お兄ちゃんがお母さんで、妹が甘えん坊なお話
涼羽ちゃんのこと、帰したくないもん!
「や!」
「い…いや…美鈴ちゃん…」
「涼羽ちゃんは、このまま私と一緒に寝るの!」
「そ、そんなの無理だよ…美鈴ちゃん…俺もう帰らなきゃ、だし」
自身の預かり知らぬところで、あまりにも世の男達の理想な花嫁となった自分の姿に、今を生きる多くの男性、男子達が心奪われていることなど知る由もない涼羽。
そんな涼羽が、柊家のおもてなしとしていただくこととなった夕食も、和気藹々と美味しく食べることとなり、さらに柊家の面々と涼羽の仲が深まっていった、と言える頃。
さすがに丸一日、自宅を空けていることもあり、最近は自分がモデルをすることとなったあの会社が、あのキャンペーンを展開する前からは想像を絶するほどに忙しくなり、そのおかげで父、翔羽が定期的に業務支援として、土曜日も借り出されることとなっているため、その幼い容姿に相応な幼げな性格と雰囲気を持っている羽月が一人でいつまでも留守をしていることに、今となってはすっかりお母さんな性格の涼羽が不安を覚えないはずもなく、そろそろ帰らなきゃ、と、一言口にした、その瞬間だった。
それまで、この世の幸せを丸ごと自分が独り占めしているかのような、眩い笑顔を絶やすことなく浮かべて、そうするのが当然と言わんばかりに涼羽にべったりとしていた美鈴が、まるでこの世の幸せを全て奪われてしまったかのような、それはもう年頃の女の子がしてはいけないような顔を浮かべて、全力で涼羽が自宅に帰ろうとするのを、拒否してしまっている。
今その手を離してしまうと、もう二度と涼羽と会えなくなってしまうようなそんな気がしてしまって、それが怖くて、嫌で嫌でたまらなくて、美鈴は涼羽が帰り支度をするのを全力で邪魔するかのように、涼羽の身体を自らの身体でぎゅうっと抱きしめて、自分の家である柊家に拘束するかのようにしている。
もはや完全に駄々っ子になってしまっている美鈴をなだめるように、涼羽はその可愛らしさ満点の顔に困った表情を浮かべながら、懸命に帰り支度をしようと、どうにか美鈴の拘束を解こうとしている。
「だって、羽月ちゃんはいっつも涼羽ちゃんと一緒にいられるもん!」
「そ、そりゃ羽月は妹なんだから…」
「私だって、涼羽ちゃんといっつも一緒にいたいのに!」
「美鈴ちゃんとは、学校でいつも一緒だと思うけど…」
「学校だけなんて、だめ!私、一日の中でず~っと涼羽ちゃんと一緒にいたいの!」
「そ、それはさすがに…」
「や!涼羽ちゃん大好きだもん!涼羽ちゃんのこと、帰したくないもん!」
「み、美鈴ちゃん…」
本当に美鈴は涼羽のことが大好きで大好きで、片時も離れたくない、と言えるほどとなっている。
それゆえに、涼羽が自分から離れていくのが、寂しくて寂しくて、怖くて怖くてたまらない。
そして、いつでも涼羽と一緒にいられる羽月のことが、心の底から羨ましくなってしまい、とにかくヤキモチを焼いてしまっている。
この日一日、他でもない自分の家である柊家の中で、休日である土曜日の、まったりとしたひと時を、涼羽と共に過ごせて、美鈴はこれまでの人生で最高と言えるほどの幸福感を、ずっと感じていた。
涼羽が当たり前のように、自分のそばにいてくれるという、その幸せを知ってしまったのだ。
だが、涼羽は柊家の家族ではなく、ちゃんと帰る家があり、その帰りを待っている家族がちゃんといる身である。
ゆえに、いつまでもこの柊家にいるわけにはいかず、時間がくれば、自分の自宅である高宮家に帰らなくてはならない。
ましてや、家のことを常に自分が率先して取り組んでいることもあり、安易に外泊、というのも非常に抵抗感を覚えてしまうほどの家庭的さも持っているため、やはり今ここで、自分の家に帰らない、という選択肢を持つことが出来ない涼羽なのである。
「涼羽ちゃん…私のこと、嫌いなの?」
「!そ、そんなことないよ?美鈴ちゃん?」
「じゃあ、一緒にいて?一緒に寝よ?」
「!だ、だからそれは無理だって…」
「なんで!?私のこと嫌いだから?」
「き、嫌いだなんて思ってないよ?美鈴ちゃん、可愛いから」
「じゃあ、私のこと、置いてかないでよ~…」
「み、美鈴ちゃん…」
どこまでも平行線な状態となっているこのやりとり。
どうしても自分のお願いに、首を縦に振ってくれない涼羽に対し、美鈴は自分が涼羽に嫌われているのではないか、と思い始めてしまう。
自分のことが嫌いだから、涼羽が自分と一緒にいてくれないのだと。
もちろん、涼羽がそんなことを思うはずもないのだが…
涼羽の頑なな反応を見て、どうしても美鈴はそう思い込んでしまい、ますます涼羽のことを離せなくなってしまう。
もう、どうしたって聞き分けのない駄々っ子と化している美鈴に、涼羽は一体どうしたらいいものかと、ますますその困り顔を色濃くしてしまっている。
かといって、そんな美鈴が心底うざったいかと言えば、決してそんなことを思うはずもなく、むしろどうすれば、美鈴がこんなことを言わずに、家に帰ることができるのか、などと思い…
さらには、こんなにも可愛い美鈴にこんな顔をさせてしまっていることに、言いようのない罪悪感すら覚えてしまっている涼羽なので、ある。
もうちょっとで泣き出してしまいそうなほどに沈んだ顔をしてしまっている美鈴のことを、涼羽は懸命にあやそうと、その頭を優しくなでたりしている。
そして、どうにか美鈴のご機嫌をとろうと、言葉でも優しく言い聞かせようと、必死の状態となっている。
もはや完全に、聞き分けのない子供と、その子供をその包容力で包み込んで、懸命にあやそうとする母親の図にしか見えない、涼羽と美鈴のやりとり。
そんな二人のやりとりに思わず頬を緩めていた美里と正志だが、さすがに涼羽が自分の家に帰れなくなってしまうのは駄目だと思い、困り果てた顔を浮かべながらも、必死で自分達の娘である美鈴を邪険にせずになだめようとしてくれている涼羽に、助け舟を出すことにする。
「ほ~ら、美鈴。あんまりわがまま言って涼羽ちゃん困らせたら、だめじゃない」
「だ、だってお母さん…涼羽ちゃんが…」
もともとが童顔で幼い印象のある美鈴が、まるで本当の子供のようにだだを捏ねている様子が可愛いのか、美里は思わず涼羽もろとも、美鈴のことを抱きしめる。
「美鈴ったら…高校生にもなってこんなにも可愛いのは嬉しいんだけど…でも、涼羽ちゃんを困らせるようなことは言っちゃだめ」
「でも…涼羽ちゃんが行っちゃう…」
「涼羽ちゃんは、ちゃんと自分の家がある子なの。そして、涼羽ちゃんの帰りを今か今かと待ってくれてる家族がいるの。分かる?」
「そ、それは…分かる…けど…」
まるで、美鈴が幼かった頃に戻ったかのような感覚を覚えながら、本当に優しく、しかししっかりとたしなめるように、美里は美鈴にゆっくりと言葉を紡いでいく。
そして、自分と自分の娘にべったりと抱きつかれて、困り果てた顔をうかべたままの涼羽にちらりと視線を向け、そんな顔の涼羽がまた本当に実の子のように愛おしくて、美里はついつい頬を緩めてしまう。
「涼羽ちゃんはね、美鈴のこと絶対に嫌いになんか、ならないから」
「え…」
「涼羽ちゃん、美鈴がこんなにも駄々を捏ねて困らせてても、うざったく感じるどころか、美鈴にこんな顔をさせてる自分が悪い、みたいな感じになっちゃってたのよ?」
「!え…」
「でも涼羽ちゃん、お家に帰って、お父さんと妹ちゃんの面倒を見てあげないといけないから…帰らないとだめなの」
「…でも…」
「大丈夫。涼羽ちゃんは、美鈴のこと絶対にないがしろになんかしないから。お母さん、美鈴から聞いてて、今日初めて会ったけど、涼羽ちゃんがこんなにも可愛くていい子だなんて…ほんとに話に聞いてた以上だったわ」
「…美里さん…」
「こおら、涼羽ちゃん。私のことは、『お母さん』って呼んでって、いってるでしょ?」
「!あ…み、美鈴ちゃんの、お母さん…」
「…ふふ、そういうとこは不器用なのね。でも、そんなとこもホントに可愛いわ、涼羽ちゃん」
娘である美鈴から事前に、涼羽のことはよく聞かされていたものの…
話に聞くと、実際に会ってみるとでは、やはりまるで違っていた、と断言できる美里。
話に聞いていた以上に可愛くて、その母性をくすぐらせる存在であり…
いつもいつも人のために人のために動いて、人の喜ぶ顔を見て、まるで自分のことのように喜ぶことができる涼羽。
そんな涼羽をこの日一日、目一杯見ることが出来て、本当に心に幸せをいっぱいもらえたかのような感覚を覚えてしまっている美里。
加えて、この言いようのない可愛らしさがどこまでも、自分の心を鷲掴みにして離してくれず、とにかく可愛がりたくて可愛がりたくてたまらなくなってしまっていた。
そんな涼羽に、この家にいて欲しいという思いは、娘である美鈴と同じように持ってはいるものの、それ以上にこんなにも可愛くていい子な涼羽を、自分達のわがままで困らせてしまうことの方が嫌だと、美里は自然に思えるようになっている。
「ふふ、涼羽ちゃん」
「!は、はい?」
「見ての通り、美鈴ったら、こんなにも涼羽ちゃんのことが大好きで大好きで…私も主人も、涼羽ちゃんのことが大好きで大好きでたまらなくなっちゃったの」
「!そ、そんな…あ、ありがとうございます…」
「だから、今日はもうお家に帰してあげないといけないけど…また、ここに遊びにきてくれる?」
「!い、いいんですか?」
「もちろん!むしろ涼羽ちゃんなら、いつだって遊びに来て欲しいくらいだもの?」
「…ありがとうございます…また、遊びに来ます」
涼羽が可愛くて可愛くて、その顔を見ているだけで、幸せな気持ちで満たされてくるのを感じてしまう美里。
無理なことを言って、困らせたくはないけれど、でも、いつでもまた、遊びに来て欲しい。
本当にそう思っているからこそ、その純粋な思いをそのまま、言葉にすることができた美里。
そんな美里の言葉が、まるで心に染み渡るかのように入ってくる涼羽。
自分のことをそんなにも好きでいてくれるという美里の言葉が、本当に有難く思えて、涼羽もまた、そう思えているからこそ、その純粋な思いをそのまま言葉にすることができた。
そんな涼羽の言葉に、美里は喜びを隠せず、本当に嬉しそうで幸せそうな笑顔を浮かべている。
「ほらね?美鈴?涼羽ちゃんは、またここに来てくれるって、言ってくれたじゃない」
「……うん」
「これから、涼羽ちゃんと一緒にいる時間を、い~っぱい増やしていけばいいのよ」
「……うん!」
そして、涼羽と自分の母親のそんなやりとりを見て、美鈴もようやく落ち着いたのか…
母の言葉に、素直に首を縦に振ることができるようになったのだ。
「ねえ、涼羽ちゃん」
「なあに?美鈴ちゃん?」
「また、ここに遊びにきてね?」
「…うん、また遊びにくるね?」
「絶対だよ?涼羽ちゃん?」
「うん、絶対くるよ」
全く同じ服装に身を包んだままの涼羽と美鈴が、本当に仲のいい美少女姉妹のようにべったりとしながら、可愛らしさ満点のやりとりを、繰り広げている。
涼羽も美鈴も、お互いにその顔に幸せそうな笑顔を浮かべ…
そんな二人を見て、美里も正志も本当に嬉しそうな表情をその顔に浮かべるので、あった。
「い…いや…美鈴ちゃん…」
「涼羽ちゃんは、このまま私と一緒に寝るの!」
「そ、そんなの無理だよ…美鈴ちゃん…俺もう帰らなきゃ、だし」
自身の預かり知らぬところで、あまりにも世の男達の理想な花嫁となった自分の姿に、今を生きる多くの男性、男子達が心奪われていることなど知る由もない涼羽。
そんな涼羽が、柊家のおもてなしとしていただくこととなった夕食も、和気藹々と美味しく食べることとなり、さらに柊家の面々と涼羽の仲が深まっていった、と言える頃。
さすがに丸一日、自宅を空けていることもあり、最近は自分がモデルをすることとなったあの会社が、あのキャンペーンを展開する前からは想像を絶するほどに忙しくなり、そのおかげで父、翔羽が定期的に業務支援として、土曜日も借り出されることとなっているため、その幼い容姿に相応な幼げな性格と雰囲気を持っている羽月が一人でいつまでも留守をしていることに、今となってはすっかりお母さんな性格の涼羽が不安を覚えないはずもなく、そろそろ帰らなきゃ、と、一言口にした、その瞬間だった。
それまで、この世の幸せを丸ごと自分が独り占めしているかのような、眩い笑顔を絶やすことなく浮かべて、そうするのが当然と言わんばかりに涼羽にべったりとしていた美鈴が、まるでこの世の幸せを全て奪われてしまったかのような、それはもう年頃の女の子がしてはいけないような顔を浮かべて、全力で涼羽が自宅に帰ろうとするのを、拒否してしまっている。
今その手を離してしまうと、もう二度と涼羽と会えなくなってしまうようなそんな気がしてしまって、それが怖くて、嫌で嫌でたまらなくて、美鈴は涼羽が帰り支度をするのを全力で邪魔するかのように、涼羽の身体を自らの身体でぎゅうっと抱きしめて、自分の家である柊家に拘束するかのようにしている。
もはや完全に駄々っ子になってしまっている美鈴をなだめるように、涼羽はその可愛らしさ満点の顔に困った表情を浮かべながら、懸命に帰り支度をしようと、どうにか美鈴の拘束を解こうとしている。
「だって、羽月ちゃんはいっつも涼羽ちゃんと一緒にいられるもん!」
「そ、そりゃ羽月は妹なんだから…」
「私だって、涼羽ちゃんといっつも一緒にいたいのに!」
「美鈴ちゃんとは、学校でいつも一緒だと思うけど…」
「学校だけなんて、だめ!私、一日の中でず~っと涼羽ちゃんと一緒にいたいの!」
「そ、それはさすがに…」
「や!涼羽ちゃん大好きだもん!涼羽ちゃんのこと、帰したくないもん!」
「み、美鈴ちゃん…」
本当に美鈴は涼羽のことが大好きで大好きで、片時も離れたくない、と言えるほどとなっている。
それゆえに、涼羽が自分から離れていくのが、寂しくて寂しくて、怖くて怖くてたまらない。
そして、いつでも涼羽と一緒にいられる羽月のことが、心の底から羨ましくなってしまい、とにかくヤキモチを焼いてしまっている。
この日一日、他でもない自分の家である柊家の中で、休日である土曜日の、まったりとしたひと時を、涼羽と共に過ごせて、美鈴はこれまでの人生で最高と言えるほどの幸福感を、ずっと感じていた。
涼羽が当たり前のように、自分のそばにいてくれるという、その幸せを知ってしまったのだ。
だが、涼羽は柊家の家族ではなく、ちゃんと帰る家があり、その帰りを待っている家族がちゃんといる身である。
ゆえに、いつまでもこの柊家にいるわけにはいかず、時間がくれば、自分の自宅である高宮家に帰らなくてはならない。
ましてや、家のことを常に自分が率先して取り組んでいることもあり、安易に外泊、というのも非常に抵抗感を覚えてしまうほどの家庭的さも持っているため、やはり今ここで、自分の家に帰らない、という選択肢を持つことが出来ない涼羽なのである。
「涼羽ちゃん…私のこと、嫌いなの?」
「!そ、そんなことないよ?美鈴ちゃん?」
「じゃあ、一緒にいて?一緒に寝よ?」
「!だ、だからそれは無理だって…」
「なんで!?私のこと嫌いだから?」
「き、嫌いだなんて思ってないよ?美鈴ちゃん、可愛いから」
「じゃあ、私のこと、置いてかないでよ~…」
「み、美鈴ちゃん…」
どこまでも平行線な状態となっているこのやりとり。
どうしても自分のお願いに、首を縦に振ってくれない涼羽に対し、美鈴は自分が涼羽に嫌われているのではないか、と思い始めてしまう。
自分のことが嫌いだから、涼羽が自分と一緒にいてくれないのだと。
もちろん、涼羽がそんなことを思うはずもないのだが…
涼羽の頑なな反応を見て、どうしても美鈴はそう思い込んでしまい、ますます涼羽のことを離せなくなってしまう。
もう、どうしたって聞き分けのない駄々っ子と化している美鈴に、涼羽は一体どうしたらいいものかと、ますますその困り顔を色濃くしてしまっている。
かといって、そんな美鈴が心底うざったいかと言えば、決してそんなことを思うはずもなく、むしろどうすれば、美鈴がこんなことを言わずに、家に帰ることができるのか、などと思い…
さらには、こんなにも可愛い美鈴にこんな顔をさせてしまっていることに、言いようのない罪悪感すら覚えてしまっている涼羽なので、ある。
もうちょっとで泣き出してしまいそうなほどに沈んだ顔をしてしまっている美鈴のことを、涼羽は懸命にあやそうと、その頭を優しくなでたりしている。
そして、どうにか美鈴のご機嫌をとろうと、言葉でも優しく言い聞かせようと、必死の状態となっている。
もはや完全に、聞き分けのない子供と、その子供をその包容力で包み込んで、懸命にあやそうとする母親の図にしか見えない、涼羽と美鈴のやりとり。
そんな二人のやりとりに思わず頬を緩めていた美里と正志だが、さすがに涼羽が自分の家に帰れなくなってしまうのは駄目だと思い、困り果てた顔を浮かべながらも、必死で自分達の娘である美鈴を邪険にせずになだめようとしてくれている涼羽に、助け舟を出すことにする。
「ほ~ら、美鈴。あんまりわがまま言って涼羽ちゃん困らせたら、だめじゃない」
「だ、だってお母さん…涼羽ちゃんが…」
もともとが童顔で幼い印象のある美鈴が、まるで本当の子供のようにだだを捏ねている様子が可愛いのか、美里は思わず涼羽もろとも、美鈴のことを抱きしめる。
「美鈴ったら…高校生にもなってこんなにも可愛いのは嬉しいんだけど…でも、涼羽ちゃんを困らせるようなことは言っちゃだめ」
「でも…涼羽ちゃんが行っちゃう…」
「涼羽ちゃんは、ちゃんと自分の家がある子なの。そして、涼羽ちゃんの帰りを今か今かと待ってくれてる家族がいるの。分かる?」
「そ、それは…分かる…けど…」
まるで、美鈴が幼かった頃に戻ったかのような感覚を覚えながら、本当に優しく、しかししっかりとたしなめるように、美里は美鈴にゆっくりと言葉を紡いでいく。
そして、自分と自分の娘にべったりと抱きつかれて、困り果てた顔をうかべたままの涼羽にちらりと視線を向け、そんな顔の涼羽がまた本当に実の子のように愛おしくて、美里はついつい頬を緩めてしまう。
「涼羽ちゃんはね、美鈴のこと絶対に嫌いになんか、ならないから」
「え…」
「涼羽ちゃん、美鈴がこんなにも駄々を捏ねて困らせてても、うざったく感じるどころか、美鈴にこんな顔をさせてる自分が悪い、みたいな感じになっちゃってたのよ?」
「!え…」
「でも涼羽ちゃん、お家に帰って、お父さんと妹ちゃんの面倒を見てあげないといけないから…帰らないとだめなの」
「…でも…」
「大丈夫。涼羽ちゃんは、美鈴のこと絶対にないがしろになんかしないから。お母さん、美鈴から聞いてて、今日初めて会ったけど、涼羽ちゃんがこんなにも可愛くていい子だなんて…ほんとに話に聞いてた以上だったわ」
「…美里さん…」
「こおら、涼羽ちゃん。私のことは、『お母さん』って呼んでって、いってるでしょ?」
「!あ…み、美鈴ちゃんの、お母さん…」
「…ふふ、そういうとこは不器用なのね。でも、そんなとこもホントに可愛いわ、涼羽ちゃん」
娘である美鈴から事前に、涼羽のことはよく聞かされていたものの…
話に聞くと、実際に会ってみるとでは、やはりまるで違っていた、と断言できる美里。
話に聞いていた以上に可愛くて、その母性をくすぐらせる存在であり…
いつもいつも人のために人のために動いて、人の喜ぶ顔を見て、まるで自分のことのように喜ぶことができる涼羽。
そんな涼羽をこの日一日、目一杯見ることが出来て、本当に心に幸せをいっぱいもらえたかのような感覚を覚えてしまっている美里。
加えて、この言いようのない可愛らしさがどこまでも、自分の心を鷲掴みにして離してくれず、とにかく可愛がりたくて可愛がりたくてたまらなくなってしまっていた。
そんな涼羽に、この家にいて欲しいという思いは、娘である美鈴と同じように持ってはいるものの、それ以上にこんなにも可愛くていい子な涼羽を、自分達のわがままで困らせてしまうことの方が嫌だと、美里は自然に思えるようになっている。
「ふふ、涼羽ちゃん」
「!は、はい?」
「見ての通り、美鈴ったら、こんなにも涼羽ちゃんのことが大好きで大好きで…私も主人も、涼羽ちゃんのことが大好きで大好きでたまらなくなっちゃったの」
「!そ、そんな…あ、ありがとうございます…」
「だから、今日はもうお家に帰してあげないといけないけど…また、ここに遊びにきてくれる?」
「!い、いいんですか?」
「もちろん!むしろ涼羽ちゃんなら、いつだって遊びに来て欲しいくらいだもの?」
「…ありがとうございます…また、遊びに来ます」
涼羽が可愛くて可愛くて、その顔を見ているだけで、幸せな気持ちで満たされてくるのを感じてしまう美里。
無理なことを言って、困らせたくはないけれど、でも、いつでもまた、遊びに来て欲しい。
本当にそう思っているからこそ、その純粋な思いをそのまま、言葉にすることができた美里。
そんな美里の言葉が、まるで心に染み渡るかのように入ってくる涼羽。
自分のことをそんなにも好きでいてくれるという美里の言葉が、本当に有難く思えて、涼羽もまた、そう思えているからこそ、その純粋な思いをそのまま言葉にすることができた。
そんな涼羽の言葉に、美里は喜びを隠せず、本当に嬉しそうで幸せそうな笑顔を浮かべている。
「ほらね?美鈴?涼羽ちゃんは、またここに来てくれるって、言ってくれたじゃない」
「……うん」
「これから、涼羽ちゃんと一緒にいる時間を、い~っぱい増やしていけばいいのよ」
「……うん!」
そして、涼羽と自分の母親のそんなやりとりを見て、美鈴もようやく落ち着いたのか…
母の言葉に、素直に首を縦に振ることができるようになったのだ。
「ねえ、涼羽ちゃん」
「なあに?美鈴ちゃん?」
「また、ここに遊びにきてね?」
「…うん、また遊びにくるね?」
「絶対だよ?涼羽ちゃん?」
「うん、絶対くるよ」
全く同じ服装に身を包んだままの涼羽と美鈴が、本当に仲のいい美少女姉妹のようにべったりとしながら、可愛らしさ満点のやりとりを、繰り広げている。
涼羽も美鈴も、お互いにその顔に幸せそうな笑顔を浮かべ…
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