【書籍化作品】無名の最強魔法師
井戸を作成
ヤンクルさんは呆れた表情を見せながら、盛大溜息を付きながら俺に話してきた。
「はあ……?」
何を言っているのか今一、分からないがリリナが怒ってないならそれでいいと思う。
「ところでユウマ君、この川の流れる速度だと水を汲むのは難しいと思うけどどうするんだい?」
ヤンクルさんの言葉を聞いて、額に手を当てた。
時速40キロメートルを超える速度で流れている川から水を汲むのは危険だよな……。
そうすると別の場所から水を組める場所を作った方がいいか。
さて……そうすると、俺の持っている知識をから、この世界で利用できる内容をピックアップしていくしかないな。
俺の知識の中にある、浄水システムや上下水道、各家庭への配水などは魔法で行おうとすれば可能だが、それはさすがに、技術革新の影響がどこまでこの世界に影響を及ぼすか分からない以上、無暗に使うわけにはいかないからな。
そうすると井戸堀メインになるな……。
幸い、俺が住んでいるアライ村は水を汲みにいく以外は、村から出る人はめったにいない。
そのため、村内で水が組める場所を作れば遠くまで汲みにいく手間が省けるという事でそこまで問題視はされないだろう。
「ヤンクルさん、今は川まで水を汲みにいける状態ではありません。そのため井戸を掘ろうと思います」
俺の言葉にヤンクルさんは頭を傾けてきた。
「……いどってなんだい?」
「簡単に言えば、地下に流れている川まで穴を掘って、そこから水を得る方法です」
俺の言葉にヤンクルは驚く。
「ユウマ君は、どうしてそんなに多くの事を知っているんだい?冒険者をしていた私より詳しいなんて少しおかしいと思うんだけど?」
俺は頷きながら言葉を返す。
「ウカル司祭様に教えてもらいました」
困った時のウカル司祭様頼り。
「わかったよ。ユウマ君が本当の事を話したくないってことは分かったよ」
ヤンクルさんは、額に手を当てながら呆れたように俺に語りかけてくる。
まぁ、俺も膨大な知識が生まれた時から頭の中にあるから、どこまで話していいか分からないし、その知識の中には、地球の戦争や歴史といった物も存在している。
だから情報が大事だと分かっているし、そんなに簡単にこの世界の人間に教える事はできない。
いままで見てきて何となく分かったのはこの世界は、俺の知識にある地球と比較すると1000年以上も前の時代の文明しかないという点。
そんな状態で、一度見れば際限出来てしまう井戸は、世界のあり方を変える可能性もある。
戦争、農業、畜産、生産。今まで川の近く遠くまで取りにいかないといけなかった物が、近場で手に入ってしまうのだ。
この世界の人間が作った技術でない知識が、この世界の社会に与える影響が分からない。
だから本当は井戸だって、掘りたくはない
だけど、ここで防衛をすると決めた以上、水がないと生死に関わる。
今のままだと食料はあっても水がないなら井戸を作るのも仕方ない。
俺は溜息をつきながら、井戸を何処で掘るか考える。
そして頭の中にある知識を閲覧していく。
たしか、井戸の起源は、地球では紀元前から存在していると言われている。
だが人類史で見るとその歴史は驚くほど浅い。
日本だと、分かっているのが1200年くらい前だと言われている。
日本の井戸の歴史は空海が作ったと一部では言われているがそれが本当か定かではない。
俺の知識では、深い井戸を掘るには、技術と経験が必要。
毒なんて放り込まれたら危険な状態になるから、その点も考慮に入れないとダメだな。
「ヤンクルさん、しばらくウラヌス十字軍の動向を見ていてもらえますか?俺は井戸を作ってきますので……」
「分かったが、今日はもう攻めてこないとおもうけどね?」
「いえ、まだわかりませんで、念のため見ておいてください。それと、耳の長い男が弓矢を打つ準備をしたらすぐに壁から離れてください」
俺はヤンクルさんに必要内容だけ伝える。
「それでは村の中央。村長の家の近くに井戸を掘ってきますので何かありましたら教えてください」
俺の言葉にヤンクルさんは頷くと6メートル近い壁を、一度の跳躍で上ってしまった。
「ユウマ君ほどではないけど、私にもこのくらいの芸当は出来るよ」
ヤンクルさんは笑顔で語りかけてきたが、それが出来るってことは城壁も簡単に超えられてしまうのでは?と俺は一瞬冷や汗をかいた。
井戸の場所は、ヤンクルさんに伝えた通り。村の中心部から少し南方であり十字軍より離れた場所の村長の家の隣に掘ることにする。
そして向かう前に教会に立ち寄る。
扉を開けて中に入ると、
「ユウマ君!たいへんだよ!ウラヌス教会のやつらが攻めてきたよ!どうしよう……どうしよう?」
目の前に、めちゃくちゃテンパッってる大人がいた。
「ウカル様、どうして攻めてきているのがウラヌス教会だと?」
俺の言葉にウカル司祭様がこちらへ視線を向けてきた。
目が血走っていて大変怖い。
「そりゃわかるよ!あの頭のおかしいウラヌス教徒だよ?自分の正義のためなら何してもいいとか言っているような悪魔だよ?近くに来ただけで匂いだけで分かるよ!」
「―――そ、そうですか?」
正直、同じような話をウラヌス教会の人間が言っていた記憶があったが、聖女の話しといい、すぐに攻撃を仕掛けてくる聖職者といいまともな奴を見た事がない。
きっと神様パワーぽい何かで察知しているのだろうと納得しておこう。
「そうだよ!それで何の用なんだい?」
ウカル司祭様はようやく落ち着いて俺に話しかけてきた。
「実はですね。ウカル様の村人からの信頼度を上げるいい方法があるんですけど……」
俺の言葉にウカル様の耳がピクリと動いたのを俺は見た。
「ユウマ君、私はね……私利私欲のためにアース教会の神父をしてるわけじゃないんだよ?給料がたくさん貰えるからとか出世がしたいからだとかかわいい奥さんが欲しいからだとかそんな事は一切!私は考えていないんだよ?そんな私に向かって信頼度を上げるだって?」
「……」
あーもう。めんどくさいな。
でもいつも、この言葉が出るとき話しに乗ってきてくれる時だ。
「そもそも私が聖職者になったのは、誰かを守るためであって誰かを守るためならこの身なんて惜しくない!」
きっと敬遠なるアース信者が聞いたら、感激する所だと思うが、俺はウカル司祭様を構成している物質が打算と利益で99%占めている事を知っている。だから――。
「外にいるウラヌス教会と戦うことになってもですか?」
俺の言葉にウカル様は頭を振る。
「そういう時には、私は真っ先にアルネ王国の首都アルネストのアース教会本部へ邪教が攻めてきたと報告しにいかないといけない。本当に心苦しいが、村人には力を貸してもらう必要がある。無駄に戦うことは報告が遅れることを意味するから私が戦う機会はおそらく来ないだろう……本当に残念だ」
さすがウカル司祭様だ。
言い方がまるで村長と同じだ。
全力で保身に走るウカル司祭様のその言動、すごいな。
ふつうは思っても言わないぞ?
まったく俺の村の大人はどうなっているんだ?
マジ突っ込みどころ多すぎてどこから突っ込んでいいか困る。
「―――あ、はい」
もういいやと思いながら曖昧な返事を返す。
「ところで、こんな私でも村人の助けになれると言うなら君の先ほどの意見を聞こうじゃないか!」
ウカル司祭様は先ほどまでの真っ青な表情をどこにやったのか分からないくらい、朗らかな表情で俺に問いかけてきた。
こんな人に井戸を教えていいのか俺は一瞬迷ってしまったが、遅かれ早かれバレる事だし教えることにする。まずは水の確保が大事だからな……。
ウカル司祭様と、村長の家についた俺は井戸を思い浮かべて《井戸採掘》の魔法を発動させる。
魔法発動と同時に地鳴りが鳴り、地面が陥没していく。
「ユ、ユ、ユウマ君!?地面が消え?一体何が?」
「大丈夫です。ただの魔法ですから」
「こんな魔法知らないよ!一体なにをして……触媒も使ってないのに……魔法陣も詠唱も唱えてなかったよね!?」
「大丈夫です。日常茶飯事の事ですから」
「ユウマ君基準で物事を言わないでほしいんだけど?」
ウカル司祭様が村長宅の外側、木の柱にしがみついて俺に抗議してくる。
その間にも、村長の家の隣には、直径2メートルほどの円形の石垣で組まれた縦長の井戸が生成された。
さらに、井戸に落ちる人がいないように砂鉄を利用した鉄蓋を作られた。
俺は、さらに砂鉄から生成した手押しポンプを鉄ぶた上に設置する。
そうしてようやく井戸が出来上がると俺は一息ついた。
そんな俺を神妙そうにウカル司祭様は見た後
「……ユウマ君は、もしかして聖人なのかい?」
と話しかけてきた。
「聖人ですか??よくわかりませんが?」
俺は惚けたまま魔力を注ぎ井戸を生成した。
「それではウカル様、この手押しポンプを上下に移動してもらえますか?」
俺の言葉にウカル様が頷くと手押しポンプのレバーを前後に動かし始めた。
それに伴い。水が手押しポンプの蛇口から排出される。
「おお!これはすごいね。ユウマ君、これがあれば多くの村どころか町も王都も助かるよ!ぜひ作り方を教えてもらえないかい?」
ウカル様の言葉に俺は頭をふる。
「いまは、川まで水を汲みにいけないので非常事態ということで作りました。残念ですがこれを一個作るだけで寿命が1年縮むんですよ。ですから量産は無理だと思います」
「そうなのか」
しょぼんとウカル様が肩を落としたが、多少の嘘は勘弁して欲しい。
こんな技術革新的井戸があったらこの世界にどれだけの影響があるのか予想もつかない。
ウカル様へ井戸の使い方を教えた後、アース神教の秘儀で作ったと村人へ説明すれば村人からの信頼度が上がりますよと説明しておいた。
これでウカル様は必死に井戸を守ってくれることだろう。
あとはヤンクルさんと交代して北側の堀とウラヌス十字軍の動きをチェックするだけだな。
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ノベルバユーザー141148
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