お兄ちゃんがお母さんで、妹が甘えん坊なお話

ただのものかき

ええ、見つけることができました!

「おお…」
「わあ…」

光仁に連れられて、その企業ビルの中を歩いていく涼羽と志郎。
さすがは国内でも有数の企業で、有名な冠婚葬祭の大手ということもあり、その中は高級感漂うものとなっている。
基本的には家が平均的な生活水準となる涼羽と志郎。
加えて、涼羽は根が倹約家なため、高級なものよりも安くて実用性の高いものを好むことから、こういったところに足を踏み入れること自体、ないといっていい。
志郎も、今でこそそれなりに経営が安定しているものの、それでも普段は質素であることもあり、さらには新聞配達のアルバイトなどで自分のお金を稼いでいたりしたこともあり、涼羽同様、こういったきらびやかな場所には、まるで縁がなかった。

そんな二人であるがゆえに、先導してくれる光仁の後ろについて歩いている間もずっと、この企業ビルの中の高級感に満ち溢れている造りに、驚きを隠せないまま、右に左に視線を忙しなく動かしている。

そうしながら歩いていると、一つのパーティールームのような、大きなホールが、見えてくる。
その高級感と重厚感たっぷりの大きな扉は、大きく開かれており、中の様子が丸見えの状態となっている。
そしてその中には、おそらく光仁が言っていたであろう、この企画のスタッフと思われる面々が、ずいぶんと重苦しい雰囲気で、無言のまま立ってお互いを見合わせている。
その人数は、およそ二十名ほど。

やはり、撮影直前になって、メインとなる今回のモデルが二人も不慮の事故にあってしまい、絶対安静のため撮影自体ができなくなってしまったのは、相当にショックが大きかったようだ。

そんなスタッフの面々とは対照的な、まさに希望を見つけたとばかりの笑顔を浮かべながら、光仁はそのホールの中へと入り、みんなにとびっきりの喜びが込められた声をかける。

「みなさん!お待たせしました!」

その声に、それまで重苦しい雰囲気で俯いたり、顔を見合わせたりしていたスタッフの面々が、一斉に声のする方へと顔を向ける。

「ああ!寺崎さん!」
「おお!寺崎君!」

満面の笑みを浮かべながら、自分達の方へと近づいてくる光仁の姿を見て、スタッフの面々も同じように笑顔を浮かべながら、光仁の方へと近づいていく。

この日の朝からずっと、代わりのモデルを探すと行って外に出ていた光仁がここに帰ってきたこと。
そして、いかにもと言わんばかりの満面の笑みを浮かべながらここに戻ってきたこと。
これはもしかして、と、胸に大きな希望を抱きながら、光仁のモデル探しの結果を今か今かと待ち望んでいる。

「で、どうだったんだ!?寺崎君!?」
「あの二人に代わるモデル、見つけられたの?」

交通事故にあった二人のモデルは、本当にお似合いと言わんばかりに美男美女のコンビで、まさにこの企画のコンセプトにうってつけだと、満場一致で思っていたのだ。
しかし、その二人がモデルとしてここに来ることが叶わなくなってしまったため、無駄を承知で光仁自ら、その二人に代わるモデルを探しに出たのだ。

そして、非常に期待感を持たせてくれる光仁の笑顔を見せられて、それまでお通夜のような状態であったのが嘘のように活気付いた雰囲気になっている。

「ええ、見つけることが出来ました」

そして、そんなみんなの期待に応えるかのように、光仁はみんなにとって最も聞きたかったであろうことを、声にして響かせる。

「!!よおっしゃああああああ!!」
「!!やった!!やった!!」
「!!よくやってくれた!!寺崎君!!」
「!!っしゃああ!!これでこの企画、落とさずに済むぜえええ!!」

代わりのモデルが見つかったという、その一言だけで、そのホール内を激しく響かせるほどの歓喜の声が飛び出してくる。
まだ代わりのモデルがどんな人物かも見ていないうちから、これほどの喜びを見せてしまうあたり、よほど先程までの心境が重苦しいものだったのかが、よくわかるものとなっている。

高級感漂う造りのホールの中で、まるで始まっていもいないのに試合に勝ったかのような喜びを見せるスタッフの面々。

「で、その肝心のモデルは!?」
「そのモデルはどこにいるんだ!?」
「ねえ、どんな人?どんな人?」

そして、ひとしきり喜びを爆発させてから、ようやく光仁が見つけ出し、連れて来たモデルの方に興味が沸いて来るスタッフ達。

「あ~~!!寺崎君が見つけてきたからには、すごくかっこいいモデルなんだろうな~~!!」
「ね~~!!花嫁役の方も、絶対すっごい美人だよね~~!!」
「ほらほら!!早く早く!!」

特にメイクやスタイリストの関係の面々は、よほど花婿役と花嫁役を綺麗に見栄えよくしたくてたまらないのか、待ちきれなさを全面に押し出して、早くここに連れて来て、という状態になってしまっている。
人の見栄えを良くしたい、という一途な思いからこの職業を選んだ職人達だけに、もう気がはやってはやって、抑えられなくなっているのかもしれない。
業種こそ違えど、この辺りは光仁と通じるものがあり、実際普段からいろいろ語り合ったりするほどに仲が良かったりはする。

そして、光仁が連れて来るモデルにはずれがないということを、ここのみんなはこれまでの撮影にずっと関わってきているため、よく知っている。
光仁は毎回、ここにいるメイクやスタイリスト達のその欲望を刺激するモデルを見出して連れて来るため、いろんな意味でお互いがお世話になっている。

「二人共、こちらに入ってきてください」

そして、この土壇場で奇跡的に見つかった、光仁が、自分自身が選んだ代役のモデルに、ここに入ってくるようにと、優しげに声をかける。

その声に従いながらも、どこかおどおどとした様子で入ってくる二人。

「!!おお~~…」
「!!これは…」
「!!わあ~…」

スタッフの面々は、入ってきた二人のモデルを見て、その振り切れんばかりのテンションがさらに上がっていくのを、自覚してしまう。

なぜなら、一人はその長身に無駄のない、均整の取れたスタイル。
そして、日本人離れした長い脚に、やや鋭い感じの目つきではあるが、十分にイケメンと言える整った顔立ち。
スポーツマンタイプで爽やかさもあり、異性に好感を持たれるであろうその容姿。
当初選ばれていた花婿役よりもかなり若い感じなのも、またポイントが高いようだ。
そんな容姿の志郎を見て、すでにどう磨いて光らせようかと、その滾る欲望を抑えられずにいるメイキャッパーとスタイリスト達。

もう一人は、190cm近くある、日本人離れした長身の志郎とは対照的な、小柄で童顔な、可愛らしさ満点の美少女。
人見知りなのか、注目を集めるのが苦手なのか、視線を集めていることに居心地の悪さを感じている、おどおどとした仕草が、ここにいる女性陣の可愛いもの好きのハートを鷲掴みにしてしまっている。
加えて、さらりと真っ直ぐに伸びた、漆黒の艶のいい髪。
丸みを帯びた小さな肩に、細くくびれた腰。
そして、身長から考えるとこちらも日本人離れした長い脚。
胸がないのが残念といえば残念なところだが、それを抜きにしても極上の美少女だと言える人物。
そんな容姿の涼羽は、すでに花嫁担当のメイキャッパー、そしてスタイリストの、今すぐにでもさらって着飾らせてあげたいという、ギンギンに漲った欲望の視線を浴びることとなっている。

「おお~!!こんなにもやりがいのあるモデルを連れて来てくれるなんて、さすがは寺崎君だね!!」
「いや~もう、こんなにもイケメンで専業のモデルクラスのスタイルだなんて!!」
「しかし、ちょっとばかり若すぎるような気がするが…」

志郎の方を見ていたスタイリスト達が、もう本当に欲しかったおもちゃを買ってもらえた子供のような顔をしながら、その漲ってくるテンションを一刻も早くぶつけたそうにしている。
それほどに、ここにいるスタイリスト達にとって、志郎は極上の素材となりうるようだ。

だが、普段から人の肌などをしっかりと観察しているだけに、志郎の年齢がいささか若すぎるんじゃないか、という指摘も、出てきている。

「きゃあ~~!!もうほんとに可愛い!!」
「こんなに可愛くて、天使みたいなモデルなんて、もうたまんな~い!!」
「もうほんとに可愛い!!でも…ちょっと幼すぎる気もするかな…」

一方の涼羽の方も、メイキャッパーやスタイリストの女性陣がこぞって涼羽のことをまじまじと見つめながら、絶賛の黄色い声をあげている状態と、なっている。
初対面の人間ばかりで、人見知りな面が表に出ているためか、そのおどおどとした小動物的な雰囲気が全面に出てしまっているので、余計に黄色く甲高い声が、この場に響いてしまう。

しかし、普通に見れば中学生くらいの美少女にしか見えない涼羽を見て、さすがにブライダルキャンペーンの撮影に使うには、いくらなんでも幼すぎる感じではないかという声も、あがってくる。

「あ、あ~…え~っと…」

普段は人見知りすることもなく、ぶっきらぼうで、淡々とした感じの志郎ではあるのだが…
こうして、まるで見世物のように多くの人間に見られていることに、さすがに居心地の悪さを感じてしまっている。
加えて、ここにいる人間が本当に光仁と同類と言えるタイプの人間ばかりと言うこともあり、そのおかげでなおさら、志郎らしからぬ歯切れの悪さと、戸惑いが表に出てしまうことと、なっている。

「あ、あの…」

志郎でさえ、そんな状態になってしまっているのだから、もともとが人見知りな涼羽は、余計におどおどとしてしまい、人を見目麗しくすることにその人生を費やしているだけあって、自らもしっかりと見目麗しくしている、業界人といえる見栄えの女性陣に無遠慮に自分のことを見られているこの状況に非常に居心地の悪さを感じてしまっている。

「こちらの方が、今回花婿役のモデルをしてくださることとなりました、鷺宮 志郎さんです」
「ど、どうも…鷺宮 志郎です」
「そして、こちらの方が、今回花嫁役のモデルをしてくださることとなりました、高宮 涼羽さんです」
「は…はじめまして…高宮 涼羽です…」

涼羽と志郎を見て、スタッフ達の反応も多少、懐疑的な声はあがってはいるものの、非常に好感触なのを見て、胸をなでおろしながら、涼羽と志郎の紹介をする。
それに合わせるように、二人も戸惑いながらも、自己紹介を行う。

そんな二人の初々しい様子がまたスタッフ達の心をくすぐるのか、花婿担当の男性人のスタイリスト達は、自分よりも背の高い志郎の頭を、実の子供にそうするかのように少し乱暴に、それでいて優しく撫で回す。
女性陣も、涼羽のことがよほど可愛いのか、その整った美人顔を盛大に緩ませながら、涼羽の頭を優しく撫で始める。

「いや~、鷺宮君っていったっけ?君みたいな極上クラスの素材を担当することができて、本当に嬉しいよ!!」
「え?…」
「いやいや、見た目スリムだけど、実際にはめっちゃ筋肉ついてて、マジアスリートって感じだね!!」
「は、はあ…」
「それに、顔立ちもいいし…これは腕が鳴るな!!」

志郎もあまり自分の容姿に自覚がないため、自分の容姿を称賛してくるスタイリスト達の声に、正直間の抜けた生返事しか出せないでいる。
それとは別に、いくら年上とはいえ、自分よりも背が低い男に、頭を撫でられるのは、ここまでの背丈になってからは本当に初めての体験。
いきなりそんなことをされて、正直驚いたことに間違いはないのだが、決して嫌な感じはしないという状態なのである。
むしろ、こんな風にされるということに、非常に新鮮さを感じてしまっており、さらには年上の男性に可愛がられるというこの状況を、少し嬉しく思ってしまったりしている。

そして、数多くも業界人やモデルを相手にその腕を振るってきたスタイリスト達にとって、志郎のような天然で抜群のスタイルを誇る爽やかタイプのイケメンは、まさに腕が鳴ると、そしてその魅力をもっと引き出してあげたくてウズウズしてしまうような、極上の素材に見えてしまっている。

「ちなみに君、いくつなんだい?」
「え?…あ、ああはい…今年で十八歳になる、高校三年生です」

そこで、先程志郎の年齢に対して懐疑的な声をあげていたスタイリストが、志郎に直接、その年齢を聞いてくる。
そんな彼の声に、志郎もいきなり聞かれて戸惑いながらも、特に思うことなどなく、そのまま素直に自分の年齢を声にして返す。

「!え!?マジ!?」
「うわ、君現役の高校生か!」
「うわ~、そういえばどこかあどけなさもあるよな~」
「いやいや、でもイケメンなのに変わりはないけどな」

その容姿と、どことなく落ち着いた雰囲気のため、大学生くらいに見えていたスタイリスト達にとっては、志郎のその声には驚きを隠せないでいる。
ただ、顔立ちはまだ少年としてのあどけなさが少し残っていることもあり、いわれてみれば、と納得もしてしまっている。
そして、これはこの先、もっと磨けば光ると、そんな確信まで、持ってしまっている。

「ねーねー!!涼羽ちゃんっていったっけ?」
「は、はい…」
「や~ん!!もうほんとに可愛い~!!」
「こんなに可愛いのに、ウエディングドレス着てお嫁さんになっちゃうんだ~!!」
「もうお姉さん達が全力で、涼羽ちゃんのこと世界一可愛くて綺麗なお嫁さんにしてあげるね~!!」
「!え…あ、あの…そんな…」
「あ~!!顔真っ赤にして恥ずかしがってる~!!」
「ひゃー、もうほんとに可愛すぎ~!!」

そして、涼羽の方も花嫁担当の女性陣に囲まれて、めちゃくちゃに可愛がられている。
よほど可愛いもの好きなのか、とにかく涼羽を見て、その頬を盛大に緩ませてしまっている。
美少女な容姿というのもあり、加えて幼さの色濃い容姿でもあるため、余計に可愛がりたくなってしまうのだろう。

もちろん、彼女達もこれまで多くの業界人、そしてモデルを相手にしてきていることもあり、その目は十分すぎるほどに肥えている。
そんな彼女達から見ても、涼羽の容姿は本当に『女の子として』極上の素材であるという評価になっており、今からどんな風にしてあげようかと、文字通り心躍っている状態である。

「ねえ、涼羽ちゃんは今いくつなの?」

そして、志郎が聞かれたように、涼羽もまた、自分を囲んで可愛がっている女性陣の一人に、年齢を聞かれる。

「え?…は、はい…今年で十八歳の、高校三年生です…」

不意に聞かれて思わずきょとんとしてしまうものの、戸惑いながらも自分の年齢を伝える涼羽。
そんな涼羽の声を聞いた途端、涼羽を囲んでいる女性達の顔が、へ?といった感じで呆気に取られてしまう。

「え?え?…涼羽ちゃんって、今高校三年生なの?」
「は、はい…そうです…」

女性陣の一人が、どうにか、といった感じで、涼羽に年齢を聞き返す。
が、やはり返って来るのは、涼羽が現在高校三年生だという事実だった。

「…え、え、ええ~~~!!??」
「う、うそお~~~!!??こんなにも幼げで可愛いのに、高校三年生なの~~!!??」
「いやいや、うそでしょ~~!!??」

さすがに、中学生くらいとしか思っていなかっただけに、涼羽が高校三年生だと聞かされて、盛大に驚いてしまう女性陣。

そこに、追い討ちをかけるかのように、光仁からの声がかかる。

「あ、それと…高宮さんはそんな容姿ですが、れっきとした男の子ですので」

そんな、周囲からすれば爆弾とも言えるようなことをさらりと声に出してしまう。
そんな光仁の声に、女性陣はますます混乱に陥ってしまう。

「え、ええ!!??」
「ちょ、ちょっと待って!!??」
「こ、この子、男の子なの!!??」

この幼い容姿で高校生というだけでも驚きなのに、その上男の子だなんて。
それは一体何の冗談なんだと。

まさにそんな心境で、驚きと戸惑いを隠せないままに、驚愕の声をあげてしまう女性陣。

「い、いやいや!!こんなにもさらりとして瑞々しくて、艶のいい髪なのに!?」
「こんなにも華奢で、腰なんか本当に細くて…すっごく護ってあげたくなる感じなのに!?」
「お肌なんかびっくりするくらい綺麗で、顔なんかどう見てもすっごく可愛い女の子にしか見えないのに!?」
「声だって、すっごく可愛くて、とても声変わりしてるとは思えないのに!?」
「ね、ねえ!?寺崎さんの冗談でしょ?あなたが男の子だなんて?」

目の肥えた女性陣から見ても、女の子として本当に羨ましくなるほどの素材という評価になっている涼羽。
まあ、胸はさすがに残念としかいいようがないが。

そんな涼羽がまさかの男の子だという衝撃的な事実に、ついつい問い詰めるような感じで涼羽に事実確認を求めてしまう。
光仁の冗談だと思いたい、何かの間違いだという思いを、そのまま表すかのような事実確認。

「ほ…本当です…僕、男です…」

ところが、当の涼羽から返された事実は、そんな光仁の言葉を肯定するものだった。
これにはさすがに、女性陣も言葉を失ってしまう。

「(え?え?…ほんとに?)」
「(こんなにも可愛いのに、男の子なの?)」
「(確かに胸は残念なくらいないけど…そのほかは羨ましくなるくらい綺麗で極上なのに?)」
「(どこからどう見ても、中学生くらいの可愛らしい女の子にしか見えないのに?)」

今まで、多くの美女、そして美少女を相手にその魅力を引き出すお手伝いをしてきたメイキャッパーにスタイリストの女性陣。
そんな彼女達でも、極上の素材だと思っていた女の子が、実は男の子だったという事実に、未だその硬直から立ち直れないでいる。

そんな彼女達が、その硬直から解放され、今度は逆に涼羽のことを神が与えてくれた奇跡のような存在だと、心の底から称賛するようになるのは、もうしばらく経ってからのことであった。

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