【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

魔王ユウマ降臨!

 カークス達と分かれた後、俺はしばらく歩くと地図を見る為に【光球】の魔法を発動させる。
 そして懐からアライ村長の家から拝借してきた地図を見ながら考えていく。
 まずは、これからの方針だ。

 アライ村から出てきた俺がする事は、派手に動いて相手の関心をこちらに引き寄せる事。
 そして魔王としてキチンと認識させる為には、魔王として動かないと行けない理由だが……。

「魔王って何をすればいいんだ?」

 俺は一人で呟きながら首を傾げる。
 そもそも、ウラヌス十字軍が考えている魔王の定義は強い魔法が使えて魔物を使役出来る事にある。
 魔物を使役するには契約が必要だが……。

「そういえば、俺って妹が使い魔契約したから使い魔契約の魔法とか知らないな」

 本来ならヤンクルさんから使い魔契約の魔法を、スライムと契約するときに教えてもらうはずであった。
だが、妹が契約をしたことで教わっていない。
 致命的なミスである。
 そうすると魔法とか魔王らしい振る舞いで演技をしないといけなくなる分けだが。

「ふむ……。想像もつかないな……」

 一人顎に手を当てながら考える。
 とりあえずは、俺の頭の中にある知識を総動員していく。
 俺の頭の中にある知識には魔王というのは残虐非道な人間のゴミみたいな奴という印象がある。
 つまり、俺は悪くない!相手が悪いんだ!
 もっと言えば俺の生活が苦しいのは世の中が悪い!みたいな感じか。
 良く分からないな……。
 とりあえずは尊大な態度というか、そんな感じが必要だろうな。
 貴族や王族相手にも、おい!お前!みたいな言い方が良いかもしれない。

 あとは、無償で善意を行うのは魔王らしくないから対価をもらう方がいいだろう。

「くくくっ、畑を耕して欲しければ! それ相応の謝礼を用意するのだな!」

 こんな感じか?
 まぁ、くくくっ!とっ言うのはいらないのかもしれないな。

 でもまぁ、何かと魔王宣伝していけばそのうちウラヌス十字軍も俺の後を追ってくるはずだろう。
 そうだろう、そうだよな?
 これも全て妹アリアを守るためにウラヌス十字軍の視線をこちらに向けるために必要なのだ。割り切るとしよう。

 大まかな方針を決めたところで俺は地図を確認する。

「それにしても町も何も書いてないのがこまるな」

 俺は手元の地図を見てぼやく。
 アライ村長の家にあった地図はアルネ王国内の自国内ですら鮮明に書かれていない簡略化されていた地図であった。
 いくら地図が国家戦略上、重要な物であったとしても、これはちょっと困るな。

 これではどちらに向かっていいのかすら、分からない。
 まぁ仕方無い……それなら、方法はあるからな。

 俺は朝日が見えるまで、今の場所で休む事にした。
 朝になれば、人が通る街道でも簡単に見つける事ができるだろうし、人と出会う事が出来れば道を聞けばいいし、まだ慌てるような段階じゃない。

 俺は、木を昇っていき枝の上で横になると【光球】の魔法を維持したまま目を閉じた。

「人と全然会わないけど、どうなっているんだよ!」

 俺は一人突っ込みを入れながら獣道すら無い山の中をずっと歩き続けていた。
 誰だよ!すぐに人とか人が通るような街道が見つかるとか言っていた奴は!

「まて! 落ち着け俺……クールになるんだ。俺は悪くない……そう、世界が悪いんだ」

 そう、俺の考えは間違っていないはず。
 ただ、世界が少しばかり俺に厳しかった。
 それだけの事だ。

「しかし……【探索】の魔法を使っても何の反応があるのは小動物の反応ばかり……嫌、これは川の反応か?」

 たしか古代では、川の畔に町や村を作るのは常識だったはず。
 そう考えると川沿いに歩くのがいいかも知れないな。

「とりあえず川を下っていってみるか?」

 徒歩で川沿いを下っていくこと数時間――。
 目の前が突然開けて、草原地帯に俺は足を踏み入れた。

「ようやく森を出たか……しかし、疲れたな――んっ?」

 今、視界の先で何かが見えたような……。
 俺は【身体強化】の魔法を発動させる。
 すると3人の鎧を着た男の兵士と女性一人の姿が見えた。
 丁度いい、彼らに話を聞けば町か村までの道が分かるかもしれないな。

「すまない、少しいいか?」

 俺は、男たちと女の間に割って入る。

「貴様! 何者だ? この女の仲間か?」
「仲間?」

 俺は後ろをチラリと振り返る。
 年齢は20歳後半か?金髪碧眼とヨーロッパ人の特徴をもつかなりの美人だが知り合いではないが、女性はかなり疲労しているようで肩で息をしている。
 さて、どう答えたらいいものか。

「ヘイズ、女は生かしてこの目撃者は殺したほうがいい」

 俺が、どう対処していいか考えていたところで兵士の一人がヘイズという男に俺を殺した方がいいと助言をしている。
 しかしいきなり殺した方がいいとか、ユゼウ王国は荒れ過ぎだな。
 さて、争いごとの最中だったのは分かったわけだ。

「この女とは俺は一切関係ないが! お前達は重大なミスを犯した」
「重大なミスだと?」

 3人の兵士が一斉に腰から武器を抜いて俺へと向けてくる。

「そう、この俺を貴様らは殺すと言ってのけた! それこそが重大なミスであり失態だ!」
「なんだと?」

 ヘイズが眉元を顰めてくる。

「俺の名前は魔王ユウマ! 全ての魔道を極めし最強の魔法師なり! 俺に剣を向けると言う事は神に剣を向ける事と知れ!」

 ふっ……きまったな。
 なかなか、いいんじゃないか?魔王ユウマ!とかさ。
 目の前の3人の兵士だけではなく後ろの美人まで呆気に取られているようだし、魔王としての序章としては完璧すぎるスタートと言っていいだろう。

「ふ、ふざけるな!」
「ふざけるなだと? 俺は至って普通に当たり前に常識的に貴様らに分かりやすいように説明したはずだが?」

 俺の言葉に3人の兵士がシビレを切らして斬りかかってくるが俺は、【風刃】の魔法を発動させる。
 発動した真空の刃は、男達の武器を斬り裂いた。
 斬り裂かれた刀身が宙に舞う様子を男達は驚愕の眼差しで追っていた。

「で? お前らは魔王たる我に戦いをまだ挑もうというのか? 挑むなら今度は容赦しないが?」

 まぁ、敵になるなら仕方ないな。
 俺も流石に根首をかかれるのは趣味ではないし、魔王としても振舞わないといけない。攻撃を仕掛けてきたら殲滅して町は後ろの女に聞くとしよう。

「貴様……冒険者なのか? 我らに立てついてどうなるのか分かっているのか?」
「知らん。そもそもお前らが誰かすら知らん。で……だ。お前らは俺の敵なのか?10秒間だけ時間をやる。道を教えるならさっさと答えろ」

「ふ、ふざけるなよ! 我らを知らないなどそんな事が――」

 男達の言葉が言い終わる直前に、空気内の含有物質の割合を魔法で変更し男達の意識を刈り取る。
 まったく面倒くさいやつらだな。
 仕方無い、道は女性に聞くしかないか。
 終えは後ろを振り返ると――。

「すまないが、町か村までの行き方を教えてもらえないだろうか?」

 と、振り返って語りかけた女性は素直に了承してくれた。俺は男達が追ってくると面倒かと思い、四肢の関節を外した上で男達が着ていた服で、男達の体を縛り上げると女性の案内でその場を後にした。

 歩き出してかれこれ30分近く経過。
 まったく村の影すら見えない。
 森の中ならいいが、ここは平原だ。
 30分と言ったら相当な距離のはずなんだが……。

「村までずいぶんと遠いんだな?」
「はい、彼らに追われてしまいかなりの距離逃げていましたので」

 なるほど、つまり俺は彼女を助けにきた人間だと思われたわけか。
 まあ、きちんと事情を説明したし、それでも攻撃してきたんだから四肢の関節を外されて
縛り上げられたあいつらも納得しているだろう。
 むしろ、殺されないだけよかったまである。

「それより、追われていたと言うことは、何かしたのか?」
「私が? そんなことありません。あっ……! 申し訳ありません。助けて頂いたのに! まだ名前をお伝えてしていませんでした。私の名前はイノンと言います」
「そうかイノンか、俺の名前は……「ユウマさんですよね?」……まあ、そうだな、ところで、どうしてあいつらに追われていたんだ?」

 俺の言葉にイノンが表情を曇らせる。

「はい、彼らは私達が税を納められなかったので、奴隷とするためにネイルド公爵家が派遣した軍なのです」
「奴隷ねえ」

 そんな非経済的な物を作ろうなんて愚かの行為だと思うが、これは逆にチャンスかもしれないな。
 そういう奴なら俺が戦うとすれば色々と宣伝とかしてくれそうだし。
 ウラヌス十字軍の目もこちらに向きやすくなるかもしれない。

「はい!でも、もう大丈夫です」

 イノンが俺を見上げながら目を輝かせている。
 まぁ、きっと俺が救世主とか見えて無償で助けてもらえるとか勘違いしているのかも知れない。

「あー。なんだ?俺はお前たちを助けるつもりなんてないぞ? 自分たちの事は自分でなんとかしないと駄目だろ?」

 俺は無償で助けるような真似はしないと事前に釘を刺しておく。
 俺は、もうそう言うことはやめたんだからな。

「ですが……」

 言葉に詰まってしまった彼女を見下ろしながら表情に出さずに内心ため息をつく。


「まあ、あれだな。うまい飯と風呂と宿を用意してくれるなら駆除を手伝ってやらんでもない」
「ほ、本当ですか?」
「ああ、これはお前たちの為じゃないからな。俺のためだ、勘違いするなよ?」
「分かっています!ありがとうございます」

 ちっ、おれの為だと言っているだろうに……。

「ただの等価交換だ、感謝される謂われはない。さっさとその村に案内しろ」
「分かりました!」

 イノンが小走りで村がある方へ向かっていく。
 その様子を見ながら俺は、【探索】の魔法を発動させた。

 そして急速に近づいてくる存在に気がつく。
 これは――ウラヌス十字軍と戦ったときに見たことがある!?

「イノン!そこで停まれ!」

 俺はイノンの前に立つと飛来した矢を【風刃】で切り裂く。
 すると前方から20人の鎧と槍で武装した兵士たちが姿を現した。

「そこの貴様! その女を引き渡してもらおうか?」
「イノン、あいつらがそうか?」

 俺の言葉に、イノンは何度も頷くのを見て俺は交渉を開始する。

「悪いが、こいつは俺と契約を結んだんだ。だから渡すわけにはいかないな」

 俺の言葉に彼らはざわつく。

「ゼノンさん、まずいですぜ! あの男、矢を切り裂いたといい魔法師ですぜ」
「分かっている!」

 ゼノンと呼ばれた男はどうしていいのか決めあぐねているようだ。
 ならば、俺が交渉する事で彼らを退かせる事ができる。

「ゼノンさんとやら、悪い事は言わない。ネイルド公爵家の所にさっさと尻尾を捲って帰った方が身の為だぞ? いまなら五体満足で帰れるからな? 荷物まとめてさっさと帰れ。撤退の時間くらいはやるぞ!」

 こんなもんでいいか。
 問答無用で倒してもいいんだが、この方がネイルド公爵家も警戒するだろうし。

「ふ……ふざけるな!!」
「全員あいつを殺せ!だが女は生かしておけよ?」

 ゼノンとやらの言葉に全員が抜刀してくる。
 ふう、まったくどいつもこいつも言葉が通じないな。

「最後通告だ。このまま尻尾を巻いてさっさと帰れ、そうすれば死なずに済むぞ? もしそれ以上近づくようなら敵と見なす」

 俺の言葉を合図とするように兵士達が殺到してくる。
 俺は、一人を残して全員を【風刃】の魔法で殲滅した。

「は? え?……」

 ゼノンは部下であった20人近くの兵士が倒された事を理解出来ていないようだ。
 理解出来ていないならきちんと教えてやる必要があるな。

「さて、ゼノンとやら貴様を生かしたのは村にいる兵士の撤退を指示させるためだが分かっているな? 断ればこの場で貴様を殺すがどうする? 10秒だけ時間をやるから答えは迅速にな?」

「くっ! 撤退致します」
「交渉成立だな」

 俺は、魔王らしく尊大に言ってのけた。

 


コメント

  • アプス

    楽しく読ませていただいております!
    ストーリーが充実しており面白いのですが誤字や文章的におかしいところがあるのでそこが残念です
    これからも頑張ってください!応援してます!

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