【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

スライムの種が孵った!?

 露天風呂が出来た事を、村の皆に伝えようとしたが俺一人の力では時間がかかりすぎる。
 それで俺はウカル様の情報網を頼ることにした。
 たしかウカル様は、教会の集会をする時、村人全員に連絡が行き渡る方法を構築していたはず。

 村長の家の扉を何度も叩く。
 ユウマ露天風呂開店まで時間がないのだ。
 一日置くと、村の皆が発見してインパクトが欠けてしまう。
 そうすると村の皆の俺に対する好感度が上がりにくくなる。
 それはいけない。
 せっかく作った物を最高の状態で提供する事こそエンターテイメントではないか!
 そしてそれは俺の高評価にも繋がるのだ。

「どなたですか?」
 ウカル様が村長の家から出てきて俺を見てきた。

「ユウマ君、どうかしたんですか?もしかして教会が完成したんですか?」
 俺は頭を振る。
 まだ最後の仕上げが残っているが1日あれば終わる所だ。

「実はウカル様にお願いがありまして……」

「ユウマ君のお願いですか……また何か問題を起こしたりするとかはないですよね?」
 ウカル様は俺のことを問題児か何かと勘違いしてるようだ。
 俺はこんなにウカル様派なのに!

「大丈夫です。俺は人に迷惑をかけない事をモットーに生きていますから」

「……あ、うん」
 歯切れが悪い答えに心配になってしまう。
 どこか体の具合が悪いのだろうか?
 でも表情を見る限り特に問題は無さそうにみえる。
 きっと精神的な物に違いないんだろう。
 そうすると、誰かがウカル様に精神的な負担をかけさせている事になる。
 ウカル様を困らせるなんて酷いやつもいるもんだ。

「実はですね、村の皆に日頃の疲れを癒して頂こうとお風呂を作ったんです」
 俺の言葉にウカル様が目を輝かせた。

「――そ、それは本当かい?ああ……お風呂に入るなんて王都で研修していた時に入った以来だから何年ぶりだろう……」
 ウカル様はすごく喜んでくださっている。

「それで、入り方の作法というか方法をウカル様と話し合いたいと思いまして」

「もちろんだとも!すぐに案内してくれるかい?いますぐにだよ?」

「はい、着替えと体を拭く布を持って着ていただけますか?」
 俺の言葉にウカル様は頷くとすぐに用意をしてきてくれた。
 そして俺が村の外れに作った建造物を見て固まっていた。

「……ユ、ユウマ君、これは一体?」

「はい、これは露天風呂といいます。こっちから入るようになっています」

「あまりにも大きいから驚いてしまったけど、浴場だけではないんだね。それでここは?」

「はい、ここは脱衣所になります。そして向こうにおいてあるのが氷の入った水です。暑いと喉が渇きやすいですから」

「なるほどね、ここの籠の中に洋服を入れればいいんだね?」

「はい。浴場で、まずこのタライでお湯を汲んでから体を洗って頂きます。そうしないと湯船が汚れてしまいますから、あとは湯量が減りましたらこの敷居をはずして頂くと水が川から供給されます。水の温度は魔法で適温に保たれますから気兼ねなくお湯を使ってください」
 ウカル司祭様に内容を説明していく。

「私は勘違いしていたよ。ユウマ君は私の事がてっきり嫌いなのかなと思っていたよ」
 ウカル司祭様が突然、語り始めた。
 その表情には、いつも俺を困った奴と見てくるような感じは一切見受けられなかった。
 高揚感を含んだ表情で俺を見てきている。

「でもそれは杞憂だったようだね。ユウマ君は、これを村の皆に解放するんだろう?なら君もきちんとした思慮ある大人になったということだよ。私はうれしいよ」
 とうとう、ウカル司祭様が男泣きをしてしまった。
 俺ってそんなにダメな人間だったのだろうか?
 そういう大げさなリアクションを取られると、とてもいたたまれないんだが……。

「ウカル様、顔を上げてください。俺がウカル様を嫌いになるわけないじゃないですか?それと、このお風呂の件ですが設備を作ったのは俺で管理は教会という形にしてくれませんか?」
 俺の言葉にウカル様は考え込んだ。
 貴族のように毎日お風呂に入れるようになるのだ。
 もしかしたら何か問題が起きるかも知れない。
 俺の工事は完璧だから俺の工事内容で欠陥がない限り何か問題が起きた場合でも教会が管理しておいて くれれば教会が矢面に立ってくれる。
 いわばこれは俺に苦情がこない保険でもあるのだ。

「たしかにこれだけの設備を村が管理していたら問題になりますね。それならアース神教風呂とすれば他の村や町から批判されにくいでしょう。わかりました、ユウマ君の心意気を汲み取って教会が管理しましょう」

「ありがとうございます。あと一つ問題がありまして浄化設備を作りたいと思っているんですが、何かいい案とかありませんか?」
 俺の言葉にウカル様は頭を傾げる。

「浄化設備とはなんだい?」
 俺はウカル司祭様の話しを聞いた後。

「実は、入浴時の人体から出る汚れを除去する方法についていい案が無いかと思いまして」
 俺の言葉にウカル司祭様は思案顔をした後に口を開いた。

「そういえば貴族は、お風呂場やゴミを調教したスライムに処理させていると聞いた事があるよ……あ。そういえば、アライ村に派遣される前にアース教会本部からスライムの種というのを貰った気がするよ?良かったらあげようか?」
 俺は即、頷く。
 ウカル司祭様と一緒に、教会をつぶした後に出た私物をまとめて突っ込んだ掘立小屋の中を
調べていく。


「ユウマ君!あったよ!」
 振り向くと、ウカル司祭様が透明な瓶に入った種を差し出してきた。
 俺は、瓶を受け取る。
 蓋を開けて5センチほどの緑色の種を掌に乗せる。

「ユウマ君、スライムの種は初めて魔力をもらったものとパスを繋いで、そのあとに契約をするんだ。種の状態から孵化させるには魔力が必要だけど……」
 ウカル様の言葉を聞きながら魔力の半分ほどを種にいれると卵が割れたような音とともに10センチほどの緑色のスライムが姿を現した。

「いいかい!くれぐれもユウマ君の魔力は強大なんだから、そそぐ魔力の量は極少量で行ってね」
 ウカル様が話している間に、スライムを排水溝に設置する。
 ふむ。これで大丈夫かな。

「それでは俺は、看板を作ってきますのでウカル様は村の皆に連絡を回してくださいますか?」

「任せておきなさい」
 ウカル様は頷くと村長の家の方ではなく村民の家が集まっている方へ向かっていった。
 そして俺も看板の作成に取り掛かった。
 露天風呂の壁を作るときにあまった木材を看板風に加工した後に、蝋石で『アース神教公認露天風呂』と書いた。
 あとは入り口の上に設置して完成だ。
 看板を設置してから10分ほどするとウカル様が走って戻ってきた。

「やあユウマ君、村の皆には話しは通したからもう大丈夫だよ?君が工事したってことを伝えておいたから、これで村の皆も君を見直すはずだよ」
 さすがウカル様だ。
 俺が何を狙って露天風呂を作ったのか分かっていたみたいだ。 

「それじゃ俺は、教会の改修に戻りますので後はよろしくお願いします」
 さて俺も残りの仕事をさっさと終わらせよう。
 明日の夕方までには教会が完成してればいいな。
 そんな事を考えていると――。

「……ピギィ」
 ――と教会へ向かおうとした所で何かの声が聞こえた。
 それは。排水溝からな気がした。
 じっと聞き耳を立てていると特に続けて声が聞こえてくることはなかった。
 どうやら俺の気のせいらしい。
 俺が作ったスライムが暴走して建物を破壊するとかそんな事あるわけないしな!



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コメント

  • ノベルバユーザー375143

    フラグ!

    2
  • KK

    主人公のクズっぷりww

    2
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