お兄ちゃんがお母さんで、妹が甘えん坊なお話
もうすぐ、パパが来てくれるからね?
「えへへ~♪りょうおねえたん、らあ~いしゅき♪」
天真爛漫なにこにこ笑顔を惜しげもなく晒しながら、涼羽の胸にべったりとと抱きつき…
目いっぱい甘えてきている少女、かすみ。
一人ぼっちになって、寂しくて寂しくて…
怖くて怖くてたまらなかったところに、こうして自分を優しく包み込んでくれる存在。
それが、優しげな笑顔と目いっぱいの慈愛を向け、とろけるかのような優しさで自分を包み込んでくれる…
まさに、女神のような美少女なら、なおのこと懐いてしまうのも無理はないと言えるだろう。
「ふふ…かすみちゃん、可愛い」
涼羽の方も、自分の胸の中で思いっきり甘えてくる幼い女の子が可愛くてたまらなく…
その母性を遺憾なく発揮して、かすみが望むままに、優しく包み込んで甘やかしている。
「りょうおねえたん」
「?なあに?」
「わたちのこと、い~っぱいぎゅ~ってして、にゃでにゃでして~?」
「…ふふ、はいはい。もっとしてあげるね」
「!えへへ~」
そんな涼羽の甘やかしが嬉しくて嬉しくて…
幸せで幸せでたまらないのか、もっと、もっとと可愛いおねだりをしてくるかすみ。
そんなかすみがまた可愛くて、よりいっそうその母性でかすみを包み込んで、うんと甘やかしてしまう涼羽。
すっかり天使のような笑顔を取り戻したかすみに、涼羽もその慈愛に満ちた笑顔を絶やすことなく…
まるで本当の母と娘のような、見てるだけで癒されるようなそのほのぼのとした光景。
ちらほらと、そのそばを通りかかる人々が、思わず目を、心を奪われてしまい…
中には、じっと立ち止まって無遠慮に見てしまう者さえいるくらいだ。
「(うわ~、あの子達、すっごく幸せそうで、すっごく可愛いな)」
「(もう、二人とも可愛すぎ!あんなの見せられたら、二人とも思いっきりぎゅってしたくなっちゃう!)」
「(ちょっと歳の離れた姉妹なのかな?すっごく仲良しで、すっごく甘えんぼな妹ちゃんに、すっごくお母さんみたいな可愛いお姉ちゃん…いいなあ…)」
もう単純に目の保養として、二人が生み出すぽやぽやとした、幸せいっぱいの雰囲気が、人々の心を癒してくれる。
その天使のような愛らしい、幼い笑顔を惜しげもなく晒し、涼羽の胸の中でべったりと甘えるかすみ。
その慈愛に満ちた女神のような優しくも可愛らしい笑顔を惜しげもなく晒し、胸の中でべったりと甘えてくるかすみをうんと優しく甘やかす涼羽。
男性陣は、まさに美少女同士のいちゃらぶとも言える光景が、おおいに目の保養となり…
女性陣は、この二人をめちゃくちゃに可愛がりたくなってしまう衝動に駆られてしまう。
さりげなく、携帯やスマホで動画として撮影までしてしまう者までおり…
後々にその動画を眺めて、その幸せをおすそ分けしてもらうこととなったり、心が荒んでいる時に見て、心の癒しに使ったりすることとなる。
「ねえ、かすみちゃん?」
「?なあに?りょうおねえたん?」
「かすみちゃんは、どうして一人でここにいたの?」
自分の胸の中の少女が幸せに浸っているのを見て、自分も幸せに浸りながら…
その笑顔をかすみに向け、優しい声を口調で、かすみになぜ、ここに一人でいたのかを問いかける。
「あのね、わたちね、ぱぱといっちょにおしゃんぽしてたの」
「うんうん、それで?」
「それでね、ぱぱがじゅーすかってくれてたら、かわいいねこしゃんがいたの」
「そうなんだ」
「でね、わたち、そのねこしゃんがにげちゃうから、ねこしゃんとおっかけっこしたの」
「うんうん」
「でね、ねこしゃんもうみえなくなっちゃって、そしたら、ぱぱもどこにもいなくて…」
三歳という幼い少女の、舌足らずな可愛らしい声と口調で、つたなくも一生懸命涼羽の質問に答えてくるかすみ。
要点を纏めると、父親と散歩に出かけてて、その父親がかすみのために何か飲み物を買おうとしているところに、かすみの気を引いてしまうような可愛らしい猫を、かすみが見かけてしまった。
そして、その猫が逃げてしまいそうになり、それを夢中で追いかけていたら、いつの間にか、知らないところまできてしまっていた、ということになる。
それで、父親も見当たらなくなって、完全に迷子になってしまい、どうしようもなくなって、蹲って泣いていたところに、涼羽が通りかかり、声をかけた、ということなのだろう。
たぶん、かすみの飲み物を買っている間にかすみから目を離してしまい…
その隙に、かすみは猫を追いかけていってしまったのだろう。
そして、気がつくと娘の姿がどこにもいない、という自体になっているはず。
でなければ、大人の足でこんな小さな子供に追いつけないはずがないからだ。
だとすれば、この子の父親は今必死になって、娘のことを探しているはず。
ましてや、こんな小さな子供の足で走れる距離など、たかが知れている。
となると、割とこの近辺で探しているのではないだろうか。
「(さて、かすみちゃんのお父さんとこのままばったりと会えるのが一番いいんだけど…どうしよう)」
そんなに遠い距離でないことは分かるものの…
だからといって下手に動けば、却って会えなくなる可能性が高い。
だからといって、いつまでもこの子をこのままにしておくわけにもいかない。
どうしようと、その思考をフル回転させて打開策を考えているところに、ふと目に入ったもの。
かすみが、その小さな肩からかけている、この幼子の小さな体にぴったりの、可愛らしいデザインのポシェット。
「(!もしかしたら…)」
それを見た瞬間、ひょっとしたら、という期待が涼羽の中で生まれる。
そのポシェットの中に、父親の連絡先、もしくはこの子の家の住所みたいなものがあるのなら…
そう思った涼羽は、その考えに期待を込めて、再びかすみに優しく問いかける。
「かすみちゃん、そのポシェット、可愛いね」
「!えへへ、いいでちょ?」
「うん、ちょっと…お姉ちゃんにも見せてもらってもいい?」
「うん、いいよ」
そのポシェットを見せて欲しいと、優しくお願いする涼羽。
さすがに自分で自分をお姉ちゃんと呼ぶことに抵抗があったのか、その部分で少しぎこちなくなってしまうが。
かすみの方は、特に疑うこともなく、舌足らずな可愛らしい声で、はい、と涼羽の目の前に、その小さな両手で抱えたポシェットを差し出す。
「ありがとう、かすみちゃん」
「えへへ。どういたちまちて」
「ポシェットの中も、見せてもらっていい?」
「うん、いいよ」
そんなかすみに、笑顔でお礼を言う涼羽。
そして、ポシェットの中も見せてもらっていいかを確認する。
そんな涼羽の問いかけにも、笑顔で首を縦に振るかすみ。
わざわざ、その小さな手で、ポシェットのジッパーを開けていってくれている。
「はい!りょうおねえたん!」
「ふふ、ありがとう、かすみちゃん」
ポシェットのジッパーを全開にした状態で、改めてそれを涼羽に差し出すかすみ。
そんなかすみに、笑顔でお礼を言う涼羽。
そして、右腕でかすみの体をしっかりと抱えながら、左手でそのポシェットの口を開けて、中身を見ていく。
あるのは、小さな子供がおもちゃとして使うような、がま口タイプの小さな財布。
それと、今流行りの魔法少女もののアニメのキャラが持っている、ステッキのおもちゃ。
そして、四つに折られた、小さな紙切れ。
「!これ、かな?」
その小さな紙切れを取り出し、小さく折り畳まれているそれを開いて、中を見てみる涼羽。
「!あった…」
そこに書かれていたのは、『佐々木 修介(ささき しゅうすけ)』という名前と、『佐々木 香澄(ささき かすみ)』という名前。
『佐々木 香澄』というのは、間違いなくこの子の名前だろう。
そして、おそらくもう一つの『佐々木 修介』という名前が、この子の父親の名前のはず。
そして、その下の方に、一つの電話番号が書かれている。
先頭の三桁と、全体の桁数からして、携帯電話の番号であることが分かる。
これは、おそらくこの子の父親の連絡先ではないだろうか。
そう思い、涼羽は一度香澄を下に下ろすと、自分の左肩にかけているショルダーバッグの中から、自身のスマホを取り出す。
そして、その紙切れに書かれている電話番号を素早く入力し、通話の操作を行なう。
これが空振りとなるのなら、あとは交番に行くしかなくなってくる。
できれば、これが当たりであってほしい。
そんな願いを込め、涼羽は左手に持ったスマホを左耳に当て、じっと待つ。
呼び出しのコール音がしているので、ちゃんと使われている番号であるということが分かる。
後は、これが香澄の父親の連絡先であることを、祈るのみ。
いたって一般的なコール音が一回、二回と繰り返され…
三回目のコールが鳴ろうとしたところで、そのコール音が途切れる。
そして、この電話の持ち主であろう、妙に息を切らした様子の男性の声が、涼羽の耳に飛び込んできた。
『も…もしもし?』
かかってきたのが知らない番号ということもあり、やや怪訝な感じの声となっている。
この人が、香澄のお父さんで合っているはず。
そう思い、涼羽は落ち着いて、その声を電話の相手に紡いでいく。
「すみません。こちらは、佐々木 香澄ちゃんのお父さんの携帯電話でよろしかったでしょうか?」
相手の警戒をほぐしてくれるであろう、柔らかで優しげな口調。
そして、今ここで涼羽と一緒にいる、佐々木 香澄という名前。
その名前を出したことによる相手の反応は、非常に分かりやすいものとなった。
『!娘は、香澄はそこにいるんですか!?』
相手の名前を聞くことも忘れ、ひたすらに娘のことを聞こうとするその反応。
間違いない。
この人が、香澄のお父さんだと、涼羽は確信を持つことが出来た。
「あ、えっと…落ち着いて聞いてください」
『!は、はい…』
「香澄ちゃんですが、今ここに、僕と一緒にいます」
一度相手を落ち着かせるように促し、ワンクッション置く言葉を紡ぐ涼羽。
その声に、相手も非常に慌てていた様子が一旦落ち着いてくる。
そして、相手が心底聞きたがっているであろう、娘の安否を伝える。
『!ああ、よかった…』
よほど一心不乱に探し続けていたのだろう。
その声からも、それがよく分かるものとなっている。
「香澄ちゃんは、怪我一つない、全くの無事な状態です。安心してください」
『!ああ…ありがとうございます!あなたが香澄を保護してくださってたのですね!?』
「は、はい。たまたま僕が通りかかったところに、蹲って泣いている香澄ちゃんを見かけたので…」
『!ありがとうございます!ありがとうございます!』
もう電話の声からでも、目いっぱい頭を下げている様子が伺えてしまうほどに…
心底安心したという実感を得て…
それほどまでに大切な娘を保護してくれたことに対して、大げさなほどに感謝の言葉を紡いでくる父親の声。
そんな必死すぎると言える、電話の声に、涼羽の顔がほんのりと朱に染まっていく。
「そ、そんな大げさな…僕としては、こんなにも小さくて可愛らしい子供が泣いているのを、放っておけなかっただけなので…」
あまり大げさに持ち上げられることを好まず…
そういったことに羞恥すら覚えてしまう、非常に控えめな性格の涼羽。
だからこそ、電話の先の相手の大げさすぎるほどの感謝の意に、こんな言葉を返してしまう。
『!なんていい人なんだ…ああ…あなたのような方が娘を見つけてくれたことに、私は神に感謝します!』
「だ、だからそんな大げさな…」
『!何をおっしゃいますか!私にとっては命よりも大事な娘を救ってくださったのですから!あなたは私にとってはまさに恩人です!』
そんな控えめな涼羽の言葉に、まさに感動した、と言わんばかりの反応を返す電話の相手。
電話の向こうでは、拳を握りながら熱くしゃべっているのではないか、と思えるほどに熱く激しい、電話の相手の感謝の想い。
「そ、そんな…も、もういいですから…」
これほどまでに娘を思う父親の姿に、自身の父親である翔羽の姿を重ねてしまう涼羽。
――――やっぱり、親にとって子供って、本当に大事なものなんだな――――
日頃から、これでもかと言わんばかりに息子である自分や、娘である羽月を可愛がってくれる父、翔羽。
今年で十八歳になる息子には、過ぎたほどの愛情表現。
それが、ものすごく恥ずかしく感じてしまうものの…
でも、それがものすごく嬉しく思えてしまう。
父、翔羽がどれほどに自分や羽月を可愛がって、愛してくれているのか…
そう思うだけで、本当に幸せな想いが、心を満たしてくれる。
この香澄も、電話の先にいるお父さんから、そんな風に愛してもらっているのではないか。
そう思うと、困り果てたその美少女顔に、ほんのりと幸せそうな笑顔が浮かんでくる。
「と、とにかく、合流したいと思うのですが…今、どちらの方におられますか?」
気を取り直して、ここからやらなければならないことを言葉として紡いでいく涼羽。
電話の相手と一度合流し、この香澄を父親の元へと返さなければならない。
その思いから、とにかく行動を促す言葉を、声にする。
『!そ、そうですね!私は今、商店街の中の方にいますが…』
「そうですか…僕の方は、秋月保育園のすぐそばにいます」
『!でしたら、あなたはそちらの方にいてください!私が、そちらの方に向かいます!』
「え?でも、もうすでに結構な距離を走られて疲れているのでは…それなら、こちらから香澄ちゃんを連れて、そちらに向かいますが…」
『!ああ、なんと優しい方なのでしょう…でも、大丈夫です!恩人のあなたに、そんなご足労をかけるなどさせられませんから!』
「だ、大丈夫ですか?」
『はい!むしろ娘が無事だったことを知ることができて、体に力が湧いてきましたよ!』
「そ、そうですか。分かりました。では、僕はこのまま香澄ちゃんと秋月保育園のそばでお待ちさせていただきます」
『分かりました!すぐにそちらに向かいますので!』
「はい、分かりました。では、お待ちしておりますね」
『了解しました!ではまた後ほど!』
一気に力を取り戻したような、彼の言葉を最後に、通話を切る涼羽。
あの彼の声から見える様子を思うと、本当に親ってすごいな、と思ってしまう。
電話の最初の様子からすると、かなりの距離を走っていて、相当に体力を消耗していたはず。
なのに、娘の無事を聞いた途端に、見る見る力が漲っていたのが、声からでも分かるほどだった。
たった一人の娘のために、ここまで身体を突き動かすことができることを思うと、涼羽はまだ声しか知らない香澄の父親のことを、尊敬さえしていた。
そして、それと同じように、いつもほとばしるほどの愛情を自分達兄妹に向け…
一家の大黒柱として、仕事に子育てに奮闘してくれる父、翔羽のことも、改めて尊敬することができた。
「(本当に、親ってすごいな…俺も、あんな風に、なれるかな…)」
常に自分を向上させることが望みと言わんばかりの生き方の涼羽。
そんな涼羽からすれば、この自分の父親と、香澄の父親。
親として素晴らしいとさえ言えるこの二人のようになっていきたいと思う。
もうすでに、『母親』としてはどこに出しても恥ずかしくないほどである、ということは、知らないのは本人である涼羽だけなのだが。
「りょうおねえたん、だれともちもちちてたの?」
電話していた涼羽を見上げて、じっと見つめながら…
ちょうど電話が終わったところで、涼羽に問いかける香澄。
電話をしていた、というのは分かっているようだが…
誰と電話していたのかまでは、分からなかったようだ。
「え?ああ、かすみちゃんのお父さんと、もしもししてたんだよ」
舌足らずな可愛らしい声と口調で問いかけてくる香澄に、膝を折って目線を合わせ…
優しい表情で香澄の問いかけに答える涼羽。
幼く、純真な香澄が可愛らしくて、ついつい頭を撫でてしまうのはご愛嬌と言ったところか。
「!ぱぱと、もちもちちてたの?」
「うん、もうすぐかすみちゃんのパパ、ここに来てくれるよ?」
「!ほんと~?」
「うん、本当」
「わ~い!ぱぱがきてくれゆ~!!」
自分の父親が涼羽と電話していたこと…
それにより、もうすぐ自分のところに来てくれること…
それを聞いた香澄は、その小さく幼い身体を目いっぱい使って、喜びを表現する。
そんな香澄を見て、やはり実の父親が一番なのだろうと、涼羽は思った。
「ふふ…もうすぐパパとお家に帰れるね?」
「うん!」
「よかったね、かすみちゃん」
「あいがと~!!りょうおねえたん!!」
優しい手つきで頭を撫でてくれる涼羽に、満面の笑顔でお礼を言う香澄。
そして、やっぱり涼羽の胸の中が心地よかったのか…
また、べったりと涼羽の胸に抱きついてくる。
「ふふ…どうしたの?かすみちゃん?」
「りょうおねえたんのぎゅ~と、にゃでにゃで、ほちいの!」
「…さっきまであんなにぎゅ~となでなで、してあげたのに?」
「うん!もっとほちい!!」
涼羽に甘やかされるのがよほどお気に召したようで…
もうすぐ実の父親が来るというにも関わらず…
もっと涼羽に甘えたくてたまらないという香澄。
物欲しそうな、それでいて純真無垢な笑顔で涼羽の顔を覗き込むように見つめ…
その小さな手で、涼羽の身体にべったりと抱きついて離そうとしないその姿…
そんな香澄の姿を見てると、本当に可愛らしく思えて…
こんなにも甘えてきてくれる子供に、何もしてやらない、などという選択肢は、涼羽にはあるはずもないのだ。
「…うふふ…じゃあ、かすみちゃんのお父さんが来るまで、い~っぱいしてあげるね?」
「!ほんと~!?」
「うん、かすみちゃんが可愛いから、い~っぱいぎゅ~となでなで、してあげる」
「!えへへ~♪りょうおねえたん、らあ~いしゅき!」
天真爛漫な可愛らしさを惜しげもなく自分の方に晒してくる香澄に、その母性を刺激された涼羽。
本当に、自分の娘が可愛くて可愛くてたまらない母親のように、目いっぱいの愛情を注がんとするように…
優しく香澄の小さな身体を抱きしめ、その頭を壊れ物を扱うかのような手つきで撫で始める。
「えへへ~♪ちゃ~わちぇ~」
赤の他人の子供に対してすら、これほどに優しく、その慈愛を向けることのできる涼羽。
これが、自分の子供となると、一体どれほどにとろとろの甘やかしになってしまうのか…
ある意味、考えただけでも怖くなってしまう涼羽なのであった。
天真爛漫なにこにこ笑顔を惜しげもなく晒しながら、涼羽の胸にべったりとと抱きつき…
目いっぱい甘えてきている少女、かすみ。
一人ぼっちになって、寂しくて寂しくて…
怖くて怖くてたまらなかったところに、こうして自分を優しく包み込んでくれる存在。
それが、優しげな笑顔と目いっぱいの慈愛を向け、とろけるかのような優しさで自分を包み込んでくれる…
まさに、女神のような美少女なら、なおのこと懐いてしまうのも無理はないと言えるだろう。
「ふふ…かすみちゃん、可愛い」
涼羽の方も、自分の胸の中で思いっきり甘えてくる幼い女の子が可愛くてたまらなく…
その母性を遺憾なく発揮して、かすみが望むままに、優しく包み込んで甘やかしている。
「りょうおねえたん」
「?なあに?」
「わたちのこと、い~っぱいぎゅ~ってして、にゃでにゃでして~?」
「…ふふ、はいはい。もっとしてあげるね」
「!えへへ~」
そんな涼羽の甘やかしが嬉しくて嬉しくて…
幸せで幸せでたまらないのか、もっと、もっとと可愛いおねだりをしてくるかすみ。
そんなかすみがまた可愛くて、よりいっそうその母性でかすみを包み込んで、うんと甘やかしてしまう涼羽。
すっかり天使のような笑顔を取り戻したかすみに、涼羽もその慈愛に満ちた笑顔を絶やすことなく…
まるで本当の母と娘のような、見てるだけで癒されるようなそのほのぼのとした光景。
ちらほらと、そのそばを通りかかる人々が、思わず目を、心を奪われてしまい…
中には、じっと立ち止まって無遠慮に見てしまう者さえいるくらいだ。
「(うわ~、あの子達、すっごく幸せそうで、すっごく可愛いな)」
「(もう、二人とも可愛すぎ!あんなの見せられたら、二人とも思いっきりぎゅってしたくなっちゃう!)」
「(ちょっと歳の離れた姉妹なのかな?すっごく仲良しで、すっごく甘えんぼな妹ちゃんに、すっごくお母さんみたいな可愛いお姉ちゃん…いいなあ…)」
もう単純に目の保養として、二人が生み出すぽやぽやとした、幸せいっぱいの雰囲気が、人々の心を癒してくれる。
その天使のような愛らしい、幼い笑顔を惜しげもなく晒し、涼羽の胸の中でべったりと甘えるかすみ。
その慈愛に満ちた女神のような優しくも可愛らしい笑顔を惜しげもなく晒し、胸の中でべったりと甘えてくるかすみをうんと優しく甘やかす涼羽。
男性陣は、まさに美少女同士のいちゃらぶとも言える光景が、おおいに目の保養となり…
女性陣は、この二人をめちゃくちゃに可愛がりたくなってしまう衝動に駆られてしまう。
さりげなく、携帯やスマホで動画として撮影までしてしまう者までおり…
後々にその動画を眺めて、その幸せをおすそ分けしてもらうこととなったり、心が荒んでいる時に見て、心の癒しに使ったりすることとなる。
「ねえ、かすみちゃん?」
「?なあに?りょうおねえたん?」
「かすみちゃんは、どうして一人でここにいたの?」
自分の胸の中の少女が幸せに浸っているのを見て、自分も幸せに浸りながら…
その笑顔をかすみに向け、優しい声を口調で、かすみになぜ、ここに一人でいたのかを問いかける。
「あのね、わたちね、ぱぱといっちょにおしゃんぽしてたの」
「うんうん、それで?」
「それでね、ぱぱがじゅーすかってくれてたら、かわいいねこしゃんがいたの」
「そうなんだ」
「でね、わたち、そのねこしゃんがにげちゃうから、ねこしゃんとおっかけっこしたの」
「うんうん」
「でね、ねこしゃんもうみえなくなっちゃって、そしたら、ぱぱもどこにもいなくて…」
三歳という幼い少女の、舌足らずな可愛らしい声と口調で、つたなくも一生懸命涼羽の質問に答えてくるかすみ。
要点を纏めると、父親と散歩に出かけてて、その父親がかすみのために何か飲み物を買おうとしているところに、かすみの気を引いてしまうような可愛らしい猫を、かすみが見かけてしまった。
そして、その猫が逃げてしまいそうになり、それを夢中で追いかけていたら、いつの間にか、知らないところまできてしまっていた、ということになる。
それで、父親も見当たらなくなって、完全に迷子になってしまい、どうしようもなくなって、蹲って泣いていたところに、涼羽が通りかかり、声をかけた、ということなのだろう。
たぶん、かすみの飲み物を買っている間にかすみから目を離してしまい…
その隙に、かすみは猫を追いかけていってしまったのだろう。
そして、気がつくと娘の姿がどこにもいない、という自体になっているはず。
でなければ、大人の足でこんな小さな子供に追いつけないはずがないからだ。
だとすれば、この子の父親は今必死になって、娘のことを探しているはず。
ましてや、こんな小さな子供の足で走れる距離など、たかが知れている。
となると、割とこの近辺で探しているのではないだろうか。
「(さて、かすみちゃんのお父さんとこのままばったりと会えるのが一番いいんだけど…どうしよう)」
そんなに遠い距離でないことは分かるものの…
だからといって下手に動けば、却って会えなくなる可能性が高い。
だからといって、いつまでもこの子をこのままにしておくわけにもいかない。
どうしようと、その思考をフル回転させて打開策を考えているところに、ふと目に入ったもの。
かすみが、その小さな肩からかけている、この幼子の小さな体にぴったりの、可愛らしいデザインのポシェット。
「(!もしかしたら…)」
それを見た瞬間、ひょっとしたら、という期待が涼羽の中で生まれる。
そのポシェットの中に、父親の連絡先、もしくはこの子の家の住所みたいなものがあるのなら…
そう思った涼羽は、その考えに期待を込めて、再びかすみに優しく問いかける。
「かすみちゃん、そのポシェット、可愛いね」
「!えへへ、いいでちょ?」
「うん、ちょっと…お姉ちゃんにも見せてもらってもいい?」
「うん、いいよ」
そのポシェットを見せて欲しいと、優しくお願いする涼羽。
さすがに自分で自分をお姉ちゃんと呼ぶことに抵抗があったのか、その部分で少しぎこちなくなってしまうが。
かすみの方は、特に疑うこともなく、舌足らずな可愛らしい声で、はい、と涼羽の目の前に、その小さな両手で抱えたポシェットを差し出す。
「ありがとう、かすみちゃん」
「えへへ。どういたちまちて」
「ポシェットの中も、見せてもらっていい?」
「うん、いいよ」
そんなかすみに、笑顔でお礼を言う涼羽。
そして、ポシェットの中も見せてもらっていいかを確認する。
そんな涼羽の問いかけにも、笑顔で首を縦に振るかすみ。
わざわざ、その小さな手で、ポシェットのジッパーを開けていってくれている。
「はい!りょうおねえたん!」
「ふふ、ありがとう、かすみちゃん」
ポシェットのジッパーを全開にした状態で、改めてそれを涼羽に差し出すかすみ。
そんなかすみに、笑顔でお礼を言う涼羽。
そして、右腕でかすみの体をしっかりと抱えながら、左手でそのポシェットの口を開けて、中身を見ていく。
あるのは、小さな子供がおもちゃとして使うような、がま口タイプの小さな財布。
それと、今流行りの魔法少女もののアニメのキャラが持っている、ステッキのおもちゃ。
そして、四つに折られた、小さな紙切れ。
「!これ、かな?」
その小さな紙切れを取り出し、小さく折り畳まれているそれを開いて、中を見てみる涼羽。
「!あった…」
そこに書かれていたのは、『佐々木 修介(ささき しゅうすけ)』という名前と、『佐々木 香澄(ささき かすみ)』という名前。
『佐々木 香澄』というのは、間違いなくこの子の名前だろう。
そして、おそらくもう一つの『佐々木 修介』という名前が、この子の父親の名前のはず。
そして、その下の方に、一つの電話番号が書かれている。
先頭の三桁と、全体の桁数からして、携帯電話の番号であることが分かる。
これは、おそらくこの子の父親の連絡先ではないだろうか。
そう思い、涼羽は一度香澄を下に下ろすと、自分の左肩にかけているショルダーバッグの中から、自身のスマホを取り出す。
そして、その紙切れに書かれている電話番号を素早く入力し、通話の操作を行なう。
これが空振りとなるのなら、あとは交番に行くしかなくなってくる。
できれば、これが当たりであってほしい。
そんな願いを込め、涼羽は左手に持ったスマホを左耳に当て、じっと待つ。
呼び出しのコール音がしているので、ちゃんと使われている番号であるということが分かる。
後は、これが香澄の父親の連絡先であることを、祈るのみ。
いたって一般的なコール音が一回、二回と繰り返され…
三回目のコールが鳴ろうとしたところで、そのコール音が途切れる。
そして、この電話の持ち主であろう、妙に息を切らした様子の男性の声が、涼羽の耳に飛び込んできた。
『も…もしもし?』
かかってきたのが知らない番号ということもあり、やや怪訝な感じの声となっている。
この人が、香澄のお父さんで合っているはず。
そう思い、涼羽は落ち着いて、その声を電話の相手に紡いでいく。
「すみません。こちらは、佐々木 香澄ちゃんのお父さんの携帯電話でよろしかったでしょうか?」
相手の警戒をほぐしてくれるであろう、柔らかで優しげな口調。
そして、今ここで涼羽と一緒にいる、佐々木 香澄という名前。
その名前を出したことによる相手の反応は、非常に分かりやすいものとなった。
『!娘は、香澄はそこにいるんですか!?』
相手の名前を聞くことも忘れ、ひたすらに娘のことを聞こうとするその反応。
間違いない。
この人が、香澄のお父さんだと、涼羽は確信を持つことが出来た。
「あ、えっと…落ち着いて聞いてください」
『!は、はい…』
「香澄ちゃんですが、今ここに、僕と一緒にいます」
一度相手を落ち着かせるように促し、ワンクッション置く言葉を紡ぐ涼羽。
その声に、相手も非常に慌てていた様子が一旦落ち着いてくる。
そして、相手が心底聞きたがっているであろう、娘の安否を伝える。
『!ああ、よかった…』
よほど一心不乱に探し続けていたのだろう。
その声からも、それがよく分かるものとなっている。
「香澄ちゃんは、怪我一つない、全くの無事な状態です。安心してください」
『!ああ…ありがとうございます!あなたが香澄を保護してくださってたのですね!?』
「は、はい。たまたま僕が通りかかったところに、蹲って泣いている香澄ちゃんを見かけたので…」
『!ありがとうございます!ありがとうございます!』
もう電話の声からでも、目いっぱい頭を下げている様子が伺えてしまうほどに…
心底安心したという実感を得て…
それほどまでに大切な娘を保護してくれたことに対して、大げさなほどに感謝の言葉を紡いでくる父親の声。
そんな必死すぎると言える、電話の声に、涼羽の顔がほんのりと朱に染まっていく。
「そ、そんな大げさな…僕としては、こんなにも小さくて可愛らしい子供が泣いているのを、放っておけなかっただけなので…」
あまり大げさに持ち上げられることを好まず…
そういったことに羞恥すら覚えてしまう、非常に控えめな性格の涼羽。
だからこそ、電話の先の相手の大げさすぎるほどの感謝の意に、こんな言葉を返してしまう。
『!なんていい人なんだ…ああ…あなたのような方が娘を見つけてくれたことに、私は神に感謝します!』
「だ、だからそんな大げさな…」
『!何をおっしゃいますか!私にとっては命よりも大事な娘を救ってくださったのですから!あなたは私にとってはまさに恩人です!』
そんな控えめな涼羽の言葉に、まさに感動した、と言わんばかりの反応を返す電話の相手。
電話の向こうでは、拳を握りながら熱くしゃべっているのではないか、と思えるほどに熱く激しい、電話の相手の感謝の想い。
「そ、そんな…も、もういいですから…」
これほどまでに娘を思う父親の姿に、自身の父親である翔羽の姿を重ねてしまう涼羽。
――――やっぱり、親にとって子供って、本当に大事なものなんだな――――
日頃から、これでもかと言わんばかりに息子である自分や、娘である羽月を可愛がってくれる父、翔羽。
今年で十八歳になる息子には、過ぎたほどの愛情表現。
それが、ものすごく恥ずかしく感じてしまうものの…
でも、それがものすごく嬉しく思えてしまう。
父、翔羽がどれほどに自分や羽月を可愛がって、愛してくれているのか…
そう思うだけで、本当に幸せな想いが、心を満たしてくれる。
この香澄も、電話の先にいるお父さんから、そんな風に愛してもらっているのではないか。
そう思うと、困り果てたその美少女顔に、ほんのりと幸せそうな笑顔が浮かんでくる。
「と、とにかく、合流したいと思うのですが…今、どちらの方におられますか?」
気を取り直して、ここからやらなければならないことを言葉として紡いでいく涼羽。
電話の相手と一度合流し、この香澄を父親の元へと返さなければならない。
その思いから、とにかく行動を促す言葉を、声にする。
『!そ、そうですね!私は今、商店街の中の方にいますが…』
「そうですか…僕の方は、秋月保育園のすぐそばにいます」
『!でしたら、あなたはそちらの方にいてください!私が、そちらの方に向かいます!』
「え?でも、もうすでに結構な距離を走られて疲れているのでは…それなら、こちらから香澄ちゃんを連れて、そちらに向かいますが…」
『!ああ、なんと優しい方なのでしょう…でも、大丈夫です!恩人のあなたに、そんなご足労をかけるなどさせられませんから!』
「だ、大丈夫ですか?」
『はい!むしろ娘が無事だったことを知ることができて、体に力が湧いてきましたよ!』
「そ、そうですか。分かりました。では、僕はこのまま香澄ちゃんと秋月保育園のそばでお待ちさせていただきます」
『分かりました!すぐにそちらに向かいますので!』
「はい、分かりました。では、お待ちしておりますね」
『了解しました!ではまた後ほど!』
一気に力を取り戻したような、彼の言葉を最後に、通話を切る涼羽。
あの彼の声から見える様子を思うと、本当に親ってすごいな、と思ってしまう。
電話の最初の様子からすると、かなりの距離を走っていて、相当に体力を消耗していたはず。
なのに、娘の無事を聞いた途端に、見る見る力が漲っていたのが、声からでも分かるほどだった。
たった一人の娘のために、ここまで身体を突き動かすことができることを思うと、涼羽はまだ声しか知らない香澄の父親のことを、尊敬さえしていた。
そして、それと同じように、いつもほとばしるほどの愛情を自分達兄妹に向け…
一家の大黒柱として、仕事に子育てに奮闘してくれる父、翔羽のことも、改めて尊敬することができた。
「(本当に、親ってすごいな…俺も、あんな風に、なれるかな…)」
常に自分を向上させることが望みと言わんばかりの生き方の涼羽。
そんな涼羽からすれば、この自分の父親と、香澄の父親。
親として素晴らしいとさえ言えるこの二人のようになっていきたいと思う。
もうすでに、『母親』としてはどこに出しても恥ずかしくないほどである、ということは、知らないのは本人である涼羽だけなのだが。
「りょうおねえたん、だれともちもちちてたの?」
電話していた涼羽を見上げて、じっと見つめながら…
ちょうど電話が終わったところで、涼羽に問いかける香澄。
電話をしていた、というのは分かっているようだが…
誰と電話していたのかまでは、分からなかったようだ。
「え?ああ、かすみちゃんのお父さんと、もしもししてたんだよ」
舌足らずな可愛らしい声と口調で問いかけてくる香澄に、膝を折って目線を合わせ…
優しい表情で香澄の問いかけに答える涼羽。
幼く、純真な香澄が可愛らしくて、ついつい頭を撫でてしまうのはご愛嬌と言ったところか。
「!ぱぱと、もちもちちてたの?」
「うん、もうすぐかすみちゃんのパパ、ここに来てくれるよ?」
「!ほんと~?」
「うん、本当」
「わ~い!ぱぱがきてくれゆ~!!」
自分の父親が涼羽と電話していたこと…
それにより、もうすぐ自分のところに来てくれること…
それを聞いた香澄は、その小さく幼い身体を目いっぱい使って、喜びを表現する。
そんな香澄を見て、やはり実の父親が一番なのだろうと、涼羽は思った。
「ふふ…もうすぐパパとお家に帰れるね?」
「うん!」
「よかったね、かすみちゃん」
「あいがと~!!りょうおねえたん!!」
優しい手つきで頭を撫でてくれる涼羽に、満面の笑顔でお礼を言う香澄。
そして、やっぱり涼羽の胸の中が心地よかったのか…
また、べったりと涼羽の胸に抱きついてくる。
「ふふ…どうしたの?かすみちゃん?」
「りょうおねえたんのぎゅ~と、にゃでにゃで、ほちいの!」
「…さっきまであんなにぎゅ~となでなで、してあげたのに?」
「うん!もっとほちい!!」
涼羽に甘やかされるのがよほどお気に召したようで…
もうすぐ実の父親が来るというにも関わらず…
もっと涼羽に甘えたくてたまらないという香澄。
物欲しそうな、それでいて純真無垢な笑顔で涼羽の顔を覗き込むように見つめ…
その小さな手で、涼羽の身体にべったりと抱きついて離そうとしないその姿…
そんな香澄の姿を見てると、本当に可愛らしく思えて…
こんなにも甘えてきてくれる子供に、何もしてやらない、などという選択肢は、涼羽にはあるはずもないのだ。
「…うふふ…じゃあ、かすみちゃんのお父さんが来るまで、い~っぱいしてあげるね?」
「!ほんと~!?」
「うん、かすみちゃんが可愛いから、い~っぱいぎゅ~となでなで、してあげる」
「!えへへ~♪りょうおねえたん、らあ~いしゅき!」
天真爛漫な可愛らしさを惜しげもなく自分の方に晒してくる香澄に、その母性を刺激された涼羽。
本当に、自分の娘が可愛くて可愛くてたまらない母親のように、目いっぱいの愛情を注がんとするように…
優しく香澄の小さな身体を抱きしめ、その頭を壊れ物を扱うかのような手つきで撫で始める。
「えへへ~♪ちゃ~わちぇ~」
赤の他人の子供に対してすら、これほどに優しく、その慈愛を向けることのできる涼羽。
これが、自分の子供となると、一体どれほどにとろとろの甘やかしになってしまうのか…
ある意味、考えただけでも怖くなってしまう涼羽なのであった。
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