【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

想像を超える産物、大聖堂顕現!


 スライムと妹が従魔契約を結んでから一週間が経過していた。
 俺は家族と食事をしながら横をチラッと見る。
 そこには妹と主従契約したスライムが居た。
 どうやら俺が作ったスライムは特殊らしく、形状を自由に変化させたり、分裂も出来るらしい。
 現在は、手に平サイズになっているスライムに、妹が蒸かした芋を妹与えている。

「アリアは、今日はどうするの?」
 母親が妹に話しかける。

「えっと、今日は村の皆の家のおトイレに分裂したスラちゃんを置いてくるの。何でも食べられるって言っているからおにいちゃんが前に言ってた衛生面を考えて皆に言ったらぜひにってお願いされたの」
 ふむ……。
 作る際に考えたのは、浄化設備で使われているプランクトンのごとく、何でも食べられて消化できて増える事を想像して、スライムの種に魔力を注いだからな。
 多少、変な風になっているのかも知れないな。

「そうね、最近はスラちゃんの子供たちのおかげで雑草も全部食べてくれるから助かるわよね」

「ああ、ヤンクルさんも狩りを教えたらしいが飲み込みが良いらしい。ほめていたぞ」
 親父がスライムを褒めていた。

「……」
 ふむ……。
 俺は朝ごはんを食べると家を村の南の門に向かった。
 門の前ではウカル様がウロウロしている。

「すいません、遅くなりました」

「待っていたよ。、ユウマ君。それで例の話しだけど、本当にするのかい?」
 俺はウカル司祭様の言葉に頷く。
 するとウカル司祭様が溜息をついた。

「分かったよ、あとはこっちでなんとかしよう。それと、それで教会は内装も出来たのかい?」
 俺はウカル司祭様を見上げながら――。

「はい、ばっちりです。遠くから見てもアース教会というのが一目で分かる作りになっています」
 ――と答える。そんな俺の発言にウカル司祭様、笑いながら語りかけてくる。

「ユウマ君は大げさだな。普通の町にあるような教会なのに、遠くから見れるわけないじゃないか」
 ウカル様は、教会が出来ているということに安堵したのか笑顔だ。
 その時、俺の《探索》の魔法範囲内にグレーの光点が20個表示された。
 どうやら、これが大司教一向の可能性が高いな。
 俺の探索魔法エリアに大司教の一団が入った後、10分ほどでその姿を目視できる位置まで来た。

 大司教の一団の下へ俺とウカル様が近づく。
 すると彼らは前進を止める。豪奢な馬車から一人の老人が姿を現した。
 中背中肉で身長は俺より少し高いくらい。
 年齢は60歳後半だろうか?白い法衣を着こなしている。
 そしてアース教会のエンブレムを象った十字架を首から下げていた。

「ハネルト大司教様、こんな辺鄙なところまでようこそおいでくださいました」
 ウカル様が頭を下げたので俺もそれに合わせて頭を下げる。

「よいよい、ウカルよ。おぬしの功績は聞いておる。ずいぶんと精進したのだな?して……そちらがエメラダ様からご報告のあったユウマ殿か?」

「はい。何かと教会の祭事を手伝って頂いています」

「……ふむ。ブルーム騎士団長もおるのか」
 ハネルト大司教様がブルーム達のテントに立っている旗を見て眉を潜めている。
 もしかしたら軍と宗教というのは仲が良くないのだろうか?

「何か問題でも?」
 ウカル様が質問をするがハネルト大司教様は『何でもない』と呟いていた。

「時にユウマ殿、イルスーカ侯爵領アース教会本部に一度来てはくださいませんか?」
 俺は首を傾げる。
 そんな事をしてこの人は何の得があるのかと。
 ただ……。

「俺は冒険者になる予定なので、申し訳ありません」
 宗教は嫌いだからいつもの方法で断る。

「ふむ……。それではこういうのはどうじゃろう。後学のために本部のあるイルスーカ侯爵領首都イルテイアに来られて冒険者になるというのは?もちろん滞在費も交遊費も生活費も基盤が出来るまでこちらが保証しよう。君に頂いた恩はそれだけあるのだよ。井戸とポンプに読み書き計算の出来る人材、私は君を評価しているのじゃ。君のような優れた才能が村で朽ちていくのは忍びない、考えてはくれんか?」

「……」
 なるほど。
 つまり井戸やポンプを教会は実用化できたって事か?
 ある意味すごいな。
 それと最近、村から町にいくって出ていった奴が何人かいたがまさか教会にスカウトされていたとは……。
 とりあえず、それは横においておいて。

「申し訳ありません。今はそのような事など考えてはおりません」
 もうすぐ村から出ていくのだ。
 ここで相手に期待を持たせてもしかたないだろうし、下手に期待させたらウカル司祭様に迷惑がかかるかもしれない。
 はっきりと断っておいたほうがいいだろう。

「そうか。気が向いたらウカルに伝えてくれ。それではウカルよ教会まで案内してもらえるかの?20年前に来た時は、たいした事は出来んかったからのう。少しは設備をよくしたいものじゃ」
 ハネルト大司教様は、ウカル様と共に馬車に乗ると橋を渡り村の中に入っていった。
 俺はハネルト大司教様が乗った馬車を追いかけるように入っていった御付の者の姿が見えなくなるのを確認し《肉体強化》の魔法を発動させて教会に先回りした。

 しばらくすると馬車が見えてきたので《認識阻害》魔法を解除する。

 それと同時に高さ69メートルの尖塔を持ち横に60メートル、奥行きも60メートルはある巨大な寺院がその姿を現す。
 教会の壁は、練成魔法を使いまくり白い大理石のつくりになっている。
 そして窓には3メートル近い強化ガラスを使用した色鮮やかなステンドグラスが太陽の光を教会の中に取り入れ幻想的な雰囲気を作り出していた。
 さらに魔物であるワイルドボアの赤い毛をふんだんに使った赤い絨毯が寺院の目玉である大聖堂に敷かれており両脇には森の木材から作り出した長いすが40脚づつ綺麗に並べてある。

 内部の屋根を支える巨大な大理石の柱には、この村から見える風景の彫刻を施しており説法をとく壇上の背後にもステンドグラスをもちろん埋め込んでおいた。

 そう、俺の力作が今ここに顕現したのだった。

 俺は教会の屋根上から下を見下ろし様子を窺う。
馬車から降りてきたハネルト大司教様は、俺が作った教会を見た後に泡を吹いて倒れ、護衛の人や付き人に介護されていた。
 さっきまで元気だったのにやはり無理をして視察をしていたのだろうか?

 そしてウカル様は、俺が作った教会を見た後に、顔を真っ青にして周りを見渡して誰かを探していた。




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