とある英雄達の最終兵器

世界るい

第118話 会心のテヘペロ。テュールに9999のダメージ

「さて、この天使どもだが、まぁろくなヤツじゃない。島で戦って封印したヤツも相当根性が歪んでたさね。それで封印した天使――サタナエルの器を壊すのにあたしら5人がかりで15年近くかかったわけさね」


 ルチアがひどく疲れた声で説明をする。


「サタナエル……。器……」


 テュールは今しがた出てきた言葉がまだはっきりと像を結ばないため、一人小さく呟く。それを耳聡く聞いていたエリーザがその呟きに応えた。


「天使は、元は神界と呼ばれる神々の住まう場所にいました。そして、その神界から追放された者が幽閉されている場所が天界です。天使はこの天界の住人です。そして、天界からこの世界アルカディアに降りてくるには、アルカディア側に器と代償を用意しなくてはなりません。そして器とは――生きている人です」


 エリーザが説明をしている最中もルチアとローザが苦々しい顔で眉間に皺を寄せている理由が分かる。そしてエリーザは尚も説明を続ける。


「更に代償と言うのは、生命エネルギーとでもいいましょうか。弱い召喚対象であれば体力の一部で済みます。そして強大な者を呼び寄せようとすれば……。……サタナエルを呼び出した時は、その周囲数kmの命を全て奪いました」


 そう発したエリーザの唇は震え、顔からは血の気が引いている。そして、すみませんとそう呟き、腰掛けてからゆっくりと呼吸に専念する。


 食堂は先程までの賑やかな夕食を同じ場所で行ったのか分からなくなるほど空気はしんとしており、重く張り詰めている。そして、そんな中ローザが喋り始める。


「ま、そういうこった。この天使ってやつが天界を抜け出すにはアルカディアに喚ばれるほか手段がねぇ。そして強大な天使どもがラグナロクのバカ共に従っているのは天界の王を喚び出すためだ。そんなものを喚び出された日にはこの世界が真っさらになっちまうかもな。つーわけで、あたしらはそんなバカなことをしでかそうとしているラグナロクを止めなきゃいけない」


 パシンッと自らの拳を掌に打ち付けながら遙か先を睨みつけるようにそう吐く。


「そして、ヤツラが次に狙っているのがユグドラシルの生命エネルギーさね。もし、ユグドラシルを代償としたならば相当高位の天使が喚び出される。そしてユグドラシルが犠牲になれば、リエース共和国は終焉を迎える。そして他国に散り散りになったエルフ達は皆迫害され、争いの戦火が生まれるだろうね。ヤツラは必ずそう煽動するさ」


 歯をギリギリと噛みしめるローザに変わってルチアが説明を続けた。テュールを始めとして、第一団はその言葉の重みを受け止めようと静かに集中して聞き続ける。そして、ルチアの言葉が途切れたところでテュールが口を開く。


「それで、その話を僕達にしたということは――」


 当然、機密事項に類するこの話をされて、危ないから下がっているためにされたとは思えないテュールは、半ば覚悟を決めて問う。


「あぁ、そうさね。あんた達を戦力として考えるってことさ。今回のユグドラシル防衛戦は少数精鋭にこだわり抜く。ラグナロクは思っている以上に大きい組織さね。それこそ何世代もかけて信用を勝ち取り、機関の中枢に潜り込み情報を抜いている者もいるという。当然、今回の件の口外を禁ずるよ。親兄弟であろうとね。そして、知り得ている者同士でもだ。この話はあたし、ローザ、エリーザ、五輝星のいずれかの監視のもとでのみ行う。分かったかい?」


 皆はコクリと頷く。そして、今回の件はリエース共和国、セシリアの守るべき国であり、引いては自分たちの住む世界を守るための要請である。テュール達は半ば強制での呼びかけだが誰一人不満や否定の言葉を口にする者はいなかった。


 そして、作戦参加を了承したテュール達を見て、ルチアが重そうな口を開く――。


「すまないねぇ……。本来であればこれは大人の仕事さね。あんた達のようなガキがこんなことで悩まないような世界を作りたかったんだが、情けないさね……」


 そこでルチアは一旦言葉を区切り、自分の気持ちを切り替えるようにキッとテュール達を睨む。そして――。


「だが、あんた達も頷いた以上は責任が生まれる。まして今回の件は世界の命運を握ると言っても過言ではない問題さね。最善を尽くしたなんて言葉は聞かないよ。結果を出さなきゃならない。世界を守る……そのためには死んでも本望だと思える位の覚悟が必要さね。それが持てないなら今すぐ言いな。あたしが今この時の記憶が吹っ飛ぶまで殴って、責任から放り出してやるさね、カカ」


 全く愉快な気持ちなど乗っていない笑い声を一つ出し、そう告げる。当然誰も名乗り出る者などいない――誰もがそう思っていたが、皆の予想を裏切り赤毛のお調子者がピンと真っ直ぐ手を挙げる。それを、ほぅと面白そうに眺めるローザ。そしてひとまず様子を見ているルチア。当の本人は――。


「宣誓――! 我々テュールと愉快な仲間たち旅団は、この世界の平和のために命を賭して戦うことを誓いますっ!! 旅団代表代理アルステップ・クルスフィールド!!」


 …………。


「……は?」


 そして、テュールからまず出たのはこの一言だけだった。当然皆も目を丸くしている。そして、テュールは3秒ほど唸りながら考え込み、ようやく言うべきことが決まったようで口を開く――。


「いやいやいやいやいやいや!! とりあえずそのクソダッサイ団体名はなんなんだ!? 絶対に却下だ!! あと、なんでお前が全員の総意を代表して発言した!? いや、当然みんなの顔を見ればその覚悟で臨むことは分かる、分かるが、なんか納得いかん! ていうか、そんなのはまぁ些細な問題だ! 一番ツッコミたいのは――お前の名前そんなイケメン風だったんかいいぃぃいい!!」


 ゼィハァゼィハァ言いながらテュールが一息でテップにツッコミを入れる。そんなツッコミにテップは精一杯可愛らしい表情を作り、舌をペロリと出す。会心のテヘペロである。そんなやり取りを見て、ローザが嬉しそうに笑う。


「カカカ、テップ楽しそうにやってるじゃないか。まぁ、テュール許してやってくれ。あたしが言うのもなんだがこいつは少々特殊な事情でな。だが、まぁお前も15歳のガキだったってことだな、安心したよ」


 そして、ローザはまるでテップをずっと前から知っているかのような発言をする。しかし、この場で深く尋ねるような空気ではなかったため、皆の心に疑問が浮かぶも各々の中に沈める。


 そして冗談半分で諌められたテュールも本気で怒っているわけではなく、深刻な話の後という反動で、ついいつにも増してテンション高くツッコんだだけである。しかし――。


「……団体名は変えるからな?」


 そこは本気なテュールであった。

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