お兄ちゃんがお母さんで、妹が甘えん坊なお話

ただのものかき

お兄ちゃんは、わたしがお嫁さんにもらうんだから!!

「は~…なんか怖かった…」

その時初対面の、それも子持ちのいい大人の男性にプロポーズされるという…
男の身としては、非常に怖い事態に遭遇してしまい…
まさに脱兎のごとく、その場から逃げ出してきた涼羽。

そのプロポーズをしてきた本人である、佐々木 修介のその時の様子が…
あまりにも真剣で、真摯な表情をしており…
どこからどう見ても冗談などで済ますことのできない状況にまでなっていた。

あろうことか、娘である香澄まで巻き込んで、ひたすらに涼羽を欲しがるその姿が…
涼羽の目にはあまりにも異質で、あまりにも恐怖を感じてしまうほどのものだったため…
このままここにいたら、どんなことになるか分からない、という危険を察知してしまい…
たまらず、その場から逃げ出してきたのだ。

「男の俺にプロポーズするなんて…なんでそんなこと…」

涼羽にとっては、今思い出しても、身震いがしてしまうほどの出来事だったのだ。
今となっては、学校でも家庭でも、そしてたまたま散歩の最中にあった人物も含めて全てが…
涼羽のことをひたすらに可愛らしい女の子として扱ってくる始末。

それでも、こんな風に熱烈なプロポーズをされるなんてことはなかったのだ。
それも、涼羽が男であることを知った上でなお。
恋愛そのものに対する関心がほとんどなく、非常に初心で奥手な涼羽ではあるが…
それでも恋愛とは、それぞれを想い合う男子と女子が行なうものである、という認識しかない。

だから、いくら美少女にしか見えない容姿の涼羽ではあるが、男が男に恋愛を飛び越してプロポーズ…
などという事態そのものが、許容の範疇を遥かに超えてしまっていた。
だからと言って、同性愛と言う物が存在することは知っているし…
それを、頭ごなしに否定する気は、涼羽にはない。

しかし、それはあくまで、自分はその範疇の人間ではないから…
言ってしまえば、他人事として、第三者の立ち位置で見ているからこそ。
だからこそ、そんな自分がまさにその当事者となってしまっては…
どんなに考えても、分からないものは分からない。
答えなど、出るはずもないのだ。

どんなに考えても、答えの出ないことなので…
涼羽は、そのことに関してはもう考えないことにした。

ゆえに、その出来事自体を、自らの意識、そして記憶からも抹消することにし…
混乱に陥っていた思考を落ち着かせると…
すでに目と鼻の先にある、自宅の方へと足を動かし…
とにかく早く帰ろうと…
そして、早く晩御飯の準備をしてしまおうと、すたすたと帰路を歩いていく。

「今日はまだ、洗濯も掃除もしてないから…帰ったら忙しくなるな…」

この日は朝から出かけていたため、普段こなしているはずの洗濯も掃除もまるで手を付けていない状態。
なので、家に帰って、晩御飯を食べてから、それらもしていく必要がある。
そう思い、自宅に帰ってからの自分の行動ルーチンを脳内で構築し始めると…
もう、ここまでの出来事からは完全に意識を逸らしてしまい…
今から行なうことにのみ、意識が向けられてしまっている。

そんな涼羽だから、考えもしなかっただろう。



――――自分が普段から常に行なっている洗濯や掃除を、家族である父や妹が手分けして、すでに終わらせてしまっているなんて――――



もう今は、晩御飯の準備以外にすることがなくなってしまっていることなど、まるで気づくこともなく…
これから行なうことに思考をフル回転させて、意識の準備を整えつつ…
その足で、自宅である高宮家のドアを開き…
そのまま、自宅に入ると、開いたドアを閉じて、鍵をかける。

「ただいま~」

そして、大きくもなく、小さくもない、穏やかな口調と声で…
自らが帰ってきたことを宣言する言葉を、音として響かせる涼羽。

その声に対する反応は、この家のことを知らない人間が見たら驚くほどに早く…
涼羽の声が響き終わる前に、この家の住人であり、家族である二人が、玄関にバタバタと慌しく…
まさに、涼羽の帰りを待っていた、と言わんばかりにその姿を現した。

「おかえり!涼羽!」
「おかえりなさい!お兄ちゃん!」

涼羽の父である翔羽。
涼羽の妹である羽月。

たった半日涼羽が不在なだけで、ものすごく物足りなさと寂しさを感じてしまっていた二人。
この家のアイドルであり、お母さんとも言える、間違いなくこの家一の愛されキャラである涼羽が…
ようやく、と言った感じで帰ってきてくれたことで…
二人の顔に、いつもよりも幸せそうな笑顔が浮かびあがり…

父、翔羽にとっては目に入れても痛くないほどに可愛い、愛すべき息子、涼羽を…
妹、羽月にとってはこの世で最も愛していると言っても過言ではない、最愛の兄、涼羽を…

まだ玄関先で靴も脱いでいない涼羽を、二人共べったりとへばりつくようにぎゅうっと抱きしめる。

「!わぷっ…」

父、翔羽は愛する涼羽の小柄で華奢な身体を包み込むようにぎゅうっと抱きしめ…
妹、羽月は大好きな涼羽の身体にべったりと抱きつき、その胸に顔を埋めて目いっぱい甘えてくる。

「ああ~…涼羽が帰ってきた~…」
「えへへ…お兄ちゃんやっと帰ってきた~」

普段から涼羽に対する愛情を惜しげもなく晒し、言葉でも行動でもひたすらに表現し続けている二人。
今この時においては、半日ほど不在にしていたこともあり…
もう二度と離したくない、と言わんばかりに涼羽をぎゅうっと抱きしめ…
その愛おしい存在を噛み締めるかのように堪能し続ける翔羽と羽月。

息子大好きな父、翔羽とお兄ちゃん大好きな妹、羽月のそんな様子に…
涼羽の顔に思わず苦笑いが浮かんでくる。

「もう…どうしたの二人共。俺、ちょっと出かけてただけなのに…」

心底幸せそうな表情でべったりと自分にひっついてくる父と妹がなんだか可愛らしく見えてきて…
ついつい、二人の頭を優しく撫でてしまう涼羽。

こんなにも自分に対して好意や愛情を惜しげもなくぶつけてくる二人。
そんな二人のこんな行為が、なんだか妙に嬉しくなってしまう涼羽。

「何を言ってるんだ、涼羽。俺達がどんなにお前のことが大好きで大好きでたまらないのか、知ってるだろ?」

可愛い息子に、まるで母親にされるように頭を撫でられて、よりその愛おしさが膨れ上がっているのか…
逆に、自らの胸の中に包み込んでいる涼羽の頭を、慈しむように撫で始める翔羽。

さらには、その艶も香りもいい、長い黒髪を堪能するかのように…
涼羽の頭に頬ずりまで始めてしまう。

普通に見れば、どう見ても美少女な娘にしか見えない、可愛い可愛い息子。
もう今年で十八歳になるのだが、そんな感じはまるでせず…
長い単身赴任で、ずっと離れていたこともあり…
本当に、可愛い盛りの頃とまるで変わらない扱いをしてしまう。

今は亡き最愛の妻である水月の忘れ形見でもあり、余計にその愛情は天井知らずに膨れ上がってしまうのだろう。
こういった愛情表現が苦手で、そういうのをぶつけられることにも耐性がなく…
いつも、恥ずかしがって可愛らしい反応を見せてくれることもあり…
もっと、もっとと、余計に愛情が膨れ上がって、それを抑えることなど、できなくなってしまうのだ。

愛する息子である涼羽の、抱き心地のいい身体…
愛する息子である涼羽の、いつまでも嗅いでいたいと思えるほどの、芳しい香り…
愛する息子である涼羽の、もうどうしようもないくらいに可愛らしい容姿と、その仕草…

もう、どこに出しても恥ずかしくない、自慢の息子。
もう、どこにも出したくないくらいに可愛い、自慢の息子。

もう、ひたすらにべったりと抱きつき、目いっぱいの愛情を注ぐように、その頭を撫でて、頬ずりを繰り返してしまう翔羽なので、あった。

「お兄ちゃんがいなかったから、わたし、す~っごく寂しかったんだからね」

可愛すぎるほどに可愛い兄に…
愛しすぎてもう壊れてしまいそうなほどに大好きな兄の胸に顔を埋めて…

もうどうしようもないほどに膨れ上がる愛情を惜しげもなく晒しながら…
兄の胸の中で、その母性と慈愛を思う存分に堪能し続ける妹、羽月。

こうしている時が、この世で一番幸せだと断言できてしまうほどに…
羽月は、兄、涼羽にこうやってべったりと抱きついて…
兄、涼羽の母性と慈愛を堪能するのが好きで好きでたまらないのだ。

ぺったんこであるものの、柔らかくて優しい兄の胸の中…
そんな兄の胸に顔を埋めて、思いっきり甘えるように頬ずりを繰り返してしまう。
それだけで、兄がいない間の寂しさが、瞬く間に埋められてしまう。
それだけで、自分の兄に対する愛情が、天井知らずに膨れ上がってしまう。

母というものを知らない自分にとっては、男でありながら、母親の代わりまでしてくれる存在。
比較対象といえるような感覚が自分の中にはまるでなく…
どういうものが母親なのか、まるで分からない羽月。
そんな妹、羽月に、男の身でありながら、誰よりも分かりやすく母親として、自分を包み込んでくれる兄、涼羽。

一度それを味わって、本当に幸せで、本当に愛おしくて…
もう、今こうしてゼロ距離で触れ合っている兄、涼羽のことが…
この世で一番大好きな存在になってしまっている。

大好きで大好きたまらない…
愛したくて愛したくてたまらない…
可愛すぎて可愛すぎて、もうむちゃくちゃに愛してあげたくてたまらない兄、涼羽。

こうして、優しく頭を撫でられるだけで、天にも昇る心地よさを感じてしまう羽月。
こうして、その母性の塊のような胸の中で包み込まれるだけで、天国にいるような幸せを感じてしまう羽月。

こんなやりとりを繰り返す度に、羽月の涼羽に対する愛情が、これでもかと言うほどに膨れ上がってしまう。
羽月が、涼羽のことを愛したくて愛したくてたまらなくなってしまう。

もともと甘えん坊なだけに…
そんな自分をこうして、めっちゃくちゃに甘えさせてくれる兄、涼羽が大好きで大好きで…
愛おしくて愛おしくてたまらなくなってしまう。

そんな兄を、自分だけのものにしたくてたまらなくなってしまう。

こんな風に、兄が半日ほど不在なだけで、心にぽっかりと穴が空いてしまったかのような空虚さと寂しさを感じてしまう羽月。

だから、それを取り戻さんがごとく、兄にべったりと抱きついて、思う存分に甘えてしまう。

こうして、べったりといつも通り甘えるだけで、心に空いた穴が瞬く間に埋められていく。
それが、たまらなく幸せで、たまらなく嬉しい。

もう、どこに出しても恥ずかしくない、自慢の兄、涼羽。
もう、どこにも出したくないほどに可愛過ぎて、大好き過ぎてたまらない、自慢の兄、涼羽。

そんな兄、涼羽にべったりと抱きついて、目いっぱい甘えようとその胸に頬ずりをしてしまう妹、羽月。

「二人共…そんなにされたら、なんか、恥ずかしいよ…」

愛されることに耐性がなく、こんな風にめっちゃくちゃと言えるほどにその愛情をぶつけられると…
嬉しさよりも恥ずかしさが勝ってしまい、どうしてもこんな風に恥ずかしがってしまう涼羽。

そんな性質も、仕草も、全てが可愛すぎて…
それがまた、二人の涼羽に対する愛情を膨れ上がらせてしまうことに、涼羽本人が無自覚なのだ。

「涼羽~…お前は本当に可愛いな~」
「お兄ちゃん、もうすっごく可愛い~」

自分達にひたすらに愛されて、ついつい恥ずかしがってしまう涼羽にもうデレデレの二人。
可愛すぎて、もっともっと涼羽のことを愛してあげたくなってしまう。

「あ…ご飯の準備して、それから洗濯と掃除もしてかないと…」

家族である二人にあまりにも可愛がられてしまうことから意識を無理やり逸らすかのように…
自分のやろうとしていることを口に出し、それらに取り組もうと、動こうとする涼羽。

しかし、そんな涼羽を決して離そうとしない父と妹の二人。

むしろ、より涼羽を抱きしめるその腕の力が入ってしまう。

「ちょ…二人共、離して…」

一向に自分を離してくれない二人に、涼羽の口から、思わず抗議の声が漏れてしまう。
しかし、そんな涼羽に対して、まるでいたずらっ子のような笑顔を見せる二人。

「へへへ…」
「えへへ…」

まるでしてやったり、な感じのある含み笑いを見せる二人に、涼羽も毒気を抜かれたかのようになってしまう。

「?どうしたの?」

少し間の抜けた感じの口調で、思わず二人に問いかける。

「涼羽…今日は、俺と羽月で洗濯と掃除、済ませておいたからな」
「うん!お父さんと一緒に、お洗濯とお掃除、したの!」

もうまさに、サプライズ的な感じで、二人から告げられる言葉。
その言葉に、涼羽も驚きを隠せなかった。

「…え?…二人で?…」
「ああ!」
「うん!」

思わず、といった感じで聞き返す涼羽の声に、嬉々とした表情と声で応える翔羽と羽月。

「だから、今日は思う存分、涼羽にべったりとできるもんな~、羽月」
「うん!だから今日は、い~っぱいお兄ちゃんにぎゅ~ってして、なでなでしてもらうの!」

もう、これからひたすら涼羽にべったりとすることを思い浮かべているのだろう。
翔羽は、心底嬉しそうに涼羽を見つめ…
羽月は、心底幸せそうな笑顔で、涼羽にべったりと抱きついている。

「…え?え?…」
「それと、涼羽。今日は晩御飯の準備、俺達も手伝うからな」
「うん!お兄ちゃんとお料理するの!」

すでに洗濯、掃除が終わっている、という事実に、思考が混乱気味になっている涼羽に追い討ちをかけるように、晩御飯の準備も手伝うと発言する父、翔羽。
その翔羽に便乗するように、大好きな兄と料理できる喜びをその美少女顔に笑顔として浮かべ、嬉しそうに言う羽月。

「やっぱり、たまには涼羽のこと、ちゃんと手伝ってあげたいからな」
「うん!お兄ちゃんのこと、手伝ってあげたいもん!」

涼羽のやることをなくして、ひたすら涼羽にべったりできる時間を作りたい、という想いの方が強いのはあるが…
やはり、普段から一家のお母さんとして、家事を目いっぱい頑張ってくれている涼羽を手伝ってあげたい、という想いも強い二人。

その想いをそのまま、素直に言葉として、声にする翔羽と羽月。

「…ありがとう、二人共」

そんな二人の想いが心に染み渡ったのか、控えめに微笑む笑顔がその顔に浮かび…
その感謝の想いを、素直な気持ちで言葉として二人に伝える涼羽。

「何言ってるんだ、涼羽。普段からいつもいつもお前に世話になりっぱなしなんだから。むしろ俺達の方がありがとうだよ」
「そうだよ!お兄ちゃん!いつもいつもありがとうね!」

そんな風に、控えめに可愛らしくお礼を言ってくる涼羽に、逆に普段からいつもいつも家事を頑張ってくれていることに対するお礼の言葉を響かせる翔羽。
そして、そんな父に便乗するように、可愛らしい笑顔で可愛らしい声でお礼の言葉を伝える羽月。

「ありがとう、二人共。なんか、すっごく嬉しい…」

そんな風に言ってくれる二人の言葉が嬉しかったのか…
その控えめな笑顔をさらに綻ばせて、改めてお礼の言葉を響かせる涼羽。

そんな涼羽の笑顔がよほど可愛らしかったのか…
二人の涼羽を抱きしめる腕の力が、より強くなってしまう。

「よし!涼羽が喜んでくれてる!」
「えへへ!お兄ちゃん、喜んでくれてる!」

自分達のしたことで、涼羽が喜んでくれていることを知れたことで…
翔羽も羽月もものすごく嬉しそうな表情で、喜びの声をあげてしまう。

「本当…今日は変なこともあったけど、嬉しいな」
「?変なこと?」
「?変なことって何?お兄ちゃん?」

この時に、涼羽がぽつりと漏らしてしまった、『変なこと』と言う言葉。
それが気になったのか、思わず食いつくように聞き返してくる翔羽と羽月の二人。

「えっと…」

あのことは、涼羽にとっては言いづらいことなので、ついつい口ごもってしまう。
が、とりあえず場を濁す程度の想いで、軽く口に出してしまう。

「いや…なんか今日…帰りに会ったばかりの男の人に、なんでかプロポーズ…かな?されちゃったから…」
「!!!!」
「!!!!」

涼羽としては、単なる冗談のネタのつもりで口にした一言だったのだが…
その一言の衝撃は、二人にとっては途轍もないものであったようで…
まるで、未確認生物を間近でこの目で見てしまったかのような、驚きの表情を見せてしまう。

「?ど、どうしたの?」
「りょ、涼羽!お前、プロポーズされたって…」
「お、お兄ちゃん!大丈夫だったの!!?」

二人の分かりやすすぎる反応が気になって、ついつい聞き返すように問いかける涼羽。
そんな涼羽の一言が皮切りになったのか、ものすごい勢いで涼羽が漏らした出来事に対して問い詰めてくる二人。

涼羽も大抵過保護ではあるのだが…
この二人は、こと涼羽に関して言えば、周囲が思わず引いてしまうほどに過保護であるのだ。
そんな二人が、涼羽が見知らぬ男性にプロポーズされた、などと聞いてしまうと…
こんな風に大慌てして、問い詰めてきても何の不思議もないのだ。

最も、その事に関しては当事者である涼羽が一番意識が薄いのだが。

「ちょ、ど、どうしたの二人共…落ち着いて…」
「これが落ち着いていられるか!!お前がどこの馬の骨とも分からん男に、プロポーズされただなんて!!」
「もう!!なんなのそれ!!お兄ちゃんは、わたしのお嫁さんって決まってるのに!!」
「お、お父さん、落ち着いて…それと羽月、俺は男だから、お嫁さんになんてなれません!」
「お、お父さんは許さんぞ!どこの馬の骨とも分からんやつに、お前を嫁にやるだなんて!!」
「お兄ちゃんは、ぜ~ったいに誰にもあげないんだから!お兄ちゃんは、わたしだけのお兄ちゃんだもん!」
「ふ、二人共!落ち着いて!男同士でプロポーズもくそもないから!ちゃんと断ってきたから!」

まさに、可愛くて可愛くて…
大好きで大好きでたまらない娘が変な男に狙われているなどと聞かされて…
どうしようもないほどに憤り…
もう可愛い可愛い息子である涼羽が心配で心配でたまらない、といった表情になってしまっている翔羽。

そして、そんな父、翔羽と同じように…
大好きで大好きで…
可愛くて可愛くてたまらない兄である涼羽が、見知らぬ男に狙われているなんて聞かされて…
あくまで涼羽は自分だけのものであると、ひたすらに強調してくる妹、羽月。

そんな風にヒートアップしてしまっている二人をどうにかなだめて落ち着かせようと、懸命になる涼羽。

「涼羽!俺の目が黒いうちは、ぜ~ったいにお前を嫁にはやらんからな!お前は、俺の可愛くて可愛くてたまらない息子なんだからな!」
「お兄ちゃん!お兄ちゃんは、わたしがお嫁さんにもらってあげるんだから!だから、ぜ~ったいに誰にもあげたりなんか、しないんだからね!」

当事者である涼羽のなだめるような言葉も甲斐がなく…
ただ、自分達にとって最愛の存在である涼羽が、誰かに奪われそうになっているという事実に…
そのヒートアップする想いを抑えられない父、翔羽と、妹、羽月。

その危機感がそうさせるのか…
まるで涼羽を覆い隠すかのように…
涼羽のことをよりぎゅうっと抱きしめ、思いっきり頬ずりまでしてしまう二人。

そんな二人に、もはや言葉も出させてもらえない涼羽。

そんな父と妹の必死の想いからなる拘束は、涼羽の『早くご飯にしよう』という、お怒りな心境を含んだ声が飛び出るまで、続くこととなった。

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