お兄ちゃんがお母さんで、妹が甘えん坊なお話

ただのものかき

か、かなちゃん?…

「ねえねえ、高宮君の妹ちゃんって、どんな子なの?」
「…っ…歳の割りにちっちゃくて、小学生みたいで可愛い感じ…かな…」
「わ~…で、顔は?もしかして、高宮君によく似てる?」
「!っ…よく似てる…とか…そっくり…とかって…よく、言われる…」
「!じゃあすっごく可愛いじゃない!!そんな可愛い妹ちゃんが、お兄ちゃんにべったり甘えてくるの?」
「…う…うん…なんか知らないけど…ものすごく俺に懐いてる…っていうのか…とにかく離れてくれない…」
「わ~…ものすごくお兄ちゃん子な妹ちゃんなんだね~」

この日の最初の授業が終わった後の休憩時間。
休憩に入った瞬間、クラスの女子達が勢いよく自分の席を離れ…
この日、大きなイメチェンを果たして、話題の人となっている…
高宮 涼羽の元へと集結。

そして、これまでの腫れ物を扱うような接し方が嘘の様に…
我も我も、と、積極的に話しかけている。

基本的に人見知りで、人との会話が苦手な傾向にある涼羽は…
こうして話しかけられる度に、おどおどとした、儚げな印象でたどたどしく答えていく。

そして、次の休憩では…

「高宮君って、家事全部一人でしてるって、ホントなの?」
「…う、うん…」
「え?なんで?なんで?」
「…うちは…お母さんがすぐに死んじゃって…お父さんもずっと単身赴任で…最近までいなかったから…」
「!そ、そうなの?」
「…う、うん…だから…俺しかする人間が…いなかった…から…」
「もお~!高宮君すっごくいい子!」
「ねえ、家事全部ってことは…お料理と、お掃除と、お洗濯と…もしかして、お裁縫もするの?」
「…う、うん…裁縫はそこまで頻繁じゃないけど…」
「すご~い!!男の子なのに、そんなにいろいろできちゃうんだ~!!」
「ねえ、お料理は?どんなの作るの?」
「…妹の好みに合わせて作ることが多いから、割といろいろ…たまにお菓子とかも、作ってあげるけど…」
「!!お菓子も作れるの!?」
「…う、うん…そんなにレパートリーは多くないけど…」
「どんなの作ったことあるの?」
「…クッキーとか…ロールケーキとか…牡丹餅とかも…あったかな…」
「!!高宮君、すご~い!!」

さらに、次の休憩では…

「高宮君って、なんでそんなに髪もお肌も綺麗なの?」
「それに、スタイルもすごくいいし」
「ねえ、いつもどんなケアしてるの?」
「…特別…これといったことはしてないけど…」
「え?そうなの?」
「…うん…これでも…割と食べる方なんだけど…全然体重増えないし…筋トレとか、それなりにやってるんだけど…筋肉も…全然増えないし…」
「!なにそれ!うらやまし~!!」
「それと、なんでこんなに髪伸ばしてるの?」
「…ずっと放置してて、妹にそれを、言われて…切ろうと思ったんだけど…妹がものすごく反対して…仕方なく…」
「あ~…分かる~」
「こんなに綺麗な髪なんだもん。それに、こんなに可愛いお兄ちゃんなんだから、このままでいてほしかったんだね~」
「…べ、別に…俺…可愛くなんか…」
「あ~もう!可愛いんだから!ホントに!」

…といった感じで、ひっきりなしに会話が絶えない状況が続いている。

今まで知ろうともしなかった、涼羽のことを、ここぞとばかりに聞いてくる女子達。

涼羽も、おどおどとしながらも、特別隠すほどでもないことはそのまま答えていく。

そんな涼羽のことを聞く度に、周囲の女子達から黄色い声が上がっている。

ちなみに…

「えへへ♪涼羽ちゃん♪」

そんな中、常に美鈴がべったりと涼羽に抱きついていたのは、言うまでもない。

さらに、昼休みになると…

「わ~…すっごくおいしそ~…」
「それに、盛り付けも綺麗だし…」
「それに、なんか可愛い感じのお弁当!」
「これも、高宮君が作ってるの?」
「…う、うん…」
「妹ちゃんのも?」
「…うん…そうだけど…」
「…いいな~、妹ちゃん」
「こんなに優しくて可愛いお兄ちゃんがいて~」
「こんな風に可愛い感じにしてるのって、妹ちゃんに合わせて作ってるから?」
「…そ、そうだよ…」
「!も~!!ホントに優しいお兄ちゃん!!」
「…最近は、単身赴任から帰ってきたお父さんのも…作ってる…」
「そうなんだ~」
「ホントに、一家のお母さん、って感じなんだね~。高宮君」

これまでは、涼羽の方に視線を向けることすらほとんどなかった為に気づかなかった…
涼羽の手作り弁当のクオリティ。

それを目の当たりにし、涼羽の家事スキルの高さを実感することとなる。

涼羽のことを知れば知るほど…
女子達の頬がデレっと、緩んでしまう。

ちなみに、クラスの外でも…
他のクラスの生徒が、これまでのもっさり感が嘘のように美少女然とした容姿に変わっている涼羽を見ようと、じっと覗いていた。

まさにこの日…
高宮 涼羽という生徒の、これまでのイメージが全て粉々に粉砕され…
同時に、その扱いが一変する日と、なっている。

そんな光景を目の当たりにしていた、涼羽のクラスの担任である新堂 京一。
そして、その京一と同じように、涼羽のイメチェンを勧めた、四之宮 水蓮。
さらには、そんな可愛らしい涼羽を見て、もう首っ丈状態の、森川 莉音。

三人が三人共、そんな風に涼羽の周りに人が集まっている光景を見て、思った。



――――やっぱり、俺(私)の考えは、間違いじゃなかった――――



と。



――――



「…つ…疲れた…」

涼羽にとっては激動の一日となったこの日。
休憩時間になる度に、周囲から詰め寄られて話しかけられて…
もともと非常に苦手なことであるがゆえに、一つ一つの声に答えていくだけでも大変で…
それゆえに、もうグロッキー状態となってしまっている。

「涼羽ちゃん、大丈夫?」

そんな涼羽を見ていた美鈴が、心配していることを表すかのように声をかける。

「…ちょっと…無理かも…」

机に突っ伏したままの状態で、力のない声で、美鈴に答える涼羽。
そんな様子からも、涼羽が本当に疲弊していることがよく分かるものだった。

ちなみに、放課後となってはいるものの…
部活に勤しんでいる生徒を除き、一部の生徒はまだこのクラス内にいる。

その生徒達は、そんなグロッキー状態の涼羽を盗み見るかのように見つめている。

そして、そんな状態の中…
その均衡を破るかのように…

妙に幼く、鈴の鳴るような可愛らしい声が、響く。

「おねえちゃん!」

その声に、その教室にいた全員が、声のする方向へと、視線を向ける。

そこにいたのは、四~五歳ほどの…
ふわっとした白の毛糸の帽子…
フード付のピンクの長袖のパーカー…
紺色のオーバーオールに身を包んだ、可愛らしい顔立ちの少女だ。

それを見た涼羽の口から、思わず、と言った感じで、その少女の名前が飛び出す。

「か、かなちゃん!?」

昨日、この学校の中に迷い込み…
泣いていたところを涼羽に保護された、水蓮の娘である…

水神 香奈(みなかみ かな)。

ある意味では、今の涼羽の状況を作ることとなった張本人とも言える人物でもある。

「おねえちゃん!」

香奈にとっては大好きで大好きでたまらないお姉ちゃんである涼羽。
その涼羽のところに、その小さな身体を目一杯動かしていき…

香奈に気づいて、驚いて思わず立ち上がってしまった涼羽の胸に飛び込むように抱きつく。

涼羽の方も、驚いてはいれど…
しっかりとその小さな身体を受け止め…
そのまま膝立ちになりながらも、ふわりと優しく、抱きしめてあげる。

「えへへ~♪おねえちゃん♪」

もう、嬉しくて嬉しくてたまらない、と言った感じの香奈。
涼羽の胸に顔を埋めながら、べったりと抱きついている。

「か、かなちゃん。どうしたの?どうしてまた、ここに?」

驚きの表情を隠せないまま、香奈に優しく問いかける涼羽。
その小さな身体を優しく抱きしめ…
その頭を、髪を梳くように優しく撫でることを忘れずに。

しかし、その問いに対しての答えは、別の所から返ってきた。

「ごめんね~、高宮君。香奈が、どうしても高宮君に会いたいって、聞かなくって~」

周囲が困惑に陥っている教室の中、軽い感じで答えつつ、入ってきたのは…
この学校の音楽担当の教師である、四之宮 水蓮。

ちなみに、四之宮は旧姓で、実際には水神 水蓮ではあるが。

「!し、四之宮先生?」
「もうね、香奈ったら、昨日は『おねえちゃんが』『おねえちゃんが』って、ずっと高宮君のこと、一生懸命お話してたのよ~」
「か、かなちゃんが?」
「そう。しかも、今日の朝なんか、『おねえちゃんのところにいきたい!』って、もう何を言っても聞かなくって…」

そう。

香奈にとって、よほど嬉しくて…
よほどべったりと懐いてしまったのか…

もうとにかく、その日は涼羽のことを、その小さな身体を使って目一杯、話し続けていたのだ。

父と母、一家の団欒の場で、一生懸命に。

父親は、『驚くほどに人見知りな娘がこれほど懐いているなんて』と、驚きを終始隠せず…
当事者である妻、水蓮に、『一体誰なんだ?香奈がこんなに懐いているなんて』と、思わず聞いてしまうほど。

そんな夫の問いに、水蓮はさらっと一言。



――――もうびっくりするくらい可愛くて、いい子なの――――



そう、答えるだけに留めた。

もちろん、香奈が『おねえちゃん』と呼んでいることもあり…
水蓮も、特に性別に関しては明言していないため…

香奈の父親は、その相手を女の子だと思っている。

そして、子供心に涼羽にもっとべったりして、甘やかしてほしいという想いがどんどん膨れ上がってしまい…
この日の朝、母である水蓮に、『おねえちゃんのところにいきたい!』と、駄々をこねだしたのだ。

当然、最初は水蓮も首を縦に振るはずもなく、ダメだと言い聞かせようとするのだが…

ただ、涼羽に会いたいという一心はどうしても覆すことができず…
終いには大きな声で泣き喚いたあげく、『じゃあ、ひとりでおねえちゃんのところにいく!』などと言い出したのだ。

昨日のこともあり、こんなにも幼い娘をまた一人で出かけさせるなんてことがあってはたまらない、ということもあり…

この日は孫の面倒を見に来てくれた祖母――――水蓮の実の母親――――にお願いして…
この放課後のタイミングで、香奈をこの学校に連れてきてもらうようにしたのだ。

香奈の祖母となる、水蓮の母親は最初こそ驚いたものの…
人見知りな孫娘がこれほどに懐く人物にむしろ興味を持ち…
『いつでもいいから、私もその子に会わせなさい』という約束を取り付けた上で、娘のお願いに首を縦に振ったのだ。

この日は、用事があるため、孫娘がべったりな人物と会うことは叶わなかったが。

「え?美鈴、誰なの?あの子…」
「あ、あの子。涼羽ちゃんが昨日、迷子になってるところを見つけた子って」
「!え、じゃあ、あの子が四之宮先生の!?」
「そう、子供」

いきなりの事態に固まっていた女子の一人がようやく再起動を果たし…
事情を知っていそうな美鈴に問いかける。

そして、その美鈴から返って来た返答に…

「そうなんだ!あの子が四之宮先生の!」
「ホント!よく見たら、目元とか、顔立ち似てる~!!」
「ふわ~…なんか可愛い!!高宮君にべったり抱きついて、離れようとしないね~」

ちなみに、女子からも人気の高い水蓮は、女子生徒とも他愛もない会話をすることが多く…
水蓮が担当しているクラスの女子生徒は、ほとんどが水蓮が既婚者だということを知っている。

本人にしても、特別隠しているわけではないが…
だからといって、おおっぴらに話すこともしないため…

一応、他の人に言わないことを前提に、軽く女子達に話したりしていたのだ。

そういった事情のため、当然ながら男子は水蓮が既婚者だということを知る由もなく…

「え!?マジ!?」
「あの子、四之宮先生の子供なの!?」
「てことは、四之宮先生、結婚してたのか!!」

その容姿ゆえに、男性のファンも多い水蓮が既婚者だと知ると…
当然、ファン達は阿鼻叫喚の図を描くこととなる。

「嘘だろ~…俺、卒業したら、って思ってたのに!!」
「ああ~、四之宮先生…」
「なんてこった!!ちきしょー!!」

本気で彼女に恋していた男子生徒達は、その恋をあっけなく散らしてしまうこととなる。

「へえ~、四之宮先生、人妻だったのか~」
「人妻…なんか、いい響きだな」
「人妻な四之宮先生がNTR展開…うお、いかんいかん」

とまあ、こんな感じで邪な妄想に走ってしまう男子もいるが。

「ホントごめんね、高宮君。帰ってから家事もあるあなたを、あまり遅くまで残らせるのは気がひけるんだけど」
「いいえ、ちょっとくらいならいいですよ」
「!ありがとう!!もう!!本当に可愛くていい子なんだから!!」

涼羽の家の事情を知っている水蓮からすれば、あまり涼羽を学校に拘束したくないのだが…
当の涼羽は、特に気にした様子もなく、ふわりとした笑顔で快く了承の意を伝える。

そんな涼羽がまた可愛いのか、ついつい頭を撫でてしまう水蓮。

「!せ、先生…俺はそういうのは…」

そして、水蓮の行為にこんな反応をしてしまう涼羽なのだが。
そんな反応が可愛いのか、水蓮は頬を緩めながら、もっと涼羽の頭を撫でてしまう。

「仕方ないじゃない。高宮君が可愛くて、いい子なんだから」
「だ、だからって…高校生の男子にすることじゃ…」
「いいじゃない。あたしの方が年上なんだから」

もはや何を言っても返される状態の涼羽。

そして、そんな二人のやりとりを見ていた周囲は…

「わ~、照れてる高宮君、可愛い~」
「あんな可愛い顔で男子だなんて言われても、ね~」
「ほんと、可愛いね~。高宮君って」

女子の方は、涼羽の反応を見て、思わず頬を緩め、デレっとしてしまう。

「高宮…マジ可愛いよな…」
「ああ…」
「なんであれで、男なんだよ…」
「あんな可愛い子が、男のはずはないのに…」

男子の方からは、そんな涼羽の可愛らしさに戸惑うかのような声が上がっている。
一部、涼羽が男であることを心底残念に思う声もあるが。

「えへへ♪おねえちゃん、もっとぎゅ~ってして?もっとなでなでして?」

ずっと涼羽の胸の中で甘やかされ続けていた香奈が、心底幸せそうな顔を涼羽の方に向けて、さらなるおねだりをする。
べったりと涼羽の身体に抱きつき、その純真無垢な目で、じっと涼羽の方を見つめながら。

「…ふふ。はいはい」
「えへへ♪おねえちゃんだいすき!」

そんな香奈が可愛いのか、涼羽の方にも、慈愛に満ちた優しい笑顔が浮かぶ。
そして、しっかりと香奈を抱きしめ、壊れ物を扱うかのようにその頭を撫でる。

「かなちゃん、あんまりお母さんを困らせたら、だめだよ?」
「だって、おねえちゃんにあいたくてたまらなかったんだもん」
「ふふ…よしよし」
「おねえちゃんは、かなのおねえちゃんだもん」
「…それはちょっと、どうかなって思うんだけど…」
「おねえちゃんに、かなのほんとうのおねえちゃんになって、ず~っといっしょにいてほしいの」
「か、かなちゃん…」

香奈がどれほどに涼羽のことが大好きで大好きでたまらないのかが、よく分かるやりとり。
そんな純粋な想いをぶつけられて、涼羽の方は照れくさくなり、困ったような笑顔になってしまう。

「ほ~ら、香奈。お姉ちゃん困ってるでしょ?」
「や!おねえちゃんは、かなのおねえちゃんなの!」

そんな様子を面白そうに見ていた水蓮から、娘をたしなめるような言葉が飛び出す。
たしなめるようなのはあくまで言葉だけで、口調も表情もあきらかに面白がってはいるが。

そんな母の言葉もどこ吹く風、といった感じで、あくまで涼羽は自分のだと主張する香奈。

「おねえちゃん、だあ~~~~~~いすきなの♪」

そして、天真爛漫な笑顔で、目一杯の愛情表現を、涼羽に向ける。

そんな香奈に、涼羽も目一杯の笑顔を向ける。

「…ふふ。ありがとう」

そんな二人のやりとりを見ていた女子達は…

「高宮君、ホントにお母さんみたい!!」
「それに何!!あの笑顔!!ヤバいくらい可愛い!!」
「高宮君、あんな顔できたんだ!!」
「もうどっちもすっごく可愛い!!」
「あ~ん!!どっちもぎゅうって抱きしめたくなっちゃう!!」

涼羽がこれまで見せることのなかった笑顔…
そして、その母性…

それらを目の当たりにして、すっかりそれらに心奪われていっているようだ。

そして、一方の男子達も…

「…マジ、やべえ…」
「あれはシャレになってねえ…」
「なんだ、あの可愛さは…」
「しかも、めっさお母さんしてるだろ、あれ」
「あの子の幸せそうな顔…」
「俺も、あんな風に…!って、何言ってんだ、俺!」

その心をかき乱されるような光景を目の当たりにして、より涼羽に対する認識を混乱させていっている状態だ。
一部から、涼羽に甘やかしてほしい、と思っているような声が出ていることからも、それが分かるだろう。

そんな周囲をさておき…

涼羽と香奈の心温まるやりとりはしばらく続き…

それは、周囲の心を奪い…

より涼羽に対する好感度を高めていくこととなった。

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