お兄ちゃんがお母さんで、妹が甘えん坊なお話

ただのものかき

美鈴ちゃんのお家にお邪魔するのなんて、初めてだね

「へえ~…それで、今週の土曜は柊の家に行くことになった、と」
「うん、そうなんだよ」

この日の授業も全て終わり、部活をしている生徒はそそくさと、自分が所属する部の方へと足を進め、そうでない生徒はそそくさと校舎の中から飛び出ていく、そんな放課後。
この日は、たまたま秋月保育園の園長である祥吾に用があって、そちらの方に足を進めることになった志郎が、いつも通りアルバイトの就業で秋月保育園に向かう涼羽と目的地が同じということで、今まさに時の人となっているモデルの二人が、揃って秋月保育園へと、足を進めている。

『SHIN』として、本人としては全くと言っていいほど考えもしていなかったモデルとしてのデビューを果たした志郎。
あくまで、『SHIN』と鷺宮 志郎は別人だという扱いにしてもらってはいるのだが。
それでも、まるで彫刻のように均整の取れた、スリムでありながらも非常に筋肉質で、まるで無駄のないそのスタイル、そしてその長身に、優しげな整った顔立ちと、モデルとして成功するであろう要素をいくつも抱え、花婿役として世間の絶賛の声を全国的に頂き、特に今時の女子から若い女性の間で最も目を惹く存在となっている。

同じく、『SUZUHA』という美少女モデルとして、本人としてはむしろ、そうなって欲しくなかったと断言できるであろうデビューを果たしてしまった涼羽。
当然ながら、『SUZUHA』と高宮 涼羽は別人という扱いにしてもらっており、この二人が同一人物で、しかも男であるという事実が世に露になってしまった時には、一体どのような化学反応が起こってしまうのか、まさに想像もつかない状態となっている。
そして、その可愛らしさと綺麗さを見事としか言いようがないほどの絶妙なバランスで併せ持ち、小柄で華奢でありながら出るところはしっかりと出ているという、見事と言えるほどのプロポーションまで兼ね備えているのだから、容姿としては誰の目をも惹いてしまうであろうものとなっている。
さらには、その清楚さと健気さ、おっとりとした雰囲気など、まるで本当に画面から飛び出してきたかのような、理想的な花嫁役として、世間の絶賛の声を欲しいままにしており、特に世の男達の中で、今最も理想的な異性として、その目を惹く存在となってしまっている。

そんな二人が、仲良く一緒に歩いている姿は、その場面にすれ違う通行人など、周囲の人間の目を思わず惹いてしまうものがあり、決して今時の人となっているモデル二人であるということには気づかれなくても、なんだか理想的なカップルのように見られてしまっている。

今週の土曜日、美鈴の家にお邪魔しに行くことをさらっと、親友である志郎に世間話的なノリで伝えた涼羽の声に、志郎は心底物珍しそうな反応を返す。
涼羽の方は、美鈴や美鈴の両親が、本当に自分のことを思って、そんな機会を作ろうとしてくれたことが嬉しくて、その童顔で非常に整った美少女顔に、優しげで嬉しそうな笑顔を浮かべている。

「いや、むしろ今までお前が柊の家にお邪魔してなかったことが意外でさ」
「そ、そう?」
「だって、日頃見てたら柊のやつ、お前にひたすらべったりとしてて、もう本当に大好きってアピールしまくってるじゃねえか」
「!そ、それは…」
「なのに、あいつが涼羽の家に行くのはよく聞いてたけど、涼羽が柊の家に行くなんていうのは初めてだからさ」
「うん…確かに、美鈴ちゃんのお家にお邪魔するのなんて、初めてだね」
「だろ?」

志郎からすれば、普段からあれだけ涼羽のことが大好きで大好きでたまらないと周囲にアピールするかのようにしている美鈴が、まさか自分の家にその涼羽を招きいれたことがなかった、という事実に驚きを隠せなかったりしている。
当の涼羽からしても、志郎にそんな風に言われて、初めてそのことを認識する形と、なってしまう。
美鈴が涼羽の家に、お料理教室を開いてもらうのを前提に遊びに行くというのは、他でもない美鈴自身が、まさにクラスの仲のいい女子達に、まるで涼羽は自分だけのものだということをアピールするかのようにしゃべったりしているため、もはやクラスの中では周知の事実と言える状態である。
その度に女子達は、自分達も大好きで大好きでたまらない存在である涼羽の家にいける美鈴が羨ましくなってしまい、涼羽に自分達にもお料理教室を開いて欲しい、とせがんだりしている。
涼羽個人としては別に、他の女子達のためにお料理教室を開いたりするのは構わないというスタンスでいるのだが、涼羽の妹である羽月が、そのことに対して全力で断固拒否の姿勢を崩さない。

今となっては、涼羽のことを除いては非常に仲が良くなっている羽月と美鈴であり、顔を合わせる度にお互いにこにこ笑顔でやりとりをしているのだが、やはり羽月としては大好きで大好きでたまらないお兄ちゃんである涼羽のことは、自分一人だけのものにしたいという思いがある。
美鈴一人ならまだ我慢できる状態なのだが、ここに他の女子が加わってくるとなると、もう断固として拒否する、と言った感じなのである。
兄である涼羽のことに関しては、羽月は本当にとことんわがままになってしまうのだ。

「…本当に、柊が知ったらどう思うんだろうなあ…」
「?え?な、何を?」
「何って…お前が、今の世の中で注目度トップのあの謎の美少女モデルの『SUZUHA』だって知ったら、だよ」
「!そ、そのことは…こんなところで、言わないで…」

周囲の人気がなくなっていることを確認するように、きょろきょろと見渡してから、いたずら小僧がいたずらを思いついた時に浮かべるようなやんちゃな笑顔を浮かべて、志郎はあの会社の方でトップシークレットとして扱ってもらっている、ここでは決して開示してはならないはずの事実を、そっと涼羽の耳元でぼそっと口にしてしまう。

いきなり、自分としては墓の下まで持って行きたいと言えるほどに隠しておきたい事実を、こんな公の場で言葉にされてしまって、涼羽はその顔を恥じらいの色に染めながら、あたふたと誰にも聞かれていないかを確認するように、周囲をきょろきょろと見回してしまう。

「そ、そんなこと言ったら、志郎だって…注目度トップのあの謎のイケメンモデルの『SHIN』だって、バレたらまずいでしょ?」
「あ?ああ、まあな…でも、俺の場合は、その時は開き直ってしまえば済む話でもあるから、そこまで深刻には考えてないんだけどな」
「え、ええ~…そんな簡単な話じゃないとおもうんだけどなあ…」
「むしろ俺よりも、涼羽の方がバレたらまずいだろ?」
「う…うん、そりゃあ、そうだけど…」
「お前の場合は、男なのにあそこまで男を狂わせるほどの美少女モデルとしてデビューしちまったからなあ…」
「!そ、そういうことは言わないで…」
「もう世間では、誰もが理想の花嫁として認めるほどに、注目度も認知度もあがっちまったからなあ…そんな中で今更『SUZUHA』が男だなんて、言えるわけねえもんなあ…」
「うう…だからそういうこと、言わないでって…」

志郎に言われてあたふたとしながらも、涼羽は志郎の方にも、トップシークレットとしてもらっているその事実を、自分よりも頭一つ以上高い志郎の耳元に、思いっきり背伸びをしながらこそこそと話しかける。
ただ、志郎の方は涼羽ほど深刻には考えていないようで、実に志郎らしい、あっけらかんとした言葉が返ってくる。

その志郎から、むしろ涼羽の方が、事実が公になってしまう方がまずいとまで、はっきりと言われてしまう。
特に涼羽の場合は、実際には高校生の男子であるにも関わらず、今となっては世の男子、男性達の目を惹き、狂わせてしまうほどの美少女モデルとしてデビューを果たしてしまったこともある。
もう世間では、その話題性と注目度を欲しいままにしている『SUZUHA』という存在が、実は高校生の男子であるなどという事実は、今更公にできるはずもなく、もしそんなことになってしまったのなら、涼羽本人はもちろんのこと、この企画のイメージの涼羽を抜擢した誠一の会社もただでは済まないのは、目に見えているからなのだ。
とはいえ、実際には誠一の会社では、そのモデル用の名前以外は全ての情報をシャットアウトしており、それは性別に関してもそうである状態のため、万が一の場合は、『え?弊社では、『SUZUHA』が女性である、などとは一言も申し上げてはおりませんが?』と、しらを切るつもりではいるようだ。

もっとも、美少女モデルとしてここまでの注目度を欲しいままにしてしまう『SUZUHA』が男であるなどと言う情報が今ここで出てきたとしても、『いやいや、何言ってんの。こんなにも可愛くて綺麗な女の子が、男なわけないでしょ』『まっさか~。こんな子が男だなんて~。それがほんとだったら、私今すぐに女やめなきゃ、だわ』、という反応になってしまうだろうが。

「…ねえねえ、あの二人、なんかすっごくいい雰囲気よね」
「ほんと…すっごく自然にいちゃついちゃってる感じ…」
「男の子の方はすっごくイケメンだし、女の子の方もすっごい美少女だし…なんで男の子の制服なのかは知らないけど」

傍から見れば、もう鼻と鼻の先がくっついてしまうほどの距離感で、こそこそと話し合っている涼羽と志郎を見て、それを見た通りがかりの女子達が、思わず顔を赤らめて黄色い声をあげてしまう。

彼女達からすれば、どこからどう見てもどびっきりの美少女にしか見えない涼羽が、なぜ志郎と同じ男子の制服に身を包んでいるのか、そんな疑問が浮かんではくるものの、それでも涼羽のことを男だと思うことはないようだ。

もはや男子の制服を着ていても女子としか見られない涼羽と、そんな涼羽といちゃついているようにしか見られていないことにまるで自覚がない志郎の二人は、周囲の女子達の目を欲しいがままにしながらもそれに気づくことなどなく、てくてくとその足を秋月保育園へと、進めていくのであった。



――――



「りょうせんせー、めがねかわいい~♪」
「りょうせんせー、ぎゅ~ってちて~♪」
「りょうちぇんちぇー、らっこ~♪」

秋月保育園に到着した涼羽は、いつも通りにそそくさと仕事用の衣類に着替え、まさに可愛い子供のお出迎えを心待ちにしている、とても優しい母親のような、優しげで幸せそうな笑顔を浮かべながら、園児達のそばへと足を進める。

今日の衣装は、これまたいつも通りの珠江チョイスとなる、涼羽の小柄で華奢な身体にはぶかぶかとなっていて、その手が半分ほども袖の中に隠れてしまう、乳白色の無地のパーカーに、裾が可愛らしさを強調するように折られている、紺色のオーバーオールとなっている。
さらに、その腰の下あたりまで真っ直ぐに伸びている、長く、瑞々しく艶のいい黒髪は、女の子としての可愛らしさと、その童顔に相応な幼さを強調させる、ピンク色のシュシュで右左片方ずつまとめられている、ツインテールとされている。

可愛い子に、可愛い格好をさせて何が悪いんだい、と開き直った口調でそう言いながら、デレデレとした表情で涼羽のコーディネイトをする珠江の姿は、いかに彼女が涼羽のことを本当に可愛くて可愛くてたまらない、自分の子供のように思っているのかが、見ただけで分かるものとなっている。
最近では、そんな珠江と同じように涼羽のことが可愛くて可愛くてたまらない他の職員達も、珠江と同じように涼羽のコーディネイトを楽しんでは、その顔を盛大に緩めることとなっている。

そんな風に珠江含む、自分にとっては母親と言えるほどの年齢の女性達にいろいろと女の子としてコーディネイトされて、涼羽が恥ずかしがらないわけもなく、頬を恥じらいに染めたまま、儚い抵抗はしてみるものの、そんな涼羽の姿も可愛すぎてたまらない彼女達からすれば、ますます涼羽のことを可愛がりたくなってしまうため、涼羽はより恥ずかしい思いをするはめになってしまうのだが。

ちなみに、眼鏡をかけるようになってから初めて秋月保育園に出勤してきた時は、園長の祥吾も、珠江も大いに驚いてはいたのだが、その眼鏡が涼羽の顔をより可愛らしく見せるものとなっており、何をどうしたって可愛い涼羽の姿にすぐにその頬を緩めることと、なってしまっていた。
当然、涼羽のことが大好きで大好きでたまらない園児達も、涼羽の可愛い眼鏡姿に最初は驚きの表情を見せたものの、すぐにその可愛らしい眼鏡姿も受け入れ、ますます涼羽のことが好きになってしまうのであった。
無論、今となってはすっかり涼羽のファンとなってしまっている園児の保護者達も、眼鏡姿の涼羽が可愛くて頬を緩めてしまい、彩をはじめとする女性の保護者達は、こぞって涼羽のことを猫可愛がりするようになってしまっている。
もちろん、事情を知っている彩以外は涼羽のことを見たままの女の子としか認識していないため、それゆえに女性の保護者のように気軽に涼羽にべったりとすることのできない男性の保護者達は、ただただ遠目でそれを見て、目の保養とすることしかできないことに非常に歯がゆい思いをすることと、なっている。

「ふふふ…みんな可愛い…すっごく幸せ…」

涼羽がこの秋月保育園でアルバイトを始めてから、新しい園児も増えていっている。
新しく来た園児の中には、人見知りが激しく、人の良さが滲み出ている祥吾や、典型的な肝っ玉お母さんである珠江にすら、なかなか懐いてくれない子もいるのだが、それが涼羽にはすんなりと懐いてしまっている。
そして、涼羽がそんな子に優しく言い聞かせることで、次第に珠江や祥吾にも懐いていく、という図式が成り立つようになってしまっている。

だが、そんな子はどこまでも涼羽のことが一番であるようで、いくら普段は珠江や祥吾にべったりであっても、涼羽がこの保育園に姿を現すと、それまでの懐きようがまるで嘘のように涼羽の方へと飛んでいってしまうのだ。
そして、まるで片時も離れたくないといわんばかりに、涼羽の胸の中を占領しようとしたりして、涼羽のことをとにかく独り占めしようとするのだ。

もちろん、そんな子にも涼羽は、そういうことはよくないと、優しく言い聞かせているのだが。

自分にべったりと抱きついてくる園児達が本当に可愛くて、涼羽も園児達のことは大好きで大好きでたまらない状態となっている。
この可愛い園児達の喜ぶ顔を見たい、ただそれだけの思いで、いつもまるで本当の母親のように母性に満ち溢れた触れ合いを、まるで息をするかのように自然にしてしまっている。

今この時も、自分の胸にべったりと抱きついてくる園児達を優しく包み込んで、その小さな頭を優しく撫でながら、目一杯の母性と慈愛で可愛がっている。

「…いつ見ても、涼羽の子供達と触れ合ってるところって、本当に幸せを分けてもらえてるかのように感じちゃいますねえ…」

そんな親友の姿を見て、この日はこの秋月保育園に用事があってこの場にいる志郎が、しみじみとした口調で声をぽろりと漏らす。

「ほんとだよ。涼羽ちゃんに優しく包み込んでもらえて、本当に幸せそうで嬉しそうな、無邪気な笑顔の子供達も可愛いし、そんな子供達を見て、本当に優しそうで幸せそうな笑顔の涼羽ちゃんも可愛いし…あたしゃ、もうどっちも可愛くて可愛くてたまらないねえ…」

そんな志郎の声に反応するかのように、珠江も今の涼羽と園児達の優しく温かで、まさに幸せというものを形にしたならば、こういうものなんだろう、という触れ合いを目の当たりにして、涼羽も園児達も可愛くて可愛くてたまらない、という顔になってしまっている。

「えへへ~♪りょうせんせー、らあ~~~いしゅき!」
「りょうせんせー、しゅきしゅきしゅきしゅきらあ~いしゅき!」
「かわいくてやちゃちいりょうちぇんちぇー、らあ~~~~~~~~~~いちゅき~~~~!!」

涼羽のことが大好きで大好きでたまらない園児達が、もうその想いを抑えきれないのか、純真無垢な幼子らしい、無邪気で素直な言葉として、その鈴の鳴るような可愛らしい声で涼羽に伝えてくる。
そして、もう片時も離れたくない、と言わんばかりに涼羽の華奢で儚げな身体にべったりと抱きついて、思う存分に涼羽に包みこまれるその感覚に、思う存分に浸っている。

「ふふ、ありがとう、みんな。先生のこと、そんなにも大好きでいてくれて」

園児達のそんな想いが本当に嬉しくてたまらないのか、涼羽の童顔で可愛らしさ満点の美少女顔に、さらに優しくふんわりとした、満面の笑顔が浮かんでくる。
そして、この子達をもっと優しく包み込んで、可愛がってあげたくなっているのか、ますますその手に慈愛と母性が増していっているかのように、園児達のことを優しく包み込んでいく。

こんな先生、絶対に嫌いになんかなれない。
こんな先生、絶対に好きになることしかできない。

まさにそう言わんがごとくに、まるで新しいおもちゃを買ってもらえたかのようにはしゃぎながら涼羽にべったりとする園児達。
そんな園児達を優しく包み込んで、目一杯可愛がってあげている涼羽の姿は、周囲の人間にも幸せを与えているかのようで、志郎も珠江も、そんな涼羽を見ていて本当に自分達がそうしてもらえているかのような幸福感に、浸るのであった。

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