が作ったエルフ族から古来より伝わる伝統料理おむすびを食べてくださいね」と、書かれている。

 俺は思わずセイレスの紫色の髪の毛を撫でてあげるとウットリと俺を見上げてきて微笑んできた。
 セイレスの笑顔を見ながら俺は近くの椅子に座ると隣にセイレスが座ってくる。

 セイレスが作ってくれたおにぎりを食べていると、飲み物が入った器をセイレスが差し出してきた。
 そんな俺達の様子をリネラスとイノンが睨みつけるように見てきている。
 俺を反省させようとしたリネラスが食事を抜くのは分かるが……イノンがどうして俺を睨みつけるように見てきているかが今一理解できないな。
 ギスギスした雰囲気の中で食事を終えた俺は、これからの事を説明するためにセイレスの腕を掴んでリネラス達が座っているテーブルの方へ向かう。

 俺に気がついたリネラスが俺を睨みつけてくると。

「何のようなの? そんなに見せつけておいてまだ見せつけるつもりなの?」
「ユウマさん、無神経すぎます」

 リネラスのイノンが苦言を呈してくるがどうして怒ってるのかさっぱり理解できないんだが……俺は何かをしたのか?
 女心ってのは本当に良く分からないな。

「ああ、すまない」

 まぁ適当に謝っておけば何とかなるだろう。
 2人とも非常に厳しい視線を俺に向けてきているが、話を続けることにしよう。

 俺はアレイ村長の家から持ち出してきた地図をテーブルの上に広げる。
 もちろん町で情報収集してきた情報は書き出してある。

「ユウマさん、これは?」

 イノンは俺がテーブルの上に広げた地図を見て首を傾げてくる。

「これは一応、エルアル大陸の地図になる。現在、俺達は『海の港町カレイドスコープ』の東に位置する場所に拠点を構えている」

 俺は指で自分たちが居る場所を示す。

「次に現在、俺達はエルンペイア国王を敵に回してる。さらに解放軍を率いるユリーシャ姫からもリネラスが狙われてる」
「国を敵に……だ、大丈夫なのですか?」

 ユリカが聞いてくるが俺は力強く頷く。

「ああ、問題ない。解放軍だろうが攻めてきたら即殺するからな。問題は、冒険者ギルドとして徹底抗戦の構えを両陣営と取っていいかどうかなんだが……そのへんは、ふてされた顔をしているリネラスとしてはどうなんだ?」

 リネラスは俺の言葉に不貞腐れたまま顔を向けてくると。

「冒険者ギルド本部には連絡がつかないから、国と徹底抗戦するかどうかは判断がつかわないわ」
「だろうな……」

 徹底抗戦するなら、リネラスなら即、ユゼウ王国国王の首をとってこい!とか俺に命令してきそうだしな。
 そこで俺の視界に黒板が入ってきた。「つまり、ユウマさんはカレイドスコープから離れて別の場所へ移動しようと考えているんですね?」と書かれている。

 俺は、セイレスの黒板を見ながら頷くと地図を指し示す。

「この地図を見てもらうと、西にはエルフガーデンと呼ばれる町があるらしい。俺はそこへ移動しようと思っている。理由はいくつかあるんだが、エルフガーデンはこの国の3大フィールドダンジョンの一つでエルフ以外が入ろうとすると森の妖精が襲ってくるようだ。そのため俺は、エルフガーデンの町に入って身を隠せば安全に時を稼げると思っている。一応エルフガーデンの町は中立らしいからな」

 まぁ、エルンペイア王とユリーシャ姫と敵対してる俺達をエルフガーデンの町が受け入れるかどうかは知らないが、そんなのは黙っておけばいい事だしな。
 何かあれば、迷惑がかかる前にいつもどおり町から出ていけばいいからな。
 そこまで考えたところで、セレンが俺の服の裾を引っ張ってくる。

「ねえ? お兄ちゃんが、エルンペイア王を倒したらいけないの?」

 ふむ……セレンには、まだ早かったか。

「セノン、冒険者ギルド本部が国を相手に徹底抗戦するかどうかを決めてない以上、それは出来ないんだ」
「そうなの?」
「ああ――たしかに戦いは終わるかも知れないが、統治を失った国は、そのあとの方が問題になるからな。国が荒れれば今以上に国内は混乱するし、仮に王を倒したとしても統治する力がなければ地方の貴族が反乱をおこす可能性だってある。そうすれば長期的に争いになり、そのしわ寄せは力が無い者にしわ寄せがくるんだ」
「お兄ちゃんが王様になって、統治はできないってこと?」
「まあ、そうなるな……」

 まあ、本当に必要なら1から作っていく必要もあるだろうが、いきなり国単位はさすがに無理だ。それに特に今の状態で不自由はしてないからな。
 セレンが、半分くらい納得してくれた表情を見せてくれたので俺は。

「――と、いうことで俺達は、エルフガーデンへ向かうことにする。時刻は夜半にする。夜の方が見つかりにくいだろうしな」と、告げた。

 


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