お兄ちゃんがお母さんで、妹が甘えん坊なお話

ただのものかき

かな、なにしたらいいの?

「じゃあ、かなちゃん。一緒にお料理しよっか」
「うん!えへへ~♪」

休日となる土曜日も、非常に和やかな時間を過ごしながらまったりとしてきた涼羽、そして四之宮の女性陣。
涼羽にとっては、ひたすらにべったりとされ、可愛がられであまり落ち着けるような時間ではなかったかも知れないが。

そんな土曜日ももう夕方を迎え、これから夕飯の準備に入ろうとするのは、涼羽と永蓮と、香奈の三人。

夕飯の準備に関しては、涼羽が永蓮にお願いして香奈に教えながら、という形になったため、香奈も加わることになったのだ。
せっかくこんなにも料理に興味を持ってくれているので、させてあげたいという涼羽の想いが、まだ幼い香奈に料理をさせることを渋っていた永蓮の首を縦に振らせることができた。
ゆえに、道具を使わず、その手さえあればできるであろうこと限定であるとはいえ、香奈もずっと興味を持っていた料理を、させてもらえることとなったのだ。

それも、大好きで大好きでたまらない涼羽に教えてもらえるのだから。

キッチンの上で作業ができるように、香奈の小さな身体が届くようにと、香奈の足元には足の置き場となる踏み台が置かれている。
その上に乗ることで、香奈にもキッチンの上の風景が見られるようになっている。

そして、可愛いアニメのプリントが入った長袖のカットソーに、明るめの青色のオーバーオールという服装の上に、ピンクのフリフリのついた、可愛らしいエプロンが着けられている。

その幼く可愛らしい顔には、大好きな大好きなお姉ちゃんである涼羽と料理ができる、という喜びに満ち溢れた、純粋で天真爛漫な笑顔が、浮かんでいる。

「あらあら…香奈ったら、本当に嬉しそうな顔しちゃって…」

幸せそうな、嬉しそうな笑顔の孫娘を見て、祖母である永蓮も、自然とその頬が緩んでしまう。
ましてや、その隣で同じような笑顔を浮かべている涼羽も目に入るから、余計に緩んでしまう、と言える。

ちなみに、さすがにキッチンに四人も入ることはできないので、水蓮はまた次の機会に、ということとなっている。
それを告げた時、もっと駄々を捏ねてくるのかと思いきや、拍子抜けするほどにあっさりと引き下がっているのだから…
却って、そんな様子の水蓮に不気味さすら、感じてしまっていた涼羽なのだが。

「(うふふ…あたしは涼羽ちゃんのお家で涼羽ちゃんと二人っきりで教わるつもりだし♪)」

娘である香奈と一緒に教わるというのも非常に魅力的ではあったのだが、やはり涼羽の家で涼羽とマンツーマンで教わる方が魅力的だと判断した水蓮。
二人っきりのお料理教室で、涼羽を可愛がりながら教わる、などというあまりにも天国のようなシチュエーションを思い浮かべて、もうその整った美人顔が、盛大に緩んでしまっている。

「(あ~♪涼羽ちゃんにい~っぱい料理を教わりながら、い~っぱい涼羽ちゃんのこと、可愛がってあげたいわ~)」

娘である香奈や、母である永蓮同様、とにもかくにも涼羽のことが大好きで大好きでたまらなくなってしまっている水蓮。
自身が職場としている学校でいくらでも会えるはずなのに、これなのである。
この一日で、目一杯涼羽のことを可愛がっては、意地悪なことをして恥ずかしがらせたりして、その度に可愛らしい反応を返してくる涼羽が本当に可愛すぎてたまらなかった水蓮。

だからこそ、そんなやりとりをもっとしたくてたまらない。
今度は、自分と涼羽の二人だけで、自分の思う存分に。

そんなことを考えてしまっている水蓮は、自分のお下がりの制服にエプロンをいう格好の涼羽の後姿を眺めながら、いけない妄想に耽ってしまっている。

「りょうおねえちゃん!」
「なあに?かなちゃん?」
「かな、なにからおてつだいすればいいの?」

そんな不純な母、水蓮とは対照的に、純真無垢に、早く、早く、といった感じで涼羽に何からしていくのかを聞いてくる香奈。
本当に興味津々で、きらきらとした大きな瞳を真っ直ぐに涼羽に向けてくるその様子が可愛くて、涼羽も自然と笑顔になってしまう。

「うん、じゃあね…」

そんな香奈の声に応えようと、涼羽は準備していたレタスをボウルに入れて、それを香奈にしっかりと見せるようにシンクの中に置く。

「?これを、どうするの?」
「これをね、こうやって…」

その可愛い笑顔を崩さずに、どうするのかを聞いてくる香奈に、同じように笑顔を絶やすことなく、ボウルの中のレタスをむき始める。

「こんな風に、むいていくの」
「!わ~…」
「このレタス、全部むいてね」
「うん!わかった!」
「全部むけたら、声かけてね」
「は~い!」

これまで、ずっと興味津々でありながら、ずっとさせてもらえなかった料理。
今日、ようやくそれをさせてもらえるということで、非常に張り切っている様子の香奈。

今、涼羽が見せた非常に単純な作業一つに対しても、本当にめを輝かせながら、素直に返事を返してくる香奈に、涼羽も笑顔が絶えずにいる。
その隣にいる永蓮も、同じように頬を緩めながら、孫娘の初めての料理を見守っている。

そして、涼羽がやってみせたのと同じように、つたない手つきで少しずつではあるものの、ひとつひとつ確実に、レタスをむき始める香奈。
それをしているだけでも、本当に楽しいのか、きらきらとした笑顔が崩れることなく、ひたすらにレタスをむいていく。

「ふふ…かなちゃん本当に可愛くていい子です」
「そうでしょ~?香奈、本当に可愛いから、ついつい可愛がりたくなっちゃうの」
「僕も、かなちゃん可愛いから、ついつい甘えさせたくなっちゃうんです」
「も~、涼羽ちゃんが香奈をすっごく可愛がってくれるから、香奈ったらいっつも涼羽ちゃんのこと、嬉しそうにお話してるのよ?」
「そ、そうなんですか?」
「ええ、涼羽ちゃんに会えた日なんか、もうこの世の幸せが全部来た、みたいな本当に幸せそうな笑顔でずっといるんだから、よっぽど涼羽ちゃんのこと、大好きで大好きでたまらないのね」
「は、はは…なんか、照れちゃいますね…」

嬉しそうな笑顔を崩さず、一生懸命にレタスをむいていく香奈を見て、涼羽と永蓮の顔もついつい緩んでしまう。
二人共、香奈のことが可愛くて可愛くてたまらず、いつも香奈のことを可愛がっている似たもの同士。

そんな永蓮から、香奈がいつも涼羽のことを嬉しそうに話していることを聞いて、意外そうな顔を見せてしまう。
さらに、自分と合えた時の香奈がいったいどんな様子なのか、まで聞かされて、照れくささにその頬をほんのりと染めてしまう。

そんなやりとりをしながらも、涼羽の手はしっかりと作業をこなしており…
香奈にさせられる作業を残しつつ、自分がするべき作業をきっちりとこなしていく。

「それにしても、やっぱり涼羽ちゃんはすごいわね~」
「え?」
「だって、ちゃんと香奈にさせられる作業を残しながら、自分がする作業をきちんとこなしてるじゃない」
「そ、それはまあ…かなちゃんにできるだけいろいろとさせてあげたいですし…」
「それに、自分の作業しながらでも香奈のこと、ちゃあんと見てるでしょ?」
「ま、まあ…そうですけど…」

大抵は、自分の作業に夢中になって、人の作業まで目がいかない、という感じになってしまいがち。
特に、料理のような火や刃物を使うような作業だと、なおさら。

もちろん、十分な経験を積み重ねていけば、あれをしながら、これをしておく、といった並行作業も可能になるし、それによって視野の広さも身についてはくる。
ただ、そこまでこなせるようになるには、やはり結構な作業量をこなしていかないと、というのは、絶対に出てくるのだ。

涼羽のように、自らの作業を並行で行ないながら、さらには香奈の様子まできっちりと把握し…
それでいて自分の作業進捗を落とさずにできる、というのは、かなりの場数をこなしているとしか言いようがない。
結婚してからそれなりの年月を重ね、家事をこなしていくうちにできるようになるにしても、個人の適正、それによる差分はあるものの、結構な年月がいるようになってくる。

そういう意味では、涼羽の料理スキルは十分にベテランの域に達している、と言っても過言ではない。

ただ、一人で学んできたことによる学習限界があったため、永蓮のようなちゃんとした講師に教わり、さらには場数もこなしてきた人間なら知っているであろうことを知らない、というだけだったのだ。
この日、永蓮によって、今の涼羽に足りない部分を一つずつ埋めてもらいながら料理をしているため、そのスキルにさらに磨きがかかってきている。

もともと、誰が見ても十分な料理スキルを持っている涼羽に、さらに知識とスキルが身についていっている状態。
加えて、もともと持っていたスキルも十分に永蓮のお眼鏡にかなうほどのものを持っていた。

まだ高校生の身で…
それも、今の女子学生の格好からは決して分からないであろうが、男子高校生でここまで料理、そして家事もこなせるというのは、そうはいないだろうと、永蓮は思っている。

だからこそ、純粋に涼羽に対しての褒め言葉が、自然と永蓮の口から声となってしまうのだ。

「涼羽ちゃん、涼羽ちゃんは本当にすごいと思うわ」
「そ、そうですか?…」
「だって、今時の高校生だったら女子でもここまでできる子なんて、いるかどうかなのに、男子高校生でここまでできる子なんて、本当にいないんじゃないかしら、って思っちゃうもの」
「!そ、そんなことは…」
「いいえ、私の知り合いにも、今の涼羽ちゃんくらいの年頃で、ここまでお料理できる子なんて、記憶になかったもの」

涼羽としては、自分と比べる対象がなく、わざわざ自分から比較しに行くなどということもしなかったため…
今の自分ができていることは、至極当然のことだと思っている節がある。

今では、学校でもクラスで絶賛されているにも関わらず、一向にその意識が変わる様子がない。
それも、やはりクラスの中で、比較対象となる存在がいないからである。

美鈴に関して言えば、涼羽が教えてからは自分の家でお手伝いをするようになり…
さらに涼羽が教えていくことで、十分とは言えるくらいには、料理スキルというものが上達した。
だがそれも、涼羽からすれば、教えれば誰でも出来る、という意識しかないため…
自分のしていることがどれほどのことか、というのを把握できていない状態なのだ。

加えて、自分を持ち上げることを決してしない、むしろ落としてしまうほうであるため…
やはり、涼羽の自己評価は低いままなのである。

そんな涼羽が本当に奥ゆかしくて、ついついべた褒めをしてしまう永蓮。
実際、自分の記憶の中にも、ここまでできる男子高校生などいなかったので、余計に賞賛してしまう。

「そ、そうなんですか…」
「ええ。だから涼羽ちゃんはもっと自信持っていいのよ」
「あ、ありがとうございます…」

自分ができることを褒められる、というのもつい最近までまるでなかったため、そんな純粋な褒め言葉についつい顔を赤らめてしまうのも、涼羽の特徴。

それでも今回は、自分よりも全然凄いと思える存在である永蓮からの言葉なので、そうなのかな、くらいには受け止めることが出来ているようだ。

「ふふ…涼羽ちゃんって本当に奥ゆかしくて可愛いわね」
「!べ、別にそんなことは…」
「もう本当に可愛くて、ついつい可愛がりたくなっちゃうの」
「うう…」

自分の褒め言葉についつい顔を赤らめてしまう涼羽が本当に可愛らしくて、ついついその頭を優しく撫でてしまう永蓮。
実の孫娘である香奈が可愛くて可愛くてたまらないのと同様に、涼羽も永蓮にとっては本当に可愛くて可愛くてたまらない存在なのだ。

そんな永蓮の裏表などない、純粋な好意に、どうすることもできなくなってしまう涼羽。

それでも、作業をする手は止まらないのだから、よほどしっかりと経験を積んできている、というのが分かってしまう。

「(涼羽ちゃん、本当に可愛くて、本当にすごい子ね…今のこの状況でも、ずっと手が止まらずに、ちゃんと作業し続けることができているもの)」

この日で、涼羽の料理スキルというものがどれほどにしっかりとしたものかというのを、ちゃんと見ることができた永蓮。
香奈に対して、最初は無理をさせない作業のチョイスをしてくれていることと、さらにはそんな香奈から目を離さずにいてくれていること。
それらも含めて、本当に凄い子であると、思えてしまう。

「りょうおねえちゃん!むきむき、終わった!」

そんなところに、香奈からレタスのむき作業が終わったという声があがってくる。
鈴の鳴るような、幼く可愛らしい声に、涼羽も視線をしっかりとそちらに向ける。

「うん、どれどれ…」

そして、この日初めてこういった作業を行なう香奈の、実際の作業の結果を、その目に入れる。

「…うん、これでいいよ。かなちゃん、よくできたね」

そして、幼い香奈に対して、しっかりと褒めることを忘れず、香奈の作業が確かなものである、という太鼓判を押す。

「!えへへ~♪りょうおねえちゃんにほめられた~♪」

そして、実際に料理というものをして、さらにはしたことに対して他でもない涼羽から、お褒めの言葉をもらえたことに、香奈の表情がまた幸せそうに、嬉しそうになってゆく。

そんな香奈が可愛くて、涼羽もついつい、香奈の頭を撫でてしまう。

「りょうおねえちゃん!つぎはなにするの?」
「うん、次はね…」

そして、香奈のために用意していた作業をまた、一度香奈の目の前で実際にやってみて…
それを香奈に見せたうえで、またそれをやってほしいと、香奈にお願いする。

「わかった!」
「じゃあまた、さっきと同じように、終わったら教えてね」
「は~い!」

そして、また嬉しそうな顔で、作業に取り組んでいく香奈。
その小さな手で、つたなくゆっくりな手つきながら、一つ一つ確実にこなしていく。

そんな香奈を見て、涼羽もまた頬が緩んでしまう。
当然、その隣にいる永蓮も。

「(ふふ…最初は香奈に料理させるなんてどうかと思っちゃったけど…涼羽ちゃんが本当にうまく香奈に教えて言ってくれてるから、香奈も楽しんで作業できてるし…涼羽ちゃんがちゃあんと香奈のこと見てくれているから、安心して見てられるわ~)」

その手があればできる単純な作業でも、非常に嬉しそうに取り組んでいる香奈。
そして、そんな香奈をしっかりと見守りながら、自分の作業をこなしていく涼羽。

まるで本当の姉妹のような、仲睦まじさも交えてのやりとりを見せられて…
永蓮は、本当に幸せそうな表情で、二人の作業とやりとりを見守り続けるので、あった。

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