【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

激戦! クルド公爵邸(前編)

「見えた。あれがそうか?」
「うん、だと思うけど! って? どうして? どうして、こんなに距離が離れているのにハッキリとクルド公爵邸が見えるの? ま、まさか! ユウマの魔法なの?」

 俺は、リネラスの問いかけに頷く。
 ようやくリネラスは、俺の【身体強化】の魔法が自分自身にも及んでいる事に気がついたようだ。
 俺は前方に視線を向けながら、その場で地面を蹴りつけると横に飛ぶ。
 そして数瞬遅れて、俺が立っていた場所に矢が突き刺さり地面が爆ぜる。

 すでに矢の弾道方位と速度は判明しており問題なく避ける事が出来るし視認できるこの距離まで来れば、直接相手の攻撃を見て避けることが可能だ。
 俺は、【探索】の魔法が感知した攻撃の方角へと視線を向ける。
 すると、公爵邸の建物――屋根上に3人の男達が立っているのを見つけた。
 おそらく、あれが元Sランク冒険者の地獄の3魔人なのだろう。

「ユウマ! あれ見て!」
「大丈夫だ! わかっている」

 俺は走りながら、リネラスが声をあげた方へ視線を向ける。
 3人の男のうち一際体格の良い男は、俺を睨みつけて来ると空間から無数の槍を生み出していくと一斉に俺に向かって射出してきた。

 その数は、軽く百を超えている。

 俺は【身体強化】の魔法を維持し走ったまま、物体を振動させる事象を頭の中で想像し組み立てていく。
 そして飛来してきた槍の全てを魔法で物質ごと全て粉砕する。
 塵となった無数の槍が一瞬、俺とリネラスの体を覆い隠す。 

 さらに、空間を振動させ気体を膨張させる事で辺り一面を吹き飛ばすために科学魔法式を頭の中で組み立てる。
 そして【風爆】の魔法を発動。
 発動した魔法は、瞬時に俺が指定した座標で、気体を急激に膨張させ3人の男達が立っていた場所を根こそぎ吹き飛ばし同時に【探索】の魔法MAPからも3人の表示が消失する。

「リネラス、このまま屋敷に突入するぞ!」
「まって! 急に停止したから胃の中が! 気持ち悪いから!」

 リネラスが訴えかけてきて顔が真っ青だが、それは我慢してもらうとしよう。
 数百人の兵士達が、クルド公爵邸から俺の方へ向かってくる。

「隊長! アンゼ様、メローゼ様、オルガ様の3名の御姿が見えません!」
「ま、まさかさっきの攻撃で? だ、だが……元Sランク冒険者で地獄の3魔人と言われている方々がそんなに簡単にやられるわけが……くっ!?」

 俺が見ている前で隊長と呼ばれた男は悩んでいたようだが俺が近づくと、覚悟を決めた目を向けてきた。

「全軍、こちらへ向かってきている男に突撃! 弓隊、放て!」

 隊長と呼ばれた男の指示により、一斉に矢が放たれ俺に向かって飛翔してくる。
 俺はその矢を、【身体強化】したまま、横飛びに避ける。

「気持ち悪い……もう、無理……」
「リネラス! 気合入れてがんばってくれ!」

 俺は左右に移動しながら矢を避け続ける。
 そしてリネラスと言えば必死に両手で口元を押さえている。 
 矢を全てかわし切ったところで、俺を見て兵士達が驚愕の眼差しで見てくるのを見ながら【風刃】の魔法を発動させ、真空の刃で全ての兵士を殲滅した。

 後からクルド公爵邸から出てきた兵士達は、俺が倒した兵士達の数を見て顔を青くして逃げ始めた。
 俺は一息つきながらリネラスを地面に下ろす。

「ユウマは、躊躇がないですね、うっぷ……おろろろろろろ」
「話すか吐くかどっちかにしろ」

 相手が武器を持ち、殺意をもって攻撃を先に行ってきたのだ。
 なら、こっちも礼儀に沿ってやり返したに過ぎないし、そこに慈悲はない。

 吐いたからなのか多少は顔色が良くなったリネラスを連れた、【探索】の魔法で調べた際におかしいと感じた場所へと向かう。

「ここだな……」

 俺は一人呟きながら、部屋の扉を開ける。そこは執務室らしく大きな机が置かれている。そして人が一人、倒れていた。
 最初に、クルド公爵邸に接近した時は、動かない二人の存在を感知していたと言うのに、戦っている最中に一人の存在が消えたのだ。
 俺が倒した訳でもないのに、存在が消えた。
 どう考えてもおかしい事、この上なかった。
 倒れている人間は、質のいい服を着ている。
 その事から身分の高い人間――クルド公爵と判断がつく。

 ただ、もう一人の判断がつかない。

「これは、これは……招かざる客ですかね?」

 男の言葉を聞いた瞬間――俺は初めて戦慄を覚えた。


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