【書籍化作品】無名の最強魔法師
冒険者ギルドの営業(前編)
宿屋に入って休もうとした所で馬車が疾走する規則正しい車輪の音が聞こえてくると同時に。
「うああああああ、助けてくれえええええ」
――と、聞き覚えのあるような声が聞こえてきた。
リネラスやイノンにも声が聞こえたのだろう。
「ユ、ユウマさん! え? あれはワイバーン!? ユウマさん! ワイバーンに追われている人がいます!」
イノンが表情を真っ青にして体を震わせながら俺に語りかけてきた。
俺は仕方無く振り向く。
そして確認すると溜息をついた。
たしかに、帆馬車が全長10メートル程度の黒色のワイバーンに追われている。
そして追われている男は、俺が立っている方へ向かって馬車を走らせてきていた。
明らかに先ほどの『助けてくれ!』と言う言葉は、俺に向けられて発せられた言葉だろう。
「やれやれ、仕方無いな……」
俺は、帆馬車を追っているワイバーンに向けて手を向けて、魔法が発動する際のプロセスと発動内容と現象を頭の中で組み立てていく。
そして、魔法を発動させようとしたところで――。
「ユウマ、待って!」
「どうかしたのか?」
魔法発動直前で止められた事で、魔法現象イメージが霧散し魔法発動条件が解除される。
「ちょっと……こっち来て!」
リネラスが俺を手招きしてくる。
俺は帆馬車の安否が気になりながらもリネラスに近づき宿屋の入り口に足を踏み入れた。
「あ!? どこに? どこに行ったんだ?」
宿屋に足を踏み入れた途端、動揺を隠しきれない男の声が背後から聞こえてきた。
俺は首を傾げながら後ろを振り返る。
すると、俺の目の前を全力疾走する帆馬車が通り過ぎていく。
そして、その後を追うようにワイバーンも俺の前を飛翔し通り過ぎる。
「リネラス。どういうことだ?」
俺は振り返りつつもリネラスに問いただす。
「えっとね! 冒険者ギルドの建物って町の外で設置した場合には自動的に隠蔽の魔法が掛るようになっているの。鼻が効く魔物や魔力に敏感な魔物には効かないけど悪意ある人間を含んだ生物からは身を守る事が出来るの」
「なるほど……それも冒険者ギルドマスターの特権と言う奴か?」
俺の言葉にリネラスは頷いてくる。
俺は首を回しながら帆馬車の方へ視線を向けると、突然消えた俺のことを宛てにしていたのか、この建物の周囲をワイバーンから逃げながら帆馬車を走らせている。
ただ、全力疾走に近いからなのか馬はもう限界のように見える。
放置しておいていいのだろうか?
俺がジッと帆馬車の方へ視線を向けてるのに気がついたリネラスが俺の背中を何度か軽く叩いてくる。
「ユウマ、あれはコーデル商会のハインツよ。助ける必要なんてないわ」
ふむ……。
俺は、【身体強化】の魔法を発動してから帆馬車の従者をジッと見ながら確認していく。すると、リネラスが言ったように冒険者ギルドで俺に絡んできた男、ハインツで間違いなかった。
「たしかに、冒険者ギルドで俺に絡んできてリネラスを罵倒してきた男に間違いないな」
「そうでしょう?」
「ああ……それなら放置でもいいな! まずは、お茶を飲んで一休みしてからワイバーンが立ち去っていなかったら対処するかどうか考えるか……」
俺の言葉にリネラスは同意してくるが、イノンは『ええええ!? 助けないんですか?』という言いながら俺を見てくる。
助けないんですかと聞かれてもな……。
さすがに俺やリネラスに喧嘩を売ってきた奴を助けるつもりは起きないし、関わったら関わったで、また面倒事に巻き込まれそうだからな。
まぁ何も言わないとイノンも納得しないだろう。
ここは例えを出して、理解を得るとするか。
「イノン、良く聞いてくれ。助けるか助けないかで言うなら俺は彼らを助けるつもりは無い!」
「ど、どうしてですか?」
「それはな……捨て猫や捨て犬だけに関わらず動物に餌をやると言う事は最後まで面倒を見る――つまり最後まで責任を持つと言う事になるわけだ。だからこそ、ああいう奴を俺は助けたくない」
「そ、そうなんですか?」
「ああ! 俺がイノンに嘘を言った事があったか?」
俺の言葉にイノンがうろたえながら、ワイバーンに追われている帆馬車を見て俺を見てを繰り返している。
そして両手を胸の前でグッと握ると。
「わ……わかりました。ユウマさんの事ですから深い考えがあるんですよね……」
「ああ、俺が私怨でムカつくからという短慮な思考で人助けをしないなんて、そんな事がある訳がないからな」
「さすがユウマさんです!」
「まあな!」
イノンが俺の事を尊敬な眼差しで見上げてくる。
しかし……まぁ、そこまで純真な目で俺を見られると心が痛むな。
それからしばらく、俺達は帆馬車がワイバーンに追われる様子を見ながらお茶を嗜んでいるとリネラスが立ちあがった。
「ユウマ! 良い事を思いついたわ!」
「なんだ?」
そろそろ昼寝でもしようと思っていたのだが、何か思いついたのだろうか?
「私思ったの! ここから海の港町カレイドスコープまでは一週間の距離があるでしょう?」
「ああ、あるな……お前とイノンが言った事が正しいならだけど」
「だからね! 徒歩だと大変だから交渉して助けてやるから馬車を寄こせというのはどう思う?」
リネラスの提案に俺は、ハッ!とする。
「さすがはリネラスだな」
「当たり前です! 相手の弱みにつけ込んで交渉をして如何にして成功報酬を増やすかは冒険者ギルドでは新人時代に叩きこまれる常識なんです!」
「お、おう」
そんな常識知りたくなかった。
おかしいな?リネラスに会ったばかりの時は、人のため!とか聞いた気がするんだが……。
リネラスは俺に力説した後、宿屋から出ていく。
そして俺とイノンはカウンター席に座りながらリネラスの交渉を見守る事にした。
「えー、こちら移動式冒険者ギルドですが依頼を受け付けていますよー。今なら何とSランク冒険者があなたを追って食べようとしているワイバーンを倒してくれます!」
リネラスのセールストークを聞いた従者というかハインツが泣き腫らした目でリネラスが立っている方へ視線を向けてきている。
どうやら、宿屋に隠蔽の魔法が掛っている訳であって俺達には掛っていないようだな。
そしてハインツの様子から推察するに、いきなりリネラスが現れたように見えたと思って間違いないだろう。
「た、助けてください! お願いします! すぐに倒してください!」
間髪いれずにハインツが悲鳴に近い助けを斯う声を上げた。
そしてハインツの悲鳴を聞いたリネラスは、口角を上げながらニコリと営業スマイルで微笑んだ。
「うああああああ、助けてくれえええええ」
――と、聞き覚えのあるような声が聞こえてきた。
リネラスやイノンにも声が聞こえたのだろう。
「ユ、ユウマさん! え? あれはワイバーン!? ユウマさん! ワイバーンに追われている人がいます!」
イノンが表情を真っ青にして体を震わせながら俺に語りかけてきた。
俺は仕方無く振り向く。
そして確認すると溜息をついた。
たしかに、帆馬車が全長10メートル程度の黒色のワイバーンに追われている。
そして追われている男は、俺が立っている方へ向かって馬車を走らせてきていた。
明らかに先ほどの『助けてくれ!』と言う言葉は、俺に向けられて発せられた言葉だろう。
「やれやれ、仕方無いな……」
俺は、帆馬車を追っているワイバーンに向けて手を向けて、魔法が発動する際のプロセスと発動内容と現象を頭の中で組み立てていく。
そして、魔法を発動させようとしたところで――。
「ユウマ、待って!」
「どうかしたのか?」
魔法発動直前で止められた事で、魔法現象イメージが霧散し魔法発動条件が解除される。
「ちょっと……こっち来て!」
リネラスが俺を手招きしてくる。
俺は帆馬車の安否が気になりながらもリネラスに近づき宿屋の入り口に足を踏み入れた。
「あ!? どこに? どこに行ったんだ?」
宿屋に足を踏み入れた途端、動揺を隠しきれない男の声が背後から聞こえてきた。
俺は首を傾げながら後ろを振り返る。
すると、俺の目の前を全力疾走する帆馬車が通り過ぎていく。
そして、その後を追うようにワイバーンも俺の前を飛翔し通り過ぎる。
「リネラス。どういうことだ?」
俺は振り返りつつもリネラスに問いただす。
「えっとね! 冒険者ギルドの建物って町の外で設置した場合には自動的に隠蔽の魔法が掛るようになっているの。鼻が効く魔物や魔力に敏感な魔物には効かないけど悪意ある人間を含んだ生物からは身を守る事が出来るの」
「なるほど……それも冒険者ギルドマスターの特権と言う奴か?」
俺の言葉にリネラスは頷いてくる。
俺は首を回しながら帆馬車の方へ視線を向けると、突然消えた俺のことを宛てにしていたのか、この建物の周囲をワイバーンから逃げながら帆馬車を走らせている。
ただ、全力疾走に近いからなのか馬はもう限界のように見える。
放置しておいていいのだろうか?
俺がジッと帆馬車の方へ視線を向けてるのに気がついたリネラスが俺の背中を何度か軽く叩いてくる。
「ユウマ、あれはコーデル商会のハインツよ。助ける必要なんてないわ」
ふむ……。
俺は、【身体強化】の魔法を発動してから帆馬車の従者をジッと見ながら確認していく。すると、リネラスが言ったように冒険者ギルドで俺に絡んできた男、ハインツで間違いなかった。
「たしかに、冒険者ギルドで俺に絡んできてリネラスを罵倒してきた男に間違いないな」
「そうでしょう?」
「ああ……それなら放置でもいいな! まずは、お茶を飲んで一休みしてからワイバーンが立ち去っていなかったら対処するかどうか考えるか……」
俺の言葉にリネラスは同意してくるが、イノンは『ええええ!? 助けないんですか?』という言いながら俺を見てくる。
助けないんですかと聞かれてもな……。
さすがに俺やリネラスに喧嘩を売ってきた奴を助けるつもりは起きないし、関わったら関わったで、また面倒事に巻き込まれそうだからな。
まぁ何も言わないとイノンも納得しないだろう。
ここは例えを出して、理解を得るとするか。
「イノン、良く聞いてくれ。助けるか助けないかで言うなら俺は彼らを助けるつもりは無い!」
「ど、どうしてですか?」
「それはな……捨て猫や捨て犬だけに関わらず動物に餌をやると言う事は最後まで面倒を見る――つまり最後まで責任を持つと言う事になるわけだ。だからこそ、ああいう奴を俺は助けたくない」
「そ、そうなんですか?」
「ああ! 俺がイノンに嘘を言った事があったか?」
俺の言葉にイノンがうろたえながら、ワイバーンに追われている帆馬車を見て俺を見てを繰り返している。
そして両手を胸の前でグッと握ると。
「わ……わかりました。ユウマさんの事ですから深い考えがあるんですよね……」
「ああ、俺が私怨でムカつくからという短慮な思考で人助けをしないなんて、そんな事がある訳がないからな」
「さすがユウマさんです!」
「まあな!」
イノンが俺の事を尊敬な眼差しで見上げてくる。
しかし……まぁ、そこまで純真な目で俺を見られると心が痛むな。
それからしばらく、俺達は帆馬車がワイバーンに追われる様子を見ながらお茶を嗜んでいるとリネラスが立ちあがった。
「ユウマ! 良い事を思いついたわ!」
「なんだ?」
そろそろ昼寝でもしようと思っていたのだが、何か思いついたのだろうか?
「私思ったの! ここから海の港町カレイドスコープまでは一週間の距離があるでしょう?」
「ああ、あるな……お前とイノンが言った事が正しいならだけど」
「だからね! 徒歩だと大変だから交渉して助けてやるから馬車を寄こせというのはどう思う?」
リネラスの提案に俺は、ハッ!とする。
「さすがはリネラスだな」
「当たり前です! 相手の弱みにつけ込んで交渉をして如何にして成功報酬を増やすかは冒険者ギルドでは新人時代に叩きこまれる常識なんです!」
「お、おう」
そんな常識知りたくなかった。
おかしいな?リネラスに会ったばかりの時は、人のため!とか聞いた気がするんだが……。
リネラスは俺に力説した後、宿屋から出ていく。
そして俺とイノンはカウンター席に座りながらリネラスの交渉を見守る事にした。
「えー、こちら移動式冒険者ギルドですが依頼を受け付けていますよー。今なら何とSランク冒険者があなたを追って食べようとしているワイバーンを倒してくれます!」
リネラスのセールストークを聞いた従者というかハインツが泣き腫らした目でリネラスが立っている方へ視線を向けてきている。
どうやら、宿屋に隠蔽の魔法が掛っている訳であって俺達には掛っていないようだな。
そしてハインツの様子から推察するに、いきなりリネラスが現れたように見えたと思って間違いないだろう。
「た、助けてください! お願いします! すぐに倒してください!」
間髪いれずにハインツが悲鳴に近い助けを斯う声を上げた。
そしてハインツの悲鳴を聞いたリネラスは、口角を上げながらニコリと営業スマイルで微笑んだ。
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