とある英雄達の最終兵器
第146話 テンプレ貴族の受難
「あっ、そうだ。ついでにポメも騎獣試験を受けさせてみよう」
テュールは裏の訓練場へ歩きながら、ポンッと手を叩きそんなことを思いつく。
──え?
皆は一斉に首を傾げる。
「というわけで、ポメを連れてくる! 先に行っててくれ!」
そして、困惑する一同のことなど放っておき、テュールは駆け出した。それを呆然と見送る一同。そして──。
「あいつも大概、自由なんだよなぁー」
テュールが走り去った方を眺めながらそう零すテップに一同は複雑な表情を浮かべるのであった。
一方、駆け出したテュールはと言うと。
「あれ? テュールさん? 何か忘れ──」
「あっ、レセさーん! もう一匹騎獣試験よろしくですー! 名前はポメベロス! 飼い主は俺でーす!」
「え? は? え?」
受付へ言いたいことだけを言い、家路を急ぐのであった。
「うっし、到着。ただいまー! ポメおいでー!」
「「「アウッアウッ!!」」」
テュールの声を聞いたポメベロスはソファーの上から跳ね起き、物凄い勢いで駆ける。
「よーし、よーし、久しぶりだなポメ! さぁ、お前も騎獣試験を受けて、立派な騎獣になるんだ! 行くぞ!」
「「「アウッ!!」」」
ポメベロスは尻尾を左右に激しく振り、舌をハッハと出しながら大きく一吠えし、頷く。そしてテュールはポメベロスを抱えて今来た道を戻ろうと玄関の扉を開ける。
「ホホ、テュール久しいの──」バタンッ。
そして、モヨモトが出迎えに現れたことに気付かないまま、扉を閉めるのであった。
「んー? 今テュール帰ってきたか? あいつが帰ってきたら三日分のフラストレーションぶつけてぇんだが?」
「……ホホ。いや、気のせいじゃろ。まぁ帰ってきた時はわしもぶつけてみるかの。ふん、バーカ、バーカ」
ひょこっと顔を覗かせてそう尋ねるリオン。モヨモトは笑いながら無視されたことを誤魔化し、悪態をつくのであった。
そして、ポメベロスを抱えてギルドに戻ってきたテュールは、急いで裏の訓練場へ向かう。そこには既にツヨシとレーベ。それから騎獣試験を担当するであろう職員。そして──。
「おー、クルードじゃん? 昨日ぶり」
「フン、相変わらず騒がしいなテュール。なんだ、お前も騎獣試験を受けるのか? まさかその小型犬で受ける気ではないだろうな?」
「え? もちろんこいつで受けるし、受かるけど? お前の方は騎獣いないように見えるんだが?」
「ふふん。騎獣を連れてこないで騎獣試験を受けるバカがいるものか。これを見ろ、先日開発されたばかりの魔導具だ。この、騎獣呼び寄せるンダーを使えば、遠く離れた地にいる騎獣を呼び寄せることができるのさ!」
騎獣がいないクルードに対してテュールが不思議そうに尋ねると、待ってましたとばかりにクルードは説明を始める。そして、左手首に嵌めたブレスレット型の魔導具を自慢げに見せびらかしてきた。
「お、おう。すごいな、その、魔導具のネーミングセンスとか……。さぞ、騎獣もすごいんだろうなぁ」
「当たり前だ。僕の騎獣は灰氷狼。神話にあるフェンリルの子孫とも呼ばれた格の高い魔獣だ。ビビって腰を抜かすなよ?」
相変わらずのテンプレート貴族は、三下よろしくのセリフとともに左手を天高く掲げた。
「主の名のもとに、顕現せよ!! 最強の狼種、灰氷狼が一匹、ニルヴァルム!!」
そして、手首のブレスレットが光ると、十メートル程の魔法陣が空中に描かれ、その中心から一体の灰色の狼が現れる。
「グルフォォオオオ!!」
クルードの言葉に嘘はないようで確かにその四メートルもある巨躯、鋭い眼光と爪、牙。うっすら冷気を纏うその狼はこのアルカディアではかなり上位の魔獣であることが伺われる。
「おい、ヴァナル? あれ親戚?」
「んーーー分かんない。けど違うんじゃない?」
そしてテュールは、クルードの言葉にあった神話にあるフェンリル本人に確認をとる。だが、ヴァナルはしげしげと眺めた後、首を傾げ、分からないと言った。
「グルルルルッ」
そんな不躾なヴァナルの視線に気を悪くしたニルヴァルムは低い声で唸る。威嚇だ。そしてその視線がヴァナルとぶつかる。
「へー? ボクに喧嘩を売るんだー。流石アルカディアでの狼最強種だねー」
「フフ、すまないなヴァナル。こいつはプライドが高くてね。僕とお父様以外の命令は聞かないんだ。ただ安心してくれ、威嚇するだけで危害を加えることはない。ハハハ、こいつは僕に似て頭も良いからなっ!」
どうやらクルードは、騎獣が手元に届いたのが嬉しくて気が大きくなっているようだ。入学当初の嫌味な貴族感を全開で放つ。しれっと聞いていた一同もうんざりした表情となってしまう。
そんな中、ヴァナルはニルヴァルムの元へ一歩近付く。
「おい、ヴァナル! 危害は加えぬと言ったが、無駄に刺激はするなっ! この巨躯を見れば分かるだろう! 万が一その爪が振るわれたらお前など──!」
「んー、お手」
「……は? おいおい、ヴァナル正気か? 先程の言葉が聞こえなかったか? そんなことしたらタダでは──」
そして、知能の高いニルヴァルムはこの行為がなんであるか当然理解しており、獰猛に口を釣り上げ、そのしなやかで強靭な前足を高く高く振り上げる。
「フフ、優しく、ね?」
「──ッ!!」
ピクリ。ニルヴァルムはその言葉を放った者の目を見て一瞬前足の動きを止めてしまう。そして怪しげに光る瞳の奥を覗き込んでしまった瞬間──本能が大きく警鐘を鳴らした。
ニルヴァルムは結局、振り上げた前足を僅かに震わせながら、ゆっくり降ろし、先程悟ってしまった絶対的上位者の手にそっと乗せるのであった。
「ん、よしよしー。次からは相手をちゃんと見て喧嘩を売ろうねー?」
「ぐるふっ……」
ヴァナルの言葉に小さく返事を返すニルヴァルム。彼は今日から己が狼種最強ではないことを悟り生きていくこととなってしまった。
「なっ……。ニル、ヴァルム? ど、どうしたんだ? いや、確かに危害を加えてはいけないという命令に対し、それを遵守したことは褒めよう。だが、それではまるで服従ではないか……。誇り高き灰氷狼であるお前が……」
「ぐるふっ……」
そんなクルードの叱咤に対しても、ニルヴァルムはどこか気まずそうに返事を返すことしかできなかった。そんな魔獣のプライドが折れる瞬間を見て、同情したのだろう。ツヨシとポメベロスがニルヴァルムの元へと駆け寄る。
「ぶるふぁっ♪」
「「「アウッ、アウッ!」」」
「ぐるふぅ、ぐるっ、ぐるっふ」
体長一メートルにも及ばない三つ首の犬と、重鈍そうな牛に慰められる巨躯の狼。非常にシュールな絵だったが、どこか心の温まる絵であった。
「んでー? もう話進めていい?」
その声に一同はカウガールの格好をした女性の方を見る。その女性は牛の獣人であり、試験官であろう。彼女は先程から黙って様子を窺っており、ようやく落ち着いたところで声をかけたのであった。そしてテュールは、そう言えばここに来てからテップがやけに静かだと思っていたが、なんてことはない、ずっと試験官の乳を見つめていたのだと気付く。
「あ、はい。すみません。お願いします」
そしてテュールもまた、その凶悪な胸部に視線を奪われないよう必死に視線を持ち上げ、そう返すのであった。
テュールは裏の訓練場へ歩きながら、ポンッと手を叩きそんなことを思いつく。
──え?
皆は一斉に首を傾げる。
「というわけで、ポメを連れてくる! 先に行っててくれ!」
そして、困惑する一同のことなど放っておき、テュールは駆け出した。それを呆然と見送る一同。そして──。
「あいつも大概、自由なんだよなぁー」
テュールが走り去った方を眺めながらそう零すテップに一同は複雑な表情を浮かべるのであった。
一方、駆け出したテュールはと言うと。
「あれ? テュールさん? 何か忘れ──」
「あっ、レセさーん! もう一匹騎獣試験よろしくですー! 名前はポメベロス! 飼い主は俺でーす!」
「え? は? え?」
受付へ言いたいことだけを言い、家路を急ぐのであった。
「うっし、到着。ただいまー! ポメおいでー!」
「「「アウッアウッ!!」」」
テュールの声を聞いたポメベロスはソファーの上から跳ね起き、物凄い勢いで駆ける。
「よーし、よーし、久しぶりだなポメ! さぁ、お前も騎獣試験を受けて、立派な騎獣になるんだ! 行くぞ!」
「「「アウッ!!」」」
ポメベロスは尻尾を左右に激しく振り、舌をハッハと出しながら大きく一吠えし、頷く。そしてテュールはポメベロスを抱えて今来た道を戻ろうと玄関の扉を開ける。
「ホホ、テュール久しいの──」バタンッ。
そして、モヨモトが出迎えに現れたことに気付かないまま、扉を閉めるのであった。
「んー? 今テュール帰ってきたか? あいつが帰ってきたら三日分のフラストレーションぶつけてぇんだが?」
「……ホホ。いや、気のせいじゃろ。まぁ帰ってきた時はわしもぶつけてみるかの。ふん、バーカ、バーカ」
ひょこっと顔を覗かせてそう尋ねるリオン。モヨモトは笑いながら無視されたことを誤魔化し、悪態をつくのであった。
そして、ポメベロスを抱えてギルドに戻ってきたテュールは、急いで裏の訓練場へ向かう。そこには既にツヨシとレーベ。それから騎獣試験を担当するであろう職員。そして──。
「おー、クルードじゃん? 昨日ぶり」
「フン、相変わらず騒がしいなテュール。なんだ、お前も騎獣試験を受けるのか? まさかその小型犬で受ける気ではないだろうな?」
「え? もちろんこいつで受けるし、受かるけど? お前の方は騎獣いないように見えるんだが?」
「ふふん。騎獣を連れてこないで騎獣試験を受けるバカがいるものか。これを見ろ、先日開発されたばかりの魔導具だ。この、騎獣呼び寄せるンダーを使えば、遠く離れた地にいる騎獣を呼び寄せることができるのさ!」
騎獣がいないクルードに対してテュールが不思議そうに尋ねると、待ってましたとばかりにクルードは説明を始める。そして、左手首に嵌めたブレスレット型の魔導具を自慢げに見せびらかしてきた。
「お、おう。すごいな、その、魔導具のネーミングセンスとか……。さぞ、騎獣もすごいんだろうなぁ」
「当たり前だ。僕の騎獣は灰氷狼。神話にあるフェンリルの子孫とも呼ばれた格の高い魔獣だ。ビビって腰を抜かすなよ?」
相変わらずのテンプレート貴族は、三下よろしくのセリフとともに左手を天高く掲げた。
「主の名のもとに、顕現せよ!! 最強の狼種、灰氷狼が一匹、ニルヴァルム!!」
そして、手首のブレスレットが光ると、十メートル程の魔法陣が空中に描かれ、その中心から一体の灰色の狼が現れる。
「グルフォォオオオ!!」
クルードの言葉に嘘はないようで確かにその四メートルもある巨躯、鋭い眼光と爪、牙。うっすら冷気を纏うその狼はこのアルカディアではかなり上位の魔獣であることが伺われる。
「おい、ヴァナル? あれ親戚?」
「んーーー分かんない。けど違うんじゃない?」
そしてテュールは、クルードの言葉にあった神話にあるフェンリル本人に確認をとる。だが、ヴァナルはしげしげと眺めた後、首を傾げ、分からないと言った。
「グルルルルッ」
そんな不躾なヴァナルの視線に気を悪くしたニルヴァルムは低い声で唸る。威嚇だ。そしてその視線がヴァナルとぶつかる。
「へー? ボクに喧嘩を売るんだー。流石アルカディアでの狼最強種だねー」
「フフ、すまないなヴァナル。こいつはプライドが高くてね。僕とお父様以外の命令は聞かないんだ。ただ安心してくれ、威嚇するだけで危害を加えることはない。ハハハ、こいつは僕に似て頭も良いからなっ!」
どうやらクルードは、騎獣が手元に届いたのが嬉しくて気が大きくなっているようだ。入学当初の嫌味な貴族感を全開で放つ。しれっと聞いていた一同もうんざりした表情となってしまう。
そんな中、ヴァナルはニルヴァルムの元へ一歩近付く。
「おい、ヴァナル! 危害は加えぬと言ったが、無駄に刺激はするなっ! この巨躯を見れば分かるだろう! 万が一その爪が振るわれたらお前など──!」
「んー、お手」
「……は? おいおい、ヴァナル正気か? 先程の言葉が聞こえなかったか? そんなことしたらタダでは──」
そして、知能の高いニルヴァルムはこの行為がなんであるか当然理解しており、獰猛に口を釣り上げ、そのしなやかで強靭な前足を高く高く振り上げる。
「フフ、優しく、ね?」
「──ッ!!」
ピクリ。ニルヴァルムはその言葉を放った者の目を見て一瞬前足の動きを止めてしまう。そして怪しげに光る瞳の奥を覗き込んでしまった瞬間──本能が大きく警鐘を鳴らした。
ニルヴァルムは結局、振り上げた前足を僅かに震わせながら、ゆっくり降ろし、先程悟ってしまった絶対的上位者の手にそっと乗せるのであった。
「ん、よしよしー。次からは相手をちゃんと見て喧嘩を売ろうねー?」
「ぐるふっ……」
ヴァナルの言葉に小さく返事を返すニルヴァルム。彼は今日から己が狼種最強ではないことを悟り生きていくこととなってしまった。
「なっ……。ニル、ヴァルム? ど、どうしたんだ? いや、確かに危害を加えてはいけないという命令に対し、それを遵守したことは褒めよう。だが、それではまるで服従ではないか……。誇り高き灰氷狼であるお前が……」
「ぐるふっ……」
そんなクルードの叱咤に対しても、ニルヴァルムはどこか気まずそうに返事を返すことしかできなかった。そんな魔獣のプライドが折れる瞬間を見て、同情したのだろう。ツヨシとポメベロスがニルヴァルムの元へと駆け寄る。
「ぶるふぁっ♪」
「「「アウッ、アウッ!」」」
「ぐるふぅ、ぐるっ、ぐるっふ」
体長一メートルにも及ばない三つ首の犬と、重鈍そうな牛に慰められる巨躯の狼。非常にシュールな絵だったが、どこか心の温まる絵であった。
「んでー? もう話進めていい?」
その声に一同はカウガールの格好をした女性の方を見る。その女性は牛の獣人であり、試験官であろう。彼女は先程から黙って様子を窺っており、ようやく落ち着いたところで声をかけたのであった。そしてテュールは、そう言えばここに来てからテップがやけに静かだと思っていたが、なんてことはない、ずっと試験官の乳を見つめていたのだと気付く。
「あ、はい。すみません。お願いします」
そしてテュールもまた、その凶悪な胸部に視線を奪われないよう必死に視線を持ち上げ、そう返すのであった。
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コメント
Ashley
クルードの事話が進むにつれ好感度も上がってくるなw