お兄ちゃんがお母さんで、妹が甘えん坊なお話

ただのものかき

そ…そんなこと……ないもん……俺……男だもん……

「は~~~~……今日はなんて幸せな日なんでしょう…」

文字通り、何かに憑りつかれてしまったかのような、ひたすらべったりとした粘着撮影もようやくと言った感じで、一旦の区切りがつく。
一通りの撮影を終えた光仁の顔には、もうまさにこの世の幸せを独り占めしている、と言った感じの笑顔が浮かび上がっている。

「わ~…寺崎君があんな顔するのなんて、初めてじゃないか?」
「今までも、撮影し甲斐のあるモデルに対しては、幸せそうな顔してたけど…」
「あそこまでとろけるくらいに幸せそうな顔してるのは、初めて見た、と思う…」

光仁が写真家として活動を始めてから間もなく、ずっと彼と仕事をしてきたスタッフ達から、今の幸せ絶頂と言わんばかりの光仁の顔と様子に対して、驚きのコメントがそれぞれ声としてあがってきている。

今までも、撮影のし甲斐があるモデルに対しては、これでもかというほどに粘着して撮影していたこともあり、その時もその達成感に幸福感をのせた、本当に幸せそうな笑顔を浮かべてしまっていた光仁。
だが、今回のように常時、そんな表情で撮影に取り組み、終わってからの表情はまさに満たされた、この世の幸せを独り占めすることができた、と言わんばかりの笑顔と雰囲気は、それなりに長い付き合いのスタッフ達でも、見たことがないと言えるほどのものとなっているのだ。

涼羽と志郎をここに連れて来て、それぞれの衣装に着替えてもらってからは、本番以外でもひたすらに二人を撮影し続けていた光仁。
ここに二人を連れて到着してから数時間ほどなのだが、すでに二人を撮影した枚数は数千枚にものぼっている。
まるでゲーム機のコントローラのボタンを、連射機能オンにして、画面が敵で埋め尽くされてしまうような極悪難易度のシューティングゲームに挑むかのような、凄まじい勢いでシャッターを切り続けてきたのだ。
もっとも、その当人である光仁の方は、疲れた様子などまるで見せることなく、むしろこの日出会うことのできた、自身の人生の中でも最高と言えるほどのモデルをもっと撮影したいという思いと、写真家としての本能の叫びがずっとその身体を支配し続けているのだが。

「は~…寺崎さん、すっげー勢いで俺らのこと、撮影しまくってたな~…」
「うん、ほんと…写真家って、あんなにもすごいんだね…」

つい先程まで、そんな光仁の粘着撮影の被写体となっていた涼羽と志郎が、そんな光仁の様子を見て、驚き半分、羨望半分、と言った感じの表情を浮かべている。
撮影が一区切りついたということもあり、二人共一旦休憩をとる形となっている。

今となっては気安く話をすることのできる親友同士の二人であるため、非常に自然な形で寄り添っているのだが、かたや涼羽の方はどこに出しても恥ずかしくないどころか、男の身に生まれてきた者なら誰もが娶りたくなってしまうような理想的な花嫁の姿であり、かたや志郎の方も、どこに出しても恥ずかしくないどころか、女の身に生まれてきた者なら誰もがもらわれたくなってしまうような理想的な花婿の姿となっている。
そのため、二人のそんな自然なやりとりが、まるで本当の夫婦のように見えてしまっており、二人がここに来て、その衣装に着替えてからそれなりに時間も経ってはいるのだが、未だに見た目理想的な花嫁と花婿なのに、中身は男同士というその事実に、混乱を覚えてしまっている。

「涼羽、鷺宮君。二人共、一旦お疲れ様」

そんな周囲の混乱を招く要因となっている二人にかかる、労いの声。
声のする方へと視線をむけると、そこには涼羽の父親である翔羽が、穏やかな笑顔でそこにたたずんでいた。

「あ、お父さん」
「高宮さん、どうもです」

そんな翔羽に、涼羽は嬉しそうな笑顔を浮かべながら声を返す。
その涼羽のそばにいる志郎は、まさに体育会系といった感じでぴしりとした姿勢をしながら、かしこまったかのような声を返す。

「それにしても二人共…本当に新郎新婦みたいで、モデルとしてとても素晴らしかったよ」
「!お、お父さん…べ、別にそんなこと…」
「あ、ありがとうございます!」
「まるで本当に涼羽が嫁にいってしまうかのようで、本気で焦ったしな」
「!も、もう!そんなこと…俺、男だってば!」
「そ、そうですか?」
「ああ、そのくらい二人共、新郎新婦の役がぴたりとハマっていたよ」
「お父さん!もうそれ以上は言わないで…」
「そうですか…でも、こんなにも綺麗で可愛らしくて、素敵なお嫁さんがそばにいてくれたら、自然と笑顔になっちゃいますね」
「!し、志郎!?」
「そうだろうそうだろう…だがな、鷺宮君」
「は、はい?」
「涼羽は俺の最愛の子供なんだから…誰のところにも嫁に行かせるつもりはないからね」
「お、お父さん!?」
「…そこをなんとか、お願いできませんでしょうか?」
「し、志郎!?」

誰の目をも惹いてしまうほどに魅力的な花嫁姿の涼羽をはさんで、翔羽と志郎がありきたりな、新婦の父と、その新婦をもらおうとする新郎のやりとりを繰り広げている。
二人共、顔を真っ赤にしながらぴーちくぱーちくと抵抗する涼羽のことが可愛らしくて、ついつい意地悪をしてしまうのだ。
ただ、翔羽は冗談のように見えてその台詞の全てが本気であり、志郎も冗談のように見えて、割と本気で言ってたりしているのだが。
それでも、表面上はお互いににこやかな笑顔を浮かべているので、涼羽をからかうための冗談の応酬になっているようにしか見えないでいる。

「はあ~~~…なにあれなにあれ~~~…」
「もうなんだか、一人の美少女を巡って、二人のイケメンが争ってるみたい~~…」
「涼羽ちゃんを護ろうとする高宮さんも、涼羽ちゃんをもらいうけようとする志郎君も、どっちもすっごく素敵~~~…二人の間でおろおろしてる涼羽ちゃんほんとに可愛すぎ~~~…」
「あ~~ん…わたしもあんなイケメン二人に取り合いされたいわ~~~…」

そんな涼羽を巡って争うかのような、翔羽と志郎のやりとりを見ている女性スタッフ達は、もうほうっと溜息をつきながら、その光景から目を離せないでいる。
そして、翔羽と志郎のようなイケメンに、自分も取り合いなんてされたい、などと思うと、よりその溜息が深くなってしまう。

「もう!お父さんったら!俺は男だから、嫁になんてなれないって言ってるでしょ!」

冗談を言っているように見えて、実は本気で涼羽を嫁に行かせない、なんて言っている父、翔羽の腕を、自分の両腕で抱え込むように抱きしめて、ぷんすかと激しい抗議の声をあげる涼羽。
しかし、自分よりもずっと背の高い父を見上げて、その腕を抱きしめながらべったりとくっついているその状態では、いくら怒っていても、本当に可愛らしくてついつい見ている者の頬が緩んでしまうことに、当の本人である涼羽自身は全く気づくことはない。

案の定、最愛の息子である涼羽にそんな風に抱きつかれて、しかも、本来ならありえないはずのその胸の感触もあって、翔羽のその端正な顔がデレっと緩んでしまっている。

「ああ~~~もう!!涼羽!!お前は本当に可愛いなあ~~~~~!!」

もう我慢ができなくなってしまったのか、翔羽は自分にべったりとしている涼羽の小柄で華奢な身体を、自分の身体で包み込むかのように抱きしめ、まるで周囲の人間の誰にも見せたくないといわんばかりにしてしまっている。

「!わ!……お、お父さん…」
「ああ~~~…こんなにも可愛くて可愛くてたまらない涼羽を、誰が嫁になんてさせるものか…」
「!だ、だからそういうこと言わないでって…」
「むしろ、お父さんが涼羽のことを嫁としてもらいたいくらいだね!!」
「!!お、お父さん!!なんでそんなことばっかり言うの!!ほんと…」

息子可愛すぎてもうどうしようもない、デレデレとした顔を隠すこともせず、さらにはそんな息子を自分の嫁にしたいなどと言い出す父、翔羽があまりにも恥ずかしすぎて、その可愛らしい顔を真っ赤にしながらも抗議の声をあげてしまう涼羽。

どんな姿にされても、やっぱり自身が男であるという自覚と意識が強いだけに、こんなにも娘のように扱われて、さらには嫁にしたいなんて言われてはもう恥ずかしくて恥ずかしくてたまらなくなってしまう。
そんな、自分にとっては恥ずかしいことばかり言ってくる父、翔羽のそばから離れようとするが、そうはさせんとばかりに翔羽は、涼羽を抱きしめる腕に力を込めて、離さないと言わんばかりにさらにべったりと抱きついてくる。

そんな父、翔羽と息子、には絶対に見えないがやっぱり息子である涼羽のやりとりを、少しいたずらっこのような意地の悪さを含んだ、にやにやとした顔で志郎は見ている。

「じゃあ、俺の嫁になら、なってくれるのか?涼羽?」
「!!し、志郎まで…いきなり何言い出すの!?」
「え?だってこんなにも素敵で理想的としか言いようのない花嫁が、目の前にいるんだぜ?なら、口説かせてもらうのが、礼儀ってもんじゃないのか?」
「し、志郎!!」

いたずら心たっぷりな志郎の一言に、まさに青天の霹靂といった驚きを見せながら、あわあわとした反応を返してしまう涼羽。
その意地の悪いにやにやとした顔からも、志郎が冗談でそんなこと言ってるのは一目瞭然なのだが、当の涼羽はそんなことも気づかずに、ただただ、目の前のいたずらっこな親友の一言一言に振り回されるだけとなっている。

「…おい、鷺宮君」
「!!は、はい!!??」
「…父親の俺がいる前で、この子を口説くなどとは、いい度胸だな…」
「!!??い、いえ!!そ、それは…」
「…この子は俺がこれから先もずう~~~~~~~っと可愛がって、父親としてそばにいてあげないといけないのだよ。だから、誰であろうと嫁になど、させるつもりはない!!」
「!!ちょ、た、高宮さん!!じょ、冗談です!!冗談ですってば!!」
「なにい!!冗談だと!!??こんなにも可愛くて健気なうちの子のことを、もてあそんでいたとでもいうのか!!??」
「!!そ、そんなことないです!!決して!!」
「つまり、うちの子は嫁にしたいということなんだな…」
「!!だ、だからそれは…」
「だがやらん!!やらんぞ!!うちの子は、嫁になどいかんのだ!!」
「い、一体何をどうしたいんですか…ほんとに…」

そんないたずらっこな志郎に、いきなり向けられた、地の底から這い出てくるかのような声。
普段ならば、今の志郎が見せたようなちょっとしたいたずらも、笑って許してしまえるフランクなところもあるのだが、それが最愛の息子である涼羽が絡むなら、話は別となってしまうのが、高宮 翔羽という人物なのである。

それまで涼羽をからかっていた分が全て跳ね返ってくるかのごとく、今度は志郎が翔羽に振り回されることとなってしまっている。
可愛くて可愛くて、いとおしくていとおしくてたまらない最愛の息子である涼羽を奪われてしまうという危機感からか、その長身痩躯な身体で覆い隠すかのように涼羽を抱きしめながら、息子を溺愛していることが嫌と言うほどに分かってしまうような台詞を、次から次へとぽんぽんと吐き出してしまっている。

普段の圧倒的な処理能力と淡々とした様子を見たことのある人間なら、いかに今の翔羽がおかしくなっているかを、まるで天変地異に出会ってしまったかのように感じてしまうだろう。
事実、そんな翔羽を目の当たりにしている周囲のスタッフ達は、一体自分達の目の前で何が起きているんだ、と言わんばかりに目を見開いて、そのやりとりを凝視してしまっている。

普段は誰もが憧れるスーパーエリートなのだが、子供達のことになると途端にポンコツとなってしまう…
それが、高宮 翔羽という人物なのだ。

そんな翔羽に、志郎は完全にたじたじとなってしまっている。

「もお~~~!!二人して勝手なことばっかり言って!!」

そこに飛び込んでくる、幼げで鈴の鳴るような可愛らしい声。
その声の主は、まるで翔羽と涼羽の間に割り込むかのように、涼羽の身体にべったりと抱きついてしまう。

「お兄ちゃんは、わたしのお嫁さんになるの!!だから、他の誰のお嫁さんにもならないの!!」

お兄ちゃん大好きで大好きでたまらない妹である羽月が、そこに飛び込んできて、兄である涼羽は自分だけの嫁になるのだと、盛大な主張を繰り広げてしまう。
もちろん、その小さな身体で、兄の身体をぎゅうっと抱きしめてその独占欲をアピールすることも忘れない。

「は、羽月まで!!だから俺は男だから、お嫁さんになんてなれないって、言ってるでしょ!?」
「うそつき!!こんなにも可愛くて、綺麗で、すう~~~~っごくお母さんみたいで!!ぜえ~~~~ったいみんな、お嫁さんにしたくなっちゃうもん!!」
「そ、それとこれとは別だって!!俺、男だもん!!」
「男とか女とか、関係ないもん!!こんなに素敵なお嫁さんになれちゃうんだから、誰だってお兄ちゃんのこと、お嫁さんにしたくなっちゃうに決まってるもん!!」
「か、関係あるよ!!」
「ないもん!!わたし、お兄ちゃんのことめ~~~~っちゃくちゃに可愛がってあげたくなるし、め~~~~っちゃくちゃお兄ちゃんに甘えたくなっちゃうもん!!みんなも、ぜえ~~~~~~~ったいそう思うに決まってるもん!!」

とにかくどれだけ兄が可愛くて、綺麗で、お母さんみたいでたまらなく、どれだけ理想的なお嫁さんなのかを強調する妹と、そんな妹の主張に全力で抵抗する兄の図が、そこにあった。

とにかく男である、ということにこだわり、男である自分がお嫁さんになど、なれるはずもないと主張する涼羽に、羽月はそんなこと関係ないとばっさり。
顔を恥ずかしさで真っ赤にしながら無駄な悪あがきを続ける兄、涼羽が本当に可愛くて可愛くてたまらず、めちゃくちゃに可愛がってあげたくなる妹、羽月。
その小さな身体が、兄の身体から離れるそぶりを見せることもなく、羽月はただひたすら、涼羽にべったりと抱きついて、涼羽のことを独り占めしようとしている。

「そうそう!!涼羽ちゃんめっちゃくちゃ理想的なお嫁さんなんだから!!」
「女の私達でも、全力でお嫁さんにしたくなっちゃうんだもん!!」
「涼羽ちゃんは、自分がどうしたって、どれだけどうあがいたって可愛いってこと、もっと自覚しなきゃ!!」

そんな二人のやりとりが可愛くて可愛くてたまらなくて、この日何度この二人に心奪われたか分からない女性スタッフ達が、こぞって涼羽と羽月のそばに寄ってきて、どれだけ涼羽が可愛くて理想的なお嫁さんなのかを、全力で主張してくる。

「そうそう!!涼羽君はもっと自分の可愛さを自覚しなきゃ!!」
「こんだけ可愛かったら、男とかどうとか関係ないね!!マジでお嫁さんにしたくなるし!!」
「こんなお嫁さんがそばにいてくれたら、って思うだけでいくらでも幸せな気持ちになれるんだからさ!!涼羽君は、君がどう思おうとも、周りから見たら本当に理想的なお嫁さんなんだよ!!」

そして、そんな女性スタッフ達に便乗するかのように、男性スタッフ達までもが、涼羽がどれほどに可愛くて理想的なお嫁さんなのかを、全力で主張してくる。

「そ…そんなこと……ないもん……俺……男だもん……」

周囲の人間が全力で向けてくる主張に、真っ向から抵抗しようとする涼羽。
だが、その顔を恥ずかしさで真っ赤に染めて、そんな顔を見られたくなくて、ふいとその視線を逸らしてしまうそんな仕草も、その儚い抵抗の声も、やはり何もかもが可愛すぎることに、肝心の本人がまるで自覚がない状態。

「もお!!お兄ちゃんほんとに可愛いんだから!!」

そんな兄を、本当に身も心も寄り添っているかのような距離でじっと見つめていた羽月が、そのあまりの可愛らしさに嬉しそうで幸せそうな笑顔を浮かべて、より兄の身体をぎゅうっと抱きしめ、べったりと甘えてくる。
もう今すぐにでもこの可愛いの化身を押し倒して、めちゃくちゃに可愛がってあげたくなってしまっている。

実の妹にそんなことを言われてしまい、涼羽の恥ずかしさは天井知らずに膨れ上がっていってしまい、もうどうすることもできないほどになってしまっている。

「ああ~~~!!お前達はなんでこんなにも可愛いんだ~~~~!!」

そんな涼羽と羽月があまりにも可愛すぎて、父である翔羽が二人をまとめて包み込むように抱きしめてしまう。
もうその端正な顔には、普段の淡々として、それでいて真面目な表情の面影もなく、もう本当にだらしないと言えるほどにデレデレとしてしまっている。

「涼羽も羽月ちゃんも、本当に可愛すぎるよな、全く」

そんな親子三人のやりとりを、すぐそばで見ていた志郎は、半ばあきれるかのような声をあげながら、本当に眼福と言わんばかりの表情を浮かべている。
その眼差しには、まるで自分の最愛の人に向けるかのような慈しみと愛情のようなものが込められている。

もう何をしたって可愛い涼羽と羽月の二人の姿に、ここにいる全ての人間がその心を癒され、本当に幸せそうな笑顔を浮かべて、まるでこの世に舞い降りてきた天使のような兄妹を見守っているので、あった。

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