【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

魔王ユウマ VS 瞬殺の殺し屋ガムル

 そして翌日――。
 俺はベッドから起きる。
 隣のベッドを見るとイノンがまだ寝ていた。

 彼女を起こさないように俺はそっと起きてから、魔物が町に寄ってきていないか【探索】の魔法を発動させる。
 俺が発した探索魔法は超音波となり、周囲の地形から全ての生物まであらゆる物質に反響して戻ってくる。
 それらは、俺の頭の中でマップを作りどのような地形なのか、どんな生物がいるのかを克明に表していく。

「これは……!?」

 頭の中で無数のグレーの光点が表示されていく。
 その数は、ウラヌス十字軍の数よりも多い。

 向かってきている進行速度から見て大部分の動きはそんなには早くないと思われる。
 ただ、隊列が整い過ぎているのが気にかかるところだ。

「軍隊か? ……いや、まさか!?」

 俺はすぐにベッドから出るとタライの中に水素分子を結合させた水を落とす。
 そしてタライの中の水で顔を洗ったところで。

「――んっ、……ユ、ユウマさん……?」

 イノンが俺の生を呼ぶ声が聞こえてきた。
 寝起きだというのが声色から分かる。

「すまない、起こしてしまったか?」
「ううん、大丈夫……だけど、どうしたの? そんなに慌てて……って!? え?どういうことなの? なんでユウマさんが私の部屋にってあれ? ここってユウマさんのお部屋? どうして私ここに……」

 そこで、ようやくイノンが昨日の事を思い出したのだろう。
 顔を真っ赤に染め上げていく。
 ただ、いまの俺にはそれを気にしている余裕がない。

「イノン、悪いがどこかの兵団だと思うが、この村に近づいてきている。相手がどこの誰かが分からないし目的も定かではない。俺が調べてくるからイノンは、村の連中になるべく家の外に出ないように伝えてくれ」
「は、はい。無理をしないでくださいね?」

 まだ起きたばかりで頭が回っていないのだろう。
 イノンは、詳細を確かめずに頷くだけ頷いてきた。

「さて、行ってくる」

 俺は2階の窓を開けると窓から飛び降りる。
 そしてフィンデイカ村の南側に向かう。
 そして村から少し出たあたりで騎馬隊の姿を俺の目は捉えた。
 思っていたよりも、ずっと進行速度が速い。

「仕方無いな……」

 あまり適当な仕事はしたくないんだが、この際……背に腹は代えられないな。
 俺は、大気の原子構造を組み替えた後に分子を結合により大気を変換させる。
 それに伴い、大気は極度に圧縮された巨大な物質に変換され村の周囲を囲っていく。
 まったく凹凸が無い高さ50メートル、厚さは5メートルはある巨大な土壁が出来上がった。
 それらの壁を見た騎馬隊達は俺の方を驚愕な眼差しで見てくる。

「なんだ? 壁ができただと?」
「とまれ! ぶつかるぞ!」
「どうなっている? どこからこんなものが……」
「イーバンス子爵様、あの男が作ったようです!」
「あの男が? そんな馬鹿なことが!」

 最後の男が俺を見て叫んでいる。
 どうやら、イーバンス子爵と言うのがアイツらの軍の中では指揮官のようだな。
 ならば、目的を聞いてみるか?
 俺は、イーバンス子爵の方へ向けて歩いて近づく。
 近づかれた男たちは馬上から俺に槍を向けてくる。

「そこのイーバンス子爵とやら、お前らの目的を聞いてもいいか? これだけの軍勢を引いてきたのだ。何か目的でもあるのか?」
「我らは、ネレイド公爵家の元に集った軍勢だ。フェンデイカの村にエルンペイア王の治世に逆らう魔法師を討伐するためにこの地へ来た。かなり凶悪の魔法師らしく言葉が通じない者だと聞いている」

 ふむ。言葉が通じないか……。
 なら俺には関係ないな。

「そうか、俺もそんなに凶悪な奴がいるとは……」

 まぁ、俺の探索魔法にも限界があるからな。
 俺が敵と判断しない以上、敵性色である赤では表示されないから仕方ない、そう仕方無いんだ。
 そういえばソイツの名前を聞いていなかったな。

「それで、その凶悪な魔法師の名前は何て言うんだ?」
「ああ、ソイツの名前はユウマと言う魔法師らしい」
「ふむ……ソイツの名前なら聞いた事があるな」

 俺の言葉に騎馬兵達がざわつく。

「どこにいるか教えてもらってもいいか?魔法師殿」
「ああ、この俺だ。俺の名前がユウマと言う。一応、言葉は通じるつもりだったんだが極めて遺憾だな」

 俺の言葉に騎馬兵達の顔色が変わる。
 まったくざわついたり顔色を変えたり忙しい奴らだな。
「イーバンス子爵。騙されているのではないか? 俺はお前らの敵ではないぞ? 無益は殺生は好まないからな。 俺が殺したマリウスって奴だったか? 民を守る騎士団のくせに村人を殺し奴隷にし民に対して暴挙をする奴らが正義だとは俺には到底思えないんだが、そのへんはどうおもうんだ?」

 俺の言葉に兵士達はどうしたらいいかという顔をイーバンス子爵へ向けている。
 俺としては問答無用で攻撃してきてくれた方が楽でいいんだが、迷われるようだと逆にこちらも困るんだがな。
 手加減もしないといけなくなるし……。

「貴様の言い分は分かった。だが、ユウマとやら! 貴様はネレイド公爵家の軍に手を上げたのだろう? 貴族に平民が逆らう事は重罪だと理解していないのか?」
「ん? 何を言っているんだ? 貴族だろうが国王だろうが、俺に危害を加えるなら等しく敵だろう? もっと言わせてもらえば、お前ら貴族は民の納税した食物を口にしているんだぞ? 本来ならばお前らの方が民に対して心を砕くのが筋だろうに。それが逆らう事が重罪だと? おいおい、寝ぼけるなよ? いつから貴族はそんなに偉くなったんだ? 貴族の義務も果たさない奴を生かしておく意味があるのか? 相手に危害を加えるつもりなら自分も同じ事をされる可能性があると何故理解しない?」

 俺がイーバンスと話をしている間にも兵士が集まってくる。

「イーバンス子爵、貴様に言っておこう。この俺の敵になるなら手加減は一切せず全員殺す。だが、お前らにも家族はいるのだろう? 俺は戦う意志を持たない者は殺さないし殺すつもりもない。だから10分だけ時間をやる。貴様ら全員で相談しろ、その結果戦うなら俺は躊躇せず全員を屠る」

 俺は、それだけ伝えると壁に寄りかかった。
 するとイーバンス子爵は、青髪の眼帯をつけた男の下へ向かっていき話を始めたようだ。
 どうやらアイツが総指揮官のようだな。

 様子を見ているとイーバンスの首が宙を舞い地面に落ちた。
 それを見て、俺は眉元を顰める。
 子爵を殺すとか、何を考えているんだ?
 俺がまっすぐに青髪の男を見ていると男の指示により軍勢が一気に動き出す。

「イーバンス子爵は、姑息にもそこの魔法師に操られていた! 卑劣なその魔法師を打て!」

 男の言葉に大勢の兵士達の歓声が聞こえてくる。
 俺は溜息つきながら壁によりかかるのを止めて、兵士達を見据える。
 兵士達は一斉に俺に向かってくると槍を突き出してくる。
 俺は、その場に伏せながら右手を地面に手をつく。

 そして原子構成を、金属結合を行い刀を作り出す。
 それに伴い【身体強化】の魔法を発動させ限界まで引き上げる。

 そうして俺は右手に、練成し作り上げた柄から刃先までもが全てが金属で作られた10メートルを超す長刀を円を描くように振りきる。
 刃はつけていないが重量と遠心力に速度が加わりすさまじい破壊力となって戦場を爆風が吹き抜ける。
 戦場を吹き抜けた爆風により馬と兵士が空に舞い上がる。
 そして舞い上がった兵士達は地面に落下する。

「バ、バカな?……た、たった一振りで30人を?」と呟いている者もいる。
 俺はそれらを無視しながら、青髪の男に視線を向ける。

「おい、そこの青髪の奴。俺が先ほどイーバンス子爵に伝えた内容は聞いていたよな? どうして撤退しない? それに何故、奴を殺した?」

 俺の言葉を聞いた男は笑いだした。

「これは傑作です。マリウス、ラグルド、ヴァルドの元Sランク冒険者を殺した奴がこんなにも甘い人間だとは思っても見ませんでした」

 マリウスは知っているが他の2人は知らんな。
 他の2人も俺が殺したような言いがかりをつけられても困る。

「マリウスは殺したが、他の2人は知らん。貴様の勘違いではないのか?」
「勘違いではありません、もういいでしょう、殺れ!」

 周りを見渡すと無数の魔方陣が展開されていた。
 俺は、最大の力を持ってして長刀を円状に振る。
 それだけで巨大な風圧が発生し魔法を展開しようと俺を囲んでいた兵士達が吹き飛ばされ魔法が解除されていく。 
 魔法を強制的に解除された兵士達は驚愕の顔を俺に向けてきた。

「分かった。貴様は俺の敵でいいんだな?」
「敵でいい?私は最初からお前を殺すつもりだがな!」

 獲物を抜いた男の姿が消える。
 俺はとっさにその場から離れるが服の一部が切られていた。
 そんな俺に向けて突然、目の前に姿を現した男は口角を歪ませる。

「よく私の攻撃を避けられましたね」

 俺は、周囲に視線を向ける。
 すると、周囲には無数の兵士が転がっていた。
 全員が首を刈られて絶命しているのが分かる。

「私の名前は瞬殺の殺し屋ガムル! 自身ですら制御しきれない速さで相手を殺す力を持つ者です!」

 ふむ、なるほどな。
 俺は頭の中で魔法のイメージしながらガムルの動きを見る。

「防げるものなら防いでみなさい! このSランク冒険者最高最強の移動攻撃速度を持つ私の瞬殺剣を!」

 俺の視界から殺し屋ガムルの姿が消える。
 そして何かがブチ当たる大きな音が周囲に鳴り響いた後、辺り一面に血の雨が降り注ぐ。
 俺は一言だけ呟く。

「馬鹿だろお前、自身ですら制御できない速さで移動して攻撃したらだめだろ? 壁作られたらどうやって避けるんだよ」

 俺が瞬時に作り出した壁に、ガルムは突っ込んできて四散した。
 もちろんガムルの死体は残ってはいない
 そして、指揮官が殺されたからなのか誰もが凍りついたように動けずにいた。
 ふむ、丁度いいか。

「貴様らの指揮官である瞬殺の殺し屋ガムルは、この俺が倒した! まだ戦おうと言う者がいるのなら俺に殺される覚悟をしろ! 戦う覚悟が無い者は武器を捨てて投降しろ!」

 俺の言葉に逃げ出す奴が出始める。

「貴様!よくもガムル様を!」
「警告はしたからな?」

 それでも逃亡するわけではなく何十人も俺に向かってくる。
 それらを全て【風刃】の魔法で発動させた真空の刃で屠っていく。
 その様子を見ていた兵士達は恐慌状態になり走り去っていった。
 俺は、去って行く大軍をみながら溜息をつく。

「さて、ネレイド公爵だったか?俺に手を出したんだ。きちんとお礼はしにいかないといけないな」

 とりあえず、かなり魔力を使った事だし明日にでも行くとするか。
 それに、ネレイド公爵がどこに住んでいるか分からないからな。

 俺は、村に戻る為に壁に出口を作り村に向かっていると昨日、俺に絡んできた奴らが村の入り口で荷物を積み込んでいるのが見えた。
 フィンデイカの村に広場を通ると、そこには何百人ものフェンデイカの村人が集まっていた

「ユウマさん!」
 振り返るとイノンが走りながら俺に近づいてくる。

「すいません、ユウマさん。皆に伝えて回っていたんですけど……間に合いませんでした。それにあの壁が出来て皆不安になって集まってきてしまって……」

 たしかに、50メートル超えの壁は少しやり過ぎだったかもしれないな。
 だが、魔物がいたりするからな。

「イノン。村の皆には、フェンデイカの村を襲ってきたネレイド公爵軍を敗退させた事と、ガムルを殺した事を伝えてくれ。それとラグルドとヴァルドと言う奴らも何者かに殺されていると言っておいてくれ」

「え?本当ですか?あ、あの……死神四魔将が全部倒されたんで……すか?」
「ああ、よく分からないがそうなるのか?」

 なんだよ、死神四魔将って……四天王かよ。
 まあいいか。壁を作成するクエストも完了したことだしギルドに報告だけしにいくか。
 俺は、広場から移動した後に冒険者ギルド『冒険者が集う場所フェンデイカ支部』に足を踏み入れる。
 ギルドの両開きの扉が閉まると。

「おかえりなさい、ユウマ。朝からすごいゴタついているみたいね」
「村の周りの壁を作ったからだな」

 俺は冒険者カードを取り出しリネラスに渡す。

「はい、たしかに依頼完了です。金貨5000枚とSランク冒険者達成おめでとう!」
「あまり実感はないな。それと貯金しておいてくれ」

 俺の言葉に頷いたリネラスの手元から金貨が入った袋が消える。

「ユウマ。私、どんな壁が出来たか見てないから様子みてきていい?」

 俺は頷きながらギルドホール内の椅子に腰掛ける。

「好きにしろ、仕事の出来を確認するのも冒険者ギルドの職員の役目だと思うからな」
「それじゃ行って来るね!」

 そう言うと、リネラスが冒険者ギルドの建物の外に出て行った。

「さて、リネラスが戻ってくる前に撤退するとするか」

 俺は早々と『冒険者が集う場所フェンデイカ支部』を後にした。
 それから数分後、息を切らせたリネラスが戻ってくる。
 そして――。

「ユウマ! やりすぎ! 少しは自重してください!って……あれ?」

――と、リネラスが叫んだ先にには、目的の人物であるユウマの姿は無かった。


コメント

  • ノベルバユーザー195124

    なんか色々と誤字りすぎですよ?
    ちゃんと見直して投稿するか修正した方がいいと個人的には思います。でも話自体はとても面白いので他の作品にも期待しています!これからも頑張ってください!

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